経営企画室とは
経営企画室は、会社全体の方向性を決定し、経営者の意向や戦略を実現に導くための中心的な役割を担う部署です。中長期的な経営戦略の立案をはじめ、経営方針を現場レベルの業務に反映させることが主な役割です。
また、市場調査やマーケティング、自社を取り巻くさまざまなデータの収集と分析も行い、経営陣が適切な意思決定を行えるようサポートします。
そのためには、社内の各部署と連携し、経営に必要な情報を収集し、経営陣が活用しやすい資料に編集することが必要です。たとえば、経理部や営業部との連携により財務データや売上情報をまとめ、さらに将来の売上予測や市場動向の分析を行うことで、戦略的な意思決定をサポートします。
経営企画室の組織体制
経営企画室は、企業の中核となる経営戦略を支える部門であり、多岐にわたる専門的な業務を担っています。
経営企画室内部の組織体制
組織体制は企業によって異なりますが、一般的には以下のような課に分かれています。
企画戦略課
企画戦略課は、グループ全体の中期経営計画を策定し、既存事業や新規事業の戦略を構築する役割を担います。また、計画に基づく重要な戦略やKPI指標の管理も行います。主な役割は下記のとおりです。
- グループの中期経営計画の策定
- 既存事業戦略の立案と実行支援
- 新規事業戦略の立案と計画
- 重要戦略・KPI指標の管理とモニタリング
- 経営企画全般
- 親会社単体の事業計画および年度予算の策定
- 経営会議体の運営および議事録作成
- 長期資金計画や資本政策、投融資計画の策定
- 株式および社債に関する政策立案と金融機関対応
- M&Aやアライアンスの実施
- 対象候補先の選定、条件提示、契約交渉
- 新規取得会社のマネジメント体制の構築
- 全社組織編成
- 社内組織体制の新設や改定
- 情報収集と分析
- 関連業界や競合企業の情報収集・分析
- 人口動態、消費動向などの調査分析
- 自社経営状況の分析と課題抽出
- 委員会やプロジェクトの統括管理
- 組織全体のプロジェクト進行管理および事務局機能
グループ推進課
グループ推進課は、グループ会社の事業計画や予算策定を中心に、グループ全体の調整役を担います。戦略会議の運営や中期経営計画との統合調整を行うことで、グループ全体の統一感と効率性を追求します。主な役割は下記のとおりです。
- グループ会社の計画策定
- グループ会社ごとの事業計画・年度予算の策定
- 重要戦略やKPI指標の管理
- グループ全体での組織編成
- 戦略会議の運営
- 中期経営計画との調整や統合
IR課
IR課は、投資家やアナリスト、メディア対応を通じて、企業の財務情報や経営方針を外部に発信する役割を担います。IR課が独立している場合もありますが、経営企画室内で連携しているケースが一般的です。主な役割は下記のとおりです。
- IRツールの企画・制作
- 会社案内、事業報告書などの制作
- テレビ、新聞、雑誌などの発表窓口業務
- 投資家向けイベントの実施
- 機関投資家やアナリスト向けの決算説明会の企画運営
経営企画室の企業内での立ち位置
経営企画室は、企業全体の戦略と管理を担う部署であり、その立ち位置は企業の経営者や経営陣に直属する形が一般的です。
また、企業のビジョンや経営方針を現場に浸透させるため、各部署との連携を密にしながら、社内での情報共有や周知を徹底します。一方で、現場からの報告や要望を集約し、経営陣に伝える橋渡し的な役割も担っています。
経営企画室長(または経営企画部長)は、経営の中枢で業務を遂行するため、執行役員を兼任していることが一般的です。
経営陣からは直接的なフィードバックや指示を受け取り、それを迅速かつ的確に実行に移します。
経営企画室の役割
経営企画室は、企業の中長期的な成長と発展を支えるために、経営戦略の策定から実行支援まで幅広い業務を担う重要な部門です。その役割を具体的に説明します。
中期経営計画の策定と戦略立案
経営企画室の中核的な役割は、取締役や経営陣が定めた企業ビジョンを基盤に、3〜5年を見据えた中期経営計画を策定することです。自社が持つ人材や資産などのリソースを冷静に分析し、外部環境や市場の将来予測を考慮しながら、具体的な経営戦略を立案します。
事業計画の実行は、必ずしも計画通りに進むとは限りません。そのため、経営企画室は策定した計画と現状を継続的に照らし合わせ、収益性や安定性における課題を特定し、必要に応じて計画を修正します。
計画策定では、明確な数値目標を設定し、それに基づいて事業の進捗状況を分析することが求められます。また、計画が現場レベルにしっかりと浸透するよう、経営方針を全社に伝えるための仕組みづくりも必要です。
適切な予算編成および管理
予算編成は、まず年度ごとの利益目標を設定し、その目標に基づいて売上と経費の予算を具体化することから始めます。利益目標の設定に際しては、過去の実績データ、自社のリソース状況(人材・設備・資金)、市場動向、競合分析など、多様な要因を論理的に分析し、経営陣に根拠を示す必要があります。
予算編成の手法は企業によって異なりますが、主に下記の2つです。
トップダウン方式……経営陣が全社の利益目標を設定し、それをもとに各部署が予算を決める
ボトムアップ方式……各部署が算出した予算案を集約し、全社の予算を決める
いずれの場合も、経営企画室には、事務的にデータを集めるだけでなく、収集した情報をもとに経営上の可能性やリスクを明確に説明する能力が求められます。また、予算が決定した後、実際の事業活動が目標達成に向けて進行しているかをモニタリングするのも経営企画室の役割です。
新規事業の計画・立ち上げ
経営企画室は既存事業の安定化に加えて、新規事業の計画から立ち上げ、推進まで担います。
急激に変化するマーケットや社会情勢を見極め、自社の強みやリソースを活かしながら時代に適応した新たな事業を創造し、企業の新たな収益の柱として定着させます。
その際、企業規模が大きければ海外企業とのM&A(合併・買収)を視野に入れることも1つの方法です。
新規事業の推進にあたっては、綿密な企画立案と慎重な判断が求められます。場合によっては競合他社との業務提携を行い、リソースやノウハウを相互に補完し合いながら新規事業を成功へと導きます。
海外における経営企画室の役割
海外では、経営企画室を独立した部署として設置することは一般的ではありません。
欧米企業ではCEO(最高経営責任者)の直下に各分野の最高責任者(CFO:最高財務責任者、COO:最高執行責任者、CMO:最高マーケティング責任者など)が配置されており、それぞれの分野・部署で最高責任者がリーダーシップをとりながら戦略立案や事業管理を遂行します。
こうした組織構造は、自己資本の蓄積が大きく、独立精神の強い企業文化に支えられています。上司や各最高責任者の権限が強いため、全社横断的に取りまとめる経営企画室のような部署を設ける必要性がほとんどありません。
経営企画室の現状
経営企画室は、理想として「経営者の参謀」や「会社の頭脳」として機能することを目指しますが、現状では事務局や調整役としての役割にとどまるケースが多いのが実態です。
株式会社日本総合研究所のレポートによれば、経営企画部門が抱える主な課題として、部員の「経験不足」「人員不足」「スキル不足」や「雑務や調整役に終始する状況」が挙げられています。これらの課題は、経営企画室本来の業務である戦略立案や経営支援を妨げる要因です。
また、「上司とのコミュニケーション力」「自社製品・サービスや顧客に関する知識」「現場とのコミュニケーション力」を高く自己評価している経営企画部員が多い一方で、「グローバルなコミュニケーション力」「ITスキル」「社内外のネットワーク構築力」が不足していると認識されています。
また、企業の88.9%が「経営企画部門の役割が今後5年間で変わる」と考えており、76.1%が「その重要性が増す」と予測しています。経営企画室が今後さらに戦略的な役割を果たし、デジタル化やグローバル化などの変化に対応するための中核的な存在になる必要があるといえるでしょう。
出典:経営企画部門の実態~874 社に聞いたアンケート調査結果~|株式会社日本総合研究所のレポート
経営企画室でよくある課題
経営企画室は「会社のブレーン」として全社的な戦略の策定や推進を担う重要な役割を果たしますが、その業務の幅広さゆえに、さまざまな課題が生じやすい部門でもあります。以下に代表的な課題を詳しく解説します。
役割の不明確さ
経営企画室は、全社横断的な業務を多く抱える一方で、具体的な役割や範囲が曖昧になりがちです。その結果、企画立案や戦略推進といった本来の業務から外れ、事務局や総務部のような事務的な役割を担う状況が発生することがあります。
業務の過剰負担
経営企画室が実質的に「受付窓口」としての役割を担うケースでは、他部署からの依頼が集中し、業務の幅が際限なく広がることがあります。特定の業務に時間と人員を奪われ、戦略立案や推進といった本来のミッションが後回しになりがちです。
この悪循環が続くと、企画業務の質が低下するだけでなく、経営企画室全体の信頼性が揺らぐ可能性もあります。
役割の重複
全社横断的な業務を行う性質上、他部署と連携が必要になる場面が多い経営企画室ですが、連携する別部署(例:総務部やマーケティング部)と役割が被ることもあります。その結果、業務の分担が不明瞭になり、経営企画室が専門性の低い業務に忙殺される状況が発生します。
情報の吸い上げ不足
経営企画室が全社的な視点で戦略を立案するためには、経営陣の意思決定に必要な質の高い情報を各部署から収集することが不可欠です。しかし、情報収集の仕組みが不十分であったり、情報が適切に整理されていなかったりする場合、経営判断に必要なデータが経営陣に届かないことがあります。
多機能性ゆえの運用の難しさ
経営企画室は戦略策定や推進、情報分析、部署間の調整など、多機能を発揮する必要があるため、過剰な業務負担や専門性の低下を引き起こしがちです。このような状況では、経営企画室が期待される役割を果たせなくなる可能性があります。
適切な経営企画室を作る流れ
適切な経営企画室を作る流れは、データ収集基盤の整備から始まり、アクションプランの策定を経て、中期計画と単年度予算の実行へと続きます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.情報収集の基盤を整える
まずは、社内外の情報を収集し、それを経営企画室に集約するための基盤を整える必要があります。情報収集基盤は、経営判断の正確性を高め、戦略立案の土台を作るために欠かせません。
情報収集基盤の作り方の流れは下記のとおりです。
【ステップ1】経営判断に必要な情報を明確化
- 内容:経営戦略や中期計画に基づき、判断材料となる情報を特定する
- 具体例:中期経営計画における最適なリソース配分を判断するためのデータ
【ステップ2】必要な情報の洗い出し
- 内容:経営判断に必要な具体的データを特定する
- 具体例:顧客情報や商談情報、アクセスログなど
【ステップ3】情報収集の手段と頻度を決定
- 内容:データ収集の方法とスケジュールを設定し、仕組み化する
- 具体例:営業担当者や代理店から顧客情報を月1回提出させる仕組みを構築
【ステップ4】効率化のためのITツール導入
- 内容:データ管理の効率化を目的としたシステムやツールを活用する
- 具体例:CRM(顧客管理システム)を導入し、顧客情報や商談データを一元管理
2.アクションプランを策定する
情報収集基盤を整備した後は、経営課題を的確に把握し、その課題解決に向けたアクションプランを策定します。
アクションプラン策定の流れは下記のとおりです。
【ステップ1】経営診断による課題発見
- 内容:経営層や現場社員へのヒアリングを通じて、課題の根本原因を明確化する
- 具体例:製品の競争力不足やマーケティング施策の効果低下をバリューチェーン分析で抽出
【ステップ2】課題に基づくアクションプランの策定
- 内容:課題解決のための施策をコストと利益への影響を基に優先順位を決定
- 具体例:新規顧客獲得施策の導入、生産ラインの自動化など、インパクトの大きい施策をプラン化
【ステップ3】実行体制の構築
- 内容:アクションプランの推進のため、タスクフォースを発足し進捗管理体制を整備
- 具体例:定例会議で進捗を共有し、必要な人員やリソースを適切に配分
3.中期経営計画を作成する
アクションプランの策定後は、それに基づいて中期経営計画を作成し、具体的な数値目標を設定します。中期経営計画の作成の流れは下記のとおりです。
【ステップ1】目標設定の具体化
- 内容:過去の成績だけに頼らず、市場動向や自社リソースを反映するなど、現実的な目標を設定
- 具体例:新市場への参入を前提とした売上成長計画を策定する
【ステップ2】計画の構造化
- 内容:課題解決によって得られる成果を数値化し、中期的な企業の目標像を明確化する
- 具体例:生産効率向上施策により、2年後の利益率を20%向上させる具体的シナリオを作成する
4.単年度予算を編成・管理する
単年度予算を編成・管理においては、下記のように行います。
【ステップ1】KPIの設定
- 内容:アクションプランの進捗を管理するための指標を設定し、財務指標と管理会計の両面からモニタリングする
- 具体例:製品別利益率、顧客満足度、ROI(投資利益率)
【ステップ2】予算と実績の比較分析
- 内容:単年度の予算と実績を比較し、差異を特定して原因を分析する。必要に応じて次年度予算や中期計画を修正する
- 具体例:売上目標未達の原因を分析し、次年度の販促費を増額するなど、計画に反映させる
適切な形で経営企画室を設置しよう
経営企画室は、企業全体の方向性を示し、戦略的な意思決定を支える中枢的な役割を果たします。適切に機能する経営企画室を構築するには、情報収集基盤の整備、アクションプランの策定、中期経営計画の作成、単年度予算の編成と管理が不可欠です。
適切な形で経営企画室を設置し、運用することで、持続可能な成長と競争力強化が可能になります。企業の未来を切り拓くための第一歩として、経営企画室の設置をぜひ検討してみてください。