KSF・KGI・KPIの違いと関係性
KSFは、企業やプロジェクトが目標を達成するための方法を示すものです。KGI(目標)の達成に向けて「何をすべきか」という具体的な方法を示し、進捗はKPI(指標)で測定されます。またCSF(Critical Success Factor)もKSFと同様、重要成功要因と訳される言葉です。KSFとほぼ同じ意味で使われます。
KSF・KPG・KPIの3つは、階層的な関係にあります。端的にはKGIという大きな目的があり、それを達成するための方法としてKSFを設定し、進捗を測る物差しとしてKPIが存在するという構造です。
それぞれの違いや特徴と関連性を見ていきましょう。
KSFは「目的を達成する方法」
KSFとはKGIを達成する手段として使われる方法を示す項目です。市場での競争優位性を確保するために必要な能力や条件を指し、企業の戦略策定において最も基本的な概念として位置づけられています。
具体的には「徹底したお客様目線」「どこにも負けない品揃え」「歴史と伝統を現代に伝える確かな技術」などが該当します。
KGIは「目的」
KGI(Key Goal Indicator)は「重要目標達成指標」です。組織が達成すべき具体的な目標値を示します。
企業またはプロジェクトの最終的なゴールとして設定される数値目標のことで、「前年比売上高110%」や「顧客満足度90%以上」と表現されます。組織のメンバー共通の目標として掲げられ、実現に向けた方向性を明確にするものです。
KPIは「目的の達成度を示す指標」
KPI(Key Performance Indicator)重要業績評価指標は、目標の達成度を測定・評価する定量的な指標です。KGIの進捗状況を把握するために用いられ、「売上高」「利益率」「顧客満足度」などの測定可能な指標として設定されます。
定期的にKPIを確認することで、目標達成に向けた進捗状況を把握し、必要に応じて戦略の軌道修正を行うことができます。
KSF・KPI・KGIの関係性
KSF・KPI・KGIの関連を、飲食チェーンを例に見てみましょう。
- KGI…年間売り上げの20%上昇
- KSF…地域密着型店舗として顧客との距離を縮める
- KPI…リピート率
まずはKGI(目標)を立て、達成までのKSF(方法)を定め、達成までの度合いを測るKPI(指標)を設定します。それに基づいて、各施策を設定していくのです。
飲食店の例では顧客に親しみを持たせ、店を「地域の顔」として印象付けるように「デジタルマーケティングによる広報強化」を行うのも良いでしょう。顧客の満足度を上げてリピーターとなってもらうためには、月替わりのメニューも有効です。各施策の効果は、KPIであるリピート率で測られます。
KPIが改善しない場合には、KSFが効果的にKGIに結びついているか検証しなくてはいけません。KGIの達成に向けて、それぞれの流れや結びつきを定期的に見直しましょう。
KSFが活用される場面
企業活動において、特にKSFはマーケティングと事業戦略において効果を発揮します。さまざまな部門が関わるマーケティング活動ではKSFが組織全体の方向性を示す道しるべとなり、事業戦略では意思決定の基準として機能します。
それぞれの場面での活用方法について、詳しく見ていきましょう。
マーケティング
市場分析から顧客ニーズの把握、ターゲットの選定、業績分析まで、マーケティングの範囲は多岐にわたります。部署間をまたいでの活動となることも多く、組織全体で方向性を把握しておくことが必要です。
一方で顧客ニーズは時代とともに変化します。マーケティングにおいては組織内における一貫性と、社会の変化にあわせた柔軟性とが同時に求められるのです。
KSFは、KGIへたどり着くための道しるべです。「どんな方法でゴールへたどり着くのか」が明確になっていれば、新しい要素が加わっても、全体の動きがブレません。施策を見直すときはKSFを反映させることで、組織全体で方向性を共有しやすくなります。
市場の動きを適格にとらえ、他分野に渡る活動に素早く反映させるためにも、KSFの設定が重要な役割を果たすのです。
事業戦略
事業戦略においても、KSFは大切な要素のひとつです。KSFは事業を進める中で、意思決定基準としても機能するからです。
さまざまな判断が必要となる場面では、設定されたKSFに立ち返ることで、ブレのない決定を下すことができます。KSFが明確に定められれば、組織として目指すべき方向性が定まり、一貫性のある事業展開が可能です。
明確な基準のもとで一貫した行動をとることは、顧客や社会からの信頼獲得にもつながります。
KSFは事業の持続的な成長を支える、重要な指針としても機能するのです。
KSFを設定するメリット
KSFを設定する主なメリットは、以下の2つです。
- KGIを達成する方向性が明確になる
- 判断基準がぶれない
KSFを設定する最大のメリットは、KGIに至る方向性が明確になることです。組織全体で目標達成に向けた方向性を共有することで、部門間の連携が強化され、より効果的なチーム運営が実現します。
また判断基準が明確になることで迅速な意思決定が可能となり、市場の変化にも素早く対応できます。KSFは組織の動きに統一感をもたらすと同時に、外的な要因の変化へ迅速な対応を可能にするのです。
KSFの重要性
KSFは組織の成功にとって、重要な役割を果たします。変化の激しい近年のビジネス環境では、KSFの有効な活用が、競争優位性を確保するための重要な鍵となっているのです。
KSFの重要性について、わかりやすくまとめました。
組織内で目標を共有できる
近年のマーケティングは、組織横断的な活動として行われています。製品開発からプロモーション、販売まで一貫したマーケティングを行うためには、各過程で目標の共有が課題です。
新商品開発プロジェクトでは、マーケティング部門による市場調査から商品開発部門による製品設計、製造部門による生産体制の確立、販売部門による販売戦略の立案など、多くの部門が関わります。このときにKSFがきちんと設定されていれば、各プロセスが同じ方向性を持って展開されやすくなるのです。
目的と手段が明確化される
「なんのためになにをするか」を組織全体で共有することは、プロジェクトを成功に導く必要不可欠な要素のひとつです。KSFを設定することで、各活動の目的が明確になり、より戦略的な意思決定が可能になります。
またKGIに対して明確なKSFを設定することで、各部門の動きと具体的な施策との関連性が明確になります。日々の業務の目的が理解されることで、主体的な業務遂行が期待できるのです。
リソースを効率的に活用できる
KSFを設定すると、リソースの割り振りが容易になります。目指すべき方向性が定まることで、人員や技術の過不足が明確になるからです。
特に新規企業やスタートアップでは、人的・技術的なリソース不足が深刻な課題となっています。少ない人材や設備を活かすには、無駄なく、無理なく、最も効率的な活用方法を考えなくてはなりません。組織全体がKSFを共有し、従業員一人ひとりが能力をどう活かせるかを考えることで、より自律的に取り組めるようになります。
きちんとしたKSFを定めることで、限られたリソースを有効に活用し、目標達成に向けた効率的な活動が可能になるのです。
市場の変化への迅速な対応が可能に
KSFは市場変化への柔軟な対応を可能にします。顧客や社会のニーズの変化に迅速に対応するためには、意思決定の速さとブレのない方針が大切です。KSFは重要な意思決定の軸となり、施策の方向性を決める際にも役立ちます。
KSFの本質は「なにが企業(プロジェクト)の武器になりうるか」です。プロジェクトや企業の強みを最大限に活かし、目標達成につなげましょう。
KSFの基本的な設定手順と注意点
KSFの設定の仕方は組織によっても異なりますが、主な流れを見ていきましょう。
ポイントは自社や現状の分析をしっかり行うことです。フレームワークを活用し、多角的に情報を整理しましょう。
内部的要因と外部的要因を明確にする
有効なKSFを設定するには、まず内部要因と外部要因を明確にすることが必要です。
それぞれ分けて確認しておきましょう。
内的要因
- 専門知識を持った技術者がいない
- 量産体制が整っていない
- 業界内の知名度が高い
- 歴史があり、顧客からの信頼度が高い
外的要因
- ターゲット層の趣向が変わった
- 法改正への対応が必要になった
- 同業他社の新商品がヒットした
- 原材料価格が高騰した
各要因はさらに強み(プラス)と弱み(マイナス)に分けられます。強みと弱みを照らし合わせ、注力すべき分野を明確にすることで、効果的なKSFが設定できるのです。
①KGIを設定する
強みと弱みが明確になったら、組織として達成すべき具体的な目標を設定します。現状を分析し、伸ばすべき分野や補うべき部分を確認しましょう。
重要なのは目標が具体的で測定可能であり、組織の規模や能力に応じた現実的なものであることです。「売上高10%増加」や「顧客満足度スコア4.5以上」など、数値化された明確な目標を設定することで、組織全体で共有しやすい形になります。
②フレームワークを使って分析する
KGIの達成に向けて、重要となる要因を特定していきます。まずは目標達成に関わる業務のプロセスを、ひとつずつ洗い出しましょう。業務プロセスが出揃ったら、それぞれの重要度や改善点を整理します。
KSFの設定では客観的にデータを分析し、本質的な課題を捉えることが重要です。そのためにはSWOT分析や3C分析といったフレームワークが役に立ちます。
SWOT分析は内部環境と外部環境を分析する手法です。以下の5つの要素を分析します。企業やプロジェクトの現状を分析するために用いられるワークフレームになります。
- Strength(自社の強み)
- Weakness(自社の弱み)
- Opportunity(機会)
- Threat(脅威)
また3C分析は、以下の項目から行う分析のことです。主にマーケティング環境の分析で使用されます。
- Customer(市場、顧客)
- Competitor(競合企業)
- Company(自社)
状況や必要に応じて使い分けましょう。
➂KSFを設定する
各プロセスでの課題や問題が洗い出せたら、自社の強みや経営戦略に沿ったKSFを設定します。フレームワークで得た分析結果を元に、自社の強みや弱み、内的・外的課題を整理しましょう。重要度や優先順位を見極め、取り組むべき課題を明らかにします。
その後、KSFに従って具体的な施策を定めていきます。また各プロセスにおいて中間目標やKPIを設定するのも有益です。
その際「KSFの設定をゴールにしないこと」が重要です。KSFはあくまで目標達成のための手段に過ぎません。定期的に見直し、KGIとの正しくつながっているか確認しましょう。
KPIや外的環境の変化を分析し、KSFの調整を続けてください。
KSF設定の具体例
実際にKSFを設定する際は、企業の強みや課題を明確に反映させることが重要です。ここでは架空の企業を例に、KGIと分析結果を元にしたKSFの設定例を見てみましょう。
①Eコマース企業
- KGI 年間売上高30%増加
現状を分析した結果、サイトの使いやすさが購買決定に大きく影響することが判明しました。KSFには「ユーザー体験の最適化」を設定し、施策として商品検索機能の改善、商品レコメンドの精度向上を行います。
②メーカー
- KGI 新製品の市場シェア25%獲得
市場調査により、品質と価格のバランスが購買決定の重要な要因であることが分かりました。そこで「製品開発力の強化」をKSFとして設定し、研究開発体制の充実や、市場ニーズの迅速な製品への反映などを重点的に進めます。
➂人材派遣企業
- KGI 顧客満足度90%以上の達成
企業と人材のマッチング精度が成功の鍵となることから、「マッチング品質の向上」をKSFとして設定します。具体的には、登録スタッフのスキル評価の精緻化、企業ニーズの詳細な把握、AI活用によるマッチング精度の向上が行われました。
重要なのは市場環境や顧客ニーズを理解した上で、実現可能で効果的なKSFを設定することです。また定量的な指標でその進捗を管理し、必要に応じて戦略の見直しも必要です。
KSFの設定は単なる目標設定ではなく、継続的な改善活動の基盤となります。
KSFについて解説しました
KSFは企業の目標達成において、重要な役割を果たす要素です。KGI・KPIと正しく連携させることで、組織全体の方向性を明確にし、効果的な目標管理を実現します。
適切なKSFの設定と運用には、適格な分析と定期的な見直しが不可欠です。自社の状況を把握し、KSFの適正な調整を繰り返して、KGIを実現していきましょう。