KPIとは?
KPIは組織の目標達成を測る重要な指標として、多くの企業で活用されています。まずはKPIの基本的な知識や目的、設定のメリット具体的を見ていきましょう。
KPIは目標の達成度を測る指針
KPIは「Key Performance Indicator」の略称で、「重要業績評価指標」と訳されます。企業や組織の目標達成度を測定するための定量的な指標です。
例えばWebサイトの運営では「月間ページビュー数」や「コンバージョン率」、製造業であれば「製品の不良率」や「生産効率」などが代表的なKPIとなります。
KPIは単なる数値の羅列ではありません。組織の戦略や目標に紐づいた「重要な」指標であり、それぞれが目標達成への道筋を示す道標となります。適切な指標をKPIに設定しないと、いつまでも目標が達成できません。
KPIの設定には慎重な検討が必要で、組織の目標や特性に合わせて適切に選択する必要があります。
KPIを設定する目的
企業がKPIを設定するのは、組織の現状を正確に把握し、効果的な改善活動につなげるためです。主な目的には、以下のものがあります。
- 組織の目標達成度を定量的に評価する
- 業務上の課題や改善点を早期に発見する
- チームメンバーの行動指針を明確にする
KPIを設定することで、効率的な業務改善が可能になります。
特に重要なのは、KPIが「見える化」のツールとして機能することです。現時点での達成度や課題を数値化することで、抽象的だった目標が具体的な行動指針となり、チーム全体の意識統一が図れるのです。
KPIを使うメリット
KPIを効果的に活用する主なメリットは、以下のとおりです。
- 目標達成までのプロセスが明確になる
- 課題の早期発見と迅速な対応が可能になる
- チームメンバーの動機付けが強化される
- 組織内の評価基準が統一される
こうしたメリットは、定期的なモニタリングと、結果に基づく適切な改善活動があって初めて享受できるものです。KPIはPDCAサイクルを回す上での重要な指標となり、継続的な改善活動の基盤となります。
またKPIは、組織の意思決定の質も向上させます。数値に基づく客観的な判断が可能になることで、より戦略的な経営判断を行うことができるのです。
類似する言葉との違いは?
ビジネスの目標管理には、KPI以外にもKGI、OKR、KFS(CSF)など、様々な指標や手法があります。これらは相互に補完し合う関係にありますが、それぞれ異なる役割を持っています。
大筋としては、KGIで最終目標を定め、KFSで重要な成功要因を特定し、それらをKPIで測定・管理していくことで、体系的なアプローチが可能になるのです。
それぞれの特徴を、KPIとの関連性から見ていきましょう。
KPIとKGIとの違い
KGI(Key Goal Indicator)は「重要目標達成指標」とも呼ばれ、組織が最終的に達成すべき目標を表します。一方、KPIはその目標達成に向けたプロセスの進捗を測る指標です。
たとえばECサイトの運営では、それぞれ以下のように設定されます。
- KGI 年間売上高10億円
- KPI 月間ユニークユーザー数、商品購入率、平均購入単価
KGIは組織が目指す最終的なゴールを示し、KPIはそのゴールに向かうための道筋を示します。KPIの各指標を着実に達成していくことで、最終的なKGIの実現が可能となるのです。
KPIとOKRとの違い
OKR(Objectives and Key Results)は、企業の目標(Objectives)と、その達成を示す具体的な結果(Key Results)を組み合わせた目標管理手法です。米国のインテル社で誕生し、GoogleやFacebookなどが取り入れたことで注目されました。
KPIとOKRの主な違いは、以下のとおりです。
KPI
- 目標:現実的で達成可能な目標
- 目標達成に対する姿勢:達成することを前提にしたプロセス
OKR
- 目標:「難しいが達成不可能ではない」程度の目標
- 目標達成に対する姿勢:必ずしも目標は達成できなくともよく、柔軟に対応する
(参考:『KPIマネジメント』佐々木一寿、日経文庫)
目標管理において、KPIとOKRは異なるアプローチを持っています。組織の状況や目的に応じて、これら2つの手法を適切に組み合わせることで、より効果的な目標管理が実現できます。
KPIとKFS(CSF)との違い
KFS(Key Factors for Success)またはCSF(Critical Success Factors)は、目標達成のために不可欠な重要成功要因を指します。KGIを達成する「要因」がKFS、達成度を測る「指標」がKPIです。
両者は密接に関連しています。KFSで特定された重要要因をKPIで数値化・可視化することで、組織の目標達成に向けた実効性の高い管理が可能となるのです。KFSとKPIの組み合わせによって、成功要因を明確に把握しながら、目標達成までの進捗を定量的に測定・管理することができます。
KPIを選定する流れ
KPIの設定はKGI・KSFとの関連性を意識しながら進めることが重要です。ここでは、KGIの決定からKPIの選定まで、実践的な流れを見ていきましょう。
①KGIを決定する
KPIを設定する前に、まず組織として達成したい最終目標(KGI)を明確にする必要があります。「年間売上高50億円の達成」や「市場シェア30%の獲得」といった具体的な目標を設定しましょう。
このとき経営理念や、ビジョンとの整合性を確認することが重要です。単なる数値目標ではなく、組織の存在意義や方向性に沿った目標であることで、チームメンバーの理解と協力を得やすくなります。
また市場環境や自社の現状を十分に分析した上で、達成可能かつ挑戦的な水準を設定することで、効果的な目標管理が可能となります。
②KFSを設定する
KGIが決定したら、次は達成のために重要な成功要因(KFS)を特定します。例えば、「売上高50億円」というKGIに対して、「新規顧客の獲得」「顧客単価の向上」などが重要な成功要因となります。
KFSの設定では組織の強みや市場機会を考慮しながら、適切な手段を見極めることが重要です。各要因の相互関係を整理し、優先順位をつけることで、より効果的な戦略立案が可能になります。
KFS設定のプロセスを通じて組織として注力すべき領域が明確になり、KPI選定の基盤が形成されます。
➂KPIを選定する
最後に特定したKFSに基づいて具体的なKPIを選定します。「新規顧客の獲得」というKFSに対しては「月間新規顧客数」「見込み客転換率」「顧客獲得コスト」などのKPIが設定されます。KGIとの関連性を考慮し、定期的に見直しを行いましょう。
KPIの選定では測定可能性と実効性を重視します。いくら理想的な指標でも、測定が困難であったり、日々の業務に落とし込めない指標だったりしては、望むような効果が得られません。
また選定したKPIが組織の各階層で連携し、最終的にKGIの達成につながることを確認することも重要です。適切なKPIを設定することで、組織全体で一貫性のある目標管理が実現できるのです。
KPIを設定するポイント
KPI設定にはフレームワークの活用が有効です。ここでは、実務で特に重要となる3つのアプローチを解説します。
「SMART」を意識する
効果的なKPIの設定には、SMARTの考え方が重要とされています。SMARTとは、以下の頭文字です。
- Specific(明確な)具体的で明確な指標であること
- Measurable(測定できる)定量的に測定可能であること
- Achievable(達成可能な)現実的に到達できる数値であること
- Relevant(関連がある)KGIやKFS、ほかのKPIの関連性があること
- Time-bounded(期限を定めた)達成期限が明確になっていること
SMATを意識することで、曖昧さのない、実践的なKPIの設定が可能になります。
例えば「顧客満足度を向上させる」という漠然とした目標は、「顧客満足度調査のスコア」をKPIに設定することで、「目標までの距離」が明確になります。
具体的で測定可能な指標を設定することで、チーム全体の方向性も可視化されるのです。
「KPIツリー」でプロセスを可視化
KPIツリーは最終目標から具体的な行動指標までを階層的に整理するツールです。「売上高」というトップレベルの指標を「新規顧客数」「既存客の購入頻度」「平均購入単価」などの下位指標に分解し、さらにそれぞれの要素を具体的な行動指標へと展開していきます。
例えば、売上高(KGI)→新規顧客数(中間KPI)→問い合わせ件数や資料請求数(実行KPI)のようにツリーを作成し、可視化するとよいでしょう。
KPIツリーによって各指標間の関係性が明確になり、どの要素を改善すれば最終目標の達成につながるのかが可視化されるのです。また部門やチーム間の役割分担も明確になり、組織全体での効果的な目標達成活動が可能になります。
「MECE」でボトルネックを把握
MECEとは(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive 相互に・排他的な・全体的な・網羅的な)の頭文字です。KPIの分析と改善に重要な役割を果たします。
MECEでは問題や課題を重複なく、かつ漏れなく分類し、体系的に整理します。KPIの設定では、目標達成のために必要な要素を精査し、漏れのないように網羅することが重要となります。MECEを意識した分析を行って問題の全体像を把握することで、効果的な改善策を立案することが可能です。
さらに各要素の相互関係を理解することで、限られたリソースを最も効果的な改善活動に集中させることができます。
KPIが失敗しやすい3つの例
KPIの設定や運用では、多くの組織が陥りやすい失敗例があります。これらの事例を理解し、事前に対策を講じることで、より効果的なKPI管理を目指しましょう。
①KGIとの関連性が薄い
最終目標であるKGIとの関連性が薄いKPIを設定してしまうケースです。Webサイトの最終目標が「商品販売の増加」であるにもかかわらず、「ページビュー数」だけを重視してしまう状況が該当します。これではアクセス数は増えても売上につながらないという結果を招きかねません。
KPIの設定では最終目標とのつながりを明確にし、重要な指標を選定することが重要です。「KPIツリー」を活用し、目標達成のためのプロセスを可視化することで、適切な指標の選定が可能になります。
②指標が多すぎる
必要以上に多くのKPIを設定すると、かえって効果が薄れます。例えば営業部門で「訪問件数」「商談件数」「見積提出件数」「成約件数」「顧客満足度」などの数多くの指標を同時に管理しようとすると、かえって重点が分散してしまいます。
KPIの本質は、「重要な指標を選ぶ」ことです。組織やチームが本当に注力すべき指標を絞り込むことで、より効果的な目標管理が可能になります。
③現場の状況と乖離している
経営層の意向だけでKPIを設定し、現場の実態や意見を反映していない場合には、KPIが形骸化し、本来の目的である業務改善や目標達成に寄与しません。
KPIの設定では現場の担当者を巻き込み、実現可能性や測定の容易さについて十分な議論を行うことが重要です。現場の実態に即した指標を設定することで、より効果的な目標管理が実現できます。
失敗を防ぐためには、定期的なKPIの見直しと改善も不可欠です。組織の状況や市場環境の変化に応じてKPIの妥当性を検証し、必要に応じて指標の追加・削除や目標値の調整を行いましょう。
KPIの例
企業の各部門では、その特性に応じた効果的なKPIの設定が求められます。ここでは、主要なKPのI例を見ていきましょう。
会社全体のKPI
- 総売上数
- 営業利益
- 売上高成長率 など
営業部門のKPI
- 一人あたりの売上高
- 新規顧客数
- 既存継続数
- 成約数 など
システム開発部門のKPI
- バグ検出率
- テスト終了件数
- コード品質
- 開発期間遵守率 など
製造部門のKPI
- 製品ごとのブレークイーブン
- 時間あたりの生産高
- 稼働率 など
経営者のKPI
- ROE(自己資本利益率)
- ROA(総資産利益率)フリーキャッシュフロー
- 自己資産比率 など
人事部門のKPI
- 従業員平均賃金
- 従業員人材開発費
- 従業員増加率
- 離職率 など
各部門のKPIは、それぞれの特性や課題に応じて適切に設定し、定期的な見直しと改善を行うことが重要です。また部門間の連携を意識したKPI設定ができれば、組織全体としての目標達成をより効果的に推進することができます。
KPIについて解説しました
KPIは組織の目標達成を支援する重要な管理ツールです。効果的なKPI運用には、まず組織の目標(KGI)を明確にし、それに基づいて適切なKPIを設定することが重要となります。その際にはSMARTの原則に従い、具体的で測定可能な指標を選定することで、実効性の高い管理が可能です。またKPIツリーやMECEの考え方を活用することで、より体系的な管理を実現できます。
KPIの設定は、組織の目標達成に向けた第一歩です。しかしKPIは、設定することだけが目的ではありません。設定したKPIを効果的に活用し、定期的な測定と改善活動を通じて、組織の持続的な成長につなげることが重要です。
企業に適したKPI管理の仕組みを構築していきましょう。