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ミッショングレード制とは?メリット・デメリット・導入方法を解説

ミッショングレード制とは?メリット・デメリット・導入方法を解説

スタートアップのための戦略的なバックオフィス体制構築とは

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近年、多くの企業が従来の年功序列型の人事制度から脱却し、より成果や役割に応じた評価制度へと移行しています。その中でも、注目されているのが、社員の役割に応じて評価・処遇を決定するミッショングレード制です。

本記事では、ミッショングレード制の仕組みやメリット・デメリット、導入ステップについて詳しく解説します。

ミッショングレード制度とは

ミッショングレード制は、社員の役職やキャリアの年数に基づく評価ではなく、与えられた役割(ミッション)の重要度や難易度に応じて等級(グレード)を決定する制度です。従来のアビリティグレード制やジョブグレード制の要素を組み合わせたハイブリッド型の評価体系で、企業ごとに異なる形で運用されています。

社員のスキルや経験ではなく、担当する業務の価値に基づいて評価されるため、結果を重視した公平な報酬体系を実現しやすいのが特徴です。

他の制度との違いを理解するために、各制度の特徴について詳しく見ていきましょう。

アビリティグレード制とは

アビリティグレード制(職能資格制度)は、職務やスキルに限定せず、社員の能力を総合的に評価する仕組みです。

異動や配置転換を通じてさまざまな職務を経験することで、社員のスキルが総合的に向上し、その結果として昇格や昇給が実現されるため、「ゼネラリスト」を育成したい企業に適した制度です。

また長く在籍するほど評価が高まり、役職や給与が上昇しやすいというメリットもあります。

一方で在籍年数が長い社員が増えることで、企業の人件費負担が大きくなる、総合的な能力を評価する仕組みのため、特定の分野で高い専門性を持つ社員が正当に評価されにくいなどの課題があります。

ジョブグレード制とは

ジョブグレード制(職務等級制度)は、年齢や在籍年数を評価の基準にせず、個人が担当する職務そのものに価値を見出し、成果に応じて評価を行います。そのため、「スペシャリスト」の育成を重視する企業に適した制度です。

一方で評価のために社員の仕事内容を詳細に分析し、定期的にスキルや成果を確認する必要があるため、評価作業に多くの時間と手間がかかる可能性があります。

また成果を重視する評価基準のため、業務の性質上、結果が本人の努力だけでは左右されにくい職種では、公正な評価が難しいでしょう。

ミッショングレード制が注目されている理由

近年ミッショングレード制度が多くの企業で注目されている背景には、企業環境の変化や働き方の多様化、人材活用のあり方が大きく変化していることが挙げられます。

従来の年功序列型の人事評価制度では、企業の成長スピードに適応しきれず、従業員のモチベーションやエンゲージメントの低下につながるケースが増えていました。

そのため企業の成長と個人のキャリア形成を両立できる柔軟な評価制度として、ミッショングレード制の導入が進んでいます。

またグローバル化が進む中で、国内外の競争環境が厳しくなるにつれ、成果に基づいた人事評価の必要性が高まっています。海外ではジョブグレード制が主流です。

しかしジョブグレード制は短期的な業績評価に偏りやすく、長期的な成長が考慮されにくいという課題もあります。その点、ミッショングレード制は、個人の成果だけでなく「ミッションの達成度」を評価するため、企業の長期的な成長にも貢献できます。

ミッショングレード制での賃金・昇給・降格などの決め方

ミッショングレード制における給与体系は、従業員の役割の難易度や成果に応じて決定されるのが特徴です。

まずは、役職・等級ごとの定義を例示します。

部長(等級:M3)

  • 役割:組織全体の経営戦略を策定し、その方針を実行する責任を担う。経営陣と連携し、企業の成長を促進するための重要な意思決定を行う
  • 裁量:企業全体の経営方針や組織戦略に関する最終決定権を持つ
  • 責任:組織全体の成長や業績向上の達成責任を負い、重要な経営判断の結果に対する説明責任がある

課長(等級:M2)

  • 役割:経営方針を現場で実践し、業務計画の策定や運営を担当。目標達成のための戦略を立案し、リソースを適切に配分しながら複数のチームを調整し、業務の円滑な進行を支援する
  • 裁量:チームや部門単位での戦略立案や業務遂行の判断が可能
  • 責任:所属部門の業績管理とチームの成果に責任を持ち、経営層への報告を行う

係長(等級:M1)

  • 役割:課長の指示を受け、チームメンバーへ伝達し、業務計画へ落とし込む。自身も業務を担当しながら、チームが目標を達成できるように現場を統率する
  • 裁量:チームの業務配分やタスク管理について一定の裁量を持つ
  • 責任:チーム全体のパフォーマンスを管理し、課長へ適宜報告を行う

主任(等級:L1)

  • 役割:プロジェクトやチームのリーダーとして、目標達成に向けて複数のメンバーをまとめる。業務の進行を管理し、技術的な指導やアドバイスを行い、問題が発生した際は迅速に対応・解決を図る
  • 裁量:業務の優先順位決定や進行管理に関する裁量がある
  • 責任:メンバーの業務進捗を管理し、スムーズなタスク遂行を確保する責任を持つ

一般社員(等級:S3)

  • 役割:自身の判断で業務を遂行するだけでなく、他のメンバーをサポートしながら業務全体の円滑な進行を支える役割を担う
  • 裁量:自身の業務範囲内での優先順位や作業方法について裁量がある
  • 責任:担当業務の遂行と、他のメンバーへの支援による業務全体の効率化に責任を持つ

一般社員(等級:S2)

  • 役割:チーム内で割り当てられた業務を主体的に進め、優先順位を判断しながら効率的に業務を遂行する
  • 裁量:業務の進め方や手順についての裁量がある
  • 責任:割り当てられた業務を確実に遂行し、チームの成果に貢献する責任がある

一般社員(等級:S1)

  • 役割:基本的な補助業務を担当し、上司や先輩社員の指示に従いながら日常業務を遂行。必要なスキルを習得しながら業務の習熟を図る
  • 裁量:指示に従いながら業務を遂行するため、裁量は限定的
  • 責任:指示された業務を正確に遂行し、基本的なスキル習得に努める責任がある

上記を踏まえ、賃金や昇給、降格などの決め方について詳しく見ていきましょう。

賃金の決め方

ミッショングレード制では、職位ごとに基本的な給与レンジを設定し、その枠組みの中で個々の成果に応じて賃金を調整します。

たとえば下記のように定めます。

  • 役職 : 年収レンジ
  • 部長 : 1,200万~1,300万円
  • 次長 : 900万~1,000万円
  • 課長 : 750万~850万円
  • 主任 : 650万~750万円
  • 一般社員: 500万~600万円

昇格と昇給の考え方

ミッショングレード制における昇格と昇給は、「職務上の役割(ミッション)」の変化を基準として決定します。一般的な人事制度では、一定期間の成果が評価され、その結果として昇給が行われることが一般的ですが、ミッショングレード制は役割の変化に応じて即座に昇給や昇格を適用する仕組みです。

ケースとしてはプロジェクトの難易度が上がったり、新たな責任を担うようになったりした場合、ミッションの価値に応じて昇進や昇給を行います。

降格と降給の考え方

降格と降給が行われるタイミングは、従業員の役割が変化し、その価値が低下したときです。

たとえば大規模なプロジェクトのリーダーを務めていた従業員が、プロジェクトの完了後に新たなリーダーポジションが用意されなかった場合、以前の役割に比べて責任範囲が小さくなります。この場合役割の難易度が下がったと判断され、グレードの見直しが行われる可能性があります。

ミッショングレード制のメリット

ミッショングレード制には、次のメリットがあります。

社員の主体性が高まる

従業員が担う役割や達成すべき目標が明確に設定されるため、自身の業務に対する理解が深まり、主体的な行動を促進できます。

また、成果をあげるだけではなく、日頃の仕事への取り組み方や挑戦する姿勢も評価の対象となるため、努力が正しく認識されます。結果として従業員の納得感が生まれ、モチベーション向上につながるのが大きなメリットです。

管理職の職務を柔軟に評価できる

管理職の業務は定型化された作業ではなく、戦略的な意思決定やチームのマネジメントなど多岐にわたります。そのため、従来の評価基準では業務内容の可視化が難しく、評価が曖昧になりがちでした。

ミッショングレード制では各管理職が担う役割や求められる成果を具体的に設定し、より適切な評価を行うことが可能です。

成果に応じた適正な給与体系が実現できる

ミッショングレード制の導入により、成果に見合った給与を支払うことが可能になります。従業員のパフォーマンスが数値化され、それに応じた報酬が決定されるため、評価の透明性が高まり、納得感のある給与体系の構築が可能です。

チームワークを向上させる

ミッショングレード制では、各従業員の役割が明確化されるため、社内での情報共有や協力体制がスムーズになります。異なる役割を持つ従業員が共通の目標を持ち、それぞれの専門性を活かしながら協働することで、チームとしての生産性向上が期待できます。

ミッショングレード制のデメリット

ミッショングレード制のデメリットについても、詳しく見ていきましょう。

主体性が求められるため運用が難しい場合がある

ミッショングレード制は、社員の主体的な行動や自律的な仕事の進め方を前提とした制度です。そのため上司が細かく指示を出すような従来のトップダウン型の組織や、ルーティンワークが中心の職場では、うまく機能しない可能性があります。

組織体制に応じた制度の見直しが必要になる

組織再編を行う際、評価制度の見直しが必要になることがあります。また社員が新しい部署に異動した際、それまでの経験やスキルが評価に反映されないケースも出てくるため、異動による収入の変化に不安を感じる社員が出ることも考えられます。

こうしたリスクを避けるためには、制度の見直しと、従業員への適切な説明が不可欠です。

年功序列型の評価に慣れた社員から不満が出やすい

ミッショングレード制は、年齢や勤続年数に関係なく、職務の重要度や成果に基づいて評価される制度です。そのため年功序列の評価制度に慣れている社員にとっては、給与が安定しないことに対する不満が生じやすくなります。

制度の導入前には、企業側が評価基準をしっかりと説明し、従業員が納得できるような形で移行を進めることが重要です。

公平性の確保が難しい

ミッショングレード制では、独自の評価基準を設定します。また評価の基準が抽象的になりやすいため、従業員が自身の役割や目標を正しく理解できないことも考えられます。

こうした課題を解決するためには、評価基準を明文化し、全社員が共有できる形で運用することが重要です。

モチベーションの低下を招く可能性がある

ミッショングレード制では、従業員の役割が変わることで等級が下がり、それに伴い給与が減少するケースもあります。降格や降給が頻繁に発生すると、従業員のモチベーション低下につながります。

降格の基準を明確にし、単なる業務の変更ではなく適切な評価のもとで等級が変動するような仕組みを整えることが必要です。

専門的なノウハウが求められる

ミッショングレード制の運用には、人事評価に関する専門的な知識と経験が必要です。給与テーブルや評価基準をどのように設定するか、どのような基準で等級を決定するかといった点は、企業の戦略や業務内容に応じて慎重に設計しなければなりません。

特に新たに制度を導入する企業では、評価基準の策定や、従業員への周知を適切に行わないと、運用が複雑化し、混乱を招く可能性があります。

そのため導入時には専門家のアドバイスを受けたり、評価制度に関するトレーニングを実施したりすることが重要です。

ミッショングレード制を導入する方法

ミッショングレード制を導入することで、企業の成長に必要な人材を適切に評価し、組織全体のパフォーマンスを向上させることができます。しかし、従来の評価制度からの移行には、社内の理解を得るプロセスが欠かせません。

ミッショングレード制を導入する際のステップを詳しく解説します。

1.導入目的と制度の方向性を明確にする

ミッショングレード制の導入を成功させるためには、「なぜ導入するのか」「どのような組織を目指すのか」といった制度の方向性を明確にする必要があります。

単に他社の成功事例を取り入れるのではなく、自社の経営理念や事業戦略と照らし合わせて最適な制度設計を行うことが重要です。

たとえば、「成果に基づいた公平な評価を実現したい」「従業員のスキルアップを促進したい」などの課題を明確化し、それに対応する形で評価基準を策定します。また制度導入後のゴールを経営陣と従業員が共有し、全社的な理解を得ることも必須です。

2.等級(グレード)の設定と役割の明確化

ミッショングレード制では、職務の難易度や責任に応じて等級を分け、それぞれに求められる役割を定義します。等級が多すぎると複雑になり、少なすぎると昇進の機会が限られるため、バランスを考慮することが重要です。

3.評価基準とプロセスの整備

ミッショングレード制では、評価の透明性が重要なポイントのため、どのような成果がどのように評価されるのかを明確にする必要があります。

企業の経営目標と従業員個々の目標が連携しているかを確認し、一貫性のある評価体系を整えることが不可欠です。また評価基準を公平に設定することも重要で、目標の達成度だけを評価するのではなく、業務プロセスやスキルの成長といった要素も考慮し、多角的な評価を行う仕組みを構築する必要があります。

さらに評価の透明性を高めるために、評価基準やプロセスを明文化し、従業員に対して事前に説明する場を設けることが効果的です。

従業員が自身のキャリア形成においてどのような成果を求められているのかを理解しやすくなることで、主体的に業務へ取り組む姿勢が育まれます。

4.導入スケジュールの策定と社内浸透のための施策

ミッショングレード制は、段階的に進めることで社内の混乱を最小限に抑えることができます。

たとえば、以下のようなステップで導入を進めます。

  1. 制度の概要を経営陣・管理職に説明し、合意を得る
  2. 従業員向けの説明会を実施し、制度の目的や仕組みを共有する
  3. 一部の部署や役職で試験的に運用し、フィードバックを収集する
  4. 必要な調整を行った上で、全社的に正式導入
  5. 定期的に制度の運用状況をチェックし、継続的に改善を行う

段階を踏んで導入することで社員の理解が深まり、結果的にスムーズな導入が実現します。試験運用の段階で現場の意見を反映することが、制度の定着と効果的な運用に不可欠です。また、定期的な見直しを行い、運用における課題を早期に特定し、改善を重ねることで、制度の信頼性を高めることができます。

ミッショングレード制を導入している企業事例

ミッショングレード制を実際に導入している企業の事例を紹介します。

ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社ではミッショングレード制を導入し、グローバル人材共通のマネジメント制度を確立しています。職務の役割をグローバル基準で統一し、多様な給与テーブルを設定することで、業務への柔軟な対応が可能になりました。

従来の年功序列に依存しない評価制度を導入することで、社員のキャリア形成において実力と成果が重視される仕組みが確立され、より公平な評価が実現しています。

ココナラ株式会社

ココナラ株式会社は、社員一人ひとりの主体性を尊重しながら、組織としての成長を加速させるためにミッショングレード制を導入しました。

職種や専門性に応じて複数のグレードを設定し、社員が「マネジメントコース」または「スペシャリストコース」のいずれかを選択できる仕組みです。

また、評価制度は単なる成果主義に偏らず、「ミッション(業務目標の達成度)」と「バリュー(企業理念や価値観の体現度)」を50:50の比率で評価する方式を採用しています。

短期的な業績だけでなく、企業文化への貢献や協働の姿勢も重要な評価基準となり、社員のモチベーション向上につながっています。

株式会社日立製作所

株式会社日立製作所では、2020年よりグローバルな事業展開を強化するためにミッショングレード制を導入しました。職務ごとの役割や責任を世界基準で統一し、全社的に統一された等級制度を実現しました。

給与体系にも多様性を持たせることで、各国の市場状況に適応しながら、柔軟な人材配置を可能にしています。さらに、グローバル基準を導入したことにより、日本では取得が難しいとされていた有給休暇や育児休暇の制度も充実し、社員が働きやすい環境の整備が進められました。

ミッショングレード制が適しているかどうか判断しよう

ミッショングレード制は、役割の難易度や成果を基準に評価を行うことで、従業員の主体性を引き出し、組織全体の生産性向上を促す制度です。

企業の文化や事業戦略によっては、ミッショングレード制が適さない場合もあります。そのため、自社の経営方針や人材戦略をしっかりと見極めた上で、適切な評価制度を選択することが大切です。

ミッショングレード制の導入を検討する際には、まず現在の人事評価制度の課題を洗い出し、企業としてどのような評価基準を確立したいのかを明確にすることが重要です。導入後も継続的な見直しを行いながら、制度が適切に運用されるよう調整を続けることで、制度のメリットを享受し続けられるでしょう。

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Startup JAM編集部
執筆

Startup JAM編集部

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AI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」を提供する株式会社LegalOn Technologiesの、「Startup JAM-スタートアップ向けにビジネスの最前線をお届けするメディア-」を編集しています。

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