コーポレートガバナンスとは企業経営を監視する仕組み
コーポレートガバナンス(Corporate Governance)とは、企業経営の公正な判断・運営を行えるように監視する仕組みです。コーポレートガバナンスの考えでは、会社は経営者のものではなく資本を投下している株主のものとなっています。日本語訳では「企業統治」とも呼ばれており、経営者が株主利益を最大化させる目的から採用された仕組みです。
社外取締役や社外監査役の設置、社内ルールの明確化などがコーポレートガバナンスの取り組みとなっています。コーポレートガバナンスによって会社の経営監視ができていることを「ガバナンスが保たれている」とも言われています。
コーポレートガバナンスの歴史的背景
日本では、1990年代に多くの企業で不祥事や経営悪化などの問題が多発しました。そこで米国で採用されていたコーポレートガバナンスの考えが注目されるようになり、会社の経営状態を監視する流れが広まりました。
金融商品取引法では、2004年に有価証券報告書においてコーポレートガバナンスの状況を記載することが東京証券取引所から義務付けられています。会社の統制環境に関連する内容の開示が要請されているため、企業側は求められる取り組みを実施しなくてはいけません。
2015年には金融庁からコーポレートガバナンス・コード原案が公表されたこともあり、国内の会社はコーポレートガバナンスの重要性が注目されるようになったのです。
日本と海外のコーポレートガバナンスの違い
日本と海外のコーポレートガバナンスの違いとして、以下のような2点が挙げられます。
- 法律の有無
- ステークホルダーの対象
まず日本ではコーポレートガバナンスの実施は必須ではなく、法律は定められていません。一方ヨーロッパ諸国ではコーポレートガバナンスが法律によって定められているため、企業は必ず取り組みが必要です。アメリカやイギリスなども利益価値の向上を追求する流れが一般的なので、コーポレートガバナンスが主流となっています。
また、日本では株主をはじめ従業員や取引先などがステークホルダーの対象ですが、アメリカでは経営者が株主価値を追求する流れが多いです。このように日本と海外ではコーポレートガバナンスの法律やステークホルダーの対象が大きく異なります。
コーポレートガバナンス・コードについて
コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業が行うコーポレートガバナンスにおいてガイドラインとして参照すべき原則・指針を指します。2015年3月に金融庁から設置された「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」から「コーポレートガバナンス・コード原案」が公表されました。コーポレートガバナンス・コードは、以下のような5つの基本原則で構成されています。
株主の権利・平等性の確保
株主以外のステークホルダーとの適切な協働
適切な情報開示と透明性の確保
取締役会などの責務
株主との対話
引用:コーポレートガバナンス・コード ~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~
コーポレートガバナンス・コードには基本原則をはじめ、実現のための事項を示した31項目の原則、一部の会社に適用される42の補充原則と3層構造で構成されています。
コーポレートガバナンス・コードの原則はあくまでもガイドラインなので、必ず順守しなくても罰則はありません。ただし、上場企業が原則を実施せずに株主へ十分な理由を説明できなければ違反企業として公表される可能性も高いです。社会的評価を下げる原因にもなるため、上場企業には必要な取り組みといえるでしょう。
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コーポレートガバナンスと類似する仕組みについて
コーポレートガバナンスと類似する仕組みとして、以下のようなものがあります。
- コンプライアンス
- 内部統制
- CSR
上記のような仕組みはコーポレートガバナンス混合されがちなので、具体的な相違点について詳しく説明します。ぜひチェックしておいてください。
コンプライアンス
コンプライアンスとは、企業活動における法令遵守を意味しています。就業規則をはじめ、法令や企業倫理・社会規範などもコンプライアンスに該当します。企業のコンプライアンス意識が低い場合、株主や顧客、クライアント企業などから不祥事が発生しやすい会社であると判断される可能性が高いです。コンプライアンスは企業としてのルールを守ることを意味しており、企業経営を監視するコーポレートガバナンスの維持・改善を行う要素の1つとなっています。
内部統制
内部統制とは、会社を健全に運営するための内部規則・仕組みのことです。業務の効率性や財務報告の信頼性、事業活動に関する法令等の遵守が目的であり、対内的な取り組みが内部統制の特徴です。コーポレートガバナンスは対外的な取り組みとなっているため、内部統制と逆の役割があります。どちらも経営の透明性を保ちながら社会的信頼を獲得するという点では、関係性の深い取り組みだといえるでしょう。
CSR
CSR( Corporate Social Responsibility)とは、会社が社会的存在として果たすべき責任のことです。適切にCSR活動を果たすことにより、企業としての信頼性向上や人材採用・従業員定着、法令違反リスクの低減などにつながります。CSR活動には環境保全や社会貢献などの取り組みがあり、企業経営を監視するコーポレートガバナンスも仕組みの1つとなっています。
コーポレートガバナンスを実施する3つの目的
コーポレートガバナンスを実施する目的として、以下のような3点が挙げられます。
- 企業経営の透明性を確保
- ステークホルダーの利益還元
- 中長期的な企業価値向上
それでは順番に説明します。
1.企業経営の透明性を確保
株主やクライアントなどのステークホルダーと良好な関係性を維持するには、企業情報の適切な開示が必要です。コーポレートガバナンスの実施によって経営戦略や財務状況、リスクマネジメントなどの情報を管理・開示することで、企業経営の透明性を高められるようになります。結果としてステークホルダーとの信頼性向上にもつながり、継続的に良好な関係を築くことができます。
2.ステークホルダーの利益還元
経営者が会社の事業を続けていくには、株主やクライアント、従業員、取引先などに利益を還元する必要があります。コーポレートガバナンスの強化によって経営者が一方的な意思決定を行うことを防ぎ、不正が発生するリスクを軽減できるようになります。会社は経営者だけでなくステークホルダーの助けによって成り立っているため、利益を還元できる点においてもコーポレートガバナンスの実施は重要な目的があるのです。
3.中長期的な企業価値向上
コーポレートガバナンスの実施によって経営の透明性が高まれば、中長期的な企業価値の向上につながります。金融機関や投資家からの社会的信用を得ることができれば、新たな融資や投資を行ってもらえるようになります。財務状況が安定化すれば新規事業の展開や人材確保ができるようになるため、会社の成長にも大きくつながるでしょう。
非上場企業におけるコーポレートガバナンスの必要性
コーポレートガバナンス・コードは上場企業に適用されるため、非上場企業にとってコーポレートガバナンスは必ずしも必要な取り組みではありません。
ただし、非上場企業は金融機関からの資金調達やクライアントとの取引が必要になるので、社会的信用を高める点においてはコーポレートガバナンスが重要な役割があります。経営状況が不透明な企業は社会的信用が低いことから、ビジネスにおいて不利な立場になるケースも多いです。継続的な成長につなげるために、非上場企業にコーポレートガバナンスは必要な取り組みといえるでしょう。
コーポレートガバナンスの強化方法
コーポレートガバナンスを強化するには、以下のような方法があります。
- 内部統制の整備
- 社外取締役・監査役の設置
- 執行役員制度の導入
- 社内規定の明確化
それでは詳しく説明します。
内部統制の整備
会社の経営状況を監視するには、内部統制を整備する必要があります。業務の効率性や財務報告などの内部統制を行うことで、日常業務から違反行為が出ないようにします。社内ルールを定めながら内部統制の仕組みを整えれば、正しく機能させることが可能です。まずは現在のワークフローを見直しながら、課題・リスク整理によって改善を行っていきましょう。
社外取締役・監査役の設置
企業経営の公正な判断・運営を行うには、社外取締役や監査役の設置が必要です。社内の経営陣のみに意思決定を任せると、不正が発生する恐れがあります。外部の監査体制を整えることにより、客観的な視点から会社を評価できるようになります。社内だけでは気づくことが難しいリスクも発見できるようになるので、正しい経営監視を行うためにも社外取締役・監査役を設置するようにしましょう。
執行役員制度の導入
執行役員とは、業務執行の責任・権限を持つ人のことです。一般的に会社では代表取締役が業務執行の責任・権限を持ちますが、事業運営の負担が大きくなるデメリットが存在します。そこで執行役員制度を導入することで、代表取締役の負担を軽減できるようになります。結果的にコーポレートガバナンスを強化できるようになり、企業経営の公正な判断・運営ができるようになるでしょう。
社内規定の明確化
コーポレートガバナンスを強化するには、社内規定の明確化も必要です。ステークホルダーだけでなく社内に考えを周知することで、従業員の意識改革につながります。社内規定や企業理念、行動規範、倫理憲章などを作成・周知すれば、業務遂行や意思決定ができるようになるでしょう。
ワークフローシステムの導入がおすすめ
会社のコーポレートガバナンスを強化するには、ワークフローシステムの導入がおすすめです。ワークフローシステムとは、組織内で行われる業務手続きを電子化できる仕組み・ソフトウェアのことです。「稟議システム」や「電子決裁システム」とも呼ばれており、ワークフローシステムを導入することで意思決定の迅速化や精度向上、内部統制・ガバナンスの強化が行えます。効率良くコーポレートガバナンスを強化できるため、何から実施すればわからない方はワークフローシステムの導入をおすすめします。
コーポレートガバナンスを実施する課題
コーポレートガバナンスを実施するには、以下のような課題もあります。
- 仕組み作りにコストが必要
- 社外取締役・監査役の人材不足
- 意思決定に時間がかかる
それでは詳しく解説します。
仕組み作りにコストが必要
コーポレートガバナンスを実施する場合、社内体制を整備するための仕組み作りにコストが発生します。内部体制の強化や社外取締役・社外監査役の選任などが必要になることから、十分な予算確保が必要です。また、外部監査として弁護士を雇用することもあるので、別途予算を用意しなくてはいけません。このようにコーポレートガバナンスの仕組み作りにはコストが必要になるので、実施する企業によっては課題となるでしょう。
社外取締役・監査役の人材不足
社外取締役や監査役の人材が不足していることが課題になっている会社も多いです。対応する人材には専門的な経験・知識が必要になるため、確保が難しくなっています。株主やクライアント、投資家などのつながりがあれば、社外取締役・監査役の人材を確保できるようになるでしょう。
意思決定に時間がかかる
コーポレートガバナンスは外部の社外取締役や社外監査役を設置するため、経営や事業の意思決定が遅くなる可能性があります。これまではスピーディな意思決定ができていたとしても、社会監査では慎重に判断されるケースが多いです。そのため新規事業の展開を検討している企業にとっては、コーポレートガバナンスの実施が課題になるでしょう。
コーポレートガバナンスの強化の成功例
建築産業を手がける荏原製作所は、コーポレートガバナンスを用いて中長期的に健全な成長を遂げたことから一般社団法人 日本取締役協会が主催する「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2023」で大賞を受賞しています。
守りから攻めへとガバナンス改革を行うことにより、経営の実行力が成果を生んだことが評価されています。このようにコーポレートガバナンスの仕組みを採用し、企業経営の公正な判断・運営を行えるようになった成功例も存在するのです。
コーポレートガバナンスにおすすめのワークフローシステム3選
こちらでは、コーポレートガバナンスにおすすめのワークフローシステムを3つ紹介します。経営環境を整えるためにも、ぜひ導入を検討してください。
1.楽々WorkflowII
楽々WorkflowIIは、企業規模や予算に合わせて利用できるワークフローシステムです。日本語だけでなく英語や中国語にも対応しており、API連携や電子帳簿保存法など豊富な機能が搭載されています。複雑な承認経路もスピーディに立ち上げられるため、社外取締役や社外監査役からの意思決定を早急に受け取れます。
2.ジョブカンワークフロー
ジョブカンワークフローは、審議等のあらゆる社内申請に対応しているワークフローシステムです。利用者の使いやすさを意識した設計がされており、ITが苦手な方でも簡単に利用できます。パソコンだけでなくスマートフォンからでも申請と承認が可能です。チャットシステムとも連携できるため、外部とのコミュニケーションもスムーズに行えます。
3.コラボフロー
コラボフローは、Excelを活用できるワークフローシステムです。Excelに設定されたセル区切りや罫線、テキスト⾊などが反映された申請書フォームを簡単に作成でき、自由にデザイン可能です。専用ソフトの知識も必要ないので、初心者でも手軽に利用できます。普段からExcelファイルを利用することが多い会社に最適です。
コーポレートガバナンスについて解説しました
今回はコーポレートガバナンスの詳細から経営者が知るべき目的、強化方法まで詳しく解説しました。コーポレートガバナンスを実施することで企業経営の公正な判断・運営を行えるようになり、経営者が株主利益を最大化できるようになります。ほかにも企業経営の透明性を確保でき、中長期的な企業価値向上にもつながります。これからコーポレートガバナンスの実施を検討しているなら、ぜひ当記事で紹介した強化方法を参考にしてください。