主幹事証券会社とは
企業が上場をする際、証券会社はさまざまな役割を担います。その中でも、上場申請の準備段階から申請にかけては諸手続きのサポートを行う証券会社が必要です。その主導的な立ち位置で企業の支援業務を行うのが、主幹事証券会社になります。
東京証券取引所を運営する日本取引所グループでは、主幹事証券会社を以下のように説明しています。
上場に際しての証券会社の役割は数多くありますが、上場申請準備段階では資本政策や社内体制整備のアドバイス、上場に当たっての手続きのサポートや公募・売出し等を引き受けるための会社内容の審査(引受審査)などを行います。
また、上場のための公募・売出し等を引き受ける際には、一連の事務手続きを日程に従って実行していく役割を担います。
※引用元:日本取引所グループ「新規上場基本情報 - 上場関係者と役割」
幹事証券会社との違い
幹事証券会社は幹事会社ともいい、上述した「上場する企業のサポート」を行う証券会社を指します。具体的には有価証券の発行者または所有者との元引受契約を締結する際、その内容の協議を行う会社です。有価証券の引受・販売を行い、IPO時に株式公開の準備作業や公開後の資金調達アドバイスを行います。
上場・IPOの準備を始める際、複数の証券会社や関係業者でシンジケート団を組織して共同で有価証券を引き受けます。そのシンジケート団において中心となって申請企業の上場を支援するのが「主幹事証券会社」です。
シンジケート団(シ団)
新たに発行される有価証券を引き受けるために組織される、証券会社や関係業者を集めた団体です。発行される有価証券によって引受メンバーが異なります。また「引受シ団」や「シ団」と呼ぶ場合もあります。
シンジケート団を組織する理由は、上場申請企業と証券会社の双方にメリットがあるためです。上場申請する企業は、単一の証券会社ではなく複数の証券会社が参入することで、幅広い投資家の目に触れる機会を得られます。一方の証券会社にとっては、募集の幅を広げつつ円滑な販売を行えることに加えて、売れ残りリスクの分散が可能です。
IPOにおける主幹事証券会社の役割
主幹事証券会社が企業のサポートをする上での役割は、上場申請に向けたフェーズと共に以下のように変化します。
- 上場準備の開始から上場申請前まで
- 上場申請から審査を経て上場するまで
- 上場をして以降
各フェーズごとの主幹事証券会社の役割を詳しく見ていきましょう。
上場申請前まで(N-3期~N-1期)
事業が拡大した企業が上場を検討し、主幹事証券会社を選定します。まず主幹事証券会社が行うのは、上場を準備する企業の事業内容や成長戦略の確認と分析です。新規上場基準を満たす企業となるには、審査を通過するための上場戦略が欠かせません。その準備として企業分析を行い、方向性を検討します。ここから主幹事証券会社の担当者が就き、上場指導が始まります。
具体的な主幹事証券会社の役割は以下の通りです。
- 上場に向けたスケジュール作成
- 各種書類作成のサポート
- 資本政策や社内体制整備に関するアドバイス
- 課題解決のための専門家の紹介
- 事業計画の策定や補助
- 証券取引所の審査に向けたアドバイスと仲介
- 申請前の審査
上場申請から上場まで(N期)
上場申請にむけた準備は年単位の時間が必要です。申請準備を主幹事証券会社と共に終えた企業は、東京証券取引所に上場を申請します。上場申請に関する書類の作成はもちろん、東京証券取引所から審査中に求められるヒアリングなども主幹事証券会社が対応します。上場申請の資料や東京証券取引所からの質問への対応は、審査の結果に大きく関わる重要な内容です。そのため主幹事証券会社は入念な準備と細かな指導で企業を上場に向けてサポートします。
具体的な主幹事証券会社の役割は以下の通りです。
- 東京証券取引所による審査のサポート
- 株式公開までの事務手続き
- 公募、売出株式数の検討
- 株式公開時の引受販売方針の検討
- 株価の設定
- 上場にあたる情報開示のアドバイス
上場後
企業が無事に上場して以降の主幹事証券会社の役割は、主にアドバイザーのような立ち位置です。上場後に変化する資本政策の提案や、資金調達のアドバイスなどで、企業が継続的に成長できるよう支援を継続します。また、上場直後はロードショー対応やIR支援と呼ばれる投資家向けの宣伝活動も重要な役割です。
具体的な主幹事証券会社の役割は以下の通りです。
- ロードショー対応
- IR支援
- 情報開示のアドバイス
- 開示資料の作成、指導
- 資本政策の提案
- 資金調達のアドバイス
- 金融情報の提供
主幹事証券会社の探し方
企業は主幹事業務を取り扱う証券会社の中から実績やコスト、サポート体制などが自社に合う証券会社を探さなくてはなりません。そこでここからは、主幹事証券会社を選ぶにあたって証券会社の探し方を紹介します。
日本取引所グループのホームページ
日本取引所グループは東京証券取引所などが属する、国内の金融総合取引所です。2013年に東京証券取引所グループと大阪証券取引所が経営統合して、現在の形になりました。
主幹事証券会社については、日本取引所グループのホームページ内で確認することができます。
例として、債権市場であるTOKYO PRO-BOND Marketの上場制度に関する以下のページ内で、一覧のリストを確認してみましょう。
日本取引所グループ「上場制度 - 主幹事証券会社リスト」
証券会社のホームページ
各証券会社のホームページを確認することでも、主幹事業務をおこなってくれる証券会社を探すことができます。特にホームページであれば、その証券会社のサポートや実績についてを知ることができ、有用な情報を収集可能です。
必ずしも大手が良いわけではなく、自社の事業や今後の方針に合った証券会社を選びましょう。相性の良い証券会社や良い担当者と出会えれば、上場の成功率も上昇します。
有価証券の目論見書
目論見書はIPOや公募・売出しに際し、企業および証券に関する詳細情報を提供するための資料です。有価証券の発行に際して準備され、募集や売出の際に投資家に交付される決まりになっています。
有価証券の説明に加えて、証券発行に携わる証券会社の情報も記載されています。このため、実際の上場企業を通じて主幹事証券会社を確認することが可能です。
目論見書は、インターネット上で閲覧やダウンロードができる場合がほとんどです。
<関連記事>IPOに必須の目論見書とは?スタートアップが知っておくべき要点を徹底解説!
主幹事証券会社を選ぶポイント
自社の要件にマッチする主幹事証券会社を選ぶことで、上場の成功率は高くなります。また、上場申請の準備には最低でも1年から1年半ほどの時間が必要となるため、早期に準備を始めるほどスムーズに手続きを進められます。
主幹事証券会社を選ぶ際は、以下に示すポイントに注意して自社との相性を検討しましょう。
主幹事証券会社としての実績
主幹事証券会社として企業を上場させた実績がある証券会社は、当然ノウハウを持っています。実績が豊富なら、それだけ安定して上場を目指すことができるでしょう。
また自社事業に近しい業種の上場実績があれば、担当者が事業に詳しい可能性も高く、さらに成功率や安定度を挙げることができます。
証券会社の規模
証券会社が大手か中・小規模かも、重要なポイントになります。理由は投資家の信用度に関わる要素であるためです。大手の証券会社は歴史も長く、既に多くの投資家が口座を保有しています。多くの投資家が口座を持っているということは、投資家の目に触れる機会も多く、将来的に資金調達面で有効です。
一方で中堅の証券会社は地方銀行との繋がりが強く、地域密着型の事業を行う場合は適しているでしょう。
株式販売力の高さ
証券会社が株式を販売する能力の高さは、上場後を考えると必須です。販売力を計るのは難しいですが、先述した投資家の口座数がわかれば概算できます。投資家の口座数が多いということは、その証券会社で多くの投資家が株式を購入していると考えられるためです。
コスト面
主幹事証券会社に支払われる報酬は、一般的に年間500万円〜2,000万円程度です。上場に向けてある程度の資金を用意しているとしても、それらのコストを考慮せずに主幹事証券会社を選ぶことはできません。対応している業務の内容やサポートの充実度によっても変化するため、自社の要件とのバランスを確認しましょう。
サポートの充実度
企業にとって上場の専門家として依頼する主幹事証券会社は、サポート体制が充実していることも大切なポイントです。大手ほどサポートが充実している印象もありますが、細かな対応内容や対象事業によってはその限りではありません。選定の際は複数の証券会社のサポート体制を見比べて、サポートの充実度を比較しましょう。
担当者との相性
最終的に主幹事証券会社を選ぶうえで大きなポイントになるのが、担当者との相性です。豊富な知識やノウハウはもちろん、指導や提案が熱心な担当者ほど、親身に企業の成長に寄り添ってくれるでしょう。
証券会社の大小に関わらず、「信頼できる人柄か」「責任感があるか」といった要素でも自社との相性を検討するのがおすすめです。
主幹事証券会社の候補一覧
探し方や選ぶうえでのポイントを踏まえて、自社に合う主幹事証券会社を検討していきます。しかし情報のない状態で一から探すのは、手間がかかります。
そこでまずは、下記に示す証券会社の主幹事業務から確認してみましょう。
あくまで参考とはなりますが、ここまでに示したポイントなどを確認する最初の一歩として利用してみてください。
アイザワ証券株式会社
SMBC日興証券株式会社
株式会社SBI証券
岡三証券株式会社
ゴールドマン・サックス証券株式会社
Jトラストグローバル証券株式会社
JPモルガン証券株式会社
大和証券株式会社
東海東京証券株式会社
東洋証券株式会社
野村證券株式会社
BofA証券株式会社
フィリップ証券株式会社
マネックス証券株式会社
丸三証券株式会社
みずほ証券株式会社
三田証券株式会社
三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社
UBS証券株式会社
引用元:日本取引所グループ「新規上場基本情報 - 上場関係者と役割」
上記の一覧は日本取引所グループが、2024年11月12日までに直近の主幹事実績を有する証券会社をまとめたものです。実績を持っていて、かつ主幹事証券会社としての体制面が確認されているものに限られています。ぜひ参考としてご利用ください。
※引用元のページにも記載がありますが、本一覧は特定の証券会社との取引を推奨するものではありません。また、証券会社の判断や関与、新規上場の準備・実現等について何ら保証するものではありません。
主幹事証券会社について解説しました
主幹事証券会社は、上場を目指す企業をあらゆる面からサポートし上場へ導く協力会社です。自社の事業や体制、望むサポート体制などを検討して慎重に選択しましょう。上場までだけでなくその後も含めた長期の関係となるため、良い選択ができれば大きなプラスです。
この記事ではIPOにおける主幹事証券会社の概要と役割、探し方、選ぶポイント、候補となる証券会社の一覧を解説してきました。
スタートアップ企業にとって、今後のイグジットとしてIPOを目指す場合、必ず関わるのが主幹事証券会社です。思い描く数年後の上場に向けて、本記事で解説した内容をぜひ参考にしてみてください。