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ロックアップとは?役割とIPO成功に欠かせないリスク管理

ロックアップとは?役割とIPO成功に欠かせないリスク管理

【IPO準備ガイドブック】フェーズごとに徹底解説!IPOを成功させるためのタスクとスケジュール

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IPO(新規株式公開)における「ロックアップ」は、株価安定と投資家の信頼を維持するために重要な仕組みです。しかし企業運営においてはメリットだけでなく、資金調達や経営の柔軟性に制約をもたらすリスクもあります。

の記事では、ロックアップの基本的な役割や種類、経営への影響と解除後に備えたリスク管理方法を解説します。さらに失敗事例を通じて、IPO後の成長戦略に役立つ知識も提供しますので、ぜひ最後までお読みください。


目次

ロックアップとは

ロックアップとは、企業がIPO(新規株式公開)を行う際、主幹事証券会社と経営者、役員、大株主などとの主幹事証券会社との間で一定期間売却しないことを確約する制度です。この期間中の売却制限によって、市場の株式供給を抑え、株価の安定を図ります。

ロックアップの契約がなされる場合、その内容は目論見書にて開示され、上場前に確認することができます。具体的な契約内容は個別の案件ごとに異なります。

なぜロックアップが必要なのか

株価・市場の安定化

IPOにより新規上場された株式は、市場から大きな注目を集め、短期間で多くの需要が生まれます。しかし、上場後に大株主や内部関係者が保有株をすぐに売却すると、市場に大量の株式が流れ込み、供給過多となるため、株価が急落するリスクが高まります。このようなリスクを回避するために、ロックアップが設定されることが多いです。

ロックアップ期間中は、主要株主や内部関係者による株式の売却が一定期間制限されるため、市場への供給が抑制されます。また、インサイダーによる短期的な利益確保を防ぎ、市場の透明性を高める効果もあります。

市場・投資家への信頼獲得

株価の大きな乱高下は企業の将来に対する不安を引き起こし、投資家が長期的な投資を控える要因となります。特にIPO直後の急激な変動は、企業の安定性に対する疑念を生み、市場全体の信頼性にも悪影響を及ぼします。

 株価の安定は、投資家に安心感を与え、企業への信頼を確保する重要な要素です。これにより、企業は安定的な資本の流入を得られ、成長戦略を実行するための土台が築かれます。また、株価の安定は市場の健全性を高め、他の投資家や新規上場を目指す企業にもプラスの影響を与えます。

ロックアップの種類

ロックアップには、「制度ロックアップ」と「任意ロックアップ」の2種類があります。

それぞれ目的や期間、強制力などが異なります。それでは違いを詳しく見ていきましょう。

【制度ロックアップ】

目的

上場を利用した短期利得行為(上場ゴール)の防止

株価の下落防止

対象

IPO前の第三者割当による株式

新株予約権の割当を受けた者

期間

通常株式:上場後6ヶ月~1年

ストックオプション:上場前日まで

規制

証券取引所の規則(公開前規制)

強制力

高い(確約書なしの場合、上場申請不受理)

解除条件

原則として期間内解除不可


【任意ロックアップ】

目的

株価の下落リスク回避

投資家の不安解消

対象

大株主、役員・従業員など

期間

一般的に90日または180日

規制

規制外の自主的な取り決め(主幹事証券会社との任意契約)

強制力

低い(自主性に委ねた契約)

解除条件

一般的に株価が公開価格の1.5倍到達が多い

主幹事証券会社の同意

制度ロックアップ:市場の安定を守る必須規制

制度ロックアップとは、証券取引所の規則に基づき、IPO(新規株式公開)前の大株主や第三者割当を受けた株主が、上場後6カ月または1年間、株式の売却を制限される制度で、短期的な利益追求や株価の急激な下落を防ぐことが目的です。

この契約では、IPO直前に行われた第三者割当や新株予約権の割当も対象となり、確約書の締結が必須となります。上場申請前にすべての割当先から確約書を受け取る必要があり、これがない場合は上場申請が受理されません。また、証券取引所や規制機関によって義務付けられるもので、IPO後の株価急落を防ぐための標準的なルールとなります。

制度ロックアップの期間

制度ロックアップの期間設定は、株式の種類によって異なります。

通常の株式および新株予約権の場合、原則として割当日から上場後6ヶ月が経過するまでは売却できません。ただし、例外としてロックアップの期間が変更となるケースもありますので、解除条件をしっかり確認していきましょう。

制度ロックアップの解除条件

制度ロックアップは証券取引所の規則で定められているため、任意ロックアップのような柔軟な解除条件の設定はできません。解除条件は、期間設定と同様に株式の種類によって異なります。株式の種類ごとに解除条件の原則と例外となるケースを見ていきましょう。

通常の株式および新株予約権の場合

  • 原則:割当日から上場後6ヶ月経過時
  • 例外:割当株式の払込期日から1年未満の場合は、1年経過時まで延長

ストックオプション(役員・従業員向け新株予約権)の場合

  • 新株予約権の割当日から上場前日まで
  • 新株予約権の行使を行う日まで(上記よりも早い場合)

この規制に違反した場合は、上場申請の不受理や受理の取消しなどの厳しい措置が取られる可能性があります。

任意ロックアップ:企業戦略に応じた柔軟な運用

任意ロックアップは、主幹事証券会社と株主の間で自主的に結ばれる契約で、上場後の一定期間、保有株式の売却を制限するものです。これは制度ロックアップとは異なり、規制ではなく当事者の合意に基づくため強制力は低いですが、株価の急落を防ぎ、市場の信頼を高める目的があります。

任意ロックアップの期間

任意ロックアップでは、90日または180日の期間が一般的に設定されます。この契約は主幹事証券会社と株主の合意に基づき、制度ロックアップの対象とならない従業員株主や一部の投資家に適用されます。この期間内でも、複数の解除条件を設定することが可能です。次に任意ロックアップが解除となる条件を確認していきましょう。

任意ロックアップの解除条件

任意ロックアップは、主幹事証券会社と株主の合意に基づき設定されるため、様々な解除条件を設けることが可能です。一般的な解除条件は、以下の3つです。

  •  1.5倍条項(公開価格の1.5倍以上で売却可能)
  • 段階的解除(期間や売却可能株数を段階的に設定)
  • 主幹事証券会社の同意による解除

最も一般的なものは「1.5倍条項」と呼ばれるもので、株価が公開価格の1.5倍以上に達した場合に売却を認めるものです。

また株主の属性や保有株数に応じて、段階的に売却制限を解除していく方法も採用されています。例えば、大株主は180日間、その他の株主は90日間というように、株主ごとに異なる期間を設定することも可能です。

さらに主幹事証券会社の同意があれば、期間内でも売却が可能となる場合があります。ただし、このようなケースは少なく、契約上の規定はあっても実際に発生する事例は稀です。

このように任意ロックアップは、各企業の状況や市場環境に応じて柔軟な設定が可能な制度となっています。これにより、上場後の株価安定化と市場の信頼性向上を図ることができます。

ロックアップのメリット・デメリット

ロックアップのメリット

企業・経営陣のメリット

ロックアップにより、経営者はIPO後も株式を保有し続けることで、企業の成長に責任を持って関与する姿勢を示すことができます。これにより、企業は「上場後すぐに利益確定を目指すのではなく、長期的な成長を目指す」という信頼を市場に与え、投資家の信頼を揺るがす「上場ゴール」という批判を回避できます。また、株価の乱高下が抑えられることで、安定した経営環境が整い、長期的な戦略を計画しやすくなるのも大きなメリットです。

投資家のメリット

投資家にとって、ロックアップの設定により株価が安定し、上昇しやすくなるというメリットがあります。IPO直後は市場から注目を集め、買い注文が活発になりますが、ロックアップにより大株主の売却が制限されるため、供給過多が抑えられ、株価が下落しにくい状況が作られます。

ロックアップのデメリット

企業・経営陣のデメリット

ロックアップにより、経営者は一定期間、保有株式を売却できないため、資金調達やイグジットの機会を逃すリスクがあります。また、IPO直後に株価が上昇した場合でも、ロックアップが設定されているとそのタイミングで売却することができません。新たな株式の発行が制限されるため、成長戦略に必要な資金を迅速に調達することが困難になります。このように、ロックアップは企業の資金調達や経営の柔軟性に制約をもたらします。

投資家のデメリット

ロックアップには、投資家にとって株価が下落するリスクがある点が大きなデメリットです。たとえばロックアップ期間が6カ月に設定されている場合、期間が終了すると、多くの株式が売却される可能性が高まります。

ロックアップのリスク管理

ロックアップ解除後に起こり得るリスク

株価の下落

​​ロックアップ解除後に、ベンチャーキャピタルや大株主が大量売却を行うと、株式市場で供給が急増し、株価の下落を招く可能性が高まります。

市場の混乱

大規模な売却が起こると、需給バランスが崩れ、投資家の売り注文が相次ぐことで市場全体が混乱するリスクが生じます。このような混乱は投資家心理に悪影響を与え、さらなる株価の下落を引き起こす連鎖が発生する可能性もあります。

企業イメージの悪化

大株主や経営陣がロックアップ期間終了後すぐに株を売却し利益を確定させることは、企業に対する信頼を損なう恐れがあります。投資家が「上場ゴール」と判断する可能性があり、 企業のイメージが悪化し、株価や市場の評価にも長期的な悪影響を及ぼします。

ロックアップ違反のリスク 

ロックアップに違反するケースとは

確約期間中に保有株式を売却すること

2020年に起きた株式会社モダリスの事例をご紹介します。この事例では、大株主が上場後約1ヶ月(9月1日〜16日)の間に、制度ロックアップ期間中にもかかわらず保有株式を全て売却し、ロックアップに違反があったと発表されました。このような確約期間中の株式売却は、他の株主との公平性を損ない、投資家の信頼を大きく裏切る行為となります。

ロックアップのペナルティ

ロックアップ違反に法的な罰則規定はありません。ロックアップ違反に対する制裁は、契約内容に基づき異なりますが、 違約金や金銭的な補償が一般的です。以下のような制裁措置があります。

  • 違約金の支払い(モダリスの例:売却益の差額401百万円+ペナルティ83百万円)
  • 上場規則による制裁(上場申請の不受理または受理の取消し)
  • 企業評価・株価への影響(モダリスの例:違反発覚後、株価が低迷)
  • 企業の信用・レピュテーションの低下

ロックアップにおける総務部門の役割と実務対応

ロックアップの成功には、部署間の連携が不可欠です。事前の計画と従業員への説明を行い、解除日が近づくにつれ管理体制を強化する必要があります。以下で実務対応を確認します。

ロックアップに関する事務手続き

契約締結

管理部門や総務部門は、ロックアップ契約の策定と実施を担当し、IPO後の一定期間における株主の株式売却制限を通じて市場の安定性を保つとともに、契約内容の明確化や主幹事証券会社、大株主との合意形成を進めていきます。

従業員への周知

従業員へのロックアップに関する周知は、企業のIPOやM&Aにおいて非常に重要です。以下の方法で効果的な周知を図ります。

定期的な説明会の開催

従業員が直接質問できる場を設け、ロックアップの目的や期間、影響について具体的に説明します。

社内文書やマニュアルの整備

ロックアップに関する詳細な情報を記載した文書を作成し、全従業員に配布します。

FAQセクションの設置

よくある質問を集めて整理し、社内ポータルサイトで公開します。

ワークショップやトレーニングセッション

特に新入社員やIPOに関与する部署には、具体的なケーススタディを通じて理解を深める機会を提供します。

コミュニケーションツールの活用

社内メールやチャットツールを通じて定期的に情報を発信します。

株式管理

ロックアップ期間中の株式管理は、以下のベストプラクティスに基づいて行われます。

透明性の確保

ロックアップ契約の内容や解除条件を明確にし、投資家や市場関係者に対して透明性を持たせます。

コミュニケーション戦略

ロックアップ解除前後には、企業からの情報発信が重要です。

市場動向のモニタリング

ロックアップ解除後の市場動向を常に監視し、必要に応じて迅速な対応策を講じます。

リスク管理

大量売却による株価下落リスクを軽減するため、事前に売却計画を立てます。

投資家教育

投資家への教育を通じて、ロックアップ制度やその影響について理解を促します。

従業員への説明、関係部署との連携

従業員への説明のポイント

従業員に対しては、以下の内容を明確に説明する必要があります。

  • ロックアップ期間中は保有株式やストックオプションの売却が制限される点
  • 制度の目的が株価の安定性確保と投資家保護にある点
  • 違反した場合、上場廃止などの重大なペナルティにつながる可能性がある点
  • 株主や投資家からの信頼喪失、および上場審査への悪影響
  • 課徴金や損害賠償請求のリスク、最悪の場合は上場廃止の可能性

関係部署との連携体制

制度の円滑な運用には、以下の部署との連携が重要です。

  • 総務部門:担当部署がない業務を対応
  • 法務部門:規制内容の確認と遵守状況のモニタリング
  • 人事部門:従業員への説明会実施と質問対応
  • 財務部門:株式売却に関する実務的な管理

このように、ロックアップ制度は企業の信頼性に直結する重要な制度であり、全社的な理解と協力のもとで運用する必要があります。特に、ストックオプションを保有する従業員に対しては、制度の重要性を十分に理解してもらうことが重要です。

ロックアップ期間中の遵守管理、解除に向けた準備

ロックアップ期間中の適切な管理と解除に向けた準備は、上場企業のコンプライアンス上、極めて重要です。モダリス社のロックアップ違反事例を教訓に、厳格な管理体制の構築が求められています。

遵守管理体制の構築

対象株式の明確化

誰がどの株式をどれだけ保有し、ロックアップの対象となるのかを明確に把握します。

株式保有状況の継続的なモニタリング

保有状況を定期的に、可能であれば四半期ごとよりも短いスパンで確認できる体制を構築します。

社内体制の整備

法務部門だけでなく、内部監査部門やコンプライアンス担当者など、複数の部門によるチェック体制を構築し、相互牽制による効果的なモニタリングを実施します。

解除に向けた準備手順(期間は例)

1. ロックアップ期間終了の3ヶ月前から

  • 解除対象となる株式の最終確認を行います。
  • 主幹事証券会社と解除後の手続きやスケジュールについて事前協議を行います。
  • 売却計画を策定する際は、市場売却、相対取引など、様々な方法を検討します。

2. 期間終了の1ヶ月前から

  • 取締役会で売却方針を承認します。
  • 売却に関する開示資料の作成準備を進めます。
  • 株主に対して、ロックアップ解除に関する通知の準備を行います。
  • 公募増資や株式分割など、解除後に影響を与える可能性のあるイベントも考慮します。

ロックアップ契約の内容は、企業や株主、上場市場によって異なる場合があるため、個別の状況に合わせて適切な対応が必要です。上記の体制を整備することで、モダリス社のような違反事例はもちろん、インサイダー取引などを未然に防ぎ、市場の信頼を維持することが大事です。

ロックアップを戦略的に活用し、IPO後の持続的成長を

IPOを目指す企業にとって、ロックアップは株価安定と投資家からの信頼確保に不可欠です。発行会社や売出株主を対象とした制度ロックアップと、会社が設定する任意ロックアップがあり、期間や対象者が異なることを把握しておく必要があります。この制度は株価の乱高下を防ぎ、安定した経営基盤を築く一方で、資金調達の柔軟性を制限する特徴を持っています。

経営者と担当部門は、ロックアップのメリット・デメリットを十分に理解し、適切な期間設定とリスク管理を通じて、IPO後の持続的な成長に向けた効果的な活用を目指すことが重要なのです。

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