上場(IPO)審査は厳しいのか?
IPOを果たした企業は、世間から広く賞賛の声を集めている様子がうかがえます。実際のところ、IPOを達成する上で最大の難所となるのが、上場審査に通過することです。上場審査は、非常に厳格に行われることで知られています。このことから、多くの人にとってIPOは企業が果たす一つの偉業として扱われるわけです。
上場審査は厳しい水準で行われているだけでなく、長い審査期間を有しています。この条件はどれだけ優れた実績を残していたり、高い成長余地が見込まれたりする企業でも同様です。
そのため、上場審査を通過してIPOを実現するというのは高く評価されます。継続的に成果を残し、審査に耐えられるほどの組織力を成し遂げたことの証左でもあるからです。
IPOと上場の違い
IPOと上場は、同じように使われている言葉であるため、その意味に違いはないと考えられることもあります。ただ、その意味は微妙に異なり、違いを把握しておくとより整理して物事を考えられるようになるでしょう。
IPOは、上場に伴い新たに株式を公開する資金調達方法です。新規株式を広く市場に流通させ、多くの投資家から出資を募ることを指します。
一方で上場は、会社が開かれた株式市場へ参入することそのものを表す言葉です。ここには新規株式を公開する意味は含まれていません。
ただ企業が上場を果たす際は、新規株式の公開による資金調達などが目的です。そのため、IPOと上場は同義的に扱われています。
IPOのための上場審査に必要な期間・費用
IPOのための上場審査には、どれくらいの期間、および費用を必要とするのでしょうか。具体的な期間や金額についてはケースバイケースですが、おおむね以下のようなコストが発生します。
上場(IPO)審査に必要な期間
IPOに伴う上場審査に必要な期間は、上場の準備から審査の完了までを踏まえると、最低でも3年と言われています。というのも、IPO前に必要な監査には約2年の期間が必要で、監査を受けるための環境づくりにも1年程度の期間が必要だからです。
また、監査を受けたからといって、必ず監査証明書が受け取れるわけでもありません。これらを踏まえると、IPOには十分な準備期間が必要です。
上場(IPO)審査に必要な費用
上場審査に必要な費用については、上場を希望する市場によって異なります。主な審査費用は、以下の通りです。
- プライム市場:400万円
- スタンダード市場:300万円
- グロース市場:200万円
上場時には審査費用に加え、以下の費用も発生します。
- 新規上場料
- 株式の公募・売出費用
- 登録免許税
- 証券会社による引受手数料
加えて、上場の準備にも監査費用やIPOコンサルティング費用など、多額の支出が発生する点は注意しなければなりません。これらを踏まえると、IPOには総額5,000万円以上の費用が必要です。場合によっては、1億円規模になってくることも事前に理解しておきましょう。
IPOに伴う上場審査の仕組み
IPOに伴う上場審査は、証券会社と証券取引所によって、以下の2段階で実施されます。
引受審査(証券会社が実施)
引受審査は、IPOを担う主幹事証券会社の引受審査部門が行う審査です。企業の財務状況、事業内容、将来性をもとに、上場の要件を満たしているかどうかを確認します。
上場企業は市場に与える影響が大きく、信頼に足る組織であることが不可欠です。そのため証券会社は厳しく上場を希望する会社を精査し、経営陣の資質なども踏まえ、承認の是非を決定します。
証券取引所の判断は、引受審査の際には求められません。ただし引受審査を通過しないことには、上場は果たせないため、徹底した準備が必要です。
主幹事証券会社についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事も併せて確認してみてください。
<関連記事>主幹事証券会社とは?IPOに欠かせない役割や選ぶポイントを徹底解説!
公開審査(証券取引所が実施)
公開審査とは、証券取引所の上場審査部によって行われる審査です。引受審査と同水準の、上場要件を満たしているかのチェックが行われ、上場の可否が決まります。
証券会社と似たような審査ではあるものの、チェックを実施する組織が異なるのが特徴です。いわば証券会社と証券取引所の2社で、上場に際してはダブルチェックを行っています。
公開審査をクリアすれば、上場を果たすことが可能です。
上場(IPO)審査の2つの基準
証券取引所では、株式公開に際して以下の2つの基準を満たしているかどうかを確認されるのが特徴です。それぞれどのような要件・基準が設定されているのか、ここで確認しておきましょう。
形式要件
形式要件は、上場審査を申請する企業が定量的に達成すべき基準をまとめたものです。主な要件として、以下が挙げられます。
- 株主数
- 流通株式
- 時価総額
- 事業継続年数
- 純資産額
- 利益の額又は売上高
- 虚偽記載又は不適正意見等
- 登録上場会社等監査人による監査
- 株式事務代行機関の設置
- 単元株式数
- 株券の種類
- 株式の譲渡制限
- 指定振替機関における取扱い
- 合併等の実施の見込み
詳しい項目や具体的な数字については、上場を希望する市場によって異なり、日本取引所グループの「上場審査基準」から確認できます。これらの要件は最低限クリアしておくべきものとして設定されているため、確実に満たしておくことが求められます。
実質基準
実質基準とは、証券取引所が企業の上場を認めるかどうかを判断するための材料です。形式要件の場合、設けられた水準は必ずクリアすることが必須でした。しかし実質基準はあくまで「目安」となるため、全てを満たす必要はありません。
実質基準として設けられているのは、主に以下の目安です。
- 企業の継続性および収益性
- 企業経営の健全性
- 企業のコーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制の有効性
- 企業内容等の開示の適正性
- その他公益および投資者保護の観点から各取引所が必要と認める事項
上の基準を見てもらうとわかるように、中には定量的に評価することが難しいものも含まれています。そのため、証券取引所はこれらの水準に基づき企業を定性的に評価し、最終的な審査を行う仕組みです。
上場(IPO)審査の主な流れ
上場審査は、主に以下のプロセスに基づいて行われます。
引受審査
証券会社における引受審査は、大きく分けて以下の2ステップです。
- 中間審査
- 最終審査
詳しく見ていきましょう
1.中間審査
中間審査は、事前審査や前倒審査とも呼ばれる審査です。上場準備の進捗状況を確認したり、必要に応じて改善点の共有やスケジュールの確認などを行います。
中間審査で行われるのは、以下のプロセスです。
- 資料の提出
- 質問提示
- 回答書の作成・提出
- ヒアリング
- 追加質問
- 事業所実査
- ヒアリング
- 改善事項指摘
資料やヒアリングをもとに、改善点を把握の上、最終審査へと移行します。
2.最終審査
最終審査は、中間審査よりも短期間で行われるのが特徴です。以下のプロセスに則り、最終審査の手続きが行われます。
- 業績の進捗確認
- 質問提示
- 回答書の作成・提出
- ヒアリング
- 追加質問
- 経営者・監査役・会計士面談
- 合否判断
中間審査と同様に質疑応答・ヒアリングが行われるほか、経営者などの面談も最後に含まれるのが特徴です。これらの過程を経て、引受審査の合否判断が行われます。
公開審査
証券取引所における公開審査は、以下の手順で実施します。基本的な進め方は、引受審査と同様です。
- 資料の提出・審査
- 書面による質問・ヒアリング
- 実地調査
- 監査法人・代表者・監査役・独立役員との面談
- 証券取引所に向けた会社説明会
- 上場承認
上場申請に向けた有価証券報告書や議事録などを提出したら、書面による質問事項の提示、ヒアリングが行われます。この質問事項のやり取りについては、数回繰り返されることもあるのがポイントです。
また、ヒアリングの後には実地調査の実施が挙げられます。事業所を実際に訪問し、業務が適切に行われているかのチェックが目的です。
証券取引所に向けた会社説明会も特徴と言えます。面談の実施から約一週間後に実施されるこの説明会では、会社代表による事業計画の説明などが必要です。
これらの手順を経て、上場承認の可否が証券取引所のホームページで公開されます。
上場(IPO)準備の全体スケジュール
上記の審査手続きは、あくまで審査が始まってからのプロセスを抽出したものです。実際には、この審査に向けた上場準備にも多くの時間をかける必要があります。
上場準備に際してのスケジュールは主に以下です。
①期首以前〜直前々期(N-3期)
期首以前〜直前々期では、上場に向けた下準備を行います。監査法人の選定や、社内チームの発足、資本政策の策定などです。監査法人によるショートレビューを行い、上場に向けて何をすべきなのかをここで整理しておくことも求められます。
②直前々期(N-2期)
直前々期は、上場後を見据えた社内管理体制の整備に力を入れる段階です。利益管理や業務管理、関係会社の整備などを実施します。会計監査もこのタイミングからスタートするため、ショートレビューの改善内容を適用できていることも大切です。
③直前期(N-1期)
直前期では、整備していた社内管理体制を運用フェーズに移行します。審査のための申請書類の作成、および証券会社による引受審査もこのタイミングから始まるのがポイントです。
④申請期(N期)
申請期は、引受審査および公開審査が実施されるタイミングになります。また上場に伴い公開会社へと移行するため、定款の変更も必要です。譲渡制限の解除を、このフェーズで実施します。
IPO準備において、フェーズごとのタスクとスケジュールについて詳しく知りたい方は、ぜひ以下お役立ち資料も併せて確認してみてください。
上場(IPO)審査における近年のトレンド
上場審査については、上述のように厳しい審査プロセスを設けています。ただ、それでも最近では上場後の企業の業績悪化などが見られ、審査プロセスの見直しが進んでいるのが現状です。
上場直後の業績下方修正、さらには不正の発覚は証券会社や取引所の信頼にも悪影響を及ぼします。このような事態を回避するため、見られるのが以下のような変化です。
- 不適切な取引防止のための啓発セミナー実施
- 上場時に公表される業績予想について、前提条件や根拠の適切な開示
- 上場時期の集中緩和
まず注目されたのが、上場後に新規公開会社の代表が不適切な取引を実施するケースです。インサイダー取引などの不正行為を予防するため、経営者向けの啓発セミナーの実施、および審査の強化を実施しています。
上場後、業績予想が大幅に修正されるケースについて、前提条件や根拠の具体的な説明・提示を求めるようになりました。気軽に下方修正を行うことを防ぐべく、説明責任をより強く果たしてもらうための変化です。
また、上場時期が12月に集中する問題を回避すべく、緩和に向けた要請を出しています。円滑な手続きの進行につながるよう、スケジュールを見直してもらうための取り組みが進んでいるところです。
参考:最近の新規公開を巡る問題と対応について|日本取引所グループ
上場(IPO)審査に落ちる主な理由
IPOに伴う上場審査に落ちる理由には、いくつか考えられます。代表的なケースは、以下の2つの理由です。
- 経営者の不適切な取引
- 業績予想の未達
上場審査において、重要なのは経営者が誠実な組織の代表であるかどうかです。上でも紹介したように、近年は経営者の不適切な取引が横行していることから、徹底した審査の強化が進んでいます。
少しでも不自然な動きや不審な点が見られる場合には、審査に落ちてしまうかもしれません。疑いにつながるような言動は、極力慎みましょう。
また業績予想が達成できていない場合も、上場審査に落ちる原因となることがあります。事業計画の質が低いことや、市場の変化に対応できていないことの裏付けとなってしまうからです。
事業計画を適宜振り返り、修正しながら信頼性の高い企業となれるよう改善を進めましょう。
上場(IPO)審査に通過するためのポイント
上場(IPO)審査に通過するためのポイントは主に次の2点です。
- 上場後の業績予想の精度を高めること
- 内部管理体制を強化すること
上場審査に通過するためには、上場後の業績予想の精度を高めることが重要です。業績予想の精度が低いと、審査の際に財務の健全性や成長性に問題があるとみなされ、審査を落とされてしまうかもしれません。
また上場審査に通過するために重要なのが、内部管理体制の強化です。上場企業は多くの投資家から出資を受けるに足る、潜在的な成長力と透明性を備えていなければなりません。言い換えれば、組織そのものにリスクを抱えていないことが重要です。事業が100%右肩上がりに成長していくことはありません。そのため、投資家の出資には常にリスクがつきまといます。このようなリスクを少しでも小さく抑える上で、管理の行き届いた組織であることは不可欠というわけです。
証券会社および証券取引所は、上場審査を会社の信頼性の観点から厳しく審査を行います。将来どれだけ多くのリターンを得られるかよりも、安心して出資ができることを重視している点に、注目すべきでしょう。
上場(IPO)審査について解説しました
この記事では、IPOに伴う上場審査の仕組みや流れ、審査基準から、近年のトレンド、審査に落ちる原因、通過するためのポイントまでに解説しました。上場審査に際しては長期間にわたる厳しい審査が行われ、その審査内容はますます厳しくなる傾向です。
上場企業はいずれも投資家から出資を受けるに足る、信頼性の高さが求められるのが特徴です。上場審査を受けたいと考えている場合、事業の成長性のみならず、安心できる経営管理体制の構築にも目を向けましょう。