組織における「管理職」とは
管理職とは、企業や組織内で一定の権限を持ち、メンバーや売上などのマネジメントをする役職の総称です。
管理職の具体的な特徴は、組織で働く人に用いられるほかの用語との比較で明確になります。ここでは、以下の用語との違いを見ながら、管理職がどういうものかを確認しましょう。
- 管理職と一般社員の違い
- 管理職と役職者の違い
- 管理職と役員の違い
- 管理職と管理監督者の違い
管理職と一般社員の違い
管理職と一般社員の大きな違いは、管理職には「チーム(組織)としての成果」が求められる点です。
一般社員がたとえば「自分の営業成績」や「自分の作業品質」といった個人の成果を求められるのに対して、管理職には「営業課全体」や「コールセンター部門全体」といったチーム(組織)としての成果をあげる責任があります。
管理職と役職者の違い
役職者とは、部長・マネージャー・リーダー・主任……といった何らかの“役職名”が付いている人の総称です。
実際の組織やプロジェクトでは、この“役職名”を通じて特定の人と一般社員の差別化を図り、“役職名”がついた人にメンバーの管理や指導を行う役割・権限などを移譲します。
管理職と役職者は同じ意味で使われることが多いでしょう。
管理職と役員の違い
役員とは、一定の業務・部門にとらわれることなく、企業全体の経営に携わる人の総称です。役員は、企業全体の課題解決や目標達成に責任を持つ立場になります。会社法では、以下の3役を役員と定義しています。
- 取締役
- 会計参与
- 監査役
これに対して管理職は、たとえば「新製品の開発プロジェクト」や「第一営業部」といった一定の業務・部門に責任を持つ立場です。
ただし実際の組織では、たとえば「取締役のAさんは事業本部長でもある」というように、役員が管理職を兼務するケースもあります。
管理職と管理監督者の違い
「どういう人を管理職と位置づけるのか?」は、企業の残業管理などを適切に行ううえでも、明確にしておかなければならないものです。そこでポイントになるのが「管理監督者」という概念になります。
厚生労働省の資料では、管理監督者を以下のように定義しています。
「管理監督者」は労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。
「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。
引用:管理職はみんな『管理監督者?』 (厚生労働省 / 都道府県労働局 / 労働基準監督署)
上記をわかりやすくいえば、管理職と呼ばれる人が“管理監督者”に該当すれば、残業や休日出勤などをしたときの割増賃金の支払いが不要になるということです。
管理監督者かどうかの判断では、厚生労働省が示す以下4つの基準にもとづき、総合的に見ていく必要があります。
- 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
- 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
- 現実の勤務態様も、労働時間等の帰省になじまないようなものであること
- 賃金等について、その地域にふさわしい待遇がなされていること
引用:管理職はみんな『管理監督者?』 (厚生労働省 / 都道府県労働局 / 労働基準監督署)
残業代の未支給問題などでよく取り上げられる言葉に、“名ばかり管理職” があります。
名ばかり管理職とは、管理監督者の条件に該当しない一般の管理職であるにも関わらず、会社側の「あなたは管理職だから……」などの悪質かつ一方的な主張によって、残業代などが支給されない管理職やその現象を指す言葉です。似た言葉に“名ばかり店長”があります。
名ばかり管理職は、訴訟問題に発展することもあります。
管理職の残業管理などをするときには、厚生労働省の資料などを確認したうえで支給・不支給の判断を適切に行う必要があるでしょう。
参考:管理職はみんな『管理監督者?』 (厚生労働省 / 都道府県労働局 / 労働基準監督署)
管理職の種類
管理職にはさまざまな種類があり、企業から求められる役割は種類ごとに異なります。各役職の具体的な役割・仕事内容は、各企業が独自に設定できるものです。
ここでは、日本企業で設置されることが多い以下の役職名と、一般的な役割・主な仕事内容などを簡単に確認しましょう。
- 本部長
- 部長
- 次長
- 課長
- 係長
- 主任
本部長
各事業部門の最高責任者です。事業部長と呼ばれることもあります。本部長の役割は、自部門の事業成功や目標達成、課題解決などの責任を持つことです。経営視点が必要であり、取締役などの役員が兼務することもあります。
部長
事業部門のなかにある「部(部門)」を統括する役職です。たとえば、人事部・営業部・企画部の代表といえば、イメージしやすいでしょう。ゼネラルマネージャーも、部長に近い役職になります。
部長は、部門の事業成功・売上アップ・目標達成などの責任を持ちます。本部長と同様に経営視点を持って部門のマネジメントを行うことが必要です。
次長
部長の補佐役です。具体的には、部長のサポートをしながら自部署のメンバー管理や育成を行う役職になります。何らかの事情で部長が不在になった場合、部長代理として責任を担うことも多いです。
課長
部署のなかにある「課」を統括する立場です。マネージャーと呼ばれたりもします。
課の円滑な業務運営や目標達成に向けて、メンバーなどの管理・教育などを行います。たとえば、人事総務部の「人事課」「総務課」といった各課を統括する役割といえば、イメージしやすいでしょう。
係長
課のなかにある「係」を統括する役割であり、実務の責任者です。管理職の登竜門ともいえる役職になります。
主任
現場のまとめ役です。高い成果を出している一般社員の就任が多い役職になります。なお、企業によっては、係長や主任を管理職として扱わないこともあります。
管理職における3つの区分と各役割
管理職は実のところ、非常に幅広い役職を指す言葉です。
たとえば、「取締役でもある事業部長」と「現場の主任」では、それぞれに求められる役割や必要スキルなども大きく異なります。
管理職の採用・教育に向けたアクションを起こすうえでは、以下3つの区分をベースに要件定義や計画立案などを進めていくことが大切です。ここでは、各区分の一般的な担当範囲と主な役割を確認しましょう。(※厳密な区分・範囲・役職名は、企業ごとに異なります。)
- 【下級管理職】係長、主任、チームリーダー など
- 【中級管理職】部長、課長、マネージャー など
- 【上級管理職】本部長、ゼネラルマネージャー など
下級管理職(係長、主任、チームリーダーなど)
初めて管理職になった人が、該当することの多い区分です。自分が所属する小さな係やチームのメンバーに対して、直接的な管理や指導などを行います。下級管理職には、自分自身も現場業務に携わるプレイングマネージャーが多い特徴があります。
中級管理職(部長、課長、マネージャーなど)
中級になると、「課」や「部」といった10~数十人規模の組織マネジメントに専念することが多くなります。
中級管理職には、上級管理職の頼れるパートナーとしてMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透や組織変革などにつながる取り組みも求められます。現場業務を滞りなくまわそうとする下級管理職のサポートも、中級管理職の大事な役割です。
上級管理職(本部長、ゼネラルマネージャー など)
いわゆる部門経営者です。部長や課長などの中間管理職を通じて「部」「課」「係」といった各階層を、間接的にマネジメントしていくことが多くなります。
上級管理職になると、目先の目標達成や課題解決に向けた人や組織のマネジメントよりも、5年後10年後を見据えた中長期的な戦略立案などの仕事が特に多くなります。
すべての管理職に共通する仕事と「あるべき姿」
繰り返しますが、管理職の大きな役割は「チーム(組織)としての成果」をあげることです。
ただし一つ注意点があります。それは「チームの成果を出し続けさえすれば、方法や考え方はなんでも良い」にはならない点です。
本来の管理職は、経営者の方針をチーム内で実行する立場になります。したがって、管理職が自らの責任を果たし成果を出し続けるうえでは、管理職ならではの「あるべき姿」と「やるべき仕事」を両輪で回していくことが大切です。
ここでは多くの管理職に共通する4つの大切な仕事と、そこから見えてくる管理職のあるべき姿を紹介しましょう。
- 「ヒト(人)」のマネジメント
- 「コト(業務)」のマネジメント
- チームビルディング
- MVVの浸透
「ヒト(人)」のマネジメント
いわゆる他人のマネジメントをすることは、一般社員と管理職の大きな違いでもあります。たとえば、ある人が課長になった場合、自分の課に所属するメンバーについて以下の仕事をする必要が出てきます。
- モチベーション管理出
- 労働時間の管理
- キャリア支援
- 人事評価
- 指導、教育 など
仮に管理職が人のマネジメントを怠った場合、短期的には良い成果を出すことができても、その良い状態を中長期的に続けることは難しいでしょう。
チームとしての目標達成や課題解決を長く続けていくためには、管理職が人のマネジメントをしっかり行なうことが大切になります。
「コト(業務)」のマネジメント
コトとは、チームが成果を出したり課題解決を図ったりするために必要となる戦略推進の部分です。具体的には、ヒト・モノ・カネ・情報のうち「ヒト以外の部分」をマネジメントしていくイメージになります。
チームが成果を出すためには、具体的な目標とそこまでの計画が必要です。また、計画実行したあとは、進捗や工数などのチェックと振り返りを行ない、定期的な改善をしていく必要もあるでしょう。
チームビルディング
近年のように外的環境の変化が著しい時代では、従来では考えられなかった逆境や課題に直面しやすくなります。こうしたなかで、チームが主体的に逆境を乗り越え成果を出し続けるためには、優秀なメンバーが協働・協創できるチームを構築することが必要です。
管理職が取り組むべきチームビルディングには、近年取り上げられることが多い心理的安全性が高い組織づくりにつながるところがあるでしょう。
MVVの浸透
MVVとは、経営方針の軸ともいえる「ミッション・ビジョン・バリュー」の略語です。企業やチームが成果をあげたり課題解決したりするうえでは、このMVVにもとづく方法で戦略を立案し、実践していく必要があります。
管理職は、経営層と一般社員をつなぐ立場でもあります。そのため、管理職には、MVVなどの経営層が大事にしている価値観や考え方を自分自身が理解・実践し、それらを一般社員に浸透させることも求められます。
チームにMVVが浸透してこそ、全メンバーが同じ考え方やベクトルでより良い成果を出し続けられるようになるでしょう。
管理職に求められる3種類のスキル
管理職がチームとしての成果を出すためには、とてもたくさんのスキルが必要です。
ただし下級・中級・上級のそれぞれが自分に求められる役割を担ううえでは、最も伸ばすべきスキルのカテゴリがある程度決まっています。
ここでは、管理職の教育や自己啓発などで意識すべきスキルの以下3カテゴリを解説しましょう。
- ヒューマンスキル
- テクニカルスキル
- コンセプチュアルスキル
ヒューマンスキル
ヒューマンスキルとは、周囲の人と信頼関係を築き、円滑なコミュニケーションを図るうえで重要な能力です。対人関係力や人間力と呼ばれたりもします。ヒューマンスキルはそれ自体が単独の能力ではなく、以下のような複数の関連スキルで構成されています。
- コミュニケーション力
- リーダーシップ力
- ヒアリング力
- プレゼンテーション力
- コーチング力
- ファシリテーション力
- 交渉力 など
ヒューマンスキルが求められる理由は、管理職の重要な役割である「ヒト(人)のマネジメント」や「チームビルディング」を進めるうえで、管理職本人がチームメンバーから信頼され、フィードバックなども聞き入れてもらえる良好な関係を築く必要があるからです。
ヒューマンスキルにおける重要性の高さは、一般社員と管理職の大きな違いであるともいえるでしょう。
本部長やゼネラルマネージャーなどの上級になると、自分の部下である部長や課長などから信頼されるのはもちろんのこと、経営層などからの信頼が得られるだけのヒューマンスキルが求められるようになります。
テクニカルスキル
テクニカルスキルは、業務遂行に必要な技術や知識の総称です。先述の「コト(業務)のマネジメント」で特に必要なスキルといえば、イメージしやすいと思います。
テクニカルスキルの場合、各自に求められる能力は自分の役職・職種・プロジェクトなどで変わります。
たとえば、システム開発部門の管理職の場合、現場で行なわれているシステム開発の専門知識はもちろんのこと、メンバーの労務管理をするためには労働基準法などの法令知識も必要です。開発プロジェクトで顧客情報を取り扱うとなれば、個人情報の取り扱いのリテラシーがないとメンバーへの助言なども難しくなるでしょう。
テクニカルスキルは、現場メンバーに直接的な管理や指導を行なう下級管理職の役割を担ううえで最も重要なスキルになります。
コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルは、概念化能力と呼ばれるものです。具体的には、複雑な事象や抽象的な物事を概念化し、本質を理解するスキルです。コンセプチュアルスキルは、以下のような要素で構成されています。
- ロジカルシンキング
- ラテラルシンキング
- クリティカルシンキング
- 探究心
- 受容性
- 柔軟性
- 先見性
- 俯瞰力
- 多面的視野
- チャレンジ精神 など
近年のビジネス環境では、コロナ禍や異常気象、ウクライナ侵攻といった予測不能な出来事が次から次へと起こり、企業が直面する課題が複雑化しています。こうしたなかで、コンセプチュアルスキルの重要性が特に高まるようになりました。
コンセプチュアルスキルは、管理職の3区分のうち、上級のような高い階層ほど必要性がアップするスキルになります。
管理職に与えられる権限
管理職には、目標達成に向けてチームを率いたりメンバーの管理・指導を適切に行ったりするために、以下のような権限が与えられます。
- メンバーの作成書類に承認・決済を行う権限
- メンバーの勤怠状況を管理する権限
- メンバーからのさまざまな申請に対して承認・否認を行う権限
- 経費支出の承認・決済を行う権限
- 予算編成をする権限
- 下請けや外注先の選定や契約条件を決定する権限
- 顧客取引に関する承認・決済を行う権限
上記のような承認・決済の権限は、企業から委任を受けて移譲されるものです。
ただし、各管理職に移譲される具体的な権限は、企業ごとに異なります。「どの管理職に、どこまでの権限・責任を付与するか?」は、各企業が作成する職務権限規程のなかに記載されるのが一般的です。
管理職に向いている人・不向きな人
管理職人材の採用・育成を効率よく進めるうえでは、「管理職に向いているかどうか?」の視点を持って対象者を絞り込むことも大切です。ここでは管理職に向いている人・不向きな人の特徴を紹介しましょう。
管理職に向いている人の特徴
以下の特徴を兼ね備えた人は、管理職に向いている可能性が高いです。
- リーダーシップ力が高い
- 各メンバーのセルフリーダーシップ力を解放できる
- セルフリーダーシップ/セルフマネジメントが得意である
- 論理的思考力が高い
- コミュニケーション力が高く、ラポール形成が得意である
- 企業のMVVに基づくビジョンや目標を設定し、行動につなげられる
- 達成意欲が高い
- 決断力が高い
- 物事の本質を見極められる など
管理職に不向きな人の特徴
管理職に不向きな人の場合、上記の「向いている人の特徴」が欠けていることが多くなります。また、注意すべき要素はそれだけではありません。
ここでは、上記とは少し違った視点・表現で、管理職にあまり向かない人にありがちな傾向を紹介しましょう。
- 業績が悪い
- 仕事のミスが多い
- 組織や仕事へのエンゲージメントが著しく低い
- ハラスメントなどの問題行動を起こすリスクが高い
- 自分個人が成果を出すことへの関心が高すぎる一方で、他メンバーの教育・サポートへの関心は著しく低い(プレイヤー意識が抜けない)
- チームよりも自分一人で仕事をすることを好む傾向がある
- 自己管理ができない(だらしがない)
- 感情をコントロールできない
- 相手によって態度をコロコロ変える
- 古いやり方や、過去の成功体験に執着しがちである
- 視野が狭い
- 他責思考である など
まとめ管理職について解説しました
管理職の採用・教育・管理などを行う際には、今回紹介した3つの区分を意識したうえで、適切な戦略立案や実行を進めることが大切です。
また管理職の能力で最も重要となるヒューマンスキルなどは、身につくまでにそれなりに多くの時間がかかるものです。将来の管理職候補を育成する場合、早いうちから必要な教育を実施する必要があるでしょう。