内部監査とは
内部監査とは、公正かつ独立した立場から行われる以下の業務です。
- 経営諸活動の遂行状況を検討・評価し、助言や勧告を行う監査業務
- 特定の経営諸活動の支援を行う診断業務
組織体の経営目標の、効果的な達成を目指す取組です。
まずは内部監査に関する、基本的な知識を確認していきましょう。
内部監査の設置が必要な企業
内部監査自体には、法的な定義や義務はありません。ただし以下の企業では、内部統制の一環として、内部監査を受ける必要があります。
- 取締役会設置会社
- 大会社(資本金5億以上、または負債総額200億円以上の株式会社)
- 上場企業
内部統制の内容や目的を定めているのは、金融商品取引法や会社法です。各法律では内部統制において、以下の項目を確保するための体制を整備することが規定されています。
法令や定款に適合した取締役の職務執行
株式会社や、子会社から成る企業集団の業務の適正
(会社法362条・金融商品取品法24条)
内部監査は企業に、適正で法に則った経営を行わせるための機関なのです。
内部監査を設置しなくとも良い企業
取締役会を設置していなかったり、規模が小さかったりする企業には、内部監査を設置する法的義務はありません。ただし内部監査の結果は、外部的な信頼度の向上にも貢献します。
また上場企業は、内部監査を設置義務があります。将来的にIPOを目指す場合には、内部監査の設置を検討する必要があるでしょう。
監査役監査・外部監査との違い
内部監査、監査役監査、外部監査(会計監査)の3つを「三様監査」と呼びます。それぞれの担当者と監査対象は、以下のとおりです。
監査役監査
- 担当者:監査役
- 監査対象:取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役および会計参与)
内部監査
- 担当者:内部監査部門
- 監査対象:組織体内のすべての業務活動 など
会計監査(外部監査)
- 担当者:監査法人
- 監査対象:株式会社の計算書類と附属明細書・臨時計算書類・連結計算書類
監査役は取締役の不正行為や法令違反等を認めた場合、取締役や取締役会に報告しなければなりません。また会計監査人は、不正等の事実があった場合には監査役に報告します。
一方で内部監査は、企業内の独立した部門が担当する業務です。不正等が見つかった場合は、経営陣や取締役会へ報告されます。
参考:
一般社団法人日本内部監査協会「内部監査基準」
会社法381条・396条
内部監査の目的
内部監査の主な目的は、組織内部の業務プロセスやリスク管理体制を客観的に評価し、改善点を明らかにすることにあります。問題点を早期に発見して対応することは、事業リスクを最小限に抑えることにもつながるのです。
一般社団法人日本内部監査協会が公表している「内部監査基準」では、内部監査の有効な活用が、以下のような課題の解決に貢献するとされています。
経営目標を組織の末端まで浸透しているか確認し、目標達成に向けた改善を図ること
ビジネス・リスクに対応した効果的な内部統制システムの充実を促進すること
内部統制を改善し、目標達成と法定監査の実施に資するものとすること
組織体全体としての円滑な業務運営を図り、経営活動の合理化を促進すること
事業活動の地域的分散化やグローバル化に対応して、事業活動の効果的遂行を促進すること
情報システムの有効性や効率性が求める水準を達成しているかを検討・評価し、効果的な運用を促進すること
地球環境の保全に向けて、効果的な環境管理・審査システムの構築や確立を促進すること
引用:一般社団法人日本内部監査協会「内部監査基準」
内部監査は、不正や違法行為を取り締まるためのものではありません。内部監査は組織の持続的な発展と、企業価値の向上に貢献する重要な役割を担っているのです。
内部監査の種類
内部監査にはさまざまな種類があり、実施される項目は企業によって異なります。ここでは主に内部監査のなかから、一般的に採用している企業の多い項目をまとめました。
業務監査
組織の日常業務が、効率的かつ効果的に行われているかを評価します。製造現場での作業手順、営業部門の顧客対応プロセス、人事部門の採用フロー、購買部門の発注手続きなど、あらゆる業務プロセスが対象です。
単なる手順の確認だけでなく、業務の重複や無駄がないか、リソースが適切に配分されているかなども詳しく調査します。調査結果に基づいて、業務の簡素化や効率化、コスト削減などの提案も行います。
会計監査
組織の財務活動の健全性を確保するための監査です。日々の経理処理から決算書類の作成まで、すべての会計業務が対象となります。主なチェック項目は以下のとおりです。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 売掛金・買掛金
- 現金・預金・借入金
- 経理処理状態
- 帳簿・伝票
- 引当金
- 固定資産の計上や除却処理 など
具体的には伝票処理の正確性、経費精算の適切性、資産評価の妥当性、税務申告の準備状況などを確認します。
特に重要なのは、不正や誤謬を防止・発見するための内部統制が適切に機能しているかの検証です。また、会計基準の改定や税制改正への対応状況も重要な確認ポイントとなります。
コンプライアンス監査
法令違反のリスクから組織を守るための監査です。労働法、個人情報保護法、独占禁止法など、事業に関連するすべての法令の遵守状況を確認します。
また社内規程や倫理規定の運用状況、内部通報制度の機能状況なども調査します。近年は海外展開する企業が増えているため、進出先国の法令遵守状況の確認も重要な監査項目です。
情報システム監査
情報システム監査は「ガバナンス」「マネジメント」「コントロール」の視点を中心に、総合的な検証が行われます。デジタル化が進む現代において、特に重要性を増している監査です。経済産業省では、情報システム監査を以下のように位置づけています。
経済・社会において必要不可⽋な情報システムに想定されるリスクを適切にコントロール・運⽤するための⼿段のひとつ
引用:経済産業省 システム監査制度について
個人情報の扱いからサイバーセキュリティの問題まで幅広い項目を対象として、ITシステムの利活用に関する助言を行う取組です。
その他の監査
監査の中には、外部組織に委託されるものもあります。対象が同じ監査でも、目的によって内部組織か外部組織かを選択するのです。
以下の監査は外部組織が行うことも多い調査ですが、内部監査の一部として扱われるケースもあります。
デューデリジェンス監査
M&Aのための調査として、買い手企業が行います。売り手企業の実情を調査する監査です。
ISO監査
商品等が国際的なISO基準に合致していることを証明するものです。内部監査と外部監査の両方があります。
いずれも社会的な信用度に関わる監査ですので、利害関係のない、独立した外部機関に委託されることがあります。
内部監査の流れ
内部監査は目的や組織体制によって、実施方法が異なります。大まかな流れは、以下のとおりです。
- 計画
- 実施
- 報告
- フォローアップ
ここでは「内部監査基準」を参考に、各項目での注意事項を確認していきましょう。
1. 内部監査の計画
内部監査の実施に先立って、内部監査計画を策定します。以下の内容を、文章化してください。
- 目標
- 範囲
- 実施時期
- 資源配分
個別計画の策定にあたっては、以下の点に考慮しましょう。
- 対象部門の目標や業績管理の手段
- 経営資源に対するリスクとその影響を受容可能な水準に維持するための活動・手段
- リスク・マネジメントおよびコントロール・システムの妥当性と有効性、改善勧告
診断業務の実施にあたっては、業務の目標や範囲、関係者の責任当の項目について、当該部門の同意を得てください。
2. 内部監査の実施
内部監査の実施では、まず予備調査を行います。対象部門に必要なデータや書類の準備を依頼しましょう。
その後、内部監査計画に則って本調査を行います。
内部調査の実施では、以下の点に留意してください。
情報
- 目標を達成するために質的・量的に十分であること
- 信頼性、関連性があり、有用な情報であること
情報の分析・評価
- 情報の適切な分析と評価に基づいて結論を出すこと
監査過程の記録
- 内部監査人は結論と関連情報を記録する
- 必要に応じて当該記録を内部監査部門以外の者に閲覧させる場合には、部門長が事前に最高経営者や法律顧問の承認を得なくてはならない
内部監査の監督
- 目標の達成や品質の保証等のため、内部監査の実施は、適切に監督される
3. 内部監査結果の報告
内部監査結果は部門長によって、適切な報告先に報告されます。主な報告先は、以下のとおりです。
- 最高経営者
- 取締役会
- 監査役会または監査委員会
- 指摘事項等に関し適切な措置を講じ得る者
また特に重大な問題が発覚した場合には、最高経営者および取締役会に報告すべきとされています。なお組織の外部に結果を公表する場合には、事前に以下のことを行わなければなりません。
- 結果の公表によって生じる可能性のある潜在的リスクの評価
- 最高経営者および法律顧問への相談
- 結果の使用や配付先の制約についての検討
ただし法令または規則により、別途必要と定められている場合を除きます。
なお内部監査の報告は原則として文書で行いますが、必要に応じて口頭による説明を併用してもかまいません。
4. 内部監査のフォローアップ
内部監査部門長は内部監査の結果に基づく指摘事項や改善提案事項について、その後の状況を継続的に調査・確認するためのフォローアップ・プロセスを構築する必要があります。
また実現困難な問題等については原因を確認し、阻害要因の除去等についてフォロー活動を行いましょう。
さらに大きなリスクを許容している役員等がいた場合には討議を行い、問題を解決できないときには、最高経営者や取締役会等に報告します。
内部監査人に求められる能力
内部監査の責任を果たすため、監査人には専門的能力と正当な注意力が必要とされます。ここでは「内部監査基準」に記載された、内部監査人に求められる能力を見ていきましょう。
専門的能力
内部においては、監査人が個々の職責のための知識や技能、能力を有しているだけではなく、組織全体での能力の高さが求められます。
また情報システムについての知識や技能も必要です。内部監査人には内部監査の遂行に必要な知識・技能を継続的に研鑽し、資質の向上を図ることが求められます。内部監査の質的維持・向上、内部監査に対する信頼性の確保に努めることが必要です。
専門職としての正当な注意
内部監査の実施にあたって、内部監査人としての「正当な注意」を払わなければなりません。特に留意しなければならない項目は、以下の9つです。
- 監査証拠の収集と評価の過程で、適切な監査手続を踏むこと
- ガバナンス・プロセスの有効性を確認すること
- リスク・マネジメントおよびコントロールに妥当性と有効性が認められること
- 違法、不正、著しい不当および重大な誤謬のないように留意すること
- 情報システムの妥当性、有効性および安全性を確認すること
- 組織体集団の管理体制を整えること
- 監査能力の限界について認識し、補完対策を講じること
- 監査意見の形成および監査報告書は適切な処理し、作成すること
- 費用対効果を意識すること
なお正当な注意とは、全く過失のないことを意味するものではありません。十分な注意が払われた内部監査においても、重大なリスクのすべてが識別されないことはあり得ることを認識しておきましょう。
内部監査と法定監査の関係
内部監査と法定監査は、相互に補完し合う重要な関係です。
日本には証券取引法による公認会計士監査、商法等による監査役監査、会計監査人監査、民法による監事監査、地方自治法による監査委員監査など、さまざまな法定監査制度が存在します。
内部監査は法定監査の基礎となる内部統制システムを評価し、必要な改善を促すことで、法定監査の効果的な実施を支援する役割を担っています。特に株式会社における監査役監査や公認会計士による監査においては、有効な内部統制の存在が不可欠です。
内部監査部門では、法定監査を行う監査役や公認会計士と定期的に情報交換や意見交換を行い、密接な連携を図ることが推奨されています。法的監査の責任者と協力することで、より効果的なガバナンス体制の構築に貢献することができるのです。
内部監査について解説しました
内部監査は企業の持続的な発展と、価値向上に貢献する重要な取り組みです。さまざまな観点から組織の活動を評価し、改善につなげる役割を担っています。法的な定義や義務付けはありませんが、上場企業や大会社では内部統制の一環として実施が求められる制度です。
内部監人には専門的能力と、正当な注意力が求められます。また監査役監査や外部監査といった法定監査との連携も重要です。
近年、透明性の高い企業経営の重要性が増しています。不正を防ぎ、リスクを早期に発見することが、企業の未来を支えるのです。
参考:
一般社団法人日本内部監査協会「内部監査基準」
『内部統制の知識〈第3版〉』/町田祥弘 著