コーポレートガバナンス・コードとは上場企業に求められる行動原則
コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業に求められる行動原則です。2015年6月に適用が開始され、何度かの改定を経て、いまの形式となりました。
広範囲にわたるステークホルダーと適切に協働し、実効的な経営戦略の下で中長期的な収益力の改善を図ることが求められています。
まずは、コーポレートガバナンス・コード制定の背景や特徴を見ていきましょう。
参考:日本取引所グループ スチュワードシップ・コード再改訂のポイント
コーポレートガバナンスとは
コーポレートガバナンスは株主や顧客、従業員、地域社会等の立場を踏まえ、透明で公正性の高い意思決定を、迅速に行うための仕組みです。1980年代に米国で設けられた、経営者が株主利益の最大化のために企業運営をしているかを監視する仕組みから始まりました。
コーポレートガバナンスは各企業が公表する有価証券報告書等から読み取れ、投資家やアナリストが確認する情報のひとつとしても重要視されます。
なおコーポレートガバナンス・コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現のための原則がまとめられたものです。
参考:日本公認会計士協会 コーポレート・ガバナンス(企業統治)
参考:金融庁 コーポレートガバナンス・コード
コーポレートガバナンス・コード制定の背景
コーポレートガバナンス・コードは、法制度の整備や機関投資家の行動原則の確立など、包括的な企業統治改革の一環として制定されました。制定の背景には、企業統治の強化に向けたさまざまな取り組みがあります。
2013年6月には機関投資家の責任ある行動を促す「日本版スチュワードシップ・コード」が策定されました。また同時期に、社外取締役に関する規定を含む会社法改正も行われ、企業統治の法的基盤が整備されています。
さらに企業の収益性や経営の質を重視した新しい株価指数「JPX日経インデックス400」が導入され、企業の経営改革を促す仕組みも整えられました。
こうした流れを受け、2014年6月の「日本再興戦略改訂版」にて、東京証券取引所と金融庁が共同でコーポレートガバナンス・コードの策定が決定されたのです。
参考:金融庁 コーポレートガバナンス・コード原案
コーポレートガバナンス・コードの特徴
コーポレートガバナンス・コードは、「プリンシプルベース・アプローチ」と「コンプライ・オア・エクスプレイン」の2つが採用されていることが大きな特徴です。
プリンシプルベース・アプローチ
具体的で明確な規範である「ルール」に対し、「プリンシプル(準則・原則)」は解釈の幅の大きい抽象的な規範です。
例えば「教室は清潔に保つべき」というプリンシプルに基づいて、「当番が掃除をする」といったルールが設定されます。この場合「清潔かどうか」には明確な判断基準はありませんが、「当番は掃除をしたか」は、違反かどうかが客観的に定められます。
コンプライ・オア・エクスプレイン
「原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するか」を求める手法です。原則を、一律の義務としては扱わないところに特徴があります。
いずれもスチュワードシップ・コードで、すでに採用されている手法です。
参考:日本取引所グループ プリンシプル・ベース規制の意義と課題
参考:金融庁 コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方
スチュワードシップ・コードとの違いは?
スチュワードシップ・コードとは、機関投資家に対して企業が対話を行い、持続的成長を促すことを求める行動原則です。ただし機関投資家がコードを受け入れるかどうかは、任意となっています。日本では2014年2月に策定されました。
一方でコーポレートガバナンスは、企業が株式等に対して取るべき行動原則です。両者を比較すると、企業の行動原則がコーポレートガバナンス・コード、機関投資家の行動原則がスチュワードシップ・コードであると言えます。
コーポレートガバナンス・コードとの違いは、以下の図も参照してください。
引用:日本取引所グループ スチュワードシップ・コード再改訂 のポイント
コーポレートガバナンス・コードを守らないと?
コーポレートガバナンス・コードは金融庁と東京証券取引所が合同で作成した行動原則です。守らなかったからといって、罰則があるわけではありません。
しかしコンプライ・オア・エクスプレインに基づいて、「原則を受け入れない理由」を明確にし、報告する必要があります。
報告書による適切な報告が行われない場合には、違反企業として公表されるかもしれません。コーポレートガバナンス・コードに従わないと判断した場合には、適切に説明責任を果たしましょう。
コーポレートガバナンス・コードの5つの基本原則
コーポレートガバナンス・コードは、以下の原則から成り立ちます。
基本原則1:株主の権利・平等性の確保
- 原則1-1.株主の権利の確保
- 原則1-2.株主総会における権利行使
- 原則1-3.資本政策の基本的な方針
- 原則1-4.政策保有株式
- 原則1-5.いわゆる買収防衛策
- 原則1-6.株主の利益を害する可能性のある資本政策
- 原則1-7.関連当事者間の取引
基本原則2:株主以外のステークホルダーとの適切な協働
- 原則2-1.中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定
- 原則2-2.会社の行動準則の策定・実践
- 原則2-3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題
- 原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保
- 原則2-5.内部通報
- 原則2-6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮
基本原則3:適切な情報開示と透明性の確保
- 原則3-1.情報開示の充実
- 原則3-2.外部会計監査人
基本原則4:取締役会等の責務
- 原則4-1.取締役会の役割・責務(1)
- 原則4-2.取締役会の役割・責務(2)
- 原則4-3.取締役会の役割・責務(3)
- 原則4-4.監査役及び監査役会の役割・責務
- 原則4-5.取締役・監査役等の受託者責任
- 原則4-6.経営の監督と執行
- 原則4-7.独立社外取締役の役割・責務
- 原則4-8.独立社外取締役の有効な活用
- 原則4-9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質
- 原則4-10.任意の仕組みの活用
- 原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件
- 原則4-12.取締役会における審議の活性化
- 原則4-13.情報入手と支援体制
- 原則4-14.取締役・監査役のトレーニング
基本原則5:株主との対話
- 原則5-1.株主との建設的な対話に関する方針
- 原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表
それぞれの考え方を、詳しく見ていきましょう。
株主の権利・平等性の確保
上場企業にとって株主の権利を守ることは、最も重要な責務のひとつです。単なる形式的な対応ではなく、実質的な権利保護と、その権利を行使しやすい環境づくりが求められます。
「株主の平等性」も重要な考え方です。持株数の多い少ないにかかわらず、すべての株主を平等に扱うことが原則とされます。
しかし実際の企業運営では、少数株主や外国人株主は株主総会への参加や議決権行使が困難な場合も少なくありません。そのため企業には、これらの株主への特別な配慮が必要です。
またいわゆる買収防衛策や株主の利益を害する可能性のある資本政策についても、従うべき原則が示されています。
株主以外のステークホルダーとの適切な協働
上場企業の取締役会や経営陣には、ステークホルダーの権利や立場を尊重する企業文化を築くことが求められています。特に近年は、環境・社会・企業統治といったESG課題への対応も重要性を増してきました。
ステークホルダーとの良好な関係づくりは、社会全体にプラスの影響をもたらすだけでなく、最終的に企業自身の利益にもつながります。企業と社会が共に発展する好循環を生み出すことができるのです。
適切な情報開示と透明性の確保
上場企業には財務情報と非財務情報の両方について、適切な情報開示が求められます。財務情報は会社の財政状態や経営成績などを指し、非財務情報は経営戦略、課題、リスク、ガバナンス等です。
取締役会は株主にとって分かりやすく、有用性の高い情報の提示に努める必要があります。
しかし日本企業の情報開示には、課題もあります。財務情報については比較的整備されていますが、非財務情報は形式的な記述にとどまり、具体性に欠けるケースが少なくないことです。
情報開示は株主との建設的な対話の基盤となります。企業の外部にいる株主やステークホルダーと認識を共有し、理解を深めるための重要な手段なのです。
取締役会等の責務
取締役会は会社の持続的な成長と企業価値の向上に向けて、以下の3つの重要な役割を担っています。
- 企業の将来的な方向性を示すこと
- 経営陣が適切にリスクを取れる環境を整備すること
- 客観的な立場から経営陣への実効性の高い監督を行うこと
日本の上場企業では、主に3つの機関設計(監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社)が活用されています。
どの機関設計を選んだ場合でも、重要なのは各機関の機能を実質的に発揮させることです。また経営判断において損失が生じた場合でも、意思決定過程の合理性が確保されていれば、取締役の責任は問われにくいとされています。
透明・公正かつ迅速な意思決定の仕組みを整えることが求められているのです。
株主との対話
上場企業は株主総会以外でも、株主との建設的な対話を行うことが求められます。
経営陣は株主の声に真摯に耳を傾け、その関心や懸念に適切に対応する必要があります。株主との対話を通じて資本提供者の視点からの意見を取り入れることは、企業の持続的な成長にとっても重要だからです。
また日本版スチュワードシップ・コードの策定により、機関投資家には投資先企業との「目的を持った対話」が求められるようになりました。
参考:金融庁 コーポレートガバナンス・コード
2021年改定での変更点
2021年の改定では、時代の変化にあわせ、企業に求められる役割の見直しが行われました。主な変更点は、以下のとおりです。
①取締役会の機能発揮
- プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任する
- 指名委員会・報酬委員会を設置する
- 取締役会が備えるべきスキルと、各取締役のスキルとの対応関係の公表する
- 他社での経営経験を有する経営人材を、独立社外取締役へ選任する
②企業の中核人材における多様性の確保
- 管理職における多様性の確保についての考え方と、測定可能な自主目標の設定する
- 多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針と実施状況を公表する
③サステナビリティを巡る課題への取組み
- プライム市場上場企業において、国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実させる
- サステナビリティについて基本的な方針を策定し、取組みを開示する
④上記以外の主な課題
- プライム市場に上場する「子会社」において、独立社外取締役を過半数選任する(または利益相反管理のための委員会の設置する)
- プライム市場上場企業において、議決権電子行使プラットフォーム利用と英文開示の促進する
参考:金融庁 「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」の公表について
コーポレートガバナンス・コードについて解説しました
コーポレートガバナンス・コードは、上場企業の行動原則を定めた重要な指針です。株主の権利・平等性の確保、株主以外のステークホルダーとの適切な協働や情報開示、透明性の確保、取締役会等の責務、株主との対話という5つの基本原則から成り立っています。
プリンシプルベース・アプローチとコンプライ・オア・エクスプレインを採用し、企業の自主的な取り組みを促していることが特徴です。
また2021年の改定では、多様性の確保やサステナビリティへの取り組みなど、時代の要請に応じた要件が加わりました。コーポレートガバナンス・コードを適切に実践することで、時代に即した企業の成長が期待されます。