イグジットとは?
イグジットとは企業の創業者や投資家が事業投資を回収する行為のことです。
主な方法としては「M&Aによる企業(事業)の売却」と「IPO(新規公開株式)」があります。
それぞれの方法でメリット・リスク・準備の方法が大きく異なるため、目指すゴールに合った方法を選択する必要があります。
イグジットとバイアウトの違い
バイアウトとは主に経営者や従業員が対象企業の経営権や株式の過半数を買収し、経営権を獲得する手法です。両者では下記のような違いがあります。
イグジット
- 視点:売り手視点
- 目的:投資資金回収・事業売却
- 具体的手法:M&A・IPO
バイアウト
- 視点:買い手視点
- 目的:企業の取得権の獲得
- 具体的手法:MBO・EBO・LBO
両者は混同されがちではあるものの、視点・目的が大きく異なるため明確に区別しておく必要があります。
なお創業者・経営者の視点から見ると、バイアウトはイグジットの手法の1つに含まれると言えます。
<関連記事>バイアウトとは?手法と成功させるポイントや注意点を徹底解説
日本と海外におけるイグジット傾向の違い
日本と海外ではイグジットの傾向に大きな違いが見られます。
- 日本国内の傾向:市場環境や法的手続きの複雑さから、IPOや事業承継が主流で取引規模が比較的小さく、長期的な成長や安定を目指す傾向があります。
- 海外の傾向:資本市場の整備が進んでおり、イグジットを迅速に進められるため、大規模なイグジットが頻繁に行われるのが特徴です。短期間で大きなリターンを狙うイグジットが多い傾向にあります。
海外では巨額な資金調達やユニコーン企業の誕生も多く見られ、日本よりもイグジットが活発な傾向にあります。また市場規模も遥かに巨大です。
M&Aでのイグジットとは?
M&Aでのイグジットとは、株式合併・株式交換・事業譲渡等のM&Aを通じて事業を売却し、投資リターンを回収することです。
適切なタイミングでM&Aを実施すれば、創業者や投資家が得られるリターンの最大化が見込めるため、事業成長や事業承継等さまざまな目的で実施されます。
M&Aでのイグジットのメリット・デメリット
M&Aでのイグジットにはメリット・デメリットの両側面があり、事前に理解しておくことが大切です。
メリット
- 短期間で資本を回収しやすく、IPOよりも成立する可能性が高い
- 買収企業の豊富なリソースや資金を活用し、事業拡大や安定化を図れる
- 従業員や顧客の安定性を確保できる
デメリット
- 市場価値より低く評価されるリスクがある
- 経営権を喪失して創業者の意向に制限がかかる
- 技術・ノウハウが流出し、社内文化統合も難しい
企業の将来的ビジョンや目標次第では、M&Aが裏目に出てしまう可能性もあるため、戦略と計画は慎重に精査する必要があります。
M&Aでのイグジットが向いている企業
M&Aでのイグジットは企業の状況や成長フェーズによっては有力な選択肢となりえます。M&Aでのイグジットが向いている可能性がある企業として挙げられるのは下記のような企業です。
- 成長フェーズに到達しており、スケールアップを必要としている
- 買収先に対して技術力や顧客ネットワークといった価値を提供できる
また上記とは反対に、成長が鈍化している企業もM&Aによるイグジットが向いている可能性があります。
- 資本やリソースが不足している
- 環境の変化に外部からの支援が必要
- 創業者が新たなや引退を望んでいる
M&Aでのイグジットを実施するのであれば、企業の状況や目的に応じて判断しましょう。
M&AでのイグジットとIPOでのイグジットの違い
スタートアップ企業の主なイグジットの方法であるM&AとIPOには、さまざまな点において違いがあります。
M&Aイグジット
- 主な目的:企業売却で投下資金回収
- 資金調達方法:買収企業
- 必要な期間:短期間
- 完了までのプロセス:交渉・合意形成
- 必要コスト:法務費用(少額)
- 経営権の所在:買収企業に移る場合がある
IPOイグジット
- 主な目的:株式公開で資金調達
- 資金調達方法:公開市場
- 必要な期間:長期間
- 完了までのプロセス:監査・規制への対応
- 必要コスト:高額な上場準備費用
- 経営権の所在:基本的に経営権は維持可能
IPOは証券市場が定めた基準をクリアする必要があるため、準備に多大な時間・労力・コストがかかります。また実際に上場できる企業は1〜2割であることからも、IPOには相応の覚悟をもって取り組む必要があるのです。
IPOでのイグジットのメリット・デメリット
IPOでのイグジットでの代表的なメリットとデメリットとしては下記が挙げられます。
メリット
- 大規模な資金調達が可能となり、新規市場進出や製品・サービスの開発を加速できる
- 企業の信頼性・知名度・ブランド価値を向上して今後の経営に活かせる
- 株式公開による流動性向上の結果、創業者や投資家が株式を売却しやすくなる
デメリット
- IPOの準備や運営にかかるコストが高く時間もかかる
- 経営戦略・財務情報等の情報公開が求められ、株主の意向も加わり経営自由度が下がる
- 株式公開後は市場の影響を受けて株価が変動しやすい
IPOでのイグジットはIPO前後で環境や状況が大きく変わるため、事前に状況を想定しておくことが成功の鍵です。
IPOでのイグジットが向いている企業
IPOでのイグジットは長期的な成長を目指す企業に適した選択肢です。特に下記のような企業にとっては、M&AよりもIPOによるイグジットの方が向いています。
- 市場シェアの獲得・グローバル市場への展開を予定している
- 経営戦略の推進に大規模な資金調達を必要としている
- 上場による企業のブランドや信用力の向上を得たい場合
- イグジット後も経営権を維持し続けたい場合
M&Aでのイグジットに用いられる主な方法
M&Aイグジットにはさまざまな方法があります。下記に、スタートアップ企業が用いる主な方法について解説します。
トレードセール
トレードセールとは事業を売却し、買い手企業とのシナジー効果を狙うイグジットの手法です。主に戦略的パートナーや競合企業といった、既存事業の強化や拡大を目指す企業を買い手に選ぶケースが多く見られます。
トレードセールは短期間で売却が実現可能であり、良いパートナーを選べば高いバリュエーションを得やすいのが特徴です。小規模なスタートアップ企業にとって一般的かつ効果的な選択肢として用いられています。
プライベートエクイティセール
プライベートエクイティとは主に未上場株への投資を行うファンドのことです。同ファンドへの企業売却を通じて、事業の成長拡大や経営再建を目指すというイグジット手法もあります。
プライベートエクイティではファンドによる経営再構築の支援を受け、次のステップを視野に入れた戦略を展開できるのが特徴です。また経営陣が維持されるケースが多いため、企業文化や事業方針を損なわずにイグジットを行えるという利点もあります。
マネジメント・バイアウト(MBO)
マネジメント・バイアウトとは経営陣が自社の株式や事業部門を買収し、経営権の獲得を目指す買収手法です。主に経営体制の見直し・経営合理化・事業承継・不採算部門の切り離し等を目的として実施されます。
株式を買い取る資金を調達する必要がある場合には、特別目的会社を設立して金融機関から資金調達が可能です。
一般的にM&Aは社外の第三者が買い手となりますが、社内関係者が買い手となるMBOにおいても、所有権が移転するという意味からM&Aの一種に含まれます。
マネジメント・バイアウトは自社のビジョン・戦略・意思決定権を維持しやすいのが大きな特徴となっており、独立志向の強い経営陣や事業承継を進めたい経営者には有力な選択肢として注目されています。
M&Aでのイグジット成功のポイント
M&Aでのイグジットを成功させるには、必ず押さえておくべきポイントがあります。下記に解説します。
出口戦略の明確化
M&Aは企業を長年育てて来た経営者にとって、やり直しの利かない一度きりの重大な決断です。
そのため納得のいく形でイグジットを実現するには、出口戦略を明確化しておくことが非常に重要です。明確化することによって中間目標やスケジュールの逆算ができ、より着実に進められるようになります。
市場動向や自社の状況を正確に把握して、詳細な出口戦略を作成しましょう。
適切なタイミングを見極める
M&Aによるイグジットを成功させるには、タイミングの見極めが重要となります。
市場の状況・企業の成長フェーズによって評価額は大きく変わり、企業価値が最も高い時期を見極めてイグジットする必要があるためです。
例えば市場の状況が良い場合・競合に対して優位性を発揮できている場合や、収益基盤が確立して安定的な収益を得ている場合には、買い手企業からも高く評価されやすくなります。
バリュエーション(企業価値)の理解
バリュエーションとは企業の財務状況・市場シェア・成長可能性・収益モデルなどの要素から総合的に評価された企業価値評価のことです。
M&Aにおいては適切な売却価格の設定・取引の公正性の確保・交渉力の向上のために必要不可欠な情報となります。また投資家や株主に透明性のある説明を行う際にも必要です。
バリュエーションを正確的に把握することによって、買い手との交渉を有利に進められる可能性が高くなります。
M&Aでのイグジットのプロセスと注意点
ここではM&Aによるイグジットの一般的なプロセスと注意点を解説します。
【ステップ1】準備段階
M&Aでのイグジットの最初のステップは、事前準備です。
- 事業整理:収益性やコスト構造を最適化
- 情報整理:財務データや事業情報を整理し、透明性を確保
- バリュエーション:適切な企業価値評価を実施
- 必要書類の準備:契約や手続に必要な書類を揃える
- 戦略立案:目標・プロセス・ゴールを明確化
準備が整い次第、M&Aの専門家との相談を開始し、売却価格・取引条件・売却のタイミング・売却後のビジョンを具体化します。
【ステップ2】買収候補の選定・アプローチ
ステップ2では買い手候補となる企業をリストアップして、各企業の要件を整理します。候補を選ぶ際には「自社の戦略や目的に合っている」「自社とシナジーを発揮できる」「自社の選別基準をクリアしている」企業を優先的に検討するのがポイントです。
その後はM&Aのプロセスをスムーズに進めるため、信頼できるM&Aアドバイザーを選び、アドバイスやサポートを受け、買い手候補企業を絞り、各企業へとアプローチを行います。また双方が詳細な情報開示を実施し、基本合意書・秘密保持契約(NDA)を締結します。
【ステップ3】デューデリジェンス(DD)
続いて買い手候補企業からデューデリジェンスを受ける準備を整えます。
デューデリジェンスとは買い手候補企業が自社の財務・法務・事業のリスクに関して詳細な調査を行い、企業価値やリスクを評価するプロセスです。準備不足のままデューデリジェンスに望むと不利な買収条件を提示されたり取引自体が破談となる可能性もあるため注意が必要です。
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【ステップ4】契約締結・クロージング
デューデリジェンスが完了した後には、M&Aによるイグジットの最終ステップである契約締結・クロージングを行います。M&A取引契約書の主要項目を確認し、買収金額・売却条件・支払い方法・事業移行計画等の詳細な条件を交渉しましょう。
また後々のトラブルを避けるため、法律面・税務面の課題があればクロージング前に解決しておく必要があります。
交渉が終了次第、契約書へ署名し、売却金額の受け取り・所有権や経営権の移行を行い、取引が完了となります。
【ステップ5】イグジット後の課題と対応
M&Aイグジットは売買取引が完了して終わりではなく、統合プロセス(PMI)に注力することが重要です。
組織文化統合・従業員ケア・顧客維持を行い、新しい経営体制へスムーズに移行できるように対策を講じます。また並行して登記や税務申告等の各種法的対応も行う必要があります。
M&Aでのイグジットの成功事例
M&Aでのイグジットの成功事例として挙げられるのが、ヤフー株式会社がレシピ動画サービス「クラシル」を運営するdely株式会社を子会社化した事例です。
ヤフーはdely株式会社の既存株主から約93億円で29.6%の株式を追加取得し、合計45.6%の株式を保有することになりました。これにより議決権基準を超えていないものの、実質的な支配力を得ることになります。
当時dely株式会社の売上高は約3億円、営業利益はマイナス30億円でしたが、M&A後約半年で時価総額は160億円から300億円に急成長しました。M&A後、dely株式会社はヤフーのリソースを活用し、料理関連サービスの強化と競争力向上のための戦略を展開しています。
M&Aイグジットを理解してスタートアップ企業を成長させよう!
M&Aによるイグジットはスタートアップ企業が投資回収や事業成長を実現するための重要な手段です。
イグジット戦略を実施する際には、適切なタイミング・バリュエーション・パートナー選定が成功を大きく左右し、十分な準備を重ねて慎重に検討することがポイントとなります。M&Aによるイグジットを想定している方は、早い段階から緻密な戦略を立てて成功の確率を高めましょう。