バイアウトとは
バイアウトとは、主に経営者や従業員が自社株を買収し経営権を得ることです。経営が悪化している時は迅速な判断が必要になりますが、投資家が株を握っている場合は難しいでしょう。バイアウトして経営権を握っていれば、株主の意向を気にせずに事業が進められるので経営改善につながります。
その他にも、バイアウトが効果的な場面は多いです。
- 競合から買収されそうな時にバイアウトすることで会社存続につなげる
- 経営が悪化し資金調達に困っている場合の資金調達
- 親会社から独立するためにバイアウトする
- 非上場株式に切り替えるためにバイアウトする
- 最終的にイグジッド(会社売却)をして利益を得るためにバイアウトする
会社の運営状況に応じて、バイアウトを検討しましょう。
M&Aやイグジット(会社売却)との違い
バイアウトと似たものには、M&Aやイグジッドがあります。
バイアウトとM&Aの大きな違いは、買い手です。バイアウトは自社株を自社の経営者や従業員が買収して経営権の獲得を目指すことを指します。それに対し、M&Aは事業発展や収益向上のために他社が自社株を買収することです。M&Aを行うと自社の決定権は他社に移ってしまうので、バイアウトとは大きく異なります。
イグジットは、会社を設立した際に行った投資金額を回収する目的で行います。イグジットのためにバイアウトを利用するケースもあるようですが、目的が異なるので完全に同一ではありません。
日本でバイアウトが増えている理由
日本でバイアウトが増えている理由は、バイアウトを利用することで企業の収益拡大につながるとわかったからです。日本では上場企業のネームバリューが強い一方で、株主の意向に左右され経営がスムーズに行われていない企業が多く見られます。
自社戦略特化、子会社の独立などポジティブな運用後、収益拡大が見られたためバイアウトへの意識が高まりました。
バイアウトの4つの手法とは
バイアウトには以下の手法があります。
- MBO(マネジメント・バイアウト)
- EBO(エンプロイー・バイアウト)
- LBO(レバレッジド・バイアウト)
- MEBO(マネジメント・エンプロイー・バイアウト)
それぞれの手法の特徴と目的、メリットデメリットを解説します。
MBO(マネジメント・バイアウト)
マネジメント・バイアウト(MBO)は、自社の経営陣が資金調達してバイアウトする手法です。自社株をすべて経営陣が獲得するため、会社の経営権を得られます。
MBOを行う目的には、以下のようなものがあります。
- 経営悪化を改善するための抜本的な施策
- 経営権を得てスムーズな経営判断を行う
- 敵対的買収から自社を守る
経営が悪化していると迅速な経営判断が必要になります。また、投資家に株式を握られていると株主の意見を取り入れなければいけません。MBOを行い、経営権を経営陣が獲得できれば、新規事業の取り入れや悪化した事業の対策がスムーズになります。
また、敵対的買収が行われている際に自社を守る手法としても利用されます。
メリットとデメリット
MBOのメリット・デメリットは、以下の通りです。
メリット
- 経営陣が株式を買収するため、経営判断がスムーズになる
- 外部株主の影響を受けずに、中長期的な運営ができる
- 経営陣が変わらないので社員や従業員の同意を得やすい
デメリット
- バイアウトするための資金繰りのハードルが高い
- 株式が非公開になるので、上場廃止しなければならない
- 株式が非公開になると資金調達が困難になる
- 客観的な視点がないため、独りよがりな運営になる可能性がある
経営陣がバイアウトすることで経営が円滑に行えるでしょう。しかし、バイアウトするための資金繰りが大変であったり、上場企業は上場廃止しなければいけないというデメリットがあります。
EBO(エンプロイー・バイアウト)
エンプロイー・バイアウト(EBO)とは、従業員が資金調達してバイアウトを行う手法です。後継者がいない場合でも、信頼できる従業員に後継を任せることができます。経営を継続することを前提に行われるバイアウトなので、従業員からの同意を得られやすいです。
EBOを行う目的には、以下のようなものがあります。
- 後継者へ会社の経営権をスムーズに譲渡する
- 新しい事業のために会社を一新する
従業員へ経営権を渡すためや、経営方針を新しくする目的にEBOを利用することが多いです。
メリットとデメリット
EBOのメリット・デメリットは、以下の通りです。
メリット
- 従業員がバイアウトするため、社内の賛同が得られやすい
- EBOをしても従業員の待遇が変わりにくい
- 後継者問題を解決でき、経営陣も信頼した人に譲渡できる
- 後継者が変わり、事業再生や経営を刷新できる
デメリット
- 従業員はEBOに必要な資金調達が難しい
- 金融機関やファンドを利用しても、個人のため審査が下りにくい
- 会社の体質が変わらず、経営悪化してしまうことがある
従業員がバイアウトするので、経営や事業運営のノウハウを持っている人に会社が引き継がれます。そのため、会社運営や従業員の待遇が変わりにくく、社内の同意を得られやすいでしょう。
その反面、従業員がバイアウトに必要な資金調達をしなければいけなく、個人の融資は審査が厳しいというデメリットもあります。
LBO(レバレッジド・バイアウト)
レバレッジド・バイアウト(LBO)とは、M&Aの一種です。買い手企業が株を買収して会社経営権を得る目的で、経営者は社外の人間となるのが特徴。買い手企業は資金調達の必要がありますが、譲渡企業の資金や収入を差し引いた金額でいいため、資金調達は非常に簡単です。
LBOを行う目的には、以下のようなものがあります。
- 少ない資金調達で利益を得られる
- 今後の事業が発展の見込みがあるなら、レバレッジド・バイアウトの支援を受けられやすい
譲渡する会社の資産価値や今後の事業の収益を担保に資金調達ができるため、少ない資金調達で利益を得られるのがLBOです。
メリットとデメリット
LBOのメリット・デメリットは、以下の通りです。
メリット
- 少ない費用でバイアウトができる
- 買い手企業は利子が少なく買収できる
デメリット
- 借入の際の金利が高い
- 価値の低い企業は買い手が付きにくい
LBOをする際の資金調達の金利は非常に高額になってしまい、買収後の企業の収益拡大しなければ損をするリスクがあります。
MEBO(マネジメント・エンプロイー・バイアウト)
マネジメント・エンプロイー・バイアウト(MEBO)は、経営陣と従業員が協力してバイアウトする方法です。経営権は経営陣が握ることができ、従業員を後継に選ぶことも可能。MBOとEBOのメリットを合わせた手法です。
MEBOを行う目的には、以下のようなものがあります。
- 株主の意向を気にせず、自社で経営判断できる
- 経営陣と従業員で資金調達を分けられるので、出資負担を減らしてバイアウトできる
経営陣と従業員がバイアウトするため、自社で経営権を得られます。
メリットとデメリット
MEBOのメリット・デメリットは、以下の通りです。
メリット
- 経営権は自社の経営陣が握れる
- スムーズな経営判断が可能
- 経営陣だけでなく、従業員も出資できるので出資負担が少ない
デメリット
- 現実的ではない
- MEBOが成功してもシナジーは期待できない
経営陣と従業員が出資しあって会社を守れるのがMEBOですが、実現のハードルは高いです。また、経営陣と従業員が一緒に経営権を握ることで、従来の経営が継続されてしまってシナジー効果は得られにくいというデメリットがあります。
バイアウトの手続きの流れ
バイアウトを行う際、特別目的会社(Special Purpose Company)通称SPCを設立する必要があります。SPCは実体のない会社のことで、SPCが自社を買収し子会社化することでバイアウトするというのが一般的です。
細かい流れは、バイアウトの手法によって異なるので詳しく解説します。
MBO(マネジメント・バイアウト)の手続きの流れ
MBOの手続きの流れは、以下の通りです。
- SPCを設立する
- SPCが自社をMBOできるような資金調達を行う
- SPCがMBO企業の株式を購入する
- MBO企業の子会社化をする
- SPCとMBOを合併させる
SPCという実体のない会社を設立して、資金調達を行います。資金調達ができたらMBO企業の株式をすべて購入します。自社だけで株式を保有して経営権を手に入れるのが、主な流れです。
EBO(エンプロイー・バイアウト)の手続きの流れ
EBOの手続きの流れは、以下の通りです。
- SPCを設立する
- SPCが自社をEBOできるような資金調達を行う
- SPCがEBO企業の株式を購入する
- EBO企業の子会社化をする
- SPCとEBOを合併させる
EBOの手法はMBOとほぼ同じです。SPCを設立して株式の3分の2を取得できるくらいの資金調達を行い、SPCと子会社化してからEBOを合併させます。
LBO(レバレッジド・バイアウト)の手続きの流れ
LBOの手続きの流れは、以下の通りです。
- 買い手企業がSPCを設立する
- LBO企業の資産価値を調べる
- 資金調達を行い、買収する
- SPCとLBOを合併する
- 借金を返済する
SPCを設立してから、LBO企業の資産価値を調べる必要があります。資産価値を担保に株式を買収できる資金を融資してもらう必要があるため、最終的に返済が残るのを覚えておきましょう。
MEBO(マネジメント・エンプロイー・バイアウト)の手続きの流れ
MEBOの手続きの流れは、以下の通りです。
- SPCを設立する
- SPCが自社をMEBOできるような資金調達を行う
- SPCがMEBO企業の株式を購入する
- MEBO企業を子会社にする
- SPCとMEBOを合併させる
経営陣と従業員によって資金調達をする必要があります。一人一人の資金負担は少ないですが、100%子会社化できる資金が必要です。
バイアウトを成功させるポイント
ここでは、バイアウトを成功させるポイントを4つ解説します。
- 会社の価値を正しく把握する
- バイアウトを想定した経営を行う
- バイアウトファンドを検討する
- M&A専門家に相談する
それぞれのポイントを押さえて適切なバイアウトができるようにしましょう。
会社の価値を正しく把握する
バイアウトする際、株式の価格の設定などは会社の価値を元にして決定する必要があります。安すぎると現在の投資家からの反発にあってしまいますし、高すぎると資金調達に苦戦してしまうのです。
現状の売り上げや資産価値を正しく把握することで、バイアウトをより効率よく行えるようになります。
バイアウトを想定した経営を行う
起業したときからバイアウトを想定して経営を行うことで、会社の資産価値が上がります。やめるときやゴールが決まっている方が、経営も効率的に進めやすいです。売上が上がっている、収益が上向きである状況でバイアウトを行う方が、資金調達も有利に進められるでしょう。
バイアウトファンドを検討する
投資家が業績不振の企業に投資をして、その資産で経営を回復させた企業を売却して利益を得ることをバイアウトファンドといいます。現状の経営悪化を回復させる動きができること、最終的には会社の価値が上がるので利益を生むというものです。
自社の後継者がいない場合に選ばれるもので、バイアウトファンドを行うことで知識のある人が派遣されることもあります。自社の経営が悪化している場合には、バイアウトファンドやM&Aを検討するのもよいでしょう。
M&A専門家に相談する
バイアウトを考えている場合、M&A専門家に相談しましょう。M&A仲介会社は、バイアウトや会社売却に対する知識が豊富なので、資金調達などで適切なアドバイスをもらえます。
バイアウトは会社の価値が高まっているときの方がよいため、利益につながるアドバイスをもらえるでしょう。
バイアウトが適したタイミング
バイアウトには適したタイミングが3つあります。
- 会社が成長中
- 自社だけでなく外部環境が良い
- 経営者が健康である
利益を得るためにはタイミングは非常に重要です。適したタイミングは3つあるので、ぜひ参考に知ってみてください。
会社が成長中
会社が成長中であれば会社の価値が高まります。LBOの際の投資金額が高くなるため、バイアウトに向いています。
自社だけでなく外部環境が良い
自社の価値が低くても、業界の景気が良くなっているときはバイアウトにおすすめです。外部環境の影響を受け、会社の価値が高くなるためです。
経営者が健康である
経営を引き継ぐ場合、「誰に引き継ぐか」「今後どんな運営をするべきか」を判断する必要があります。EBOのようにバイアウトを使って経営者を変更する場合、手続きが複雑なので経営者が健康であるうちにやっておくべきです。
バイアウトをする際の注意点
バイアウトをする際には3つの注意点があります。
- 従業員や役員の理解を得る
- 株式の保有者を検討する
- 買収側の要望はよく検討する
バイアウトをする前に、これらの注意点を確認しましょう。
従業員や役員の理解を得る
バイアウトをする際、基本的には従業員や役員の待遇は変わらず、今まで通りの運営ができるでしょう。
しかし、稀に待遇が変わってしまって従業員から反発されることもあるので注意が必要です。特にLBOの場合は経営権が自社ではない人に渡るため、事前の対話で待遇が変わらないように相談しておきましょう。
株式の保有者を検討する
バイアウトをする際、子会社化することが基本。100%の株式を経営陣や従業員が所有するわけですが、株式の所有割合によって決定権が異なります。
誰がどのくらい株を持つのかについて、事前に決めておくことが大切です。
買い手企業の要望はよく検討する
LBOなどの買収側が他社の人の場合、買い手側から事業に関する要望や、サービスに対する要望を求められることがあります。買い手側の顔色をうかがって要望をすべて受け入れるのではなく、実現できるラインをよく考えて対応しましょう。
バイアウトのリスクに対する対策
バイアウトにはさまざまなリスクが伴います。ここではバイアウトによっておこるリスクとその対策についてまとめました。
株式の譲渡割合によって、会社の権限に影響が出ることがある
- 現在の経営陣が株式の過半数以上を保有し、運営に影響が出ないように事前に交渉する
役員や従業員の待遇が変わってしまうことがある
- 待遇が変わらないように交渉を行っておく
- 役員や従業員に丁寧に説明し、理解を得てからバイアウトする
買収側に無理な要望をされることがある
- 企業価値を高めてからバイアウトすることで、不利な条件での売却を避けられる
- 買収側との対話を繰り返し、要望と実現可能な点の落としどころを決める
- 言いなりになるのではなく、お互いに納得ができる点を探す
事前に対話をしておくことで防げるものもあるので、バイアウトを行う際にはリスクの低減に務めましょう。
バイアウトの事例
ここでは、実際にバイアウトした事例を3つ紹介します。
- バイアウトの成功事例:①株式会社すかいらーくホールディングス
- バイアウトの成功事例:②昭和電工株式会社のLBO
- バイアウトの失敗事例:東栄リーファーライン株式会社
それぞれの事例を把握し、実際のバイアウトで活かせるようにしましょう。
バイアウトの成功事例:①株式会社すかいらーくホールディングス
すかいらーくは外食産業の大手企業ですが、一時期経営悪化に悩まされていました。そこで、思い切ってMBOを実施。バイアウトにかかった費用は2700億円となってしまいましたが、経営陣が経営を管理できるようになったため経営は上向きに。今までとは違う抜本的な改革ができたようです。
MBOをしたときは、上場廃止となってしまいましたが、現在は再度上場するまでに回復しました。
バイアウトの成功事例:②昭和電工株式会社のLBO
昭和電工株式会社は、エレクトロニクス部門の事業を子会社化し、日立化成株式会社へLBOを行いました。現在は日立化成株式会社の一部として、収益を上げながら運営が続いています。
バイアウトの失敗事例:東栄リーファーライン株式会社
東栄リーファーラインはSPCである「株式会社オーシャン」を設立し、MBOを行おうとしました。しかし、1株600円で株式の公開買い付けを行いましたが、大株主からの同意を得られずに失敗に終わってしまったのです。
MBOを行う際は現在の株主が納得できる金額で行う必要があります。自社の価値を理解したうえで公開買い付けに乗り出しましょう。
メリット・デメリットを理解してバイアウトを検討しよう
バイアウトは会社の経営権を得るための手法として、日本で増加している経営判断です。事業再生や収益拡大に効果があることが確認されているので、メリット・デメリットを理解した上で検討してみてください。