財務管理とは
財務管理とは、企業における資金の流れを管理し、経営の安定や事業の成長を支える業務のこと。決算書の作成や財務分析、資金管理などを通じ、経営視点で企業のお金の出入りを管理します。
財務管理の役割と目的
財務管理の役割と目的には、次の4点があげられます。
- 事業に必要な資金の調達
- 資金の効率的な運用
- リスク管理
- 企業価値の最大化
事業に必要な資金の調達
事業のための資金調達は、財務管理における重要な役割のひとつです。新たに新規事業を立ち上げる際には、多額の資金が必要となります。財務状況や経営戦略などに応じ、株式の発行や銀行からの借入、社債発行といった方法から最適な手段を選び、資金調達を行うのは財務管理の役割です。
資金の効率的な運用
資金を無駄なく運用することも、財務管理の役割です。調達した資金を最大限に活用するためには、効率的な運用が欠かせません。各投資案件の収益性や意義を慎重に分析し、資金を適切に配分します。
余剰資金に関しても、適切に管理して収益を創出することで、財務的な効率性を高めることが求められるでしょう。
リスク管理
財務管理は、企業の健全な成長を実現するべく、リスク管理の役割も担っています。
例えば、各提携先との取引において、支出を正確に追跡することも財務管理の重要な責務です。違法なリベート、資金環流といった不正行為を未然に防ぐために、資金の流れを常に統括して、モニタリングすることが求められています。
企業価値の最大化
企業価値の最大化は、財務管理において非常に重要な目的です。収益性の改善、司法効率の向上、最適な資本構成の維持を通じ、企業価値や株主価値を高めます。
具体的には、ROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)といった財務指標を改善することで、投資家や株式市場からの評価向上へとつなげる役割を持つのが財務管理です。
財務管理・財務会計・会計管理の違い【比較表付き】
財務管理と類似した業務に、財務会計や会計管理があげられます。それぞれの違いを簡単に表にまとめたので、詳細の説明とあわせて確認してみてください。
財務管理
- 目的:経営戦略支援
- 主な対象:社内の管理者
財務会計
- 目的:外部報告
- 主な対象:外部のステークホルダー
管理会計
- 目的:内部管理
- 主な対象:社内の管理者
財務会計とは
財務会計とは、企業の財務状況について外部関係者に伝えるための会計手法です。投資家や債権者といった企業外部のステークホルダーに対し、財政状態を開示します。
具体的には、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書などを作成し、公正で正確な財務情報を提供するのが財務会計の役割です。これにより、株式の投資判断や融資の可否に関する適切な判断を可能とします。
財務管理と財務会計の違い
財務管理では企業の健全な成長を実現するために、資金調達や運用、管理が行われます。一方財務会計では、外部のステークホルダーに対し、経営状態を明らかにすることが主な目的です。
経営戦略のために資金を管理したいのか、あるいは社内の財政状況を外部に伝えたいのかといった点で、財務管理と財務会計は大きく異なるでしょう。
管理会計とは
管理会計とは、経営者をはじめとする社内の管理者が、経営判断の一材料として活用するための会計手法です。経営分析や予算管理、損益管理などを通じ、意思決定に役立つ情報を用意します。
財務管理と管理会計の違い
会社全体の資金の流れを管理し、安定した経営や事業の成長へと役立てるのが財務管理です。一方で管理会計は、経営者・管理者の意思決定をサポートするべく、経営状況の分析や管理が行われます。
財務管理と管理会計は、社内の経済活動を管理する点においては類似していますが、役割や目的は異なるでしょう。
財務管理における「キャッシュ」の重要性
財務管理において、キャッシュは重要な要素の1つです。現金が枯渇してしまえば、支払い能力がなくなり対外的な信用を著しく損なう可能性があります。
会計上の利益とキャッシュの性質は根本的に異なり、会計処理では当月の売上が売掛金として計上されますが、実際の現金入金は翌月以降です。このため、会計上の利益だけに注目すると、気付かぬうちにキャッシュが不足し、深刻な資金繰りが苦しくなる可能性があります。
資金繰り表を詳細に分析し、実際の現金の流れを明確に把握することで、財務の健全性を維持しましょう。
財務管理の仕事内容
財務管理では、次にあげる5つが主な仕事内容とされています。
- 決算書作成
- 資金管理
- 利益管理
- 予算管理
- 財務分析
決算書作成
決算書とは、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書などを含んだ資料のこと。該当期間における会社の経営状態や資金の流れに関してまとめられています。
経営分析や投資価値の判断、与信管理などに役立つ重要な資料なので、作成する際は正確性が重要です。また、多くのデータを収集する必要があるため、早めに作成準備に取り掛かっておくと安心でしょう。
資金管理
財務管理では資金計画や資金統制といった資金管理業務も行います。事業収支に関する計画立案を行うのが資金計画、資金計画をベースに、実際の資金調達を進めるのが資金統制です。
資金管理を適切に行うことで、資金の枯渇を未然に防止し、事業の成長へとつなげられます。
利益管理
利益管理では会社の利益についての計画を立案・統制します。具体的な業務は、利益計画・利益統制の2つです。
利益計画では、売上高の予測をベースに、目標利益達成へ向けた利益計画を立てます。一方利益統制では、目標利益と実績のギャップに関する分析、目標利益達成のためのモチベーション維持管理などを行うのが一般的です。
予算管理
財務管理では予算管理も業務のひとつです。具体的には、次の4種類の予算を管理します。
- 売上予算:一定期間内での達成を目指す売上高の目標を設定
- 原価予算:一定期間内の商品・サービス提供に必要な原材料費や仕入れ費の算出
- 経費予算:人件費・広告費・賃料など、企業活動にかかる運営費用の予算計画
- 利益予算:売上から原価や経費を差し引いた利益予算の算出
財務分析
財務分析では、作成した決算書をもとに企業の財務状況を分析します。基本的な分析項目は、次の5つです。
- 収益性の分析:どのくらいの収益をあげられるのか、利益を生み出す力を分析
- 安全性の分析:企業の支払い能力や倒産リスクを分析
- 生産性の分析:経営資源を無駄なく効率的に活用できているかを分析
- 成長性の分析:一定期間における企業の成長度合いと将来性を分析
- 効率性の分析:資産の活用効率に関する分析
財務管理に役立つおすすめの資格
財務管理に必須の資格はありませんが、次にあげる4つの資格は財務管理業務に役立ちます。
- 日商簿記検定
- ファイナンシャルプランナー(FP)
- ビジネス会計検定
- FASS検定(経理・財務スキル検定)
日商簿記検定
日商簿記検定は企業における会計処理技能を測る検定試験です。経営状況の把握や管理に必要となるスキルであることから、財務管理にも役立つとされています。
レベルは1級から3級に分けられており、もっとも難しい1級は合格率が10%ほど(※1)。しかし、2級であれば20%ほど、3級であれば40%ほどとなるため、まずは3級から取得してみることをおすすめします(※2)。
※1,2 出典:簿記 受験者データ | 商工会議所の検定試験
ファイナンシャルプランナー(FP)
ファイナンシャルプランナーには、国家資格とされる「FP技能士」と、民間資格とされる「AFP」と「CFP®」があげられます。どれも金融に関する豊富な知識が必要とされますが、財務管理においては「FP技能士」を取得しておくといいでしょう。
「FP技能士」は1級と2級に分けられており、難易度の高い2級であっても合格率は50%ほどと低くありません(※)。しかし、筆記だけでなく実技もあるため対策が必須です。
※出典:FP技能士の取得者数 及び 試験結果データ | 日本FP協会
ビジネス会計検定
ビジネス会計検定は、決算書・財務諸表の理解力や経営分析力を評価する検定試験です。実際の会計処理能力ではなく、財務諸表に記載された数値を的確に把握できるかといった点を重視しています。
1級から3級まで用意されており、もっともやさしい3級であれば合格率は70%ほどなので、挑戦しやすい資格のひとつです(※)。
※出典:あらゆるビジネスパーソンの仕事に活かせる!ビジネス会計検定試験 過去の受験者データ
FASS検定(経理・財務スキル検定)
FASS検定は、経済産業省により開発された経理・財務能力を測定する検定試験です。資産・決算・税務・資金の4分野から成り、合格・不合格ではなくAからEの5段階評価とされています。
ちなみに、財務に関する基本的な知識があるとされるのはCレベルで、受験者のうち30%ほどを占めています(※)。合否ではなくレベル別の評価なので、実力を試す意味でも受験してみる価値があるでしょう。
※出典:受験者データ:FASS検定|FASS 経理・財務人材育成事業 公式サイト
財務管理でよくある課題と対策
財務管理においてはさまざまな課題がつきものです。ここからは、よくある課題3つと対策方法をわかりやすく解説します。
キャッシュフロー管理に不備がある場合の対策
財務管理を行う上でキャッシュフロー管理に不備がある場合、収入を早く・多く、支出を遅く・少なくするのが何よりもの対策です。
具体的には、以下のような対応が効果的でしょう。
- 入金予定日を過ぎたら督促状や催促状を送付するなど、売掛金回収を徹底する
- 遅延損害金を事前に提示し、早期入金を促進する
- 無駄と思われる経費を削減し、固定費を変動費に切り替える
業務の効率が悪く煩雑化しやすい場合の対策
財務管理は取り扱うデータが多いことから、業務が煩雑になり、担当者の負担となってしまいがちです。業務効率をあげるためには、業務の細分化から始めてみましょう。
また、業務に無駄はないか、優先順位に見直すべき点はないかなどを確認することで、業務プロセス全体をブラッシュアップできます。財務管理を効率化できるクラウドシステムやパッケージシステムを導入し、業務のデジタル化を進めるのも効果的です。
投資と回収のバランスが取れていない場合の対策
財務管理において投資と回収のバランスコントロールができていない場合には、投資からの回収、再投資、そして再回収へと向かう好循環を構築しましょう。ROE(自己資本利益率)の数値を考慮しながら、安定したキャッシュフローを確立することを意識してください。
また、商品企画やマーケティング戦略を見直し、無駄なコストがないか徹底して確認することで利益を創出しやすくなるでしょう。
財務管理をスムーズに進めるポイント
財務管理を効率的に進めるためには、次にあげる3つのポイントを押さえておきましょう。
- 財務管理システムを導入する
- 部署間の連携を強化する
- 財務専任の担当者を設ける
財務管理システムを導入する
財務管理システムはデータ収集や分析、レポート作成などを効率化でき、会社の財務状況をリアルタイムに把握できます。システムによる自動化により、入力ミスや対応漏れといった人的ミスの防止にも効果的です。
財務管理を効率化し、業務改善や経営判断の迅速化を実現するのにおすすめと言えます。
部署間の連携を強化する
財務管理における決算書作成では、部署間の連携強化が欠かせません。各部署から必要な情報を迅速かつ正確に収集することで、会社全体のお金の流れを把握しましょう。
また、収集したデータの信頼性を担保するためには、細かな検証が不可欠です。決算書は毎月作成し、経営状況をタイムリーに把握できる体制を構築してください。
財務専任の担当者を設ける
財務部門と経理部門の役割を明確に区分し、それぞれに専門の担当者を配置することにより、財務管理の効率化と精度向上につながります。
企業の資金戦略を担う財務部門と、日常的な取引記録や帳簿管理を行う経理とでは、同じく金銭を扱っていても目的や役割は別物です。同じ担当者が兼任することで、業務負荷の増大やミスのリスク上昇、専門性の低下が懸念されます。
財務管理を効果的に進めるためには、財務専任の担当者を設けましょう。
IPOに向けて経理・財務職がやるべきこと
IPOに向けて経理・財務職がやるべきこととして、次の3点があげられます。
- 内容不明な残高の確認
- 会計書類の作成・管理
- 内部監査対応
内容不明な残高の確認
企業の財務諸表において、貸借対照表上に不明な残高がある場合は慎重に精査しましょう。不透明な感情科目があれば、潜在的に企業価値を毀損するリスクがあるためです。
不明な残高を徹底的に洗い出し、適切に処理することで、財務報告の信頼性と透明性を確保できます。
会計書類の作成・管理
上場企業となった場合は、決算短信、有価証券報告書の作成が必要となるのに加え、請求書や領収書、契約書など会計の根拠となる書類をすべて管理しなければなりません。
会計書類の作成・管理には細かなルールが設けられているため、まずはルールを理解するところから始めましょう。場合によっては、監査法人によるアドバイスを受けるのも1つの手段です。
内部監査対応
IPOに向けて準備をする際、内部監査への対応も欠かせません。内部監査担当者から求められた書類を適切に提出できるよう用意するほか、指摘があった場合は早急に改善対応を行うなど、スムーズに応じられるよう心がけましょう。
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適切な財務管理で企業を成長させよう
本記事では財務管理の基礎から財務会計・管理会計との違い、財務管理の仕事内容などを解説しました。
財務管理は経営状況を改善し、企業を安定して成長させていくために重要なプロセスです。事業の立ち上げや拡大、新たな設備投資に向けて資金を調達するには、適切な財務管理が欠かせません。
管理の煩雑さが負担となっている場合には、財務管理を効率化するクラウドシステムやパッケージシステムの導入も視野に入れ、円滑な財務管理を実現しましょう。