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IPO失敗の原因とは?フェーズごとの失敗例や、失敗しないためのポイントを解説!

IPO失敗の原因とは?フェーズごとの失敗例や、失敗しないためのポイントを解説!

【IPO準備ガイドブック】フェーズごとに徹底解説!IPOを成功させるためのタスクとスケジュール

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スタートアップ企業やベンチャー企業の経営陣にとって、1つの目標地点ともいえるのが、IPO(新規公開株式)です。IPOに成功すれば、市場への株式公開により資金調達の幅が広がるとともに、企業の知名度向上も期待できます。しかしIPOは審査が厳しく、不十分な準備のまま進めれば失敗してしまう可能性があります。

「IPOに失敗する原因はなに?」

「IPOに失敗しないために気を付けることは?」

こういった疑問に答えるため、本記事ではIPOにおける「失敗」の定義、IPOに失敗する主な原因、スケジュールごとの失敗例、失敗しないためのポイント、実際にIPO失敗した企業の事例を解説していきます。

IPOを進める企業が失敗せずIPOするうえで参考になる情報をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。

IPOにおける「失敗」とは

IPOとは「Initial(最初の) Public(公開の) Offering(売り物)」の略で「新規公開株式」を指す言葉です。これにより企業は証券取引所に株式を上場し、一般投資家が株式を購入できるようになります。

IPOでは、新規上場基準に基づく審査が行われ、主幹事証券会社のサポートを受けた企業が、この審査を受けます。審査は厳しく、十分な準備期間と証券会社など協力会社のサポートを受けなければ通過できません。この点でIPOにおける「失敗」のひとつは、「IPOの審査を通過できないこと」による失敗です。

またIPOの成功とは、すべての利害関係者がバランスよく利益を得ることを指します。すなわち上場後も継続的に成長し、市場で企業として評価を確立することで、成功したと考えることができます。この視点で考えれば「IPO後に問題が生じ、企業やその事業が継続的に成長できない」場合も失敗といえるでしょう。

IPOにおける「失敗」とは…

①IPOの審査を通過できない

②IPO後に問題が発生し、企業とその事業が継続して成長できない

IPOに失敗する主な原因

では、IPOに失敗してしまう原因はどこにあるのでしょうか。ここからは企業がIPOに失敗する主な原因として5つを紹介していきます。

内部統制の不備

企業の内部統制に不備があれば、IPOが失敗するリスクが高くなります。

内部統制とは、経営者が企業を効率的かつ健全に運営するために定めるルールや仕組みのことです。取締役を含むすべての従業員が遵守し、社内の管理体制を正常に機能させるために整備されます。

業務のチェック体制が整っていないことや、決められたルールがうまく運用されていないことなどが内部統制の不備に当たる状態です。これが原因で事件や不祥事につながるケースがあるため、上場する企業がそういったリスクを持っていないことが求められています。

内部統制については、J-SOX(内部統制報告制度)をもとに自社の評価を行い、そのうえで内部監査を受けますが、この段階で不備があれば弾かれるようになっています。

制度会計基準の不適合

制度会計基準に達しておらず不適合とされた場合にも、IPOが失敗となります。

制度会計とは、会社法や金融商品取引法などの会計に関する法律に則って行う会計方式です。企業が株主や投資家など、社外のステークホルダーに対して財務状況の透明性を明らかにするために用いられます。

上場の審査および上場後の企業には、ステークホルダーに対する情報提供の義務が生じます。制度会計基準は情報提供を義務とする法律を前提にしており、上場するならば満たさなければならない基準です。会計フローを明確化し、制度会計基準を満たすように処理していなければ、監査の際に指摘を受けてしまうため、IPO失敗のリスクが高くなります。

不十分な業績

業績が不十分である場合も、IPOに失敗する可能性が高いです。これにはIPO準備期間中に景気変動や、商品需要の変化で業績不振となった場合も含まれます。

業績が不十分、または低下している企業は、将来的に上場維持基準を満たせない可能性も高く、一定の業績規模がないものとみなされてしまいます。そのため業界や市場の規模に応じた水準を満たすことが必要です。

また東京証券取引所のグロース市場では、上場維持基準として上場後の水準が以下のように規定されています。

グロース市場上場維持基準
時価総額:40億円以上(上場後10年経過後から適用)
・テクニカル上場した会社においては、当該上場会社を上場廃止となった会社と同一のものとみなして、上場期間が引き継がれます。
・上場維持基準に適合しない状態となった場合には、1年内に上場維持基準に適合しなかったときは、上場廃止基準に該当します。
・経過措置を適用しているグロース市場の上場会社は、「40億円以上」を「5億円以上」とします。

引用元:日本取引所グループ「上場維持基準の詳細 時価総額

上場に必要な基準を一度満たすだけでなく、上場後も中長期的にこの基準を満たすことができなければ、IPOは失敗となってしまうでしょう。

企業レピュテーションの低下

企業のレピュテーション(評価)の低下はIPOを妨げる原因のひとつです。

内部統制の不備が原因で不祥事が発生したり、事業活動における法令違反などが発覚したりすれば、企業に対するレピュテーションは低下します。投資家や市場の参加者にとって、社会的な評判や信用は重要な要素です。そういったステークホルダーと呼ばれる人々からの評価を損なえば、上場後のリスクを危惧され、IPO失敗となる可能性が高くなってしまいます。

その他にも、提供するサービスにおけるトラブルが公に報道されたり、誇大に拡散されたりした場合もレピュテーションの低下が発生します。SNSやネットワークにより情報が高速に伝わる社会では、レピュテーション低下のリスクには特に細心の注意が必要です。

上場延期

過去の事例の中には、IPOを目指していた企業が市場の状況や準備の遅れにより、上場を延期したケースも存在します。例えば、上場を延期した事例として近年で数が多かった理由に、新型コロナウィルスの蔓延があります。全世界的な混乱と産業への大きな影響により、上場延期した企業は少なくありません。業績到達の見込みが立たなくなった企業が自社で上場を延期した場合もあれば、東京証券取引所から上場承認が取り消された場合もありました。

このように企業を取り巻く環境や、社内の事情で上場を延期せざるを得ないパターンもあることを、念頭に置いて準備を進めましょう。

スケジュールごとの失敗例

上場を目指すにあたって、準備に必要となる期間は年単位です。その中でも一般的な上場までのスケジュールは、以下の図に示すN-3期から申請期の4つに分けられます。

それぞれの期ごとにIPOの失敗例を見ていきましょう。

直前々々期(N-3期)

上場に必要となる社内整備や会計制度の変更を開始する時期です。この時期は問題点や課題の抽出のため、監査法人によるショートレビューを受ける必要があります。このレビューで「IPOに失敗する主な原因」として挙げた「制度会計基準の不適合」が確認されると、監査に引っかかる形となり上場は失敗ないし延期となります。制度会計に適合する会計フローの構築を怠らないように注意しましょう。

直前々期(N-2期)

諸体制の整備や運用を始めてこの時期に入ると、内部統制報告による評価や財務諸表監査などの複数の調査・監査を受ける必要があります。直前々々期(N-3期)のショートレビューで指摘があった事項が改善されているかなども確認の対象です。この期の監査ではさまざまな社内の整備状況が確認されるため、「IPOに失敗する主な原因」で示した「内部統制の不備」が指摘される可能性があります。監査される項目に注意して、監査を受ける準備を行いましょう。

直前期(N-1期)

上場申請の前期であるこの時期は、ここまでの監査・レビューの結果を踏まえて、会計管理や労務管理などの内部統制を繰り返し見直す時期です。また、監査法人や主幹事証券会社などのサポートで、上場に向けた申請書類などの作成が開始されます。この期でも直前々期(N-2期)と同様に監査を受けるため、「内部統制の不備」が指摘される場合があります。

申請期

上場申請に必要な準備を全て整え、主幹事証券会社を通して証券取引所に申請書類を提出する時期です。この期は証券取引所による上場審査が行われるため、「IPOに失敗する主な原因」で示した「不十分な業績」や「上場延期」に挙げた要因によってIPOが却下される可能性があります。申請を行う時点で業績や業界の状況を見極め、主幹事証券会社との相談のうえで申請を行いましょう。

またどの段階であっても、企業レピュテーションに関わるさまざまな不祥事は、IPOの失敗や延期の原因となります。「内部統制の不備」や「制度会計基準の不適合」によって不祥事が顕在化しないよう、段階的に制度の見直しと予実の管理を徹底しましょう。

IPO準備において、フェーズごとのタスクとスケジュールについて詳しく知りたい方は、ぜひ以下お役立ち資料も併せて確認してみてください。

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IPOに失敗しないためのポイント

ここまでに示してきたIPOに失敗する原因に対して、具体的にどのような対策がとれるのか解説していきます。ここで示す失敗しないためのポイントを踏まえて、スケジュール計画や主幹事証券会社とのコミュニケーションを進めることで、IPOの成功率を高めましょう。

段階的に権限の分散・移譲を行う

特にスタートアップ企業やベンチャー企業の場合、経営者に権限が集中している場合があります。段階的にこの権限の分散・以上を行うことが失敗しないために必要な対策のひとつとなります。理由は主に以下の2つです。

①内部統制の最適化を行うため

IPOの失敗要因である「内部統制の不備」を引き起こさないためには、経営や社内整備に対する管理・監視体制の強化が欠かせません。多角的にマネジメントを行うにあたって、経営者に集中した権限を分散し各部署の責任で管理を行う体制が必要となります。

②業績不振を引き起こさないため

ベンチャー企業の経営者にありがちなのが、強い権限を持ち迅速な経営判断と営業スキルで自身が業績を上げているパターンです。しかしIPOの準備を優先して内部統制を急激に進めることで、経営者の行動を制限してしまい業績が下がってしまう恐れがあります。IPOに必要な準備とはいえ、業績が下がってしまえば審査に通ることができないため、段階的に体制の再構築を進めることが重要です。

業務フローと意思決定プロセスを明確化する

監査法人や証券会社による監査・調査の過程で、業務フローや意思決定の過程に問題があれば指摘を受けることになります。スムーズに監査を通過するために、各フローや意思決定の明確化が必要です。また、明確化による見直しによってヒューマンエラーを最小限にすることができれば、小さなミスに起因する不祥事なども洗い出すことができます。

IPO失敗の原因のうち「内部統制の不備」と「制度会計基準の不適合」、「企業レピュテーションの低下」、「上場延期」の一部は、これにより対策できる部分があります。それぞれの過程を分析し、問題点をあらかじめ取り除くことで初めて、IPOの準備が万全にできているといえるでしょう。

上場の実質的な基準を意識する

上場の審査を通過するためには、新規上場基準をクリアする必要があります。しかしその他にも注意するべき点として、上場する市場や業界の実質的な基準が存在します。

流通株式数などの形式的な基準とは異なり、客観的な評価が基準です。市場が持つ性質や投資家の期待によって一定の要件があり、要件に合致すれば投資家の関心を引く要素となります。企業の継続性や収益性のほか、経営が健全に行われているかも審査の対象になると考え、上場申請の準備を進めましょう。

IPOに向けて適切に人材を配置する

IPOに向けた準備には、さまざまな課題の発見と解決が必要です。各フェーズで計画・対応を進められる管理職や、IPOのノウハウを持った経営人材を登用し配置することで、課題解決を進めていきます。

経営陣だけでなく従業員にも、IPOに向けたスケジュールや課題の共有が欠かせないため、適切な人材の配置が求められます。前もって社内にIPOに必要なスキルを持った人材を育成、登用して準備を進めるのが良いでしょう。育成や登用による人材の確保が難しい場合は、外部の協力会社に依頼して、ノウハウを活かして進めるのも有効な手段です。

IPOそのものを目的としない

企業にとってひとつの目標地点であるIPOですが、それ自体を目的としないことも、失敗しないポイントになります。企業にとってIPOは、本来さらなる成長を目指すための手段です。IPOにかかる時間的・金銭的コストは決して小さくありません。長期多額をかけて準備しても、IPO自体を達成した後の展望が無ければ業績が下がり、上場の取消や廃止に繋がります。投資家やステークホルダーの期待に応えられるように中長期的に事業を成長させることで、IPO後の株価下落や上場廃止によるIPOの失敗を回避しましょう。

実際にIPO失敗した企業の事例

以下では実際にIPOに失敗した企業の事例を2つ紹介します。それぞれがどのような理由でIPOに失敗したか、何に注意せねばならなかったかといった観点で、参考にしてみましょう。

株式会社インターワークス

経緯

株式会社インターワークスは、求人情報サイトを展開する人材サービス企業でした。

2007年から大和証券を主幹事証券会社としてIPOの準備を進め、2008年中頃には内部の審査が完了していました。10月に東京証券取引所の上場審査を受けるため、残る課題を解決している最中にリーマンショックが発生します。人材業界全体がリーマンショックの影響を受け業績が急降下した結果、売上と従業員が半減してしまいました。そのような状況で審査を受けることはできず、経営陣はIPOを無期限延期しました。

IPO失敗後

求人メディア事業のみを展開していたインターワークスは、単一事業では景気変動に対して脆弱性が高いと考えました。そのため事業を多角化しつつ、M&Aで事業を強化・再編して再度IPOの準備を再開することになりました。

求人メディアの他に、人材紹介と採用支援の事業を加えた3事業体制で、事業基盤の安定性を高めることに成功します。

2度目のIPO挑戦となった2014年12月に、東京証券取引所マザーズ市場に上場を果たしました。

現在は株式会社コンフィデンスに吸収合併される形で、株式会社コンフィデンス・インターワークスとなり、東京証券取引所グロース市場に上場しています。

この事例の失敗の原因

株式会社インターワークスの事例では、2008年のリーマンショックによる上場延期がIPO失敗の原因となりました。外的要因による業績悪化ですが、上場延期せざるを得ない状況であることに変わりはありません。IPOにあたっては、審査や外部からの評価だけでなく、自社を取り巻く経済的・市場的状況にも注意が必要となります。予測できない部分もありますが、経営の多角化により事業基盤を安定させるなど、不測の事態に対応できるようにしておきましょう。

グレイステクノロジー株式会社

経緯

グレイステクノロジー株式会社は、技術マニュアルの作成やマネジメント業務の他、マニュアルの基幹システムを販売する会社です。

2016年に東京証券取引所マザーズ市場に、2018年に東京証券取引所第一部へ市場変更しています。しかし2021年11月に外部からの指摘で特別調査委員会が設置され、粉飾決算などの重大な不正が発覚しました。元代表取締役や元取締役が関与し、架空売上の計上や売上前倒し、架空外注費の計上、偽装工作が行われていたことが発表されています。

この不正発覚に伴う2022年第2四半期報告書の提出遅延により、東京証券取引所の上場廃止が決定しました。

IPO失敗後

2020年11月に約4,000円ほどだった株価は、不正発覚後の2022年1月には29円まで下落しました。また金融商品取引法違反にあたることから、課徴金の支払と複数の訂正報告書提出が求められました。

その後の経営再建は難しく、ハヤテマネジメント株式会社に対して第三者割当増資を実施して株主を同社のみとしました。

この事例の失敗の原因

グレイステクノロジー株式会社の事例では、経営陣の不正という不祥事が発生しました。内部統制に不備があったことにより社会的に不信感が生まれ、企業レピュテーションが極端に低下していたと言えるでしょう。仮に上場していてもこのような状況を招いてしまえば、不適切な情報開示とコンプライアンス違反による企業レピュテーションの低下は免れません。IPOや業績ばかりを目的とせず、健全な企業経営を心がけなければいけないことが理解できる事例でした。

IPOの失敗について解説しました

IPOの失敗は、「IPO時の審査に通過できない」または「IPO後に問題が発生し、企業とその事業が継続して成長できない」場合に発生します。原因や対策を踏まえて準備期間を慎重に進めることで、スムーズで失敗のないIPOを実現しましょう。また、監査やレビューで課題が挙がることに落胆するのではなく、前向きに対応することで目標とするIPOの実現を目指しましょう。

この記事ではIPOにおける「失敗」の定義、IPOに失敗する主な原因、スケジュールごとの失敗例、失敗しないためのポイントを解説してきました。

スタートアップ企業にとって、IPOは事業をしながら平行して準備を進めなければならない難易度の高い企業行動です。準備や上場審査を確実に進めるため、本記事で解説した内容をぜひ参考にしてみてください。

IPO準備ガイドブック フェーズごとに徹底解説!IPOに必要なタスクとスケジュール

Startup JAM編集部
執筆

Startup JAM編集部

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AI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」を提供する株式会社LegalOn Technologiesの、「Startup JAM-スタートアップ向けにビジネスの最前線をお届けするメディア-」を編集しています。

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