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無償ストックオプションとは?税制適格の要件とメリット・デメリット、会計処理を徹底解説

無償ストックオプションとは?税制適格の要件とメリット・デメリット、会計処理を徹底解説

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無償ストックオプションとは、企業が従業員や役員に対し、あらかじめ設定した価格で自社株を購入できる権利を無償で付与する制度です。「税制適格」と「税制非適格」の2種類があり、適格要件を満たすことで税金面で優遇されます。

本記事では、無償ストックオプションの仕組みや種類、メリット・デメリット、会計処理の詳細に加え、有償ストックオプションとの違いについても詳しく解説します。

無償ストックオプションとは

そもそもストックオプションとは?

ストックオプションとは、企業が従業員や役員、協力関係にあるパートナーなどに対し、あらかじめ設定した価格で自社株を購入できる権利を与える制度のことです。企業の成長と従業員の報酬が連動するインセンティブの一種であり、特にスタートアップ企業や成長フェーズにある企業で積極的に導入されています。

以下の記事では、ストックオプションについて詳しく解説しています。ぜひ併せて確認してみてください。

<関連記事>IPOを目指す企業必見! ストックオプション徹底解説と法務戦略の重要性

無償ストックオプションとは

無償ストックオプションとは、企業が従業員や役員に対し、あらかじめ設定した価格で自社株を購入できる権利を無償で付与する制度です。特に創業初期のスタートアップ企業では、十分な資金を持たない従業員に対し、金銭的負担なく将来的な利益の機会を提供できる仕組みとして広く活用されています。

たとえば、企業が成長して株価が上昇すれば、従業員は市場価格よりも低い権利行使価格で株式を取得し、売却時に利益を得ることが可能です。このように、無償ストックオプションは、初期段階の企業が優秀な人材を確保し、成長とともに従業員の報酬を向上させる手段として活用されています。

無償ストックオプションの種類

無償ストックオプションには税制適格と税制非適格があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

税制適格ストックオプション

税制適格ストックオプションは、一定の要件を満たすことで税制上の優遇を受けられる制度です。通常、ストックオプションを行使して株式を取得する際には、権利行使価格と時価の差額が給与所得とみなされ、最大55%の税率で課税される可能性があります。

しかし、税制適格ストックオプションでは、権利行使時には課税が発生せず、株式を売却したタイミングでのみ約20%の譲渡所得税が適用されます。株価上昇による利益を最大限に享受しながら、税負担を抑えることが可能です。

特に取締役や監査役といった経営層に対して報酬として付与されることが多く、企業が優秀な人材を確保する目的でインセンティブとして活用されています。税制適格の要件を満たすことで、企業側も従業員側も税務面でのメリットを享受できるため、株式報酬制度としての導入が進んでいます。

税制非適格ストックオプション

税制非適格ストックオプションは、税制適格要件を満たさないストックオプションのことで、税負担が重くなる点が特徴です。権利行使時に、株価と権利行使価格の差額が給与所得とみなされ、最大55%の累進課税が適用されます。そのため、株式を売却して現金を手にする前の段階で、多額の税金を支払う必要が生じる可能性があります。

さらに、株式を売却する際には譲渡所得税(約20%)が別途発生することから、「二重課税」の状態です。すでに権利行使時に給与課税を受けたにもかかわらず、売却時にも課税されるため、税負担の合計額が大きくなり、期待していた利益が大幅に減少するリスクがあります。

税制適格ストックオプションにおける適格要件

税制適格ストックオプションを導入するためには、適格要件を満たす必要があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

①発行形態

無償で発行する必要があります。また、譲渡が禁止されており、本人のみが権利を行使できます。

参考:

租税特別措置法施行令 第19条の3第1項

租税特別措置法 第29条の2第1項4号

②行使価額の制限

権利行使価額には年間の上限が定められています。企業の設立年数や上場状況によって異なりますが、付与された従業員一人あたり最大で3,600万円までです。一度でも条件を超えると、それ以降の行使価額がいくらであろうと税制適格の対象外となるため、慎重な計画が必要です。

さらに、付与時の株価の時価以上であることも要件で、極端に低い行使価額の設定は認められません。

③行使期間の制限

権利行使期間は、通常付与決議から2年後から10年後の8年間に限定されています。ただし設立5年未満の未上場企業は、権利行使期間が最大で15年まで延長されます。

参考:租税特別措置法 第29条の2第1項1号

④付与対象者

従来の付与対象者は発行会社およびその子会社の取締役、執行役、従業員に限定されていましたが、2019年7月の改正により、専門的なスキルを持つ社外の高度人材も対象として認められるようになりました。たとえば弁護士や会計士などの国家資格保持者、博士号を持つ研究者、特定の産業で豊富な実績を持つ人材などが該当します。

一方で大口株主やその特別関係者には付与できないとする制限もあり、本来の目的である「企業成長のためのインセンティブ」として正しく機能するように設計されています。

⑤保管委託

通常、権利行使によって取得した株式は証券会社などに保管を委託する必要があります。しかし、令和6年税制改正大綱において、譲渡制限付き株式である場合には、発行企業自身が管理することで保管委託を不要とする措置が導入されました。この変更により、企業側の管理負担が軽減されるだけでなく、制度の導入と運用がよりスムーズに行えるようになりました。

参考:令和6年税制改正大綱

無償ストックオプションのメリット

導入前に、下記のメリットについて確認しておきましょう。

①付与対象者の出費を抑えられる

付与時に対象者が費用を負担する必要がありません。創業初期のスタートアップ企業では、従業員や役員が十分な資金を持っていないケースが多いため、金銭的な負担なしでストックオプションを受け取れる仕組みは魅力的です。

②税制適格ストックオプションはインセンティブ効果が高い

権利行使時点では課税されず、最終的に株式を売却して利益を得たときにのみ譲渡所得として課税されます。

付与対象者は権利行使のタイミングで余計な税負担を気にすることなく、株価の上昇を待って有利なタイミングで売却し、利益を最大化できます。

企業の上場を目指している場合、従業員はストックオプションを保有し続け、IPO後に株価が大きく上昇したタイミングで売却することで、税負担を最小限に抑えながら高いリターンを得ることが可能です。企業の成長を直接的な利益として享受できるため、従業員のモチベーション向上にもつながります。

③税金や株式の知識が少ない従業員でも安心して利用できる

権利行使時に税金が発生しないため、従業員が制度の詳細を知らなくても、税務上のトラブルを避けやすくなります。たとえば、通常の株式投資では購入資金が必要となりますが、無償ストックオプションであれば初期費用なしで株式の取得機会を得ることが可能です。

また、税制適格・非適格を問わず、ストックオプションの権利行使は従業員の任意であり、株価の状況を見ながら最適なタイミングで実行できるため、リスク管理がしやすい点もメリットです。

IPO準備において、フェーズごとのタスクとスケジュールについて詳しく知りたい方は、ぜひ以下お役立ち資料も併せて確認してみてください。

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無償ストックオプションのデメリット

続いて、デメリットについても詳しく見ていきましょう。

①損金算入ができない

無償で付与するため、発行企業にとっては直接的なコストが発生しません。しかし、その一方で、企業の税務上のメリットである「損金算入」ができないというデメリットがあります。

通常、企業が従業員に対して給与や報酬を支払う場合、その支出は損金として計上できるため、法人税の軽減効果があります。しかし、現金支給ではなく株式による報酬である無償ストックオプションは、企業の費用として損金扱いにできません。

②税制優遇措置を受けられる企業が限られている

先述の通り、「税制適格ストックオプション」として優遇措置を受けるためには、5つの適格要件を満たす必要があります。無償でストックオプションを発行したとしても、これらの要件を満たさない場合は税制優遇措置を受けることができません。その結果、実際に税制優遇措置を享受できるのは一部の企業に限られています。

③税制非適格となると二重課税されるリスクがある

適格要件を満たしていれば、株式を売却したタイミングでのみ課税されます。しかし何らかの理由で税制非適格となった場合、権利を行使して株式を取得した時点でも課税される可能性があります。これは「キャピタルゲイン」としての利益を実際に得る前に税負担が発生することを意味しており、付与対象者にとってデメリットです。

④株主総会での決議が必要

無償ストックオプションを役員に付与する場合、それは役員報酬として取り扱われるため、法的要件により株主総会での決議が必要です。この決議プロセスにより、ストックオプションの導入に関して発行時期や手続きに制約が生じ、迅速な実施が難しくなる可能性があります。また株主総会においては、付与の目的や条件を明確に説明する必要があるため、事前の準備や株主の理解を得るための対応も求められます。

無償ストックオプションのデメリットを解消する有償ストックオプション

有償ストックオプションとは

有償ストックオプションとは、特定の条件を満たす人が新株予約権を公正価格で購入し、その後の株価上昇によって得られる差額を利益とする制度です。無償ストックオプションとは異なり、事前に新株予約権を取得する際にコストが発生します。

有償ストックオプションを活用することで、前述した無償ストックオプションのデメリットを効果的に解消することが可能です。

有償ストックオプションのメリット

それでは有償ストックオプションのメリットについて詳しく見ていきましょう。

①税制上のメリットを得られる

公正な価格で新株予約権を購入する仕組みのため、税制適格ストックオプションとは異なり、権利行使時点での税負担が発生しないケースがほとんどです。

一方無償ストックオプションは税制適格要件を満たしていない限り、権利行使時に給与所得課税が発生します。

②税制適格要件の制約を受けない

税制適格ストックオプションとは異なり、適用要件の制約を受けることなく自由な設計が可能です。たとえば税制適格要件には付与対象者が「会社の取締役や従業員に限定される」「権利行使価格が発行時の株価以上でなければならない」などの厳しい制約があります。

しかし、有償ストックオプションであれば、これらの要件に縛られずに柔軟な設計が可能なため、企業が求めるインセンティブ設計をより自由にカスタマイズできます。

③従業員の意識を高めやすい

無償ストックオプションでは、付与された従業員が制度を十分に理解しないまま受け取ることで、会社の成長に対する意識が薄れることがあります。一方有償ストックオプションでは、従業員は発行条件を吟味し、会社の将来性を考えた上で自らの意思で決断を下すことが多いです。

そのため、従業員が会社の成長に積極的に関与する意識が高まりやすく、結果として企業価値向上に貢献するモチベーションが向上するでしょう。

④迅速な報酬制度の導入が可能

先述したように無償ストックオプションを役員に付与する場合、会社法上の役員報酬とみなされるため、株主総会での承認が必要です。発行のタイミングが定時株主総会に限定され、スピーディな導入が難しい側面があります。

一方で有償ストックオプションは「投資」に該当するため役員報酬には該当せず、取締役会の決議のみで発行できます。株主総会を待つ必要がなく、機動的にストックオプションを発行でき、事業の成長に応じた柔軟なインセンティブ設計が可能です。

有償ストックオプションのデメリット

続いて有償ストックオプションのデメリットについても、詳しく見ていきましょう。

①付与時に費用負担が必要

付与対象者が新株予約権を取得する際は、費用負担が発生します。無償ストックオプションでは、企業が従業員や役員に対して報酬として付与し、付与対象者が初期費用を負担することはありません。

しかし有償ストックオプションでは、新株予約権が公正価格であるため、付与対象者に一定の資金が必要です。特に創業初期のスタートアップ企業では、若手の従業員や役員の資金力が十分でない場合が多く、経済的な負担が大きくなることから、導入が難しくなるケースもあります。

②リスクが高い

無償ストックオプションの場合、価格が市場価格よりも低ければ権利を行使する必要はありません。したがって予想外に価格が低下しても、経済的な損失を受ける事態を避けることができます。

しかし有償ストックオプションでは、すでに費用を支払っているため、株価が期待通りに成長しなければ支払った金額がそのまま損失となる可能性があります。

税制適格ストックオプションの会計処理

会計処理の方法は、4つのタイミングで異なります。価値評価はブラック・ショールズ法で計算することが一般的です。

以下、それぞれのタイミングにおける会計処理を詳しく説明します。

ストックオプション付与時

ストックオプションを付与する際には、企業の種類によって会計処理が異なります。

未上場企業の場合、付与時点での株価が行使価格以下の場合、本源的価値は0とみなされ、仕訳は発生しません。

一方、上場企業では、公正な評価額をもとに対象勤務期間に応じて費用計上します。

【未上場企業】

  • 借方:仕訳なし 金額:-
  • 貸方:仕訳なし 金額:-

【上場企業】(公正な評価額500・対象勤務期間2年)

  • 借方:株式報酬費用 金額:250
  • 貸方:新株予約権 金額:250

上場企業の場合、公正な評価額500を2年間に分割して計上するため、1年あたりの費用は250です。翌年も同様に行います。

権利行使時

権利が行使された場合、企業は株式を発行し、行使価格に応じた金額を資本金と資本準備金に振り分けます。

【未上場企業】(行使価格200)

  • 借方:当座預金 金額:200
  • 貸方:資本金 金額:100
  • 資本準備金 金額:100

【上場企業】(行使価格200×10個)

  • 借方:当座預金 金額:2,000
  • 新株予約権 金額:500
  • 貸方:資本金 金額:1,250
  • 資本準備金 金額:1,250

株式売却時

株式売却時の会計処理は、未上場企業・上場企業のどちらも共通しており、株主が変わるだけのため仕訳は不要です。

【未上場企業】

  • 借方:仕訳なし 金額:-
  • 貸方:仕訳なし 金額:-

【上場企業】

  • 借方:仕訳なし 金額:-
  • 貸方:仕訳なし 金額:-

権利失効時

未上場企業では新株予約権勘定を計上していないため、仕訳は不要です。

一方、上場企業では新株予約権を取り消し、「新株予約権戻入益」として処理します。

【未上場企業】

  • 借方:仕訳なし 金額:-
  • 貸方:仕訳なし 金額:-

【上場企業】(公正な評価単価50・付与数2個)

  • 借方:新株予約権 金額:100
  • 貸方:新株予約権戻入益 金額:100

無償ストックオプションを有効活用しよう

無償ストックオプションを導入する際には、税制適格要件を満たすかどうかが重要なポイントとなり、適切な計画と管理が必要です。一方で有償ストックオプションは、税制適格要件に縛られず柔軟な設計が可能なため、企業の成長戦略や人材採用の方針に応じて適切な選択をすることが求められます。

制度を適切に活用することで、従業員のモチベーション向上や長期的な成長を促進することが可能です。自社に最適な制度を選び、戦略的に導入・運用することで、企業価値の向上につなげていきましょう。

IPO準備ガイドブック フェーズごとに徹底解説!IPOに必要なタスクとスケジュール

Startup JAM編集部
執筆

Startup JAM編集部

Startup JAM編集

AI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」を提供する株式会社LegalOn Technologiesの、「Startup JAM-スタートアップ向けにビジネスの最前線をお届けするメディア-」を編集しています。

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