上場(IPO)準備の全体スケジュール
上場準備の期間は一般的に3年以上
一般的に上場の準備期間は、少なくとも3年以上必要とされます。
上場準備に時間がかかる最も大きな要因が会計監査です。
上場申請にあたって、監査法人による会計監査が必要となります。申請期から逆算して2期前の「期首残高」(期首時点の会計)からが監査対象です。このため準備期間全体で3年以上かかることになります。
会計監査のおおまかな流れとしては、以下のとおりです。
1.監査法人によるショートレビューを受け課題を洗い出す
2.課題の改善が認められれば監査契約
3.上場申請から逆算して2期前の期首残高から会計監査開始
上場するにふさわしい企業かどうかを監査するので、会計監査が始まる前までに体制や方針などを整えておく必要があります。
会計監査の準備段階がもっとも重要と言っても過言ではありません。
創業から上場までは平均17~19年程度
帝国データバンクによると、2023年のIPO企業は、設立から上場まで平均17.8年だったそう。
2022年の調査では平均16.5年、また2021年は平均18.8年でした。
ただし東京都内のIT企業を中心に、設立5~10年以内で上場する企業も一定数存在します。
※帝国データバンクが、企業概要データベース「COSMOS2」(約147万社収録)をもとに調査した結果。
参考:2023年のIPO動向|TDB Economic Online
参考:2022年のIPO動向|TDB Economic Online
上場のメリット・上場後の変化
一般投資家に向けて株式が公開されることで、資金を集めやすくなったり、信用や知名度が向上したりといったメリットがあります。
一方で、一般投資家から見れば上場企業は「投資銘柄」です。また証券取引所から見れば「投資家が売買を行う対象としてふさわしいと認めた企業」ということになります。
そのため上場後も、健全な企業体制(コーポレート・ガバナンス)や、公正な事業運営、一定の実績などが求められるのです。
上場を大きな目標としている起業家やスタートアップ企業は多いでしょう。しかし上場すること自体がゴールではありません。
上場の準備期間は、上場後の動きも見据えて行う必要があります。
定期的な株主総会・取締役会の開催
非上場会社の場合は株主総会が形式的になりがちですが、上場後には株主への情報開示の場として、また会社の重要事項を決定する場として、定期的に株主総会を行うことになります。
とくに上場審査が近づいてきた時期には、上場後のリハーサルとして、コンプライアンスなどに留意しながら株主総会を行うことが大切です。
また取締役会の設置についても、非上場会社の場合は義務ではありません。
しかし上場後は取締役会の設置が義務付けられていて、審査基準のなかにも「取締役会が適正に機能しているかを確認する」という旨の記述が見られます。
一定期間の運用をしたうえで上場申請をすることが望ましいとされているので、少なくとも直前期(N-1期)中には取締役会を設置・運営している状態にしておきましょう。
同じく上場申請時に設置が求められる機関として、監査役会があります。こちらも事前に一定期間の運用をすることが望ましいとされているため、取締役会とあわせて検討を進めましょう。
【直前々々期(N-3期)】上場準備1.上場までの見通しを立てる
直前々々期(N-3期)では以下のようなことに取り組み、今後上場するまでの見通しを立てます。
- 資本政策の策定
- 事業計画の策定
- 監査法人、主幹事証券会社、IPOコンサルタントなどの選定
- ショートレビュー
- プロジェクトチームの設立、CFOの採用など
また、実際に決定するのは直前々期(N-2期)や直前期(N-1)になりますが、上場を目指す市場についても検討を始めましょう。
資本政策の策定
資本政策とは、簡単に言えば「一定の経営権を持ちながら、資金や利益を得るためにどうするか」という戦略のことです。
上場後をイメージしながら、おもに資金調達、持株比率(株主構成)、キャピタルゲイン(創業者利益)について戦略を練りましょう。
資金調達については、企業の運営や事業拡大に向けて、どの程度の資金を調達すべきか算段をつけます。
持株比率(株主構成)は、議決権(経営権)に影響することを考慮しなくてはなりません。公募や第三者割当増資によって資金を増やしやすくなりますが、外部株主の持株比率が上がることで、経営者の議決権が希薄化してしまう恐れがあるのです。
キャピタルゲイン(創業者利益)は、非上場の時期からの株主が、株式を売却することによって得られる利益のことです。経営者自身の利益や議決権に影響します。
いったん引き受けてもらった株式は、株主との合意なく取り戻すことはできません。よく「資本政策は後戻りできない」と言われるのはこのためです。
従業員に対してストックオプション(新株予約権)を付与しているスタートアップも多いと思われますが、持株比率とあわせて、誰に対してどのタイミングで発行するか、慎重に意思決定をする必要があります。
<関連記事>【資本政策とは?】目的や実施ステップを中小企業目線で解説
事業計画の策定
多くのスタートアップが事業計画を作成しているとは思われますが、上場準備において重視されるのは、合理的で実現可能性の高い事業計画です。
上場準備から上場後までを含め、事業計画が誰にとってどんな意味を持つかを考えてみるとイメージが湧きやすいかもしれません。
- 経営者にとって:事業への思い・意思を反映した数値目標
- 従業員にとって:自社の活動方針の把握、モチベーション
- 取引所にとって:上場するにふさわしいかどうかの判断材料
- 証券会社にとって:株式の引受可否の判断材料
- 銀行や投資家にとって:融資や投資の判断材料
経営者や従業員にとって、事業計画は目標達成のための道しるべとなります。
一方で、上場におけるステークホルダー(利害関係者)から見ると、投資銘柄ないし上場企業としてふさわしいかどうかを判断するための判断材料になるのです。
そのため事業計画は、客観的に見て合理的、かつ経営ビジョンを実現するための具体策や成長戦略がしっかりと練られていることが重要です。
上場後のIR(投資家向け広報)においても合理性のある事業計画が求められるため、上場準備の段階から入念に取り組んでいきましょう。
実際には監査法人、主幹事証券会社、IPOコンサルタントなどに精査してもらいながら、事業計画を作成していくことになるでしょう。
監査法人、主幹事証券会社、IPOコンサルタントなどの選定
上場準備にあたり監査法人などの選定が必要です。おもに以下のような会社に協力を仰ぐことになります。
- 監査法人
- 主幹事証券会社
- IPOコンサルタント
- 弁護士、税理士など
監査法人は、次の見出しで紹介する「ショートレビュー」から、上場申請に必要となる2期分の会計監査まで併走します。近年は監査法人のリソース不足や、契約のハードルが高まっているとされ、半年~1年ほどかけて監査法人を探すケースもあるそうです。アドバイザリー契約などのかたちも含め、早めに監査法人の関与を受けることを検討しておく必要があります。(※下の記事を参考)
主幹事証券会社は、上場時に公募・売出しなどに関わる証券業務(引受など)を行う会社です。上場準備段階では資本政策や成長戦略へのアドバイス、申請書類作成のサポートなど、上場に向けて全体的な支援を行います。監査法人より後で選定するのが一般的で、N-2期から依頼することもあり得ますが、監査法人と同様に主幹事証券会社を探すのに時間がかかるケースが考えられるので早めに選定に動き出すのがベターです。
IPOコンサルタントは、その名の通り上場について包括的にアドバイスやサポートをしてくれる会社を指します。監査法人や主幹事証券会社とは別に依頼しておくことで、セカンドオピニオン的に助言をもらうことができるのが大きなメリットです。
これらの会社のほかにも、弁護士や税理士などへの依頼を検討しましょう。上場準備では、財務諸表の整備、内部統制の構築などが求められるほか、コーポレートガバナンスの観点からコンプライアンスを整備していくことなどが必要になります。これらの点において専門家である弁護士や税理士に依頼することで、スムーズな上場準備ができるでしょう。
参考:株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の任等に関する連絡協議会報告書|IPOに係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会(2020年3月)
ショートレビュー
ショートレビューとは、監査法人によって企業の現状を調査し、上場するにあたっての課題を明らかにすることです。予備監査、短期調査、制度調査、クイックレビューなどと呼ばれることもあります。
3~5日程度で実施し、ヒアリングや資料の調査によって進めるのが一般的です。
ショートレビューの依頼時に提出する資料は企業ごとにも異なりますが、代表的な例をいくつか抜粋して紹介します。
- 登記簿謄本、定款、組織図など
- コーポレートガバナンス体制、社内規程
- 事業計画の精度・合理性
- 予実管理の精度
- 株主名簿、役員一覧
- 株主総会や経営会議の議事録
- 契約書類
- 証憑書類(請求書や領収書など会計処理の根拠資料)
- 内部統制3点セット(業務記述書、フローチャート、RCM(リスクコントロールマトリクス))
コーポレートガバナンス体制や内部統制報告制度の整備については、N-2期以降に本格的な課題改善・整備に取り組んでいくことになります。ただし制度の基盤自体は会計監査までにある程度整えておかなくてはなりません。
ショートレビューの段階では、上場申請の水準と現状とのギャップを明確にし、改善に向けて計画を立てることが焦点となります。“間に合わせ”として資料を作成するのではなく、普段の管理体制を評価してもらい、改善に取り組みましょう。
プロジェクトチームの設立、CFOの採用など
人材の確保やプロジェクトチームの設立などを、会計監査が始まる前に準備しておきましょう。
とくにCFO(財務責任者)や経理・財務、内部監査など、管理部門の採用が重要です。財務戦略を踏まえた経営戦略、不正なく適正な業務遂行、など上場企業に求められる水準を意識した採用戦略を練りましょう。
また、上場準備を目的とするプロジェクトチームを設けるかどうかを検討することも大切です。
監査法人や主幹事証券会社との連携、書類作成、制度の整備など、上場準備には多大なコストがかかります。そのため全社横断的にメンバーを集め、上場準備を専門とするチームを組むことで、各部署の負担軽減、業務効率化などにつなげられるでしょう。
【直前々期(N-2期)】上場準備2.会計監査の開始・各制度の整備
直前々期(N-2期)では以下のようなことに取り組みます。
- 会計監査
- 内部統制報告制度(J-SOX)への対応
- コーポレートガバナンス(内部統治)の整備
- 関係会社、役員などの整理
監査契約までの段階で、ショートレビューで洗い出した課題の改善はある程度行われているはずです。
直前期(N-1期)から申請期(N期)にかけては、上場企業と同様の管理体制を運営していくことが求められます。直前々期(N-2期)は、その基盤づくりの時期です。
会計監査
直前々期(N-2期)から会計監査の対象期間です。
金融商品取引法(金商法)に準じた監査(準金商法監査)を受けるにあたり、財務諸表の内容も金商法に即した内容が求められます。
金商法とは、株式をはじめとする金融取引を公正にし、投資家を保護、また経済の健全・円滑な発展を目指すことを目的とした法律です。具体的には、「有価証券報告書」「半期報告書」などの開示、インサイダー取引の禁止、などを取り決めています。
非上場企業の場合は、税金計算を目的とした税務会計に基づいて財務諸表を作成することが大半。
一方で、会計監査にて求められる、つまり上場企業に求められる財務諸表は、投資家に向けた情報発信がおもな目的です。そのためより詳細で正確、かつ公正な資料が求められます。
また申請時には、「上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」および「上場申請のための報告書(Ⅱの部)」の提出が必要です。財務諸表のほか、沿革、事業内容、関係会社の状況、従業員の状況などをまとめます。その業務量は膨大です。
有価証券報告書の作成は、直前期(N-1期)から取り組み始めることもありますが、早い段階から作成を始め、提出までに改善・更新していくのがよいでしょう。なお有価証券報告書を作成する際、ディスクロージャー支援会社(証券印刷会社)と契約するのが一般的です。
内部統制報告制度(J-SOX)への対応
内部統制報告制度(J-SOX)とは、上場企業の財務報告において不正会計を防ぎ、適正で信頼できる状態にするための制度です。以下のような対応が求められます。
- 経営者による内部統制の整備(3点セットの作成)
- 監査人による内部統制の監査
- 内部統制報告書の提出
3点セットとは、「業務記述書」「フローチャート」「RCM(リスク・コントロール・マトリックス)」を指します。それぞれ業務プロセスや会計処理、リスクへの対応について明文化・図式化した書類のこと。
内部統制を整備したうえで、監査による評価を受け、また株主や投資家向けの資料として内部統制報告書を作成・提出する必要があります。
そもそも「内部統制」とは何を指すのでしょうか。金融庁による定義は以下のとおりです。
内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。
簡単にまとめると、「業務を誠実で倫理的かつ効率的に遂行すること、また組織目標に対するリスク要因を分析して適切な対応を取ること」を目的としたプロセスということです。
経営者の責任のもとで、組織内のすべての人に正しく理解されたうえで、適切に機能させることが求められます。
直前期(N-1期)から上場後を見据えた本格的な運用が始まるため、この段階で仕組みを整備しておきましょう。
コーポレートガバナンス(内部統治)の整備
コーポレート・ガバナンス(内部統治)もまた、内部統制と同じく健全な経営を目的とした仕組みを指します。
内部統制と混同しやすい概念ですが、内部統制は経営者の責任のもと、組織内部を健全な状態に保つのが目的です。
一方でコーポレートガバナンスは、株主や取締役会、また社外取締役や会計監査人などが、客観的な立場から経営者(経営陣)を監視するのが目的です。
「上場企業は、株主の権利を確保し、株主が権利を適切に行使できる状態を保つべき」という考え方に基づき、顧客・取引先・株主などのステークホルダーとの適切な協働、情報開示による透明性の高い経営、などが求められます。
指針となるのは、金融庁と東京証券取引所により共同で策定された「コーポレートガバナンス・コード」です。上場後も「コーポレートガバナンスが保たれている」状態での経営を維持できるよう、この段階から整備していく必要があります。
<関連記事>コーポレートガバナンス・コード(CGコード)とは?2021年の改定ポイントも解説!
関係会社、役員などの整理
上場会社には健全な経営が求められます。
上場準備にあたっては、子会社や親会社、そのほか営業に関わりのある関係会社の整理、役員や主要株主との取引の解消、などが必要です。
関係会社の整理をする必要性については、たとえば赤字経営を続けている子会社がある場合、親会社にまでしわ寄せが来る可能性があります。この場合、結果として株主である投資家の利益を損ねてしまうため、上場企業としては健全とは言えません。
また役員や主要株主と会社とのあいだで、金銭や債務保証などの取引が発生している場合、これらを解消しておく必要があります。客観的立場が求められる監査役に役員などが含まれている場合も、不正防止の観点から業務委託取引の解消をしなくてはなりません。
判断が難しいケースも多く、主幹事証券会社や監査法人の意見を聞きながら進めるのが一般的です。
【直前期(N-1期)】上場準備3.上場会社と同様な管理体制を期首から運用
直前期(N-1期)にあたる1年間は、上場会社と同様の水準で管理体制を運用していくことが求められます。
会計や事業計画、内部統制、コーポレート・ガバナンスなど、引き続き改善・維持しながら上場申請に向けてラストスパートをかける時期です。
また、上場申請に向けて以下の事柄について進めていきます。
- 株式事務代行機関の選定
- 証券印刷会社の選定
- 定款の変更
- 主幹事証券会社による引受審査
- 申請書類の作成
それぞれ詳しく解説します。
株式事務代行機関の選定
株式事務代行機関は、株主名簿の管理、新株予約権原簿の管理、株主総会における議決権など各種権利の処理、などを行います。
株式関連の事務業務を全般的に依頼することになる機関です。
上場準備期間中に行う株主総会においても、上場後を見据えた株主総会の運営方法について助言を得られます。
東京証券取引所の場合は、東京証券代行株式会社、日本証券代行株式会社、株式会社アイ・アールジャパンの3社のほか、信託銀行が株式事務代行機関として承認されています。
参考:東京証券代行株式会社
参考:日本証券代行株式会社
ディスクロージャー支援会社(証券印刷会社)の選定
ディスクロージャー支援会社は、証券印刷会社または株券印刷会社とも呼ばれますが、2009年以降は紙の株券が廃止されて電子化しているので、株券を印刷してもらうわけではありません。
有価証券報告書を作成するためのシステム提供のほか、IR作成の支援、株主総会の運営支援などを請け負ってくれる会社です。
有価証券報告書などの書類を提出する場合にはEDINETというシステムを、上場後に必要となる適時開示書類を提出する場合にはTDnetというシステムを利用する必要があります。
どちらもXBRLという特殊なコンピュータ言語が使われているため、証券印刷会社の提供するシステムを介して資料を作成するのが一般的です。
ディスクロージャー支援会社は事実上、株式会社プロネクサスと宝印刷株式会社がシェアを二分していています。
定款の変更
上場の目処が立ってきた段階で、会社設立時に作成・申請した定款を変更します。
変更するのはおもに以下の内容です。変更にあたって、株主総会で決議を取る必要があります。
- 株式の譲渡制限規定の廃止
- 単元株式数の設定
- 取締役、監査役の選任決議
- 取締役会の設置
- 株主名簿管理人の設置
- 会計監査人の設置・選任
株式を非公開の状態から公開するにあたり、株式の譲渡制限規定を廃止します。株式の1単元を100株とするなど、株式の売買に関する内容の変更も必要です。
取締役会や監査会計人をまだ設置していない場合には、定款に明記したうえで設置します。
株主名簿管理人には株式事務代行機関が置かれますが、定款の変更に先駆けて選任・契約しておくのが一般的です。
申請書類の作成
上場申請にあたって必要となる書類を完成させていきましょう。
ここまで紹介してきた「定款」や「有価証券報告書」(Ⅰの部、Ⅱの部)をはじめ、「有価証券新規上場申請書」「新規上場申請に係る宣誓書」など、様々な書類が必要になります。
申請後、上場承認が近づいてきたタイミングで「株券上場契約書」や「時価総額算定書」、「目論見書」などの作成も必要です。
アドバイザリーやコンサルタントにチェックしてもらいながら進めていきましょう。
主幹事証券会社による引受審査
取引所審査に先駆けて、まずは主幹事証券会社による引受審査があります。
株式を売り出すときには主幹事証券会社が仲介役となり、もし万が一にも上場後に問題が発覚した場合には審査の不備が疑われてしまうため、審査は厳格です。
一般的にはおもに以下のような点について審査されます。
- 資本政策
- 上場申請書類
- 公開適格性
- 経営の健全性、業績の見通し
- 内部統制、コーポレートガバナンス
引受審査を通過すれば、上場申請することが可能です。
もし問題が発覚した場合、早急に対処することがスケジュールどおりに上場申請できるかどうかのカギとなります。
【申請期(N期)】上場準備4.上場審査・上場後の準備
主幹事証券会社の最終審査を終えたら、取引所審査に移ります。審査にかかる期間は、通常2~3ヶ月程度です。上場承認の目処が立ったら、以下のような準備が必要です。
- 有価証券届出書、目論見書などの作成
- 公開価格の決定(ファイナンス期間)
- IR活動の準備
申請書類を提出したあとも上場に備え、内部統制をはじめとする、これまでに整備してきた管理体制を運用していきます。
また、上場承認から上場までは約1ヶ月です。とくに公開価格の決定はタイトなスケジュールとなるので、あらかじめ準備しておきましょう。
有価証券届出書、目論見書などの作成
株式をはじめ有価証券の新規発行・売出しをするときには、有価証券届出書ならびに目論見書の提出を提出することが、金商法により義務づけられています。
有価証券届出書は、事業における経理状況などの重要事項、また有価証券の発行条件などを記載した書類です。2023年10月から、上場承認前に提出することが可能となりました。(※下の記事を参考)
目論見書は、投資家向けに事業内容や経営状況、有価証券の募集・売出し状況、資金の使途などについて記載した書類です。有価証券届出書とほぼ同じ内容ですが、証券情報が加わっています。
IPO(新規株式公開)にあたって必要となるのは「交付目論見書」という簡易版です。ただし投資信託証券の場合は、投資家の請求に応じて「請求目論見書」を交付しなければならないことがあります。
これらのほか、上場承認までのあいだに証券取引所から「株券上場契約書」や「時価総額算定書」などの提出が求められます。
参考:監査基準報告書700周知文書第2号「株式上場承認前に有価証券届出書を提出する場合における監査報告書の発行に関する周知文書」の公表について|jicpa(日本公認会計士協会)
公開価格の決定(ファイナンス期間)
上場後の公募・売出しに備えて、公開価格の検討をしていきます。上場承認から約1ヶ月後の上場までのあいだに行います。
「ブックビルディング方式」(需要積み上げ方式)に基づき、以下のプロセスで値決めをするのが一般的です。
- プレヒアリング期間:想定発行価格の決定
- ロードショー期間:仮条件の決定
- ブックビルディング期間:公開価格の決定
プレヒアリング期間は、有価証券届出書・目論見書に記載する想定発行価格を決定します。このときの価格決定要因は、申請会社の実績と、これからの業績予想です。
ロードショー期間はプレマーケティング期間と呼ばれることもあり、ロードショー(機関投資家向けの説明会)を実施します。ロードショーの目的は2つ。
機関投資家に対してエクイティストーリー(業績・成長戦略・財務状況など)や自社の強みをプレゼンし、IPOに参加してもらうこと。そしてもう1つが、価格設定や事業内容についてフィードバックを受け、株価・株数に対する需要を見積もることです。需給をすり合わせて、「◯◯◯◯円~◯◯◯◯円」と幅をもたせた形で仮条件を決定します。
ロードショーを通して仮条件が決定したら、有価証券届出書に記載していた想定発行価格を訂正するために「訂正届出書」を提出。
その後、約5日間程度のブックビルディング期間に入ります。仮条件を投資家に提示したうえで、希望価格と投資株数の申告を募り、あらためて公開価格を決定。再度、訂正目論見書を提出します。
IR活動の準備
IR(Investor Relations)は「投資家向け広報」とも呼ばれ、株主や投資家に対して透明性の高い情報を提供することが求められます。
代表的な活動内容は以下のとおりです。
- IR情報のWebページ作成
- アニュアルレポート(年次報告書)、半期報告書、決算短信などの開示
- 報道機関やTDnetなどを通じた適時開示情報の公開
- 決算説明会、投資家とのミーティングなどIRイベントの開催
- IR情報発表後の問い合わせ対応
多くの上場企業は、コーポレートサイトなどでIR情報のページを作成し、アニュアルレポート(年次報告書)、半期報告書、決算短信、有価証券報告書などを掲載しています。
株主や投資家に向けて、分かりやすく、いつでも情報が見れる状態を維持することが大切です。海外投資家に向けて多言語に対応することや、過去の資料を閲覧しやすいようにアーカイブや検索機能を用いることも欠かせません。
また決算説明会や投資家向け説明会などのIRイベントを定期的に開催するのもIR活動において大切です。企業と投資家とのコミュニケーションを双方向的にし、良好な関係性を構築することに繋がります。
IR情報発表後は、社外からの問い合わせも発生します。円滑に対応できるよう、事前準備をしておきましょう。
どの市場で上場するか
上場する市場によって審査基準が異なります。
上場後も、別の市場への変更は可能なので、初めての市場選定が永久的に影響を与えることはありません。
ただし市場区分を変更する際には、あらためてその市場の上場審査基準に基づいて審査を受けることになります。
ここからは東京証券取引所のそれぞれの市場について、特徴や要件を比較・紹介していきます。その他の証券取引所については、以下のページを参考にしてください。
東証プライム市場
東証プライム市場は、海外の機関投資家を含む、より多くの機関投資家の投資対象となる市場です。新規上場・上場維持の基準は高く設定されていて、中長期的に企業価値の向上を図っていくことが求められます。
東証プライム市場への新規上場における形式要件は以下の通りです。
- 株主数:800人以上
- 流通株式:流通株式数2万単位以上、流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上
- 時価総額:250億円以上
- 純資産の額:連結純資産が50億円以上
- 利益の額・売上高:最近2年間の利益総額が25億円以上、または、最近1年間の売上高が100億円以上(かつ時価総額1,000億円以上)
- 事業継続年数:3ヶ年以前から株式会社として継続的に事業活動をしている
東証スタンダード市場、東証グロース市場と比べて、時価総額や純資産額の要件が高く設定されているのが特徴です。
東証スタンダード市場
東証スタンダード市場は、ある程度成熟した企業に適した市場です。東証プライム市場と比べて基準はやや低く設定されているものの、一定以上の水準で中長期的に企業価値を向上していくことが求められます。
東証スタンダード市場への新規上場における形式要件は以下の通りです。
- 株主数:400人以上
- 流通株式:流通株式数2,000単位以上、流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率25%以上
- 時価総額:-
- 純資産の額:連結純資産が正の値
- 利益の額・売上高:最近1年間の利益総額が1億円以上
- 事業継続年数:3ヶ年以前から株式会社として継続的に事業活動をしている
株主数、流通株式数、純資産額などの面において東証プライム市場と比較すると要件が低く設定されています。
また、時価総額についての要件がありません。
東証グロース市場
東証グロース市場は、新興企業向けの市場です。ほかの市場と比べると、実績などの観点から投資家から見たリスクは高いとされるものの、高い成長可能性を有するかどうかを基準に上場審査をします。
東証グロース市場への新規上場における形式要件は以下の通りです。
- 株主数:150人以上
- 流通株式:流通株式数1,000単位以上、流通株式時価総額5億円以上、流通株式比率25%以上
- 時価総額:-
- 純資産の額:-
- 利益の額・売上高:-
- 事業継続年数:1ヶ年以前から株式会社として継続的に事業活動をしている
- 公募の実施:500単位以上の新規上場申請に係る株券等の公募を行うこと
時価総額にくわえて、純資産額、利益・売上高についての記載がありません。
事業継続年数については、東証プライム市場と東証スタンダード市場ではいずれも3ヶ年以前からの継続的な事業活動が要件でしたが、東証グロース市場では1ヶ年以前からの事業活動となっています。
上記2つの市場には無かった要件として、公募の実施について記載があるのが特徴です。
TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)
TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)は他の3つの一般市場と異なり、形式要件がありません。
それだけでなく、監査期間は1年間(監査法人ではなくJ-Adviserが行う)、上場申請から上場承認まで10営業日、内部統制報告書の提出も任意であるなど、上場の要件が緩和されているのが特徴です。
一般市場への上場はハードルが高く、準備にも多大なコストがかかります。それを解消しようという取り組みから生まれた市場なのです。
ただし一般投資家は買付けることができず、特定投資家等(いわゆる「プロ投資家」)のみに開かれています。
上場準備を進めていた企業であれば、一般市場への上場が叶わなかった場合にも短期間で上場できる可能性がある、という点は大きなメリットです。
またTOKYO PRO Marketに上場したのち、一般市場に上場した企業の事例が徐々に増えてきています。
上場にかかる費用
上場準備や上場には、以下のような費用がかかります。
- 上場審査料
- 新規上場料
- 公募または売出しにかかる料金
- 年間上場料
- 登録免許税
- 主幹事証券会社に支払う費用
- 監査法人に支払う費用
- ディスクロージャー支援会社に支払う費用
- 株式事務代行機関に支払う費用
- IPOコンサルタントに支払う費用
- 弁護士・税理士の顧問料
上場審査料と新規上場料は、市場によって異なります。
- プライム市場:上場審査料400万円、新規上場料1,500万円
- スタンダード市場:上場審査料300万円、新規上場料800万円
- グロース市場:上場審査料200万円、新規上場料100万円
上場維持にかかる年間上場料もまた市場によって異なり、くわえて、時価総額ごとにも金額が異なります。
上場準備段階では、少なくとも年間2,500万円以上の費用がかかるでしょう。
監査法人に支払う費用は、ショートレビューは一般的に150万~300万円程度、会計監査(準金商法監査)は年間1,000万円以上が目安です。
主幹事証券会社やIPOコンサルタントに支払う費用は、一般的に500万~2,000万円程度が目安となります。
これらのほか、上場準備に向けて採用なども活発化するでしょう。あらかじめ費用の目安を立てたうえで事業計画や上場に向けたスケジュールを練ることが大切です。