ストックオプションとは?
ストックオプションとは、企業が自社の役員や従業員に対し、あらかじめ定めた価格で将来の自社株を購入できる権利を付与する制度です。権利行使価格は権利付与時の株価を基準に設定され、将来株価が権利行使価格を上回ると、その差額を利益として得られる仕組みとなっています。
ストックオプションは企業の成長が役員や経営陣の成果として還元されることから、主にスタートアップ企業や成長企業がインセンティブとして活用するケースが多く見られます。
以下のお役立ち資料では、ストックオプションの仕組みやメリットといった基礎知識から、IPOに向けた活用方法までを、図解を交えて分かりやすく解説しています。ストックオプションへの理解を深めるためのガイドブックとして、ぜひご活用ください。
ストックオプション発行による株価への影響
ストックオプションの発行は株価に影響を与える可能性もあるため、どのような原因で影響が出るのかを把握しておくことが重要です。
ストックオプション発行による株価への影響は少ない
結論から言うと、ストックオプション発行による株価への影響は少ないです。確かに理論上、ストックオプションの発行は株価に直接的または間接的に影響を与える可能性はありますが、下記の理由から、その影響は比較的少ないとされています。
◆市場が事前把握している
ストックオプションの発行が株価に与える影響が少ない理由の一つとして、市場が株式発行の予定を事前に把握している点が挙げられます。ストックオプションの発行は通常、株主総会や適時開示を通じて投資家に通知されるため、その情報が事前に市場に織り込まれる傾向があります。したがって、発行時点での株価の急激な変動は起こりにくいです。
◆権利行使が分散する
ストックオプションの権利行使が段階的に行われる仕組みも、株価への影響を緩和する要因となります。ストックオプションは通常、一定期間が経過した後に行使可能となる「権利確定期間」や「ロックアップ期間」を設けています。このため権利が一斉に行使されることはなく、新株発行による希薄化の影響も分散されます。結果として、投資家が受ける心理的な負担や市場の需給バランスへの影響も最小限に抑えられるのです。
以下の記事では「ロックアップ」について詳しく解説しています。ぜひ併せて確認してみてください。
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◆企業成長により補完される
ストックオプションの発行は、業績向上への期待を市場が評価することで、株価へのネガティブな影響を補完するケースが多いです。ストックオプションは、従業員や役員のモチベーション向上を目的としたインセンティブとして機能します。この仕組みによって企業が持続的な成長を遂げ、企業価値の向上につながると市場が判断すれば、株価はむしろポジティブに反応する可能性があります。
上述した原因から、極端な株式発行を行ったり大幅な設計ミスを行わない限りは、株価への影響を懸念し過ぎる必要はないでしょう。
ストックオプション発行が株価に影響するケース
ここまでは、ストックオプション発行による株価への影響が少ない理由について説明してきました。
ただし理論的には以下のような状況において、ストックオプションの発行が株価に影響を与える可能性もあるため、これらのケースを確認していきましょう。
株価が下降するケース
◆株式希薄化の可能性がある場合
新株発行により、既存株主の持分が相対的に減少する「株式の希薄化」が懸念される場合、株価が下落する可能性があります。株式の希薄化とは、発行済株式総数が増加することで1株当たり純利益(EPS)が低下し、投資家にとって株式の価値が減少することを指します。この現象は特に発行規模が大きい場合や、企業が予想外の形で株式を発行する場合に顕著です。
投資家心理においても、株式の価値が低下する可能性があるとの見方が広がることで、売り圧力が高まる場合があります。
◆過剰な発行規模
ストックオプションとして発行される株式数が、市場の予想を大幅に上回る規模だった場合、需要と供給のバランスが崩れ、株価が下落する可能性があります。また過剰な発行は、企業が財務的に逼迫しているのではないかという不安を投資家に与えることもあります。これは特に、成長性が限定的な企業や業績が低迷している企業の場合に問題となります。
なお前述のとおり、これらの影響はあくまで「理論上」の話であり、実際にはストックオプションで発行される株式数は発行済株式総数に対して少ない割合であるため、株価への影響は限定的であるとされています。
株価が上昇するケース
◆役員・従業員のモチベーションが高まる場合
役員・従業員のモチベーションが高まり企業の成長や業績向上が期待される場合は、間接的に株価の上昇に貢献するケースがあります。ストックオプションは、企業の成功と個人の利益が直接結びつく仕組みであるため、役員や従業員の目標達成意識を高める効果があります。
また企業全体としても、従業員が同じ目標に向かって努力する一体感を生み出しやすくなります。このようなモチベーションの向上は、新しいビジネスチャンスの開拓や業務効率化といった具体的な成果として現れることが期待され、最終的には株式価値の向上につながります。
◆市場・投資家からポジティブな評価を受けた場合
ストックオプションを導入することで、業績向上や企業の成長が期待される場合、市場・投資家がポジティブな見方をすることがあります。特に優秀な人材を惹きつける戦略として機能し、企業の競争力向上に寄与するとの期待が市場に広がれば、株価の上昇要因となる場合があります。実際、業績が順調に伸びている企業がストックオプションを発行した際には、成長性への信頼感が市場に反映されることが多いです。
ストックオプションの導入が向いている企業
ストックオプションは、企業の成長と従業員のモチベーションを結びつける効果的な制度ですが、すべての企業に適しているわけではありません。そのため導入前に自社がこの制度に向いているかを慎重に検討することが重要です。ストックオプションの恩恵を最大限に引き出せる企業の特性について見ていきましょう。
IPO(新規株式公開)を目指す非上場企業
特にストックオプションの導入が向いているのは、IPO(新規株式公開)を目指す非上場企業です。非上場企業の多くは成長途中にあり、まだ資金力が十分でないことが多いです。そのため、高い賞与や充実した福利厚生を従業員に提供することが難しい場合もあります。ストックオプションを導入することで、手元資金を使わずに従業員にインセンティブを提供し、企業の成長を促進することができます。
IPOを目指す企業では、上場によってストックオプションの価値が大幅に増加する可能性があり、それが従業員のモチベーションを高める重要な要因となります。自社の成長ビジョンを共有し、ストックオプションを有効に活用することで、限られた資源を最大限に活かせるでしょう。
IPO準備において、フェーズごとのタスクとスケジュールについて詳しく知りたい方は、ぜひ以下お役立ち資料も併せて確認してみてください。
優秀な人材採用を強化したい企業
ストックオプションは「優秀な人材を採用したい」というニーズを持つ企業に適しています。競争が激化する市場において、優秀な人材を確保することは企業の存続や成長において欠かせない要素です。ストックオプションは、給与や賞与に加えた長期的な報酬形態としての魅力を持ち、優秀な人材にとっての魅力的なインセンティブとなります。
またストックオプションを退職金として活用するケースもあります。従業員が自社株を所有することで、退職時に金銭的なメリットを享受できるため、優秀な人材採用につながります。
ストックオプションの導入と運用
ここではストックオプションの導入と運用について詳しく解説します。
ストックオプション導入の流れ
独立行政法人中小企業基盤整備機構の公式サイトでは、ストックオプションの一般的な発行手続を開示しています。その内容を確認しておきましょう。
1.募集事項の決定
ストックオプション導入の第一歩として、株主総会で特別決議を行い、募集新株予約権に関する以下の事項を決定します。ただし公開会社の場合は、取締役会の決議で対応可能です。
内容・数
無償発行の場合にはその旨
1個あたりの払込金額またはその算定方法
割当日
払込期日を定めるときは、その期日
2.募集事項の通知・公告
非公開会社の場合は不要です。一方公開会社では原則として、募集事項を通知または公告することが求められます。これにより透明性を確保し、情報を広く関係者に周知します。
3.募集新株予約権の申込み
募集新株予約権を引き受けたい者には、以下の事項を通知します。
商号
募集事項
払込取扱機関
引受の申込みをする者は、以下の内容を記載した書面を会社に提出する必要があります。
申込者の氏名または名称および住所
引き受けようとする募集新株予約権の数
4.募集新株予約権の割当・引受
非公開会社または譲渡制限付きの募集新株予約権の場合、株主総会の特別決議により、割当対象者と割当数を決定します。それ以外の場合には、取締役会または取締役がこれを決定します。割当日をもって申込者は新株予約権者として認定されます。
5.引受人の払込み
有償発行の場合、引受人は払込期日までに以下の方法で払込みを完了させる必要があります。
- 金銭の全額払込み
- 財産給付
- 債権相殺
権利行使価格の設定方法
ストックオプションの権利行使価格は、下記のように適切な評価手法を用いて設定することが重要です。
ブラック・ショールズモデル
ブラック・ショールズモデルは、株価が時間の経過とともに一定のボラティリティで変動することを前提とした、数学的な算定手法です。比較的簡単に計算ができることから、ストックオプション評価において最も用いられることが多い手法です。
二項モデル
二項モデルは時間を小さな区間に分割し、それぞれの期間での株価の推移を計算することで、オプション価格を導き出す手法です。二項モデルでは、権利行使期間のいつでも権利行使が可能なアメリカン・タイプのオプションの評価にも対応が可能であるという特徴があります。ただし、ブラック・ショールズモデルに比べて計算が複雑であり、専用のソフトウェアが必要になります。
モンテカルロ・シミュレーション
モンテカルロ・シミュレーションは、将来の株価変動をランダムにシミュレーションして、統計的にオプション価格を評価する方法です。この手法では、株価の変動を確率的なプロセスとして扱い、何度となくシナリオを生成して分析を行います。
モンテカルロ・シミュレーションは、複雑な条件が絡む場合などにも対応が可能です。一方でデメリットとして、計算量が膨大になるため時間がかかり、計算結果はシミュレーションの結果によって求められることから、毎回計算結果が異なるという点があげられます。
ストックオプション活用時の注意点
ストックオプションの活用に際して、特に意識しておきたいポイントを下記に解説します。
過剰な発行はしない
過剰な発行をしないことは大切です。過剰に発行すると、既存株主の持分が希薄化し、株主価値を損ねるリスクがあります。また株式希薄化は株価に直接的な悪影響を及ぼし、投資家からの信頼低下を招く可能性があります。そのため、付与対象者や発行規模を慎重に検討し、企業の成長フェーズや市場の状況に応じたバランスの良い設計を行うことが重要です。
株価が安い時に発行する
ストックオプションは下記の理由から、株価が安い時に発行するのが望ましいとされています。
インセンティブ効果の向上
ストックオプションは発行時の株価に基づいて権利行使価格が設定されるため、株価が安い時に発行すると将来株価が上昇した際に得られる利益が大きくなります。成長余地の大きさはインセンティブとしての効果の高さに繋がります。
企業側のリスク軽減
株価が安い時点でストックオプションを発行すれば、既存株主の持分が希薄化するリスクを低減できます。
ストックオプションを活用して自社の成長を促進しよう!
ストックオプションは人材の確保・定着・モチベーション向上まで幅広く寄与する強力なツールです。適切な設計と運用を行えば優れたインセンティブ制度として機能し、企業価値・パフォーマンスを大幅に向上させられます。
ストックオプション制度の効果を最大限発揮するには、自社の現状・成長フェーズ・株価への影響・リスクを考慮して設計・運用を行うのがポイントです。これからストックオプションの導入を検討している方は、ぜひ当記事を参考にして自社に最適な制度を構築して下さい。