資本政策とは?
資本政策とは株主構成や資本の種類・割合を計画的に管理し、資金調達・株式分配・企業成長の段階に応じた戦略を講じることを指します。そのため、資本政策の方法は多種多様であり、目的に応じた方法を行使することが大切です。
資金調達と似た概念を持っていますが、資金調達は市場で株式を購入してもらい投資家から資金を獲得する、もしくは銀行から資金の借り入れをする行為のことを指します。よって資金調達は、資本政策より手段の幅が狭い意味合いで使用されることが多いです。
資本政策の3要素
資本政策は主に資金調達・持株比率・キャピタルゲインの3つで構成されています。それぞれの大まかな意味合いは以下のとおりです。
- 資金調達:外部から資金を確保すること
- 持株比率:自社の株式の全体から特定の投資家がどのくらい株式を保有しているかの割合
- キャピタルゲイン:株主が株式を売却して得られる利益のこと
資本政策を成功させるには、上記の3要素のバランスを意識することが重要です。
資本政策の目的
資本政策の目的は会社の経営状態や事業の方針によって大きく異なります。目的によって資本政策の手段も変わってくるため、目的の設定は成功するうえで欠かせない要素になるといえるでしょう。
ここでは資本政策の目的を4つ解説します。企業が抱えている課題にも直結するものが多いので、素早く行動を開始するためにも事前に把握しておくと良いでしょう。
資金調達のため
事業を拡大するうえで、事前に部署や設備に資金を投入しなければならないシチュエーションも珍しくありません。市場のニーズはすぐに変化するので、資金を確保する時間を短期間で設定しなければならない場合も多いでしょう。
資本政策は負債を抱えずに短期間で資金調達できる手段であるため、新規事業を開始する前に資本政策を実施する企業は多くあります。
株主構成の管理のため
経営を安定化させるには株主構成をバランスよく調整することが大切です。特定の投資家に株式を与えすぎてしまうと、その株主の発言権が大きくなる、またはすぐに売却されてしまい安定した資金調達ができなくなってしまう恐れがあります。
資本政策を実施すると特定の株主に株式が集中することを防げるので、安定した経営バランスを保ちやすくなるメリットが期待できます。
従業員のモチベーション維持のため
資本政策のなかにはストックオプションや社員持株会など、社員のインセンティブを付与できる手段もあります。社員にインセンティブが付与される仕組みが整理されていると、会社の業績が好調なほど自分に利益が返ってくるので、社員のモチベーションアップに有効です。社員のモチベーションアップは業務の効率化にもつながるため、社内で好循環が生まれるきっかけにもつながります。
M&AやIPO・上場申請の準備のため
M&AやIPOを実施するためには、健全な社内管理体制と好調な業績が必要不可欠です。資本政策を準備期間で実施することで、株式構成のバランスを調整でき、長期的な経営が可能になる基盤を整えられます。
なお、上場申請のイメージがつかめていない場合は、以下の記事に詳細を解説しているので確認してみてはいかがでしょうか。
<関連記事>上場(IPO)準備の全体スケジュールと期間ごとの具体的な手順
資本政策の方法10選
資本政策の方法は多岐にわたり、企業の目的や課題によって適している方法が異なります。目的にそぐわない方法を選んでしまうと、経営バランスを大きく崩す要因になりかねないので、資本政策の方法を多く知っておけば、どの方法が自社によって利益が出やすいか比較できるでしょう。ここでは、資本政策の方法を10種類解説します。
1.種類株式の発行
通常の普通株式とは異なる特別な権利や条件を持つ種類株式を発行することで、株主構成のバランスを整えたり資金調達をしやすくする方法のことを指します。株式によって権利の内容を変えられるので、株主構成のパワーバランスをうまく変えたい時に有効です。
主な種類株式の例は以下のとおりです。
- 配当優先株式:普通株式よりも優先的に配当を受け取る権利を持つ
- 残余財産分配優先株式:会社が解散する際、普通株式よりも優先して残余財産を分配される権利を持つ
- 拒否権付株式:特定の重要事項について、株主総会や取締役会で拒否権を行使できる権利を持つ
- 議決権制限株式:特定の議案について議決権を制限されてしまう特性を持つ
- 取得請求権付株式:株主が会社に対して株式を買い取るよう請求できる権利を持つ
- 取得条項付株式:会社側が特定の条件で株式を買い戻せる権利を持つ
2.株主割当増資
新規で株式を発行する際に既存株主の持株比率に応じて、新規の株式を購入する優先度を付与する方法のことを指します。購入の優先度が持株比率に準ずるため、既存株主が経営権をそのまま維持しながら、企業が資金調達できる強みがあります。ただし、既存株主に販売が限定されることから、多額の資金調達が難しい傾向が強いです。
3.第三者割当増資
新規で株式を発行する際に、既存株主以外の特定の個人や法人など特定の第三者に対して、新規の株式を購入する権利を付与する方法のことを指します。取引先や従業員の関係者に権利を付与することで、ビジネス上の関係を強化できるほか、大きな金額の資金調達がしやすいメリットがあります。ただし、過度な第三者割当増資は株価の下落につながるので注意しましょう。
4.従業員持株会
従業員持株会は社員が共同でその会社の株式を購入・保有するための制度や組織を指します。社員は給与から天引きで株式を購入し、株価上昇や配当でより多くの利益を獲得するシステムです。
企業にとっては従業員が株主になることで、長期で株主を継続してくれる安定株主を増やせるメリットがあります。一方で社員は事業の業績が伸びれば配当金額も上昇できるので、モチベーションを向上させるきっかけにつながります。
5.ストックオプション
会社が役員や社員に対して、あらかじめ決められた価格で自社の株式を一定期間内に購入できる権利を付与する方法のことを指します。ストックオプションを行使できる条件をうまく設定すれば、社員のモチベーションをうまく上げられるでしょう。また、従業員持株会と違い、権利を付与した時点では社員に資金が発生しない点も独自の強みだといえます。
6.株式移動
株主が保有する株式の所有権を、他の個人や法人に移転する方法のことを指します。経営権の調整や新規株主の参加など、企業によって目的が大きく異なります。株式移動をする際には、譲渡所得課税や贈与税など税金が発生するので注意しましょう。
7.株式分割
既存の1株を複数の株に分割することで、株式の発行済み総数を増加させる方法のことを指します。複数の株に分けることで株価が下がるので、新規の投資家を呼びやすくなるメリットがあります。しかし、株式分割で株を増やしても、時価総額や株主の持ち分割合は変わらない点には注意が必要です。
8.自己株式の取得
会社が市場や既存株主から自社の株式を買い戻す行為を指します。取得された自己株式は会社が保有するものであり、配当や議決権がなくなります。その性質を活かし、経営権の安定化や株主の価値を上昇させる手段として実施する場合が多いです。ただし、自己株式の取得は資本の払い戻しに含まれるので、株主総会で決議が必要など制限を設けられている点には注意しましょう。
9.自己株式の処分(売却)
会社が保有している自己株式を、市場や特定の第三者に売却・譲渡する行為を指します。他の資本政策よりもかんたんに資金調達が可能な強みがあります。ただし、既存株主の持株比率を低下させてしまうため、過度に売却してしまうと株主のパワーバランスが崩れてしまう事態になりかねません。企業が市場に上場している場合は、株価が下落する原因にもなるので慎重に行動することをおすすめします。
10.新株予約権付社債
企業が設定した期間・条件下で新株を購入できる権利が付与されている社債です。社債とは企業が資金を調達するために発行する借用証書です。投資家は社債を購入することで投資家の資金を借り入れることが可能になり、企業は資金調達が可能になるシステムになります。
新株予約権付社債は新株の予約権が付いている分、通常の社債よりも利息が軽減できるので、まだ社会的信用力のない中小企業でも活用しやすい方法だといえるでしょう。
資本政策を実施するタイミング
資本政策を実施する有効なタイミングとしては、「株価が上がる前」と「直前々期に入る前」が挙げられます。
特に株価に関しては一度上昇してしまうと、その後に下げることが基本的にできなくなってしまいます。新たな市場に上場する前に、予期せぬ形で株価が上昇してしまうと、想定していた流動性や資金の獲得が難しくなってしまう可能性が高いです。理想の株価で上昇するためにも、資本政策を用いて計画的に資本をコントロールすることをおすすめします。
資本政策を実施する6つのステップ
効果的な資本政策を実施するには、入念な準備と成果の見直しが重要です。ある程度成果を予測せずに資本政策を実施してしまうと、メリットをうまく企業に反映できなくなるだけでなく、最悪の場合には経営状態が悪化してしまう事態に陥るでしょう。ここでは、効果的な資本政策を実施するために、クリアすべきステップを6つに分けて解説します。
1.課題の洗い出し
効果的な資本政策を実施するには、企業が抱えている課題を確認しなければなりません。監査法人や公認会計士に収支計算書、予想貸借対照表、予想キャッシュフロー計算書を作成してもらい、抱えている課題を明確にしましょう。また、持株比率も確認してどのような資本政策の手段が取れるか大まかに把握しておくと良いでしょう。
2.目標設定
課題解決をするうえでどのような目標値が必要か明確にし、手段を決める前に決定しましょう。手段と目的を反対の順番で決めてしまうと、資本政策によるメリットを得ることが難しくなってしまうので注意が必要です。また、株式を発行する数や必要な資金額を設定した際には、必ずいつまでに達成するか期限を設けるように心がけましょう。
3.シミュレーション
目標値や資金調達額をエクセルやインターネットの資本構成予測のフォーマットに入力して、持株比率にどの程度の変化が起きるかシミュレーションをしましょう。特定の投資家が株式を保有してしまうと、経営が大きく変わってしまう恐れがあります。
資金調達・持株比率・キャピタルゲインの項目をチェックして、安定したバランスになっているか確認しておくことで、資本政策が失敗するリスクを軽減できます。
4.方法の策定
シミュレーションの数値をもとに資本政策の方法を決定します。株式の移動や第三者割当増資などは、主幹事証券会社の協力が必要不可欠になります。スムーズに資本政策を実施するためにも、事前にコンタクトを取っておくと良いでしょう。
5.資本政策を実施
方法を策定したらシミュレーションをもう一度して、問題がなかったら資本政策を実施します。
6.成果の見直し
資本政策を長期間で実施する際には、市場や経営方針の変化でシミュレーション結果と差異が出ていないか、適時確認することが大切です。あくまでも計画時は従来の経営方針で、シミュレーションを実施しているので、事業や株主の変化によっては最適な方法ではない可能性も少なくありません。計画通りに資本政策を進めることはもちろん大切ですが、あくまでも目標達成のための行動であることを意識して、臨機応変に対応するように心がけましょう。
資本政策を成功させる3つのポイント
資本政策は失敗してしまうと経営に大ダメージを与えてしまうので、準備段階からなるべく成功率を上げるような行動を試みなければなりません。ここでは、資本政策を成功させるポイントを3つ解説します。企業の規模に関係なく実践できるポイントをピックアップしたので、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
1.事業規模に合わせて柔軟に計画する
事業規模によって必要な資金額や株式を所持している投資家のニーズが異なります。誤ったスケール感で資本政策を実施してしまうと、資金調達や持株比率のバランス調整に失敗するリスクも高まります。適切な方法を選択するためにも、資本政策を計画する際には自社の規模感や投資家の傾向をしっかりと分析して、柔軟に計画へ反映させるように意識しましょう。
2.投資家との信頼関係を構築しておく
資本政策は自社の株式構成を変える戦略であり、投資家との信頼関係が重要になります。投資家は企業を成長させるために必要なパートナーとなる存在です。投資家の意見をないがしろにした資本政策は、既存株主が多く離れてしまう原因にもなり得るので、資本政策を実施する前に投資家に十分な説明をしておくように心がけましょう。
3.目的を明確な数値で設定しておく
資本政策で達成したい目標値は必ず明確な数値で設定しておきましょう。明確な数値を設定していないと、将来的にかかるコストや利益を算出することが困難になってしまいます。また、投資資金の割合や発行する株式数も算出して、キャピタルゲインや資金調達額の変化を見積もっておくと良いでしょう。
資本政策の失敗パターン5選
資本政策の失敗パターンを事前に把握することで、計画段階で選択した方法や設定した目標値の誤りに気付き、失敗してしまうリスクを抑えられるようになります。ここでは、資本政策でよく引き起こされる失敗パターンを5つ解説します。少しでも資本政策の成功率を上げたい方は参考にしてみると良いでしょう。
1.持株比率の設定ミス
持株比率を均一にしてしまうと、経営者側に退職者が出た場合、直接経営に関わらない人たちの持株比率が高くなりすぎてしまう事態が発生してしまいます。経営の主導権を意図しない人に握られないようにしないためにも、役割に応じて持株比率に差をつけるような株式構成を心がけると良いでしょう。
2.企業価値を見誤ってしまう
企業の規模に合わない株価にしてしまうと。将来的な増資を見込むことが難しくなってしまったり、発行する株式数が足りなくなったりする事態に陥ってしまいます。資本政策を実施する前には、自社の企業の規模を把握しておくことはもちろんのこと、同規模の企業が発行している株式を確認することも大切です。
3.持株比率の変化による経営の悪化
外部の株主に持株比率が偏ってしまうと、経営が悪化する原因にもなってしまいます。外部株主に経営方針の決定スピードが遅くなることは、事業全体のスピード感にも大きく影響します。さらに、投資家と足並みが合わないと株式をコントロールする資本政策も、決議で却下されてしまう事態につながるので注意しましょう。
4.ストック・オプションの設定ミス
ストック・オプションの条件設定が適切でないと、IPO申請が通った後に主力になっていた役員や社員が大勢辞めていってしまう事態が引き起こされます。購入できる期限を定めて、IPO化してもすぐに行使できないようにするなど、あくまでも経営に影響が出ないような条件付けが大切です。
5.発行した株式が少なすぎる
発行した株式が少なすぎると、キャピタルゲインや持株比率の調整がうまくできない場合もあります。株式分割などを利用して株式をあとから増やす方法もありますが、どうしてもラグが生まれてしまうため、経営悪化を事前に食い止められない事態になってしまうことも少なくありません。
【まとめ】リスクマネジメントや事業拡大に資本政策を活用しよう!
本記事では資本政策の目的や実施方法など、資本政策に関する情報を解説しました。資本政策は将来的な事業発展のための道しるべとなる重要な戦略です。うまく活用できれば企業の経営を正常にコントロールできるようになりますが、失敗してしまうと経営が悪化してしまうきっかけにもなり得ます。
資本政策を成功させるためには、事前にリスクマネジメントを予測しておく、事業の規模にあった方法を選定することが大切です。