内部統制報告書とは
内部統制報告書とは、企業の内部統制の整備・運用状況に関して経営者自身が評価し、その結果を記載した報告書です。
企業の財務報告の信頼性を確保することは、投資家保護と健全な資本市場の維持において重要な課題となっています。内部統制は経営者の管理責任を明確にし、不正を防ぐための制度です。経営者は内部統制を整備・運営し、その結果を報告書によって評価して開示を行います。
まずは内部統制の基本や内部統制報告書の目的、作成すべき企業について確認しましょう。
内部統制報告書の作成理由・目的
日本国内における内部統制報告書制度は2006年に策定され、2008年4月以降の事業年度から導入されました。従業員や企業の不正に対する経営者の管理責任を明確にし、不祥事を防ぐ仕組みとして設定されています。
企業の財務情報は投資家の投資判断や金融機関の融資判断など、多くの重要な意思決定に利用されます。したがって財務情報の信頼性を確保することは、企業の持続的な成長と資本市場の健全な発展にとって不可欠な要素なのです。
企業にとっても、内部統制は不正リスクからのセーフティネットとして役立ちます。また業務の効率化やリスク管理の強化など、企業経営の質的向上にも寄与する重要な役割も担っているのです。
内部統制報告書の提出が義務づけられている会社
内部統制報告書の提出は、金融商品取引法に基づいて定められています。投資家の保護と資本市場の公正性・透明性の確保を目的とし、主に証券市場を通じて資金調達を行う企業や、経済的影響力の大きい企業が対象です。
具体的には、主に以下の会社に提出が義務付けられています。
- 上場会社
- その他有価証券報告書提出会社
なお上場後3年以内の新規上場企業では監査法人による監査が免除されますが、内部統制報告書自体は提出義務があります。
これらの企業は規模や社会的影響力から、より高い水準の内部統制が求められています。特に上場企業は多数の投資家から資金を調達している立場にあり、財務報告の信頼性確保は経営上の最重要課題のひとつです。
企業の規模や特性に応じた適切な内部統制の整備・運用が求められることで、資本市場全体の信頼性向上につながっています。
2024年4月の実施基準改訂のポイント
2008年に適用された内部統制報告制度では、時代の変化に合わせた改訂が行われています。2024年4月の改訂では近年のデジタル化の進展やビジネス環境の変化を踏まえ、より実効性の高い内部統制の必要性が指摘されました。
今回の改訂のポイントは、以下の3点です。
- 内部統制の基本的枠組み
- 財務報告に係る内部統制の評価および報告
- 財務報告に係る内部統制の監査
基本的枠組みではIT委託業務に関する統制やサイバーセキュリティの重要性が強調され、各内部統制関係者の役割と責任が明確化されました。
評価および報告では、重要な事業拠点の選定基準や業務プロセスの評価範囲について、より実務的な指針が示されています。特にITを活用した評価手続きの導入について具体的な方向性が示され、効率的な評価の実施が期待されています。
内部統制の監査においては、監査人による財務諸表監査で得られた証拠の活用と、経営者との適切な協議の重要性が示されました。ただし監査人の独立性も重視され、バランスの取れた監査の実施が求められています。
企業にはサステナビリティやIT技術といった現代的な課題への対応、不正リスクに対するより厳格な管理体制の構築が求められることとなりました。企業のガバナンス体制の質的向上と、より信頼性の高い財務報告の実現につながることが期待されています。
内部統制報告書の記載事項
内部統制報告書には財務報告の信頼性を確保するための体制と、評価結果を明確に記載しなくてはいけません。内部統制報告書の記載内容は、主に以下の5つです。
- 財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
- 評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項
- 評価結果に関する事項
- 付記事項
- 特記事項
それぞれの項目について、詳しく見ていきましょう。
財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
記載すべき内容は、以下の3つです。
- 代表者および最高財務責任者等が、財務報告に係る内部統制の整備・運用に責任を持つこと
- 内部統制を整備・運用する際に準拠した基準の名称
- 内部統制により財務報告の虚偽の記載を完全には防止・発見することができない可能性があること
評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項
記載すべき内容は、以下の4つです。
- 内部統制の評価が行われた基準日
- 内部統制の評価にあたり、一般に公正妥当と認められる評価基準に準拠したこと
- 内部統制の評価手続の概要
- 内部統制の評価の範囲
4.の内部統制の評価の範囲を記載する際は、評価範囲を決定した手順、方法等についても簡潔に記載してください。
なおやむを得ない事情で内部統制の一部の範囲について十分な評価手続きが実施できなかった場合には、その範囲や理由を記載してください。
評価結果に関する事項
以下の4つのうち、いずれか該当するものを記載します。
- 内部統制が有効であること
- 評価手続の一部が実施できなかった場合、その範囲・理由と、内部統制自体は有効であることの説明
- 開示すべき重要な不備があり、内部統制は有効でない旨や不備の内容、それが事業年度の末日までに是正されなかった理由
- 重要な評価手続が実施できなかったため、内部統制の評価結果を表明できない旨や、実施できなかった手続とその理由
付記事項
以下の2つのいずれかに該当する場合、記載します。
- 内部統制の有効性の評価に重要な影響をおよぼす後発事象
- 事業年度の末日後、内部統制報告書の提出日までに、内部統制の有効性の評価に重要な影響をおよぼす事象が発生した場合には当該事象を記載します。
事業年度の末日後に開示すべき重要な不備を是正する目的で実施された措置がある場合に、内部統制が有効でないと判断した場合において実施された措置
特記事項
内部統制の評価について特記すべき事項がある場合には、内容を記載します。特になければ、「該当事項なし」としてください。
参考:
金融庁 第一号様式
町田祥弘 『内部統制の知識〈第3版〉』
内部統制報告書の作成方法
内部統制報告書の作成方法について見ていきましょう。
内部統制報告書の様式・ひな形
内部統制報告書は金融商品取引法に基づく開示書類です。定められた様式に従って作成する必要があります。金融庁では以下のひな形が公開されています。
参考:金融庁 第一号様式
各項目の記載上の注意も掲載されていますので、よく読んで、誤りのないように記入してください。
また金融庁では、内部統制の整備に必要な3点セット「業務記述書」「フローチャート」「リスクコントロールマトリックス(RCM)」のひな形も公開されています。こちらも併せて、参考にしてください。
参考:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」
作成の流れ
内部統制報告書作成の主な流れは、以下のとおりです。
- 内部統制の整備・運用状況を把握する
- 内部統制報告書を作成する
- 監査法人の監査を受ける
まずは内部統制の整備や運用状況を把握します。この作業で使用されるのが、3点セットです。3点セット自体には提出義務はありませんが、企業成長の分析にも使える資料ですので、きちんと作成しておきましょう。
内部統制の現状を把握したら、報告書にまとめます。完成した報告書は監査法人の監査を受けましょう。
最後に報告書を財務局もしくはEDINETにて提出します。
提出先と提出期限
内部統制報告書は金融庁の電子開示システム(EDINET)を通じて提出します。提出先は会社の本店所在地を管轄する財務局長です。
提出期限は事業年度経過後3ヶ月以内です。3月決算の会社であれば6月末日が提出期限となります。なお提出期限には猶予期間がありません。期限を遵守することが重要です。提出を忘れたり、遅れたりすると「5年以下の懲役または5億円以下の罰金」を科せられることもあります。
必ず提出期限を守り、正しい手続きを行いましょう。
実際に公開される内部統制報告書のサンプル
内部統制報告書のサンプルとして、各企業が公開している報告書を見てみましょう。
実際の記載内容は、業種や企業規模によっても異なります。他企業を参考に、自社の状況に併せた内部統制報告書を作成してください。
内部統制報告書に不備があったときの対応
内部統制の評価過程で不備が発見された場合、まずその影響度を評価します。特に内部統制に「開示すべき重要な不備」が見つかった場合には、速やかに対応しなくてはいけません。
一方ですでに提出した内部統制報告書に、あとから不備が見つかるケースもあります。ここでは内部統制報告書に不備が見つかったときの基本的な対応をまとめました。
過去に提出した報告書に不備が見つかった場合
報告書の提出後に不備が見つかったり、内部統制の評価範囲外から不備が見つかったりした場合には、訂正の理由を開示する必要があります。訂正内部統制報告書において、具体的な訂正の経緯や理由等の開示を行い、関係法令について所要の整備を行いましょう。
(参考:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」
開示すべき重要な不備、評価結果不表明の旨を内部統制報告書に記載する場合
内部統制報告書に「開示すべき重要な不備」または「評価結果を表明できない旨」を記載する場合、上場会社はその内容を開示することが義務付けられています。
JPXの「上場会社向けナビゲーションシステム」では、記載要領が公表されています。記載項目は、以下のとおりです。
- 「開示すべき重要な不備があり、財務報告に係る内部統制は有効でない旨」または「重要な評価手続が実施できなかったため、財務報告に係る内部統制の評価結果を表明できない旨」
- 評価結果等の具体的な内容
- その他、投資者が会社情報を理解・判断するために必要な事項
いずれの場合も、不備が発覚した場合は直ちに公表することが重要です。
参考:JPX「開示すべき重要な不備、評価結果不表明の旨を記載する内部統制報告書の提出」
内部統制報告書について解説しました
内部統制報告書は企業の財務報告の信頼性を確保するための重要な制度です。経営者は自社の内部統制を適切に整備・運用し、有効性を評価して報告する責任があります。
内部統制報告書の作成・管理に当たっては、評価範囲の適切な設定や計画的な評価作業の実施、不備発見時の迅速な対応が重要です。また2024年4月の改訂により、デジタル技術の活用や新たなリスクへの対応も求められています。
適切な内部統制の整備と評価を通じて、企業は投資家からの信頼を獲得し、持続的な成長を実現することができます。企業価値向上のための重要な取り組みとして、内部統制報告制度を有効に活用していきましょう。