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資本コストとは?種類や相場、計算方法、削減のコツまで徹底解説!

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資本コストは、企業が資金調達を行う際に発生する費用であり、企業経営において重要な指標です。適切に管理することで、企業の収益性や競争力に大きな影響を与えるため、経営者にとって理解が必須の概念です。

記事では、資本コストの基本から、計算方法、資本コストが高くなる原因、そしてそのコストを下げるための具体的な方法までをわかりやすく解説します。資本コストを意識した経営を実現し、企業価値の向上を目指しましょう。

資本コストとは何か

資本コストとは、企業が事業を行うために必要な資金を調達する際に発生する費用を指します。この費用は主に「株主資本コスト」と「負債コスト」の2つに分類され、前者は株主に対する期待配当や株主還元、後者は銀行からの借入に対する利息などが該当します。

業価値の向上には、この資本コストを上回る利益の創出が不可欠です。資本コストが高くなれば、それだけ企業が生み出すべき利益の水準も高くなり、達成できない場合は株価下落のリスクが生じます。一方、資本コストを適切に抑制できれば、より少ない利益で企業価値の向上が可能となります。そのため、経営者にとって資本コストを常に意識した効率的な経営が非常に重要です。

資本コストを意識する理由  

企業活動には資金が不可欠ですが、その調達にはコストが伴います。株式発行や借入など、様々な調達方法のコストを総合的に捉えた指標が、WACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)です。

WACCは、経営者が事業の成長と企業価値向上を目指す上で、非常に重要な指標になります。なぜならWACCは以下の3つのポイントに深く関わっているからです。

  • 投資判断の基準
  • 企業価値評価
  • 経営戦略の立案

投資判断の基準としてのWACC

新規事業や投資プロジェクトを検討する際、期待される収益率がWACCを上回ることが、投資を成功させるための必須条件です。WACCを下回る収益率では、株主への配当支払いや借入金利の返済が困難になり、企業価値を毀損する可能性もあります。WACCを意識することで、投資の採算性を正確に見極め、無駄な投資を避けることができるでしょう。

企業価値評価におけるWACC

企業価値評価においても、WACCは重要な役割を担います。WACCは将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く際に用いられる割引率として使われ、WACCが低いほど、企業価値は高くなる傾向があります。企業価値を高めるためには、WACCを適切に管理し、低減するための努力が欠かせません。

経営戦略の立案におけるWACC

WACCは企業の資本構成(負債と自己資本の比率)によって変化する指標です。負債比率が高いほど、WACCは低くなる傾向がありますが、同時に倒産リスクも高まります。経営者は、事業の成長性やリスク許容度を考慮し、最適な資本構成を決定する必要があります。WACCを分析することで、自社の財務状況を把握し、効果的な経営戦略を立案することが可能になるでしょう。

のようにWACCは企業経営における様々な場面で重要な役割を果たします。WACCを理解し、適切に活用することで、企業は持続的な成長と企業価値の向上を実現できるのではないでしょうか。

業価値向上のための資本コスト

経営における資本コストの位置づけ  

企業が持続的な成長を実現するためには、資本コストを上回る収益を継続的に生み出す必要があります。資本コストを適切に把握・管理できない企業は、株主の期待に応えられず、結果として企業価値の毀損につながるリスクを抱えることになります。

制度面での要請

近年、資本コストを意識した経営の重要性は制度面でも強調されています。2018年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、企業価値向上のための重要な要素として資本コストが明記されました。さらに、2023年3月には東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」が発表され、上場企業に対する要請がより具体化されています。

ROEと資本コストの関連性

ROE( Return On Equity:自己資本利益率)は、株主資本に対する収益性を示す重要な指標です。これは当期純利益を自己資本で除して算出され、企業の資本効率を端的に表します。

企業価値の創造において、ROEと資本コストの関係は以下の原則に従います。

  • ROE > 資本コスト → 企業価値の向上
  • ROE < 資本コスト → 企業価値の低下

般的に、ROEが10%以上の企業は優良とされますが、この基準は業界や市場環境によって異なります。重要なのは、各企業が自社の資本コストを正確に把握し、それを上回るROEを持続的に実現することです。

資本コストの種類

負債コストと株主資本コストは、企業の資本調達における重要な2つの要素です。これらは企業が資金を調達する際に必要な費用であり、投資家や債権者が期待する収益率として理解されます。

株主資本コストとは

株主資本コストとは、企業が事業を運営するために調達した資金のうち、株主からの出資に対して発生するコストのことで 「自己資本コスト」 と呼ばれることもあります。具体的には、企業から株主へ支払われる配当金などが該当します。

業側の視点では、株主資本コストは資金調達にかかる費用であり、株主に還元すべき最低限のリターンです。

方、株主側の視点では、投資に対する最低限の期待収益率として捉えられます。 つまり、株主は、少なくともこの程度の収益は得られるだろうと期待して、企業に投資しているわけです。

のように、株主資本コストは、企業と株主双方にとって重要な意味を持つ指標といえるでしょう。

債コストとは

負債コストは企業が金融機関や債権者から借入を行う際に発生するコストで、「他人資本コスト」と呼ばれることもあります。具体的には借入金に対する利息や社債の利息などがよくある例です。

債コストは企業の信用力や市場金利によって変動し、信用力が高い企業ほど低い金利で資金を調達できる傾向があります。このため、負債コストは資本調達のコストを抑える手段として重要です。

資本コストの算出方法

1.株主資本コストを算出する  

資本資産価格モデル(CAPM)を用いて以下の式で算出されます。

rE = RF + β(RM - RF)

  • rE:株主資本コスト
  • RF:リスクフリーレート(通常は国債の利率)
  • β:企業のベータ値(株価の変動度を示す指標)
  • RM:市場の期待収益率

ベータ値は、市場全体に対する株価の反応度を示し、1より大きい場合は市場よりもリスクが高く、1より小さい場合はリスクが低いとされます。株主資本コストを正確に求めることで、企業は株主に対してどの程度のリターンを提供する必要があるかを把握できます。

2.負債コストを算出する  

負債コストは、企業が借入金を調達する際に支払う利息を基に計算されます。利息は、負債の利回りに対する実効税率の影響を考慮して求めます。計算式は以下の通りです。

 r=rD ×(1-T)

  • r:負債コスト
  • rD:負債コスト(借入利率)
  • T:実効税率(法人税率)

3.株主資本コストと負債コストを加重平均する

株主資本コストと負債コストを加重平均すると加重平均資本コスト(WACC)が算出されます。計算式は、以下の通りです。

加重平均コスト=負債コスト×負債の割合+株主資本コスト×株主資本の割合

WACC = D/(D+E) × rD(1-T) + E/(D+E) × rE

  • D:負債(有利子負債額)
  • E:株主資本
  • rD:負債コスト(借入金利など)
  • rE:株主資本コスト
  • T:実効税率

「株主資本の割合」と「負債の割合」は、株主資本と負債の合計を分母として計算します。

4.資本コストの計算例

企業全体の資本コストを算出する際には、WACC (加重平均資本コスト) を用います。WACCは、負債コストと株主資本コストを、それぞれの構成比率で加重平均したものです。

4-⒈負債コストを算出

WACCを計算するための負債コストは、以下の計算式で求めます。

rD(1 − T) × D / (D + E)

rD: 負債の利回り

T: 実効税率

D: 負債

E: 自己資本

分解してみていきましょう。まず、rD(1 − T) は税引き後の負債コストを算出しています。

えば、企業が3,000万円の借入を行い、その利回りが3.2%だと想定します。また、実効税率が30%であるとします。この場合の税引き後負債コストは、以下の計算式で求めます。

0.032 × (1 - 0.3) = 0.0224 = 2.24%

に、この税引き後負債コストに負債比率 (D / (D + E)) を掛けます。総資本が5,000万円だとすると、負債比率は 3,000万円 / 5,000万円 = 0.6 となります。

2.24% × 0.6 = 1.34%

の 1.34% が、WACCを算出する上で必要な負債コスト部分の値となります。

4-⒉株主資本コストを算出

株主資本コストは、CAPM (資本資産価格モデル) を用いて算出することができます。CAPMの計算式は以下の通りです。

rE = rf + β(Er - rf)

rE: 株主資本コスト

rf: 無リスク金利

β: ベータ値

Er: 市場期待収益率

以下の数値を使用して計算してみましょう。

rf (無リスク金利): 2% (10年国債利回りと仮定)

β (ベータ値): 1.2 (市場平均よりもやや高リスク)

Er (市場期待収益率): 7% (株式市場の期待収益率と仮定)

これらの数値を計算式に当てはめると:

rE = 2% + 1.2 (7% - 2%) 

  = 2% + 1.2 (5%)

  = 2% + 6%

  = 8%

出された株主資本コスト 8% を使用して、WACCにおける株主資本コスト部分を計算します。

主資本比率は 2,000万円 / (3,000万円 + 2,000万円) = 0.4 (40%) です。

8% × 0.4 = 3.2%

4-⒊負債コストと株主資本コストを加重平均する

最後に、これまで計算してきた負債コスト部分 (1.34%) と株主資本コスト部分 (3.2%) を合計します。

1.34% + 3.2% = 4.54%

の 4.54% が、企業全体の加重平均資本コスト (WACC) となります。

下で、加重平均資本コスト(WACC)の大まかな目安と傾向を紹介しているので、算出された値と比較して確認してみましょう。具体的にどの程度の値を高い資本コストとみなすのかは、業種や企業規模によって異なるため、同業他社の値を参考にするとよいでしょう。

重平均資本コスト(WACC)の相場

加重平均資本コスト(WACC)の全業界の平均は、5〜7%と言われています。しかしWACCの水準は、業界によって傾向が見られます。

例えば電気やガスなどの公共インフラ系企業は、需要が安定しており倒産リスクが低いので、より多くの負債による資金調達が可能です。負債コストは株主資本コストより低いため、これらの業界のWACCは平均より小さくなる傾向にあります。鉄鋼、機械、鉱業などの業界は、市場トレンドの変化が激しく事業リスクが高く、倒産リスクを抑えるように負債比率を低く抑える傾向があります。その結果、より高コストな株主資本での調達比率が高まり、WACCは平均より高くなりやすいです。

資本コストが高くなる原因

資本コストは、企業の事業構造、財務状況、外部環境などにより上昇します。特に高リスクな事業展開(新規事業への進出や景気変動の影響を受けやすい業種)は、投資家からより高いリターンを求められる要因となるでしょう。事業リスクが高い企業では下記が考えられます。

  • 株主がより高いリターンを要求し、株主資本コストが上昇
  • 金融機関も高い金利を要求
  • 企業の税率が低い場合、借入金利の税務メリットが減少

また新興企業や景気変動の影響を受けやすい業種では、相対的に高い資本コストとなる傾向があります。具体的にどの程度を高い資本コストとみなすのかは、業種や企業規模によって異なるので、同業他社の値を参考にするとよいでしょう。

戦略的な負債コストの最適化

負債コストの削減は企業の財務体質強化において重要な要素です。金融機関との関係構築から借入条件の最適化まで、包括的なアプローチを取ることで、持続可能な形での負債コスト削減が可能となります。特に、長期的な視点での戦略立案が成功の鍵となります。

1. 金融機関との関係構築による金利交渉

金融機関との良好な関係を築くことで、より有利な条件での資金調達が可能になります。以下のポイントに注目しましょう。

  • 複数の金融機関から条件を比較検討
  • 融資実績や返済履歴の適切な管理
  • 定期的な財務状況の報告と対話

2. 借入戦略の最適化

借入を行う際は、以下の要素を総合的に検討することが重要です。

  • 固定金利と変動金利の適切な選択
  • 長期借入の場合は固定金利が安定的
  • 短期の場合は市場動向を見据えた変動金利の活用も検討
  • 借入期間の戦略的な設定
  • 借換え(リファイナンス)のタイミング見極め

株主資本コストの効果的な削減方法

株主資本コストの削減には、投資家との信頼関係構築が不可欠です。適切な情報開示とリスクマネジメントを通じて、投資家の期待リターンを適正化し、結果として資本コストの低減につなげることができます。このプロセスは継続的な取り組みとして位置付けることが重要です。

1. 透明性の高い情報開示

投資家との信頼関係構築のために、以下の情報を積極的に開示します。

  • 財務状況と経営成績の詳細
  • 事業リスクとその対応策
  • 中長期的な成長戦略
  • ESG関連の取り組み

2. リスクマネジメントの強化

企業価値を高め、投資家からの信頼を獲得するためには下記が必要となります。

  • 内部統制システムの整備
  • コーポレートガバナンスの強化
  • 事業継続計画(BCP)の策定と更新

経営効率改善による総合的なコスト最適化

企業の持続的な成長には、経営効率の改善とコストの最適化が不可欠です。デジタル技術を活用した業務プロセスの効率化や、在庫管理の精緻化により、生産性の向上が期待できるでしょう。また人的資源の効果的な配置を通じて、組織全体の生産性向上も実現できます。

れらの取り組みを総合的に推進することで、企業の競争力向上と持続的な成長が可能となります。

1. 業務プロセスの効率化

  • デジタル技術の活用による生産性向上
  • 在庫管理の最適化
  • 人的資源の効果的な配置

2. 財務体質の強化

  • 運転資本の効率的な管理
  • キャッシュフロー改善施策の実施
  • 資産効率の向上

成功のためのロードマップ

経営効率改善を確実に実行するには、体系的なアプローチが重要です。まずは自社の資本構成を把握し、現在の資本コストを正確に測定しましょう。業界標準との比較分析を通じて、自社の立ち位置を明確にすることが求められます。次に、具体的な数値目標を設定し、達成までのタイムラインを策定することも重要です。

この過程で必要なリソースを確保し、定期的な進捗確認と戦略の調整を行うことで、着実な改善が実現できるのではないでしょうか。

1. 現状分析

  •  自社の資本構成の把握
  •  現在の資本コストの測定
  •  業界標準との比較分析

2. 目標設定

  •  具体的な数値目標の設定
  •  達成までのタイムライン策定
  •  必要なリソースの確保

3. 実行とモニタリング

  •  定期的な進捗確認
  •  必要に応じた戦略の調整
  •  結果の検証と改善

本コストの削減は、単なるコスト削減以上の戦略的な意味を持ちます。企業の持続的な成長のためには、上記の施策を自社の状況に応じて適切に組み合わせ、継続的に改善を図ることが重要です。また、市場環境の変化に応じて柔軟に戦略を見直し、最適な資本構成を維持することが求められます。

資本コストの理解と最適化で企業価値を高める

資本コストは企業が資金を調達する際に負担する費用であり、その正確な理解と管理は経営戦略において不可欠です。本記事で解説したように、資本コストを意識した経営は、投資判断の精度向上や資金調達の効率化につながります。

本コストが高くなる原因を把握し、低金利での借入やリスク情報の開示、資本構成の最適化などの手段を用いてコストを下げることで、企業価値を大きく向上させることができます。今後の経営において、資本コストの最適化は競争力強化と持続的成長の鍵となるでしょう。

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執筆

Startup JAM編集部

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