IPOは「新規株式公開」の略称
IPOは「Initial Public Offering」の略称で、日本語では「新規株式公開」を意味します。新規で株式市場に上場するためにはIPO化することが必要不可欠です。企業が株式上場すると投資家から資金を獲得できるなど、事業規模を拡大するのに有効なメリットを多く得られます。
また、IPO化するには厳しい上場基準をクリアしなければなりません。そのため、IPO化に成功すると世間からコーポレートガバナンスがしっかりしている企業であると高い信頼を獲得できるでしょう。
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上場との違い
どちらも証券取引所に企業の株式を公開する行為が含まれるため、ニアリーイコールな関係性だといえるでしょう。しかし、IPO化は未上場企業が新規で証券取引所に株式を公開する行為のみに使用されます。
一方で上場は既に株式を発行しているけど、他の市場に上場する時にも使用されるので、より意味合いが広い意味で使用されている傾向が強いです。
ダイレクトリスティングとの違い
ダイレクトリスティングは、通常のIPOとは異なり、新たな株式の発行や引受業者を利用しない上場方法を指します。
ダイレクトリスティングは引受手数料が不要なことや、事前の株価操作が少ないため透明性が高いなど、IPOにはない独特な強みを持ちます。しかし、資金調達ができない性質上メリットが少ないので、使用した事例が極端に少ないのが現状です。
POとの違い
POは「Public Offering」の略で、日本語では「公募」の意味です。企業が既に発行している株式を市場で売り出す方法を指すため、新規で株式を発行するIPOとは意味が大きく異なります。
また、創業者や大株主が保有する既存株式を市場に売り出す「既存株式の売出し」もPOに含まれます。
【企業目線でわかりやすく】IPOの5つのメリット
企業のIPO化を目標にするには言葉の意味だけでなく、IPO化によって企業にどのようなメリットが生まれるか把握しなければなりません。IPO化のメリットは多岐にわたり、さまざまな角度から企業の成長を促してくれることが多いです。ここでは、5つのメリットを企業目線でわかりやすく解説します。
1.社会的な信頼度が高くなる
企業がIPOするには、市場の厳しい上場審査をパスしなければなりません。IPO化をしている企業は上場審査をクリアするために、企業内の仕組みや事業の今後の展開を明確にしているので、銀行をはじめとする社会的信頼度が高くなります。
社会的な信頼度の高さは、世間からの企業イメージや新しい顧客を獲得しやすさに直結するため、事業を拡大するうえで重要な要素になるといえるでしょう。
2.資金調達力が高くなる
企業がIPO化すると株式上場が可能になり、株の売買で投資家から資金を獲得できるなど資金調達力が高くなります。
株式は借入金に含まれないため返済する必要がなく、事業拡大の資金として非常に有効です。また、銀行からの融資の幅も広がるので、より事業拡大するリソースを潤沢にすることも可能でしょう。
3.採用力が高くなる
IPO化は市場で自社の存在感をアピールすることにつながり、市場での評判をきっかけに多くの人に存在を知ってもらえるきっかけになります。世間からの認知度が高いと、それだけ多くの求職者に認識してもらえるようになるので、採用力が高くなる傾向が強いです。
さらに求職者にとって株式上場しているかどうかは、企業の信頼度を左右する要素になるため、IPO化したほうが求職者からの信頼を勝ち取りやすいといえるでしょう。
4.社内管理体制が強化される
上場審査基準は上場する市場によって内容が異なりますが、高水準の社内管理体制状態であることが条件の審査基準がほとんどです。そのため、IPO化するには社内管理体制を見直すステップが必要になり、結果として社内管理体制が強化されるメリットが生まれます。
社内管理体制の強化は、業務のブラックボックス化の防止や社員のオーバーワークを改善するきっかけになるので、企業を長く存続するためには重要なステップであるといえるでしょう。
5.社員のモチベーションが強化される
IPO化で世間的な認知度が上がると周囲から評価がされやすくなるので、社員のモチベーションアップにつながります。社員のモチベーションが高いと業務の効率も高くなる傾向があるため、社内で好循環が生まれるきっかけにもなります。
【企業目線でわかりやすく】IPOの3つのデメリット
企業が成長するうえで多くのメリットがあるIPOですが、いくつか注意すべきデメリットも存在します。デメリットを把握していないと、IPOするためのコストが無駄になってしまうことにもつながりかねません。ここでは、3つのデメリットを企業目線でわかりやすく解説します。
1.準備にコストがかかる
IPOするには社内管理体制を高い水準に維持する必要があるため、準備するだけでもかなりの費用がかかります。企業の状態や規模にもよりますが、最低でも数千万円程度の価格感を持っておいたほうが良いでしょう。
また、費用だけでなく時間も3年ほどかかってしまうため、それだけの長い時間に耐える企業体力も必要です。
2.買収リスクが増加する
IPOして株式に上場すると、競合企業や意図しない株主が株を買い占めてしまい、買収されてしまうリスクが高まります。買収されてしまうと会社の経営権を握られてしまう状態に陥ってしまうので注意しましょう。
また、買収までいかずとも株主に配慮した経営センスが問われるので、事業スタンスが変わってしまうことも珍しくありません。
3.継続して情報開示するのに手間がかかる
IPOを無事成功させても、上場を維持するためには定期的に情報を開示し続けなければなりません。監査報酬や株主総会を開催する費用も必要になるので、数千万円程度のランニングコストがかかってしまうでしょう。
IPOを申請する流れをわかりやすく解説
IPOを申請するには、多くのステップをクリアしなければなりません。一般的に3〜4年ほど準備期間が必要であるため、全体の動きを把握してから計画を練ることが大切です。ここでは、IPOを申請する流れを4つの段階に分けて、企業目線でわかりやすく解説します。
また、IPOを申請する流れは以下の記事で詳しく解説しているので、気になる方はチェックしてみてはいかがでしょうか。
<関連記事>上場(IPO)準備の全体スケジュールと期間ごとの具体的な手順
申請の3~4年前の動き
申請の3~4年前の動きは以下のとおりです。
- 資本政策や事業計画の策定
- 監査法人の選定
- IPOコンサルタントの選定
- ショートレビュー
- 専門チームの立ち上げなど
IPO申請を進めるためには、資本政策や事業計画を見直して、業務基板をより強固にする必要があります。見直した内容がIPO申請する市場の方針に沿っているか把握するため、専門知識を有するIPOコンサルタントと契約を結んでおくとより万全を期して申請に望めるでしょう。
また、IPOの申請には2年間の監査証明が必要不可欠です。監査証明には監査法人に「監査報告書」の作成を依頼する必要があり、早い段階で依頼する監査法人の選定をしなければなりません。外部審査を受ける準備をスムーズに進めるためにも、社内で上場準備を主体となってチームを立ち上げておくことをおすすめします。
申請の2年前の動き
申請の2年前の動きは以下のとおりです。
- 外部審査
- 会計審査
- 内部統制報告制度(J-SOX)への対応
- コーポレートガバナンスの整備
- 取引先や役員の見直し
内部統制報告制度やコーポレートガバナンスは、健全な経営を実現するためにクリアしなければならない項目です。それぞれの項目の違いを明確にしてから、対策を講じることが必要です。
その後、外部審査を受けられるような体制を整えたら、監査法人による外部審査を開始します。監査法人からの調査報告をもとに課題をフィードバックしてもらい、課題を改善しつつ社内体制を強化することが大切です。
申請の1年前の動き
申請の1年前の動きは以下のとおりです。
- 株式事務代行機関や証券印刷会社の選定
- 定款の変更
- 申請書類の作成
外部審査と並行して、上場申請書類などIPOを申請するために必要な書類を準備します。必要な書類は上場する市場によって異なるので注意しましょう。
また、株券の発行や株主名簿の書換事務などを実施する株式事務代行機関や、開示資料の作成をサポートする証券印刷会社の選定も忘れずに実施しましょう。
申請時の動き
申請時の動きは以下のとおりです。
- 上場審査
- 有価証券届出書、目論見書などの作成
- 株式公開価格の決定
- 投資家向け広報活動
社内体制が万全になったら監査報告書を含めた申請書類を証券会社に提出し、上場申請を開始します。上場審査では形式要件と実質審査基準を満たしていなければならないため、多角的な視点から企業がチェックされます。上場審査をクリアしたら新規で株式を発行し、晴れて企業のIPO化が完了するのです。
IPO化が成功したら、上場後の売出しに備えて公開価格の検討や、投資家や株主に向けて透明性の高い情報を公開するステップをクリアしなければなりません。IPO化はあくまでも市場に上場するための、1つのステップに過ぎないので行動を止めないように注意が必要です。
IPOにかかる費用とは?
IPOをするのにかかる費用は以下のとおりです。
- 監査法人の調査費用:150万円~
- 監査費用:300万円~
- 上場審査料:100万円~
- 上場手数料:200万円~
- 年間手数料:60万円~
- 証券会社など引受手数料:公募価格×株式数×手数料率(5~7%)
- 証券会社コンサルティング費用:500万円~
- 有価証券届出書作成費用:100万円~
- その他上場コンサルタント費用:500万円~
- 株式事務代行費用:400万円~
合計すると2,400万円以上の費用が発生するので、自社の資金のリソースを確認しつつ、計画的な予算配分をすることが重要です。
IPO申請できるおすすめ株式市場
日本国内には複数の株式市場があるため、IPOを申請するにあたってどの市場にIPO申請するかを事前に決めておかなければなりません。特に中小企業の場合は、上場審査の条件をクリアできる市場が限られているので注意が必要です。
ここでは中小企業でもIPO申請が通りやすいおすすめ株式市場を4つ紹介します。
東京証券グロース市場
東京証券グロース市場は東京証券が運営している「高い成長可能性を有する企業向けの市場」で、ベンチャー・スタートアップ企業でも上場できる新興企業向けの市場です。上場審査基準で経営状態や財政状況が問われないので、事業規模が小さな企業でも成長する余地があると判断されればIPO申請が通る可能性があります。
名古屋証券ネクスト市場
名古屋証券ネクスト市場は地方証券取引所である名古屋証券が運営している、成長を目指す企業向けの市場です。着実な成長を重ねている企業が評価される傾向が強く、マイナーな事業範囲でも地道に業績を積み重ねていればIPO申請が通る可能性があります。
札幌証券アンビシャス市場
札幌証券アンビシャス市場は地方証券取引所である札幌証券が運営している、中小・中堅企業向けの市場です。名古屋証券ネクスト市場と同じく、着実な成長を重ねている企業が評価される傾向が強いことに加え、IPO申請するには事業拠点が北海道にある、または事業内容が北海道と何らかのつながりが必要です。
福岡証券取引所Q-Board
福岡証券取引所Q-Boardは地方証券取引所である福岡証券が運営している、九州周辺の地域経済の浮揚・発展を目的とした市場です。上場審査では過去の実績を考慮しないなど、将来の成長性に重点をおいている傾向が強いです。
しかし、対象の企業が九州周辺に本店を有する企業もしくは九州周辺における事業実績・計画を有する企業になっているので注意しましょう。
IPOの審査基準
IPOの審査基準は形式要件と実質審査基準の2種類があります。形式要件と実質審査基準は上場する市場によって内容が大きく異なるため、上場する市場を明確にし、内容をしっかりと確認することが大切です。
例えば、東京証券グロースの形式要件で確認される項目は以下のとおりです。
- 株主数:150人以上
- 流通株式数:1,000単位以上
- 流通時価総額:5億円以上
また、東京証券グロースの実質審査基準では「高い成長可能性」がキーワードになります。成長可能性を審査する項目は以下のとおりです。
- 事業内容やビジネス内容
- 市場規模や競合環境
- 展開している事業の競争力やリスク管理
- 経営指標とその内容を採用した過程
- 最新3年間程度の実績値と目標値
- 利益計画など
IPO成功に必要となる資本政策
資本政策とは自社の資本構成を計画的に設計・管理するための方針や戦略を指します。資本政策を実施すると、IPO申請によって引き起こされる買収のリスクを軽減できるなど、安定して経営につながるメリットを得られます。
資本政策の手法は主に以下のとおりです。
- 種類株式の発行
- 株主割当増資
- 第三者割当増資
- 従業員持株会
- ストックオプション
- 株式移動
- 株式分割
- 自己株式の取得
- 自己株式の処分(売却)
- 新株予約権付社債
ただし、株式移動や第三者割当増資など、株主の構成を変える資本政策は自社のみの対応では実現が難しいので、主幹事証券会社などに協力してもらうことを視野に入れる必要があるでしょう。
IPOを成功させた企業の5つの特徴
IPO申請は多くの項目に対応しなければいけないうえ、長い準備期間と多くの費用を要するので、成功させるハードルが高いといえるでしょう。スムーズにIPO申請を進めるには、IPO化に成功した企業の傾向を読み取り、計画や行動に反映させることが鍵になります。ここでは、IPOを成功させた企業の特徴を5つ解説します。
1.充実した内部管理体制およびコンプライアンス体制を早期構築している
どの市場にIPO申請をしたとしても、高いレベルの内部管理体制、コンプライアンス体制を求められます。求めるべき社内体制についてあまり明確なイメージがつかめない場合は、コンサルタントと契約を結んでアドバイスをもらうなど、早期からの対応が大切です。
2.好業績を維持している
IPO申請では事業の成長性も重要な観点になるので、好業績を維持し続けることが重要です。IPO申請や申請するための準備には多くの費用がかかるため、準備段階で事業の業績が悪くなってしまうと、ランニングコストに耐えられなくなってしまうでしょう。
3.明確なスケジュールを立ててIPO申請に臨んでいる
IPO申請の準備には膨大なステップをクリアする必要があり、一般的な企業の場合、準備に3年以上かかるなど、短期間で成功できるものではありません。事前に明確なスケジュールを立てて行動することが必要です。
明確なスケジュールを立てるためには、IPO申請に関する専門知識がないと難しいです。経験豊富なコンサルタントやサポート企業に相談することをおすすめします。
4.自社に合ったツールやコンサルタントを活用している
社内管理体制やコンプライアンス体制を効率よく強化するためには、自社に合ったツールやコンサルタントを利用することをおすすめします。効率の良い改善を心がけないと、体制を無理に変更して業績が低迷してしまう事態に陥ってしまうので注意が必要です。
5.近年の審査傾向を把握している
上場後の業績下方修正や不正事案が相次いでいることから、近年の上場審査では以下の項目を重点的に確認している傾向が強いです。
- コーポレート・ガバナンスの強化
- 内部統制体制の強化
- 情報開示の適正化
上記の項目は内部管理体制およびコンプライアンス体制の充実にもつながるので、社内管理体制を改善する際に意識してみると良いでしょう。
本当にIPOがベストな選択肢なのか?IPO以外の出口戦略
IPO申請を計画する前に、必ず「本当に自社の成長にとってIPO申請が必要なのか」を考えるようにしましょう。事業拡大に多額の資金調達をする必要性を感じられなかったり、経営者が現状の状態で満足していたりする場合は、IPO申請がベストな選択肢だとは限りません。
あえて非上場のまま企業を成長させる、M&Aによるキャピタルゲインを狙うなど戦略は複数あります。企業の方針や目的を明確にしてから手段を選ぶことをおすすめします。
【まとめ】IPO申請は事業拡大のきっかけになる
本記事ではIPOの基礎知識や申請の流れなどを、企業目線でIPOとは何かをわかりやすく解説しました。IPOは事業拡大に有効なメリットが大きい分、準備期間や費用のコストが重いといえるでしょう。
スムーズにIPO申請を進めるには、明確なスケジュールと上場に関する知識が必要になります。IPOを成功させて企業をより大きくしたいと考えている方は、まずは専門のコンサルタント、もしくはサポートしてくれる業者に相談してみてはいかがでしょうか。