上場廃止とは
上場廃止とは、企業の株式が金融商品取引所で取引できなくなることを指します。主に取引所の上場基準を満たさなくなった場合や重大な問題が発覚した際に決定されます。
上場の廃止は、財務状況の悪化や虚偽記載、不正会計などが原因となるケースが多いです。また企業が自ら上場を廃止することを選択する場合もあるのです。
上場廃止が決まると株式は一時的に整理銘柄として取引されますが、期間が過ぎると市場での売買は終了します。ただし上場廃止後も株主の権利は保持され、議決権や配当請求権の行使が可能です。
上場廃止の原因
上場廃止の原因は主に以下2つです。
- 上場廃止基準を満たした場合
- 企業が自主的上場廃止を決定する場合
それぞれ詳しく見ていきましょう。
上場廃止基準を満たした場合
各取引所は上場廃止基準を定めています。その基準のいずれかに該当する場合、上場廃止となります。
上場廃止の基準は以下の5つです。
- 上場に関する契約に違反があった
- 上場維持の条件を満たしていない
- 各種報告書に虚偽記載や不適正な記述があった
- 法定開示書類の提出が期限に間に合わなかった
- 特設注意市場銘柄に指定され、内部管理体制が改善されていない
上場廃止の原因を下記で、詳しく解説していきます。
上場に関する契約に違反があった
上場契約とは、企業が取引所に対して情報開示やガバナンスの遵守を約束する重要な契約です。契約に違反すると、企業が直接不正に関与していなくても、処分を受ける可能性があるのです。違反が確認されると、取引所は市場の信頼性を守るために、最終的な措置として上場廃止を決定します。
また「新規上場の申請に係る宣誓書」の事項に違反がある場合、新規上場の基準を満たしていない場合、1年以内に再度審査を受けた際に新規上場基準を満たせなければ、同様に審査に落ちることになります。
上場維持の条件を満たしていない
取引所は、上場企業に対して財務健全性や情報開示、株式の流動性を維持することを求めています。条件を満たさない場合、取引所は企業に改善を指示します。しかし株主数の減少や時価総額の大幅な下落といった状況が続くと、基準を満たせなくなる恐れがあるのです。
例えば株主数が規定以下に減少した場合、取引所から改善措置を求められることになります。この改善が1年以内に実施されない場合、最終的に上場廃止が決定されるのです。
各種報告書に虚偽記載や不適正な記述があった
上場企業には、財務諸表や有価証券報告書といった重要な書類において、情報開示が求められます。義務を果たさない場合、市場の公正性が損なわれるため、厳しい対応を受けることになるのです。利益の過大計上や負債の隠ぺいが発覚した場合、虚偽記載とみなされます。このような場合は、最終的に取引所は市場の信頼性を守るため、上場廃止を決定せざるを得ません。
法定開示書類の提出が期限に間に合わなかった
上場企業には、定期的に財務諸表や有価証券報告書などの書類を期限内に提出する義務があります。
例えば、決算発表が遅れ、法定開示書類の提出が期限を過ぎた場合、取引所は企業に対して警告します。その後も改善が見られない場合、規定に基づき上場廃止の手続きが進むのです。書類の提出遅延は、企業の内部管理体制の不備や経営管理の弱さを示すものと見なされます。
特設注意市場銘柄に指定され、内部管理体制が改善されていない
特設注意市場銘柄とは、企業の経営管理に問題があると判断されたものの、上場廃止までには至らないと判断された際に、取引所が指定する銘柄のことです。
不正会計や内部管理体制の改善が必要など、発覚した企業が指定されることが一般的です。指定を受けた企業は、一定期間内に内部管理体制を改善しなければなりません。しかし改善計画を実行できず、同様の問題が再発した場合、取引所は企業に改善の意思や能力がないと判断し、最終的に上場廃止の手続きを進めます。
企業が自主的上場廃止を決定する場合
上場廃止を行うと、株式の自由な売買ができなくなるため、外部から経営に関する干渉が減ります。特に敵対的買収を防ぐ手段として効果的です。さらに短期的な株主評価を気にする必要がなくなるため、経営者は中長期的な目線で戦略を練ることに専念できます。
このように、上場廃止は企業の安定的な経営を実現する一つの手段として選ばれることがあるのです。
上場廃止になると株式はどうなるのか?
上場廃止が決まると、通常1ヶ月間は「整理銘柄」として取引が継続されます。
整理銘柄とは、上場廃止基準に該当した銘柄に取引所が指定するもので、投資家に最後の売買機会を与える期間です。整理銘柄の期間中は市場での取引が可能ですが、期間終了後は売買が停止されます。ただし上場廃止後も株主の権利である議決権や配当請求権は維持されます。
また個人間取引で株式を売却することも可能です。しかし企業が深刻な財務問題を抱えている場合、株式の価値が低下することがあります。その結果、売却相手を見つけるのが困難になるケースも少なくありません。
上場廃止は投資家に大きな影響を与えるため、整理銘柄期間中に対応をしておくことが大切です。
上場廃止すると社員はどうなる?
上場廃止は株式市場での取引が停止されることですが、事業活動そのものは継続可能です。そのため、社員の雇用に影響が出るとは限りません。
ただし上場廃止後の財務状況や経営方針によっては、人員整理が実施される可能性はあります。特に上場廃止の原因が業績の悪化である場合、コスト削減としてリストラが行われることもあるのです。一方で企業が安定した経営を維持している場合、社員の雇用は保たれます。
上場廃止が必ずしも社員の雇用不安につながるわけではありませんが、企業の経営状況を知っておくことは大切です。
上場廃止のメリット
上場廃止のメリットは以下の通りです。
- 自由度の高い経営ができる
- 上場を維持するためのコストを削減できる
それぞれ解説していきます。
自由度の高い経営ができる
上場企業の場合、経営は株主の意向に大きく左右されます。例えば、経営改革や新規事業への投資を行う際には、株主総会での承認が必要です。また経営状態が悪くなると株主からの批判や圧力が高まり、意思決定が困難になることもあります。
一方で上場廃止を選択することで、株主の承認を必要とせずに経営判断を行えるようになります。経営者のビジョンで長期的な戦略や大胆な改革が可能です。そのため、上場廃止後に新たな市場への参入や独自の製品開発に注力し、業績を大きく伸ばせる可能性もあるでしょう。
上場を維持するためのコストを削減できる
上場を維持するには、年間で48〜456万円ほどの費用がかかります。(費用は、時価総額や上場する市場によって大きく異なります。)例えば監査費用や上場手数料、有価証券報告書の作成費などです。上場維持費を削減することで、企業は財務負担を減らし利益率を向上させることが可能です。
さらに上場企業は法律によって、財務諸表や四半期報告書の提出が義務付けられており、膨大な事務作業が発生します。膨大な事務作業は従業員にとって大きな負担となり、他の業務への支障にもなります。
上場廃止を決定すれば、膨大な事務作業から解放され、社内のリソースを新規事業や顧客対応といった業務に振り向けることが可能です。結果として上場廃止はコスト削減にとどまらず、企業の経営効率を大幅に向上させるメリットもあります。
上場廃止のデメリット
上場廃止のデメリットは以下の通りです。
- 会社のブランドや信用度が低下する
- 資金調達できる手段が減る
以下で、これらのデメリットが具体的に企業に与える影響を詳しく解説していきます。
会社のブランドや信用度が低下する
上場を廃止することで、会社のブランドや信用度が低下する恐れがあります。というのも、「上場企業」という肩書きは、企業の信頼性や社会的な評価を高める要素だからです。「上場企業」の肩書きを失うことで、顧客からの信頼が揺らぎ、売上が減少する可能性があります。
さらに金融機関からの融資審査が厳しくなり、資金調達が困難になるリスクもあります。資金繰りの悪化や新規事業を展開する際には、大きなデメリットになるでしょう。
そのため、上場廃止後は「顧客・株主・金融機関」にしっかりと説明を行うことが大切です。
資金調達できる手段が減る
上場を廃止すると、資金調達手段が減ります。上場企業は、取引所を通して一般投資家から資金を調達できますが、廃止後はこの方法が使えません。資金調達の手段が減ると、必要な資金を確保できず、倒産する可能性もあるのです。例えば、新規プロジェクトの立ち上げや急に資金が必要なときに対応できないと、企業は資金繰りに苦しむ可能性があります。
そのため、上場を廃止する前に、銀行融資や投資家との関係を作っておくなど、複数の資金調達手段を確保しておくことが重要です。準備を怠ると最悪の場合、事業継続が困難になる恐れがあります。
上場を廃止するまでの流れ
上場廃止には、主に以下の2つのパターンがあります。
- 証券取引所による上場廃止されるまでの流れ
- 自主的に上場廃止するまでの流れ
それぞれ具体的に解説していきます。
証券取引所による上場廃止されるまでの流れ
証券取引所は、上場企業が一定の基準を満たさなくなった場合、警告を発します。基準には財務状況の悪化や適時開示の不備、法定書類の提出遅延などが含まれます。
警告後、状況が改善されない場合、企業は監理銘柄または整理銘柄に指定されるのです。期間中企業には一定の改善猶予が与えられ、基準を再び満たすための対応が求められます。猶予期間内に基準を満たせない場合、最終的に上場廃止が正式に決定されます。
自主的に上場廃止するまでの流れ
企業は取締役会で上場廃止の必要性を検討します。検討の主な理由として、株式市場での資金調達が不要になったことや非公開化による経営の向上です。
次に、株主総会で上場廃止の承認を得る必要があります。株主総会の段階では、株主に対して上場廃止の目的やメリットを説明し、賛同を得るための議論が行われるのです。
その後、株主からの賛同を得られると、整理銘柄に指定され、1ヶ月後に上場廃止になります。
実際に上場廃止をした企業の事例
上場廃止は企業の経営戦略上の重要な決断であり、さまざまな理由で行われます。
ここでは、実際に上場廃止を行った企業の事例を5社紹介します。
株式会社よみうりランド
株式会社よみうりランドは、2022年に株式の併合を実施し、上場廃止となりました。株式の併合により少数株主の権利が整理され、株式公開の必要性がなくなったためです。
日本通運株式会社
日本通運株式会社は、2021年にグループの持株会社体制を強化する目的で、NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社の完全子会社となりました。この再編により、経営資源の最適化とグループ全体の競争力向上を目指しています。
株式会社大塚家具
株式会社大塚家具は、2019年に株式会社ヤマダホールディングスの完全子会社となり、上場を廃止しました。業績悪化が続く中、ヤマダホールディングスとの資本提携により再建を図ることが目的です。
株式会社島忠
株式会社島忠は、株式の併合によって上場廃止を行いました。親会社であるニトリホールディングスの完全子会社となることで、グループ全体の相乗効果を最大化するためのものです。
株式会社ジーンズメイト
株式会社ジーンズメイトは、共同株式移転によってREXT株式会社の完全子会社となり、2020年に上場を廃止しました。
上場廃止した企業の再上場
上場廃止した場合でも、審査を通過することで再上場は可能です。ただし再上場する際は新規上場(IPO)よりも審査基準が厳しくなります。さらに、MBO(Management Buyout)というM&Aの手法を利用し、経営者が自社株を買い取って株式を非公開化し、その後再上場を目指す事例もあります。
上場廃止した企業が再上場するために必要な基準を下記にてまとめました。
東証プライム市場
- 株主数:800人以上
- 流通株式数:20,000単位以上
- 流通株式時価総額:100億円以上
- 流通株式比率:35%以上
- 財政状態:連結純資産50億円以上、かつ単体純資産の額が負でないこと
- 利益の額(連結):最近2年間の利益の額の総額が25億円以上であること。または最近1年間における売上高が100億円以上である場合で、か、時価総額が1,000億円以上となる見込みのあること
東証スタンダード市場
- 株主数:400人以上
- 流通株式数:2,000単位以上
- 流通株式時価総額:10億円以上
- 流通株式比率:25%以上
- 財政状態:連結純資産が正
- 利益の額(連結):最近1年間における利益額が1億円以上であること
東証グロース市場
- 株主数:150人以上
- 流通株式数:1,000単位以上
- 流通株式時価総額:5億円以上
- 流通株式比率:25%以上
- 財政状態:ー
- 利益の額(連結):ー
下記は、上場廃止後に再上場した企業の例です。
- 大王製紙株式会社:1963年に上場廃止、1982年に再上場
- 株式会社すかいらーくホールディングス:2006年に上場廃止、2014年に東証1部に再上場
- ソフトバンク株式会社:2005年に上場廃止、2018年に東証1部に再上場
上場廃止について解説しました
本記事では上場廃止の概要や廃止になる原因、メリットとデメリットについて解説しました。上場廃止とは、企業の株式が金融商品取引所で取引できなくなることです。上場廃止を検討しているが、企業の存続が心配と感じている経営者の方も多いです。しかし上場廃止したからといって企業が倒産するわけではありません。上場廃止後も、企業を運営することができ、再上場することも可能です。そして、上場廃止はデメリットだけではなく、自由度の高い経営ができるなどメリットもあります。
上場を廃止する際は、メリットとデメリットをしっかりと比較し、どちらの方が経営をしやすいのか検討することが大事です。