クラウドファンディングとは
クラウドファンディングとは、インターネットを活用して広く資金を募る、新しい資金調達の仕組みです。
これまで新規事業の立ち上げや新商品の開発に必要な資金は、銀行融資やベンチャーキャピタルからの出資が一般的でした。それに対して近年、インターネットを通じて「共感」を資金につなげる新しい資金調達の手法として登場したのがクラウドファンディングです。
まずはクラウドファンディングの基本的な概要を、詳しく見ていきましょう。
クラウドファンディングの仕組み
クラウドファンディングは「起案者(資金募集者)」と「支援者」が、プラットフォーム上でやり取りする資金調達の仕組みです。
起案者は事業計画や目標金額、支援者へのリターン(返礼品)を設定し、プラットフォームに掲載します。
支援者は共感したプロジェクトに資金を提供し、プロジェクトが成功すると、支援者はリターンを受け取れます。
プラットフォーム運営者はプロジェクトの審査や資金の管理を行い、手数料で利益を得る仕組みです。
プロジェクトの掲載期間中、起案者は目標金額の達成を目指し、定期的に進捗を報告しつつ、支援者とコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めます。
特に起業前の企業にとっては、商品・サービスの需要を分析したり、将来的な顧客を確保したりするマーケティングの場としても重要な役割を果たす手法です。
All-or-Nothing方式とAll-in方式とは
クラウドファンディングには目標金額の達成条件によって、2つの主要な方式があります。
- All-or-Nothing方式
- All-in方式
All-or-Nothing方式は目標金額を100%達成した場合のみプロジェクトが成立し、支援金を受け取れる仕組みです。目標未達の場合は支援者への返金が自動的に行われるので、支援者のリスクを最小限に抑えられます。起案者にとっても事業計画の実現可能性を高められるという利点があります。
All-in方式は目標金額の達成に関係なく、支援者が集まった資金を受け取れる方式です。小規模プロジェクトや、実現可能性の高いプロジェクトに適しています。
目標未達でも事業を進められる柔軟性がありますが、目標金額が調達できなくてもプロジェクトを実施しなければならないため、慎重な判断が必要です。
どちらの形式が良いかは、プロジェクトの内容や方向性によって判断しましょう。
クラウドファンディングの歴史
クラウドファンディングの起源は、2000年代初頭の米国にさかのぼります。ArtistShare、IndiegogoやKickstarterなどのサービスが設立され、先駆的なビジネスモデルとして確立しました。
日本では2011年の東日本大震災の復興支援プロジェクトを通じて社会的認知度が高まり、プラットフォームが多数登場。また2014年には東京都知事選の候補者が活用するなど、多方面での利用が広がりました。
従来の「寄付型」、「購入型」、「融資型」に加え、「株式投資型」や「投資ファンド型」、最近では「ふるさと納税型」も登場しています。
さらにクラウドファンディングは資金調達手段としてだけでなく、マーケティング戦略の一環としても活用されています。現代のビジネスシーンにおいて、クラウドファンディングはなくてはならない制度のひとつとして定着したと言えるでしょう。
クラウドファンディング市場のこれから
クラウドファンディングは、従来の資金調達方法を補完する選択肢として定着してきました。スタートアップ企業やベンチャー企業だけでなく、国立博物館や自治体が行うクラウドファンディングも話題を集めています。
さらにクラウドファンディングは、マーケティング戦略の一環としても広く使われる手法です。一般の知名度を高め、将来の顧客層へのアプローチ力を強化する手段としてのクラウドファンディングは、特にスタートアップ企業にとって、重要な役割を果たします。
クラウドファンディングの種類
資金調達の目的は、新商品の開発や事業の立ち上げや社会貢献など、プロジェクトによってさまざまです。それぞれの目的によって、適したクラウドファンディングの方式があります。
ここでは各方式の特徴や代表的なプラットフォームを、詳しく見ていきましょう。
購入型クラウドファンディング
購入型クラウドファンディングは支援の見返りとして、商品やサービスを提供する方式です。金銭的なリターンを伴いません。
一般的に市販予定価格より安価または特別な特典付きの形で提供されます。また開発中の商品の市場性を確認できるため、マーケティングとして活用されやすい方法です。
購入型クラウドファンディングはクラウドファンディングの中で最も一般的な方式といわれ、新商品の開発資金を募る際にも活用しやすい形式です。
代表的なプラットフォーム
寄付型クラウドファンディング
寄付型クラウドファンディングは基本的に金銭的なリターンを伴わない、純粋な支援を目的とした方式です。社会貢献活動や被災地支援、芸術文化活動などで活用されます。
支援者への見返りは活動報告や感謝状程度となりますが、社会的意義の高いプロジェクトが多く、支援者の社会貢献意識に応えることが可能です。NPO法人や社会起業家が活用するケースも多く見られます。
代表的なプラットフォーム
融資型クラウドファンディング
融資型クラウドファンディングは事業者が複数の個人から資金を借り入れ、利息をつけて返済する方式です。事業者は「貸金業法」や「金融商品取引法」などの法的な制約を受けます。
融資型クラウドファンディングは事業の拡大資金や運転資金の調達に使われ、「ソーシャルレンディング」として認識している人も多いかもしれません。特に金融機関からの借入れが難しい場合の選択肢となり、審査基準も比較的柔軟です。一方で返済義務が生じるので、確実な事業計画が必要です。
代表的なプラットフォーム
株式投資型クラウドファンディング
株式投資型クラウドファンディングは個人ではなく、株式会社が行う資金調達の一環です。投資家は資金を提供するリターンとして、非上場企業の未公開株を取得できます。主にベンチャー企業の成長資金調達に活用される手法です。
2015年、金融商品取扱業に特例ができたことで、2017年頃から活用されはじめました。
また株式投資型クラウドファンディング事業者には、第一種少額電子募集取扱業の資格が必要となります。さらに借り手企業側は年間1億円未満、投資家は1社につき50万円までの制限があることも注意しましょう。
代表的なプラットフォーム
ファンド型クラウドファンディング
ファンド型クラウドファンディングは事業から得られる収益の一部を分配する方式です。株式型と同様に、資金調達のひとつとして活用されます。特定の事業に対して個人投資家から出資を募る仕組みで、投資家は成果や出資額に応じた金銭的リターンを得ます。
さらに該当企業の商品等が配布される場合もあり、社会貢献性が高いのが特徴です。
ファンド型の利回りは、売上に基づく分配金で計算されます。事業の売上に応じて、利回りが変動するのが特徴です。
なおファンド型クラウドファンディングでは、事業者は金融商品取引法に基づき、第二種金融商品取引業の登録が必要です。
代表的なプラットフォーム
ふるさと納税型クラウドファンディング
ふるさと納税型クラウドファンディングとは、自治体または自治体が認定した個人・団体が「ふるさと納税」の制度を利用して資金を募るクラウドファンディングです。自治体の独自性を活かしたプロジェクトが展開されています。
一般的なふるさと納税と同じように、支援者は寄付金控除を受けられます。また返礼品として地域特産品などが提供されるのも特徴です。
税制優遇と返礼品の2つが、支援者にとっての利益となるうえ、地域振興に直接貢献できるのが魅力です。地方創生の手段としても注目されています。
代表的なプラットフォーム
クラウドファンディングのメリットとデメリット
クラウドファンディングは、従来の資金調達手法とは異なる特徴を持っています。プロジェクトを成功させるには、メリットとデメリットを十分に理解することが重要です。
起案者と支援者、それぞれのメリットとデメリットをまとめました。
起案者のメリット
起案者にとって、クラウドファンディングには以下のようなメリットがあります。
- 資金調達が比較的容易
- 認知度向上が期待できる
- 市場調査としても活用できる
クラウドファンディングの大きなメリットは、資金調達のハードルが比較的低いことです。従来の金融機関からの融資と異なり、事業実績や担保がなくても資金を集めることが可能になります。
また新しい事業の需要を市場に問うことができ、支援者からの直接的なフィードバックを得られるのも利点です。顧客とのコミュニケーションやSNSでの拡散を通じ、プロジェクトの認知も広がります。資金調達と同時にプロモーション効果が得られ、プロジェクトへの共感者を増やすことができるのです。
クラウドファンディングは市場調査としても機能します。商品やサービスの需要を事前に把握でき、支援者からの具体的なフィードバックを商品開発に活かすことができます。
起案者のデメリット
起案者にとっての主なデメリットは、以下のとおりです。
- プロジェクトの準備や運営に労力が必要
- 目標達成ができない可能性もある
- 購入型の場合、確実なリターンの提供が必要
クラウドファンディングを成功させるには、プロジェクトの準備と運営に多大な労力が必要です。魅力的な企画の立案はもちろん、プロジェクトページの作成や情報発信、支援者とのコミュニケーション、リターンの製作・発送など、さまざまな業務が発生します。
目標金額未達のリスクもあります。特にAll-or-Nothing方式の場合、目標金額を達成できないとプロジェクトが成立しません。プロジェクトが失敗した場合の評判リスクや、アイデアの模倣リスクも考慮する必要があります。
またリターンの提供に関する責任も重要です。確実な実行計画とスケジュール管理を行いましょう。
支援者のメリット
支援者にとっての主なメリットは、以下のとおりです。
- 新しいサービスや商品が知れる
- リターン、特典が得られる場合が多い
- 社会貢献が可能になる
支援者は市場に出回る前の、新しい商品やサービスにいち早くアクセスできます。一般発売前の先行予約や限定版の入手のほか、多くのプロジェクトでは特別な特典が用意されています。また開発過程に参加できる特別感も、魅力のひとつです。
さらに社会貢献の機会も得られます。共感するプロジェクトを通じて、社会課題の解決や地域活性化に参加できるのです。特に寄付型では、支援者の社会貢献意識に直接応えることができます。
支援者のデメリット
支援者側の主なデメリットは、以下のとおりです。
- プロジェクトが失敗すると、リターンを得られない
- 予定通りのリターンの提供がないリスクがある
クラウドファンディングでは、プロジェクトが失敗するリスクがあります。特に購入型の場合、商品開発の遅延や品質問題が発生するかもしれません。また支援金の使途が不透明で、トラブルに発展することもあります。起案者の信頼性を見極めることが重要です。
またリターンの提供にも不確実性が伴います。開発途中の商品やサービスでは、予測できないトラブルが起きることもあるからです。
途中でプロジェクトが中止になる可能性があることも考慮しておきましょう。
スタートアップの資金調達についてもっと詳しく知りたい方は、ぜひ以下のお役立ち資料も併せて確認してみてください。
クラウドファンディング実施の流れ
クラウドファンディングでは、起案者と支援者の双方で手続きや業務が必要です。それぞれの立場での実施の流れを見ていきましょう。
起案者
クラウドファンディングにおける起案者側の主な流れは、以下のとおりです。
- 企画立案
- プラットフォームを選定する
- プロジェクトページを作成する
- 情報発信を行う
- 調達した資金を使って、プロジェクトを実施する
- リターンの提供を行う
まずは企画立案です。プロジェクトの目的や必要資金、実現可能性を具体的に検討しましょう。目標金額の設定根拠を明確にし、事業計画の実現可能性を検証します。
次にプロジェクトの内容に合わせて、最適なプラットフォームを選定します。プロジェクトの種類や募集方式のほか、掲載審査の基準や掲載期間などを考慮して、慎重に選びましょう。プラットフォームが決まったら、支援を募るためのプロジェクトページを作成します。
プロジェクトの公開後、積極的な情報発信が大事です。SNSやウェブサイトでの告知を行い、プロジェクトの進捗状況を定期的に報告するといいでしょう。
資金調達後は、計画に沿ってプロジェクトを実行していきます。支援者は大切な顧客候補となります。支援者とのコミュニケーションを維持しながらリターンを確実に提供することで、プロジェクトの信頼性を高めましょう。
支援者
支援者側の流れは、以下のとおりです。
- プロジェクトを選ぶ
- 支援金を支払う
- プロジェクトの進捗を確認する
- リターンを受け取る
支援者は支援したいプロジェクトを選びます。目標金額の妥当性やリターンの内容も、支援を決める上で重要なポイントです。
次に支援を決めたら希望する支援コースを選択し、必要な情報を入力して支援金を支払います。支援完了後は、プロジェクトの進行状況を定期的に確認しましょう。必要に応じて質問やコメントを投稿し、他の支援者とも情報を共有しながら、リターンの受け取りまで進捗を見守ります。
クラウドファンディングを成功させるコツ
クラウドファンディングの成功には、綿密な準備と効果的な戦略が不可欠です。成功させるための主なコツは、以下の3つです。
- プロジェクトの全体像を明確にする
- 進行中は支援者との交流を行う
- SNSなどで事前告知を行う
まずはプロジェクトの全体像を明確に示し、スケジュールや予算の使い道、課題解決策など、成功の根拠を具体的に提示しましょう。支援者に成功をイメージさせることで、支援につなげます。共感を呼ぶビジョンを掲げ、画像や動画を活用することもおすすめです。
プロジェクト進行中は、定期的な経過報告を行うことでファンとの関係を深めます。リターンには複数の段階を設定を用意し、支援者のニーズに合わせた魅力的な内容を提案してください。さらにプロジェクト開始1ヶ月前からSNSなどで事前告知を行いましょう。
クラウドファンディングの成功事例
最後にクラウドファンディングの成功例を、いくつか見ていきましょう。
「グレゴリーホラーショー」のキャラと世界観でアクションRPGゲームを作る!
1999年にテレビ放送された「グレゴリーホラーショー」のRPGゲーム作成プロジェクトです。クラウドファンディング中はSNSを通じた告知やファンとの交流も行われ、盛り上がりを見せました。
もともと古参のファンがいたことも大きな成功要因ですが、エンドクレジットへの指名表示やグッズなどのリターンも魅力的です。支援総額は目標額500万円を大きく上回り、2,000万円以上となりました。
参考:「グレゴリーホラーショー」のキャラと世界観でアクションRPGゲームを作る!
国立科学博物館
国立科学博物館では、標本・資料の充実を目的に目標金額1億円のクラウドファンディングが実施されました。プロジェクトは、開始後9時間で目標金額を達成し、最終的には約9.2億円の支援金を獲得しています。
国立の施設が一般に広く寄付を募るプロジェクトはこれまであまり例がなく、全国ニュースにも取り上げられました。「かはく史上最大の挑戦」と銘打たれたプロジェクトは、それまでクラウドファンディングに関心がなかった人からも、大きな注目を集めたのです。
クラウドファンディングについて解説しました
クラウドファンディングは資金調達の手段としてだけでなく、プロジェクトの市場性を確認し、支援者とのコミュニケーションを通じて事業を成長させる機会を提供する制度です。実施にあたってはプロジェクトの目的を明確にし、適切な方式を選択しましょう。また支援者との信頼関係を構築し、確実なプロジェクト遂行とリターン提供を行うことで、持続的な関係を築くことができます。
プロジェクトを成功させるためには、目標金額の設定やリターンの準備、情報発信などさまざまな業務が必要です。プロジェクトの特性に合わせた戦略を立て、クラウドファンディングを効果的に活用していきましょう。