アセットファイナンスとは
アセットファイナンスとは、企業が抱えるアセット、つまり保有資産を担保として資金調達を行う手法です。
企業によっては、現金はなくとも現金化が可能な、何らかの資産を有している場合があります。アセットファイナンスは、これらの資産を自ら売却するのではなく、金融機関に対して保有資産の信用力を担保することで、キャッシュフローを改善することが可能です。
簡単に言えば、金融機関に自らの資産を売ることで現金を手に入れる方法です。ただ、アセットファイナンスにおいて売却できる資産は、非常に多様なのもポイントと言えます。
アセットファイナンスで取り扱える資産の種類
アセットファイナンスでは、企業で保有しているあらゆるものを資産として担保にすることが可能です。主な資産として、以下の例が挙げられます。
- 動産
- 不動産
- 債権
- 知的財産権
動産とは商品在庫、パソコンといった、不動産以外の有形資産を指す言葉です。現金も動産の一部ですが、アセットファイナンスにおいてはこのような現金化されていないものを取り扱います。
不動産とは、ビルなどの物件や土地、工場内に設置されている機械設備です。製造業などを営んでいる場合は、これらを担保に入れるケースは少なくありません。
売掛債権を使った資金調達は、アセットファイナンスの中でも人気の高い手法として知られつつあります。これをファクタリングと呼びますが、後ほど詳しく解説します。
知的財産権も、アセットファイナンスにおいて現金化ができる資産です。保有する不動産が
乏しくとも、商標権や特許権、著作権など、多くのIPを有しているのであれば資金調達を行えます。
類似の資金調達方法との違い
アセットファイナンスと似たような資金調達方法として、以下の3つがあります。
- コーポレートファイナンス
- デットファイナンス
- エクイティファイナンス
これらの方法とアセットファイナンスにはどのような違いがあるのか、ここで確認しておきましょう。
コーポレートファイナンスとの違い
コーポレートファイナンスは、企業の信用力を担保に資金調達を行う方法です。その会社全体でどれくらいの信用力があるのかを査定の上で、借り入れを行います。
アセットファイナンスも、会社の資産を担保に入れて資金調達を行う方法です。ただ、アセットファイナンスの場合は会社全体の信用力ではなく、資産そのものの信用力を担保にするので、会社を丸ごと担保に入れる必要はありません。
デットファイナンスとの違い
デットファイナンスとは、いわゆる「借入金融」です。金融機関に対して融資の相談をして承諾が得られれば、返済を前提として融資を行います。資金調達の方法としては、最もポピュラーな手法と言えるでしょう。
対してアセットファイナンスは、資産を担保に、その信用力に応じた資金調達を行う方法です。
<関連記事>デットファイナンスとは?エクイティファイナンスとの違いや主な種類、メリットなどを解説
エクイティファイナンスとの違い
エクイティファイナンスとは、投資家に対して自社の株式を売却し、資金を調達する方法です。金融機関ではなく、投資家を探して資金調達を行う手法は近年ベンチャー企業などで広く採用されています。金融機関からの資金調達が難しい何らかの理由があったり、リスクの大きい事業を展開したりする場合に選ばれるのが特徴です。
アセットファイナンスは、資産の信用力を担保にします。そのため、投資家に対して株式を売却したり、事業内容や成長性に対して説明が求められたりするケースは基本的にありません。
アセットファイナンスの主な例
アセットファイナンスの手法としては、以下の4つの手法が広く採用されています。アセットファイナンスを検討している場合、以下の方法で実行可能かどうかを検討すると良いでしょう。
固定資産の売却
アセットファイナンスの中でもスタンダードな手法が、固定資産の売却です。自社の不動産、業務用の車両、工場設備などを担保にして、現金を調達します。
固定資産の売却による資金調達の強みは、有効活用できていない固定資産を現金化できる点です。また、固定資産の維持管理に伴うコストの発生も抑制できるなど、キャッシュフローの健全化において大きな効果が期待できます。
高い信用力こそあるものの、現在の自社の事業にとっては有用性が低いと判断した場合、固定資産の売却を検討しましょう。
ファクタリング(売掛債権活用)
上でも少し触れていたファクタリングとは、売掛債権の売却による現金化というアセットファイナンス手法です。売掛金の回収予定日の前に債券を用いて現金を作ることで、キャッシュフローの改善を目指します。
一般的に広く普及しているのは、掛払いと呼ばれる手法です。商品やサービスをクライアントに納品してから、その代金を後から支払ってもらいます。ただ、この方法では事業規模の小さい事業者の場合、経費支払いなどに入金が間に合わず、資金繰りに悪影響を及ぼす懸念もあります。
この問題を解決できるのが、ファクタリングです。ファクタリング事業者に売掛債権を売却することで、手元に現金を用意の上、資金繰りを円滑に行います。なお、ファクタリングの際には売却に伴う手数料の支払いが発生します。手数料率は売掛債権の信用力や、ファクタリング事業者によって変動するため、注意しておきましょう。
リースバック
リースバックとは、固定資産として売却した不動産物件において、賃貸契約を結ぶことにより物件を引き続き利用できるようにするための手法です。通常、売却した固定資産は現金と引き換えに手元を離れてしまいます。しかしリースバックの手法を採用することで、オフィスの移転などを迫られる心配がありません。
また、リースバックによって物件を使用する場合は物件を保有していたときのように、固定資産税や維持管理費用の支払いが発生しないのも特徴です。会社のスリム化を考えている場合、リースバックは都合の良い手法となるでしょう。
ただ、売却する資産に残債がある場合、売却額が十分な資金調達に繋がらないケースもあります。くわえてリースバックの際には賃料が継続して発生するため、そのコストが事業を圧迫しないかを見極めることも重要です。
売掛債権担保融資(ABL:Asset-Based Lending)
売掛債権担保融資とは、売掛債権を担保として金融機関から融資を受ける手法です。金融機関からの融資を受けるため、ABLはデットファイナンスの一種とも言えます(資産を活用しているという面ではアセットファイナンスであり、返済義務があるという面ではデットファイナンス)。
売掛債権の価値に応じた資金調達を行えることから、不動産を担保に入れなくとも利用ができるなど、利用難易度は低い手法です。売掛金の支払い前に資金調達ができるため、急場をしのぐという意味でも、ファクタリングと同等のメリットが期待できます。
ファクタリングほどのスピード感はないものの、手数料が低めに設定されているのは魅力的です。
アセットファイナンスのメリット
アセットファイナンスを選ぶことは、具体的にどのようなメリットが期待できるのでしょうか。ここでは主な利点を整理の上、解説します。
財務改善につながる
アセットファイナンスの過程で資産を売却することは、財務改善に繋がります。売却した資産はバランスシート(貸借対照表)から取り除かれ、計上の必要がなくなるからです。
計上資産が少なくなることで、総資産利益率は改善し、投資家や金融機関からの評価は高まります。
返済不要で利用できる
アセットファイナンスの強みは、現金の調達に際して返済の義務が発生しないことです。一般的なデットファイナンスの場合、金融機関に対して借入分とその利子の返済が求められます。
アセットファイナンスはこのような返済義務がないので、借金を抱えずに現金を得られるのがメリットです(前述したように、ABLには返済義務があります)。
スピーディに資金調達ができる
アセットファイナンスは、他の資金調達方法と比べて手っ取り早い資金調達方法です。金融機関から資金調達を行うのは、多くの手続きを踏む必要がありますし、審査の結果融資がおりないこともあります。投資家からの資金調達も、事業についての説明や信頼獲得に多くの時間を費やす必要があるため、長期的な取り組みが必要です。
一方、アセットファイナンスは手元の資産を売却するだけで現金を手に入れられるという、手間の少ない調達方法と言えます。何らかの理由ですぐに現金が欲しいという場合、魅力的な選択肢となるでしょう。
アセットファイナンスのデメリット
アセットファイナンスには、利用に際して注意すべきデメリットもあります。以下のリスクを最小限に抑えられるよう、制度や自社の状況への理解を深める必要があるでしょう。
期待通りの資金調達を行えない場合がある
アセットファイナンスは手元の資産を現金化する方法です。そのため資産の信用力によっては、期待しているような金額の資金調達に繋がらない可能性もあります。
資産価値が上下しやすい場合や、資産の信用度が低い場合には、雀の涙程度の現金化しかできません。そのため、抜本的な問題解決に繋がらないリスクも想定しておきましょう。
担保にした資産を失うおそれがある
担保にした資産は、当たり前ですが会社の資金繰りが悪化すると、金融機関から差し押さえを実行されることがあります。差し押さえられた資産は競売にかけられ、そのまま返済のための原資となってしまい、完全に手元から離れてしまうリスクです。
手数料負担が大きい場合がある
ファクタリングは不動産などを有していない企業でもアセットファイナンスによる資金調達ができる手法です。ただ、売掛債権のリスクが大きい、短期間での資金調達を必要としているなどの場合、その分手数料が上乗せされることがあります。手数料率が高いと、計画通りの資金繰りを行えなくなることがあります。
手数料率は事業者やタイミングによってさまざまであり、その都度割合を確認することが重要です。
アセットファイナンスに適した企業とは?
これらのメリット・デメリットを踏まえると、アセットファイナンスを実施すべき企業としては以下の条件に当てはまる組織が挙げられます。
価値の高い保有資産がある企業
高い信用力を有した保有資産を持っている企業は、アセットファイナンスに適しています。不動産などを豊富に持っており、事業に活かせておらず維持コストもかかる場合、積極的にアセットファイナンスによる現金の調達を検討しましょう。
資金調達を短期間で実現したい企業
ファクタリングのようなアプローチは、他の資金調達方法と比較しても短期間かつ確実に現金を得やすい手法です。資金繰りが悪化していたり、急を要する事態を迫られたりした場合には、アセットファイナンスを有効活用するべきでしょう。
厳しい審査に不安を覚える企業
金融機関からの融資が受けられない、あるいは何度審査にかけても落ちてしまうような事情がある場合、アセットファイナンスが有効です。アセットファイナンスは資産の信用力を頼りに資金調達を行えるので、他の調達方法に比べて審査が厳しくありません。
アセットファイナンス導入のポイント・注意点
アセットファイナンスの導入を考えている場合は、以下の2つのポイントを踏まえて、実施を検討することが重要です。
資産売却のタイミングを見極める
アセットファイナンスに際しては、資産の売却時期が重要な意味を持ちます。特に不動産は市場の動向によって、得られる売却益に大きな差が生まれやすいからです。
資産売却のタイミングを誤ると、期待しているほどの現金化に繋がらず、損をすることもあります。短期間で資金を調達できる手法とはいえ、計画的に資産を売却できるよう余裕を持つことが大切です。
手数料を踏まえて利用を検討する
ファクタリングを実施する際には、事業者選びなどによって大きく手数料率が異なります。少額の資金調達であればそこまで気になるものではありませんが、金額が大きくなるほど、手数料率が持つ意味は大きくなるものです。
少しでも手数料の安いファクタリング事業者を選ぶことが大切ですが、手数料率が低いと現金化に時間がかかるなどのリスクもあります。手数料と期待できるファクタリングサービスを天秤にかけて、資金調達を行いましょう。
アセットファイナンスについて解説しました
この記事では、アセットファイナンスとはどのような資金調達の手法なのか、他のアプローチや具体的なメリットに触れながら紹介しました。アセットファイナンスはスピーディな現金調達に強みを持つ手法であり、資産そのものの信用力に依存するのでどんな会社でも利用しやすい資金調達手段です。
ただ、利用に際しては手数料の問題や、担保とした資産が戻ってこなくなるリスクもあります。制度への理解を深め、自社が抱えるリスクを踏まえた資金調達を実施できるよう備えましょう。