赤字決算とは?
赤字決算とは、収益が費用を下回り、最終的に損失が生じた状態を指します。損益計算書(P/L)の「当期純利益」がマイナスであれば赤字決算と判断されます。赤字決算になっても即座に倒産するわけではありませんが、資金繰りが悪化すれば経営を続けられなくなるでしょう。
黒字化には、赤字の要因を特定し、早急に資金調達や経費削減などの対策を講じることが重要です。適切な対策を取ることで、経営の安定化と将来的な利益確保が期待できます。
赤字でも融資を受けることは可能?
ここでは赤字でも融資を受けることは可能かどうかについて解説していきます。
赤字決算では融資を受けにくいのが一般的
銀行から融資を受ける際、企業は決算書の提出が求められます。決算書は1年間の収益や費用を集計し、利益や損失を示す重要な資料です。赤字決算を出している場合、収益力が低く、返済能力が不足していると判断されやすく、融資の承認が下りにくくなります。
これは銀行が貸付リスクを避けるためです。したがって、企業にとっては決算での黒字化が資金調達において重要な要素となります。健全な財務状況を維持することが銀行融資を円滑にするための鍵です。
すべての融資が受けられないわけではない
赤字決算の企業が銀行から融資を受けるのは難しい傾向ですが、すべての金融機関が融資を拒否するわけではありません。特に地域密着型の地方銀行や信用金庫、信用組合は中小企業への支援に積極的であり、赤字でも融資が検討される場合があります。
地域経済の発展に寄与する事業であれば、融資の承認を得やすくなります。そのため、融資申請時には事業が地域にどのように貢献できるかを明確にアピールすることが重要です。適切な説明により、資金調達の可能性が高まるでしょう。
黒字決算でも倒産する「黒字倒産」の可能性はある
黒字倒産とは、利益が出ているにもかかわらず、資金不足により支払いが滞り倒産してしまう状況を指します。売掛金の未回収や不良在庫の増加などが主な原因で、手元資金が不足して経営が行き詰まるケースです。
利益がプラスであっても現金がなければ倒産リスクが高まります。このリスクを防ぐためには、「損益計算書(P/L)」「貸借対照表(B/S)」「資金繰り表」を連動させ、現金残高を常に把握することが重要です。
赤字でも融資を受けられる場合・受けるコツ
赤字でも融資を受けられる場合もあります。それは以下の3つです。
- 創業に関わる赤字
- 経営に関係のない赤字
- 減価償却による赤字
創業に関わる赤字
創業時には初期費用や設備投資が多く必要となり、売上が安定しないため赤字に陥りやすく、これを「創業赤字」と呼びます。創業赤字が発生しても、適切な事業計画書を金融機関に提出すれば、融資を受けられる可能性は十分にあります。
事業計画書には、今後の収益予測や事業の成長性を具体的に示すことが重要です。金融機関は将来の安定性と収益性を重視するため、計画の内容が充実していると、創業期の資金調達がスムーズに進むことが期待できます。
経営に関係のない赤字
赤字が少額であったり、経常利益が赤字でも営業利益が黒字である場合、その赤字は一時的で経営に大きな影響を与えないと判断されることがあります。金融機関も、将来的な黒字化が見込まれる場合には問題視しません。
金融機関に良い赤字と判断してもらうためには、今後の売上や入金の見込みがあることや、黒字化の根拠を示すことが重要です。さらに契約書や発注書などの裏付けとなる書類があると、信頼性が高まり資金調達が円滑に進む可能性が高くなります。
減価償却による赤字
減価償却とは、設備投資にかかった費用を複数年にわたり分割して計上する会計処理を指します。これは資金の流出を伴わない費用であるため、企業内部に資金が留まり、キャッシュフローの改善や付加価値の向上をもたらします。
減価償却を行うと帳簿上の利益は抑えられますが、実際の損益を正確に把握でき、金融機関からの信頼にもつながるでしょう。対象となる資産は、業務に使用され、時間の経過と共に劣化するものが該当します。
赤字決算のメリット
赤字で決算を出すことのメリットは以下の3つです。
- 法人税を納めなくてもよい
- 繰越欠損金控除を使うことが可能
- 繰戻し還付を使うことができる
法人税を納めなくてもよい
赤字決算の場合、法人税の支払いは不要となります。赤字によって課税所得がゼロまたはマイナスになるため、法人税額もゼロとなり、その期における法人税の納付義務が発生しません。
同様に法人化していない個人事業主も、課税所得がゼロまたはマイナスであれば所得税がかからず、税負担が軽減されます。この仕組みにより、赤字期間中は税の支払いが免除されるため、経営の再建や資金繰りの改善に専念することが可能です。
税負担を一時的に抑え、事業の立て直しに役立てましょう。
繰越欠損金控除を使うことが可能
赤字決算で発生した欠損金は、次年度以降の課税所得と相殺できる「繰越欠損金控除」により、法人税の節約につながります。この制度は最長10年間、欠損金を繰り越すことができ、例えば200万円の赤字を抱えた後、今年度に100万円の黒字が出た場合、100万円の赤字として確定申告でき、法人税が発生しません。
なお個人事業主の繰越控除期間は最長3年で、青色申告が必須条件です。この制度を活用することで、長期的な税負担の軽減が期待できます。
繰戻し還付を使うことができる
繰戻し還付制度とは、赤字決算が発生した際、その赤字(欠損金)を利用して前年度に支払った法人税の一部を還付請求できる制度です。適用条件は、前年度が黒字で今年度が赤字であること、中小企業であること、さらに資本金が1億円以下で青色申告を行っていることです。
繰戻し還付金は「前年度の法人税額 ×(今年度の欠損金額 ÷ 前年度の所得金額)」で算出され、資金繰りを改善する助けとなります。この制度を有効に活用することで、中小企業の財務負担軽減が期待できます。
赤字決算のデメリット
金融機関は融資を行う際、企業の財務状況を詳細に分析し、返済能力を厳しく評価します。特に赤字決算は、収益が支出を下回ったことを示し、財務上の不均衡を表すのです。これが続くと、企業は収益力の低下や債務の増加に直面し、返済能力が大きく損なわれます。
運転資本を維持するための追加借入はさらなる債務を生み、結果として債務超過に陥るリスクが高いです。債務超過に陥った企業は、新規融資の承認が困難になり、資金繰りの悪化が加速する恐れがあります。
このような背景から、金融機関は赤字決算を重大な財務リスクと捉え、融資判断を慎重に行うのです。
赤字決算のときの資金調達方法
赤字決算のときの資金調達方法には以下の5つがあります。
- ファクタリング
- セーフティネット貸付
- 商工組合中央金庫(商工中金)の融資
- クラウドファンディング
- ビジネスローン
ファクタリング
売掛金がある場合、ファクタリングの利用が資金調達に役立つ方法の1つです。ファクタリングは、支払期日前の売掛債権をファクタリング業者に買い取ってもらい、手数料を差し引いた金額を即座に現金化する仕組みです。急な資金需要や取引先の入金が遅れる場合に便利でしょう。
しかしファクタリング会社によって手数料やサービス内容が異なるため、資金調達の目的や自社の経営状況に応じて最適な業者を選ぶことが大切です。適切な選択で、円滑な資金繰りが実現できるでしょう。
セーフティネット貸付
セーフティネット貸付は、日本政策金融公庫が提供する融資制度で、外的要因により一時的に業績が悪化している事業者を支援するための資金繰り対策です。例えば社会的・経済的な変化に直面し、経営が困難な状況にある企業が対象になります。
一定の要件を満たせば融資が受けられる可能性があり、将来の資金繰りに不安を抱える事業者にとって心強い制度です。検討することで、事業の安定性が高まるかもしれません。
経営環境変化対応資金
経営環境変化対応資金は運転資金と設備資金の双方に利用可能で、融資限度額は国民生活事業で4,800万円、中小企業事業で7億2,000万円。返済期間は運転資金が8年以内(据置期間3年以内)、設備資金は15年以内(同3年以内)です。
金利は国民生活事業で2.03%ですが、原油価格やウクライナ情勢の影響で利益率が前期比5%以上減少した方には1.63%が適用されます。中小企業事業では1.08%が基本で、条件を満たす場合、基準金利は-0.4%(上限2.5%)です。この資金は、売上増加中ながら社会情勢による資金繰り不安を抱える企業が、特別貸付を利用できない場合の選択肢となります。
金融環境変化対応資金
金融環境変化対応資金は、金融機関との取引状況の変化によって一時的に資金繰りが困難となった中小企業者を支援する制度です。対象者には、取引金融機関が業務停止命令を受けた場合や実質的に経営破綻している場合、または借入が整理回収機構に譲渡された場合などがあります。
さらに経営状況が悪化していないにもかかわらず金利が上昇する、取引金融機関から借入残高削減の要請を受ける、といった状況も該当します。この資金は、中長期的に経営が安定し資金繰りが改善すると見込まれる企業が利用可能で、経常利益を計上するなど業況が順調であることが条件です。
取引企業倒産対応資金
取引企業倒産対応資金は、日本政策金融公庫が提供するセーフティネット貸付の1つで、取引先企業の倒産による売掛金の未回収などで資金繰りが悪化した中小企業や個人事業主を支援します。
この制度では、倒産した取引企業に50万円以上の売掛金債権がある場合や、依存度が20%以上の取引先が倒産した場合など、特定条件を満たす場合に利用可能です。融資資金は運転資金に充てることができ、期間は最長8年、融資上限額は国民生活事業で3,000万円、中小企業事業で1億5,000万円です。
突然の倒産リスクによる経営悪化を防ぐため、この制度は共倒れ防止策として重要な役割を果たしています。
商工組合中央金庫(商工中金)の融資
商工中金は中小企業専門の金融機関として、全国47都道府県と海外4カ所に拠点を持っています。昭和初期の恐慌で多くの中小企業が危機に陥った際、政府と組合の共同出資で設立され、中小企業の救済を目的としてきました。
現在も事業再生や経営改善、海外進出支援など幅広いサービスを提供し、新規事業の支援や課題解決を通じて中小企業の成長をサポートしています。商工中金と日本政策金融公庫の違いとして、商工中金は融資額に柔軟性がある点が挙げられるでしょう。
日本政策金融公庫では一定額以上の融資に制限がある場合がありますが、商工中金では必要に応じた融資が期待できるため、柔軟な資金調達を求める中小企業に適しています。
クラウドファンディング
クラウドファンディングは、インターネットを通じて事業やサービスの魅力を伝え、賛同者から少額ずつ資金を集める方法です。たとえ赤字決算であっても、プロジェクト内容が魅力的であれば資金を集められる可能性があります。
しかしすべてのプロジェクトが目標金額に達するわけではなく、達成できなければ資金調達に失敗するリスクもあります。成功させるためには、支援者へのリターン内容を魅力的に工夫したり、広く告知して認知度を高めることが重要です。
ビジネスローン
ビジネスローンとは、事業資金に特化した金融機関の融資商品です。開業資金や運転資金、設備投資などを目的として利用され、多くのローンが無担保で借りられるのが特徴です。場合によっては保証人も不要で、「資金繰りが厳しい」事業者でも利用しやすい点が魅力といえるでしょう。
一方で一般的なカードローンやフリーローンでは、事業資金としての利用が禁止されているため、ビジネスローンは事業者にとって重要な選択肢となります。このローンは銀行、信販会社、消費者金融などで提供されており、それぞれ審査基準、融資スピード、金利が異なります。
迅速な融資を求めるなら消費者金融、低金利を重視するなら銀行が適しているなど、事業者のニーズに合わせた選択が可能です。
赤字でも融資を受けようと考えている場合におさえておきたいポイント
赤字決算の際に融資を受けようと考えている場合は以下のポイントをおさえておきましょう。
- 赤字決算では融資を受けにくい
- 赤字の際に資金調達をしたい場合はファクタリングやクラウドファンディングなどを活用する
- 赤字でも融資を受けられる場合もある
赤字決算であっても、適切な準備と計画があれば融資を受けることは可能です。特に事業計画や将来の収益性を具体的に示すことで、金融機関の理解を得やすくなります。またクラウドファンディングやファクタリングなど、融資以外の資金調達方法も活用することで、経営の安定につなげることができます。
状況に応じてさまざまな資金調達手段を検討し、柔軟な対応で経営の健全化を図りましょう。