成果主義賃金制度とは
成果主義賃金制度の定義を知るためには、この概念を構成する「成果主義」と「賃金制度」の理解が必要です。ここでは、各用語の具体的な意味に注目しながら、成果主義賃金制度がどういうものかを確認しましょう。
- 成果主義とは
- 成果主義と能力主義の違い
- 賃金制度とは
- 成果主義賃金制度とは
成果主義とは
成果主義とは、企業業績への貢献度に応じて処遇を決める仕組みのことです。英語では「Result-based Human Resource Management」と表記されます。この仕組みの「成果」は、職種やランクなどで異なるものです。たとえば営業職の場合、「新規顧客の獲得数」や「売上目標の達成率」などが成果として評価されることが一般的です。
成果主義と能力主義の違い
成果主義と混同されやすい概念に、能力主義があります。一般的な成果主義と能力主義の違いは、以下のとおりです。
成果主義
- 評価対象:業績や成果、高いパフォーマンス
- 見極める期間と視点:上司と決めた評価期間内で見極める。能力主義と比べて、短期的な業績が中心。
- 成果を出すまでのプロセス:対象外
- 賃金の低下:業績が悪ければ下がることもある
能力主義
- 評価対象:顕在化している職務遂行能力に加えて、潜在的な能力まで評価。仕事への向き合い方や勤勉さなどを含めた「業績を出すまでの過程」まで問われるケースが多い。
- 見極める期間と視点:自社の業績に中長期的な貢献をしてくれる人材を見極める
- 成果を出すまでのプロセス:対象(仕事への向き合い方や勤勉さなども重視)
- 賃金の低下:終身雇用&年功序列を前提とした働き方であるため、賃金が下がることは基本的にない
なお、成果主義と能力主義には、「どちらが良くて、どちらが悪い」といった評価はできません。人事評価の考え方や手法は、自社の状況や各職種に合うものを選ぶことが大切になります。
仮にいま導入済みの能力主義で良い効果が出ない場合、成果主義を含めたほかの評価制度の見直しを図ることも1つでしょう。
賃金制度とは
賃金制度とは、従業員への給与や賞与の決定に関連する制度の総称です。
厳密には賃金制度は、従業員のランク決定に関わる「等級制度」×「報酬制度」で構成されるものになります。ただ一般的には、賃金制度と報酬制度を同義として扱うことが多いでしょう。
成果主義賃金制度とは
成果主義賃金制度は、企業業績への貢献度に応じて賃金(報酬)を決める仕組みの総称です。成果型賃金制度とも呼ばれます。成果主義賃金制度の場合、各従業員の「成果のみ」を基準にするため、本人の年齢・社歴・スキルなどに注目することはありません。
成果主義賃金制度はこうした特徴から、日本国内で長く続いた年功序列制と対立する特徴を持つ制度と言われたりもします。
成果主義賃金制度の効果・メリット
成果主義賃金制度の特徴は、この仕組みの効果・メリット・デメリットなどに着目することでよりイメージしやすくなります。ここではまず、成果主義賃金制度を導入し適切な運用ができたときに得られる効果・メリットを詳しく見ていきましょう。
- 実力本位の評価が可能になる
- 従業員のモチベーションが高まりやすくなる
- 優秀な人材を確保しやすくなる
- 人件費を抑えやすくなる
実力本位の評価が可能になる
日本企業で長く続いた年功序列の組織では、上司の主観による不公平な評価が生じやすい傾向がありました。
- Aさんには期待しているから、評価も高めにしておこう
- BさんとCさんなら、Bさんのほうが頑張っている感じがする
- Dさんが今期も頑張ったに違いない など
一方で成果主義賃金制度では、売上や成約数といった明確な数字や業績で評価が行われます。それはつまり、実力本位の客観的な評価によって賃金が決まる仕組みといえるでしょう。
従業員のモチベーションが高まりやすくなる
実力に応じた客観的な評価を行うと、かつて年功序列の組織のなかで不公平な扱いを受けていた従業員にも「いまは適切な評価が行われている」といったポジティブな思いが生まれやすくなります。
その結果、「適切に評価されるなら、より高い目標達成を目指そう」といった意欲の向上が期待できるでしょう。
また、実力などにもとづく客観的かつ公平な評価は、上司と部下の信頼関係を築くうえでも不可欠なものです。客観性の高い評価制度によって上司と部下の関係がよくなることは、「上司の期待に応えたい」などのポジティブな想いから、従業員個人の育成にも好循環をもたらす可能性が高いでしょう。
優秀な人材を確保しやすくなる
自分が出した業績や売上が適切に評価され、それに応じた賃金が支払われる仕組みは、いわゆるハイパフォーマーの定着を促すうえでも有効です。
また、たとえば、採用活動の企業説明会や面接などで成果主義賃金制度の話をすると、自分の成果や実績を適正に評価してほしい人材への魅了付けもしやすくなるかもしれません。
人件費を抑えやすくなる
終身雇用+年功序列の従来組織では、「社歴が長い」や「次世代リーダーになってほしい」などの理由から、現状では業績貢献度が低い従業員にも高い等級や報酬などを与えてしまうケースが多くありました。
こうしたなかで成果主義賃金制度を導入すると、売上や成約数などの業績が高い従業員「だけ」に対して、より高い処遇を与えることになります。それはつまり、貢献度が低い従業員への報酬が抑えやすくなると考えてよいでしょう。
成果主義賃金制度のデメリット
成果主義賃金制度にも、注意すべきデメリットがいくつかあります。
人材や生産性の課題を解決するために成果主義賃金制度を導入する場合、以下の注意点やデメリットを理解したうえで、適切な対処をすることが大切です。各問題を見ていきましょう。
- 不向きな役職・職種がある
- 良いチームの構築に支障が出ることがある
- 短期的な成果で終わることがある
- 従業員の格差が広がる
不向きな役職・職種がある
以下のような職種などでは、売上や契約数などの具体的な成果が少ないことから、仮に成果主義賃金制度を導入しても適切な評価項目や基準を決めづらい傾向があります。
- 人事部や総務部などの管理部門
- 研究開発職 など
また、一般的な管理職も、部署の目標達成を目指すことのほかに、部下のサポートやチームビルディングなどの幅広い仕事に携わることが多いはずです。こうした役職に成果主義賃金制度を導入した場合、「良いチームを構築できた」などの数値化できない業績に対して適切な評価がしづらいかもしれません。
なお、営業職は、成果主義賃金制度と親和性が高いと思われがちな職種です。
しかしたとえば、複数のお客様に対して、来年のリプレースに向けた大型案件の提案・商談を続けている時期は、多くの仕事をしているにも関わらず「半年間の売上0円」などということもあるかもしれません。
そこで成果主義賃金制度だけを基準に報酬を決めてしまうと、大型案件の獲得に向けての頑張りを適切に評価してあげられない可能性もあるでしょう。
良いチームの構築に支障が出ることがある
成果主義賃金制度を導入した場合、みんなが高い業績を目指すなかで、チームメンバー同士がライバルになる可能性があります。
これは、VUCA時代の逆境に強いチームをつくるうえで、あまり良い状態ではありません。
近年のように、コロナショックやウクライナ侵攻といった予測不能な出来事が度重なる時代では、自社が直面した問題をみんなで乗り越えるチームづくりが求められます。
一方で、成果主義賃金制度の導入によってチームでの共創・協働よりも個人プレイが重視される組織になった場合、逆境を乗り越えるための一致団結なども難しくなるかもしれません。
短期的な成果で終わることがある
ビジネスは、常に高い成果を出し続けられるものではありません。たとえば、コロナショック下で緊急事態宣言が出された場合、会社やビジネスパーソンは普段の営業活動をしている場合ではなくなる可能性が高いでしょう。
また、従業員のパフォーマンスも、常に高い状態がキープできるとは限りません。仮に家族に病気や妊娠出産などの出来事があれば、従来のエネルギーを営業活動などに注げなくなることもあるでしょう。
外的環境の変化や従業員のライフイベントなどを無視して成果だけを求めすぎた場合、多くのメンバーに負担がかかり、結果として離職者などが生まれやすくなる可能性があります。そうすると、組織の中長期的な成長は難しくなるかもしれません。
従業員の格差が広がる
既存の組織に成果主義賃金制度を導入した場合、「①成果を出せる人」と「②なかなか成果が出せない人」で賃金格差が広がることになります。
仮に②に該当した人がベテラン社員だった場合、新人や若手のような著しい成長も見込めないなどの理由から、モチベーション低下や新制度への反発が起こるかもしれません。
また、①と②の格差が広がると、逆境に強く協働・共創できるチームづくりなども難しくなるでしょう。
成果主義賃金制度が注目される理由・背景
近年の日本で成果主義賃金制度が注目されるようになった背景には、以下のような社会環境の変化が関係しています。各ポイントを見ていきましょう。
- 雇用形態の多様化
- 働き方改革
- 転職の一般化と採用難
雇用形態の多様化
近年のビジネス環境では、正社員と非正規雇用の従業員が1つの職場内で一緒に働くことが当たり前になっています。また、こうしたなかで、雇用形態によるあらゆる待遇差を防ぐ目的から、いわゆる同一労働同一賃金を前提とするさまざまな法律が整備されるようになりました。
一方で従来の日本企業に多かったいわゆる年功賃金では、定年退職を目指して長期間働く正社員のほうが、パートタイマーなどの非正規雇用と比べて優遇されやすい傾向があります。仮にこの優遇が過剰であり、正規と非正規の間に大きな待遇差をもたらしていれば、同一労働同一賃金の考え方に違反するかもしれません。
こうしたなかで成果主義賃金制度を導入すると、売上などの成果を軸に働く人の賃金が決まることになります。それはつまり、年功賃金が続いてきた組織を同一労働同一賃金に変えていくうえで、役立つ仕組みになる可能性が高いでしょう。
働き方改革
近年の日本では、政府が推進する働き方改革などの影響から、限られた時間のなかで効率よく成果をあげる仕組みづくりに迫られる企業が多くなっています。
また、最近の若い世代は、タイムパフォーマンスを重視していることから、昭和の時代に当たり前のように行われていた長時間労働や毎日の残業などからも、脱却が求められるようになりました。
こうした状況で関心が高まっているのが、働いた時間ではなく、各個人のわかりやすい業績に着目する賃金制度です。成果や業績を重視するようになれば、かつてのように「Aさんは毎日遅くまで残業しているから、評価も高くつけてあげよう」といった主観的評価も通用しなくなります。
転職の一般化と採用難
近年のビジネス環境では、終身雇用が崩壊したことで転職が一般化することになりました。それはつまり、自社に不満を抱えていたり、もっと良い環境でキャリアを積みたかったりする人材が、離職する可能性が高まったことを意味します。
また、最近の日本企業は、少子高齢化社会の加速などの要因から採用難に陥りやすくなっています。こうしたなかで、自社に合う優秀な従業員を獲得し、その人材の定着や活躍を促すためには、従来の社歴や上司の主観ではなく、客観性の高い成果に着目する評価の仕組みが必要になってくるでしょう。
成果主義賃金制度の歴史と導入率
成果主義賃金制度が日本国内に浸透したのは、1990年代末〜2000年以降の時期とされています。ただし、成果主義賃金制度への評価は、ずっと高い状態が続いたわけではありません。
まず、この制度が日本国内に普及し始めた1990年代は、比較的肯定的な意見が多い傾向がありました。しかし2000年以降になると、導入企業の増加にあわせてこの制度に対する企業評価も多くなり、次第に批判的な意見も増えていくのです。
成果主義賃金制度の普及はこうしたなかでも進んでいき、大企業を中心にこの仕組みを活用した人事制度が浸透することになりました。そして、2009年に厚生労働省が実施した調査によると、成果主義賃金制度を採用する企業の割合は、以下のように会社の規模によって異なることがわかっています。
【調査対象全体】30.2%
【30~99人】25.3%
【100~999人】36.5%
【1,000人以上】73.5%
引用:成果主義賃金|(1)成果主義賃金の採用状況(厚生労働省)
近年の日本では、雇用形態の多様化などの影響から、長期雇用が維持されるなかで、業績・成果主義的な側面が強い賃金制度が多くなっています。また、勢いがあるスタートアップ企業のように、「売上高が大きくあがる」や「成長力がある」などの状態の場合、業績・成果を重視する賃金制度を導入するケースが増えているようです。
成果主義賃金制度における3つの導入方法
成果主義賃金制度は、場合によっては従業員に不利益をもたらす可能性のある制度です。
既存の仕組みから成果主義賃金制度への変更をする場合、以下3つのいずれかで手続きを行う必要があります。ここでは、各導入方法の基本的な流れやポイントを見ていきましょう。
- 従業員から個別的同意を得て導入する方法
- 労働協約の締結・改訂を経て導入する方法
- 就業規則の改訂を経て導入する方法
1.従業員から個別的同意を得て導入する方法
成果主義賃金制度の対象者や、従業員自体が少ない会社で導入しやすい方法です。後述する協約や就業規則の整備が十分ではない会社でも、選択されることが多いでしょう。
従業員から「個別的同意を得る」とは
個別的同意とは、従業員個人から同意を得たうえで労働条件の不利益変更をすることです。不利益変更とは、成果主義賃金制度のような報酬・労働時間・休暇・福利厚生などについて、従業員に不利益な方向に変更することになります。
成果主義賃金制度の場合、人によっては報酬が減るリスクがあることから、以下の労働契約法第8条にもとづき不利益変更の手続きが求められるでしょう。
第八条
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
個別的同意を経て制度導入する流れと注意点
個別的同意で成果主義賃金制度を導入(への変更)をするためには、以下の流れで手続きを進める必要があります。
- 労働条件の不利益変更の内容を示す
- 説明内容が書かれた書類をつくる
- 書類に従業員の署名捺印をもらう
なお、過去の最高裁判例では、労働条件の不利益変更における従業員同意の有効性について、ただ書面を取り交わすだけでなく、以下の情報を提供することを求めています。そのうえで、本人の自由意志にもとづく署名捺印と認められた場合にのみ「合理的な理由がある」と判断できるようです。
- 従業員に求められる不利益内容
- 今回の不利益変更がされるに至った経緯・態様
- 不利益変更に先立つ従業員への情報提供・内容説明
一方、成果主義賃金制度の導入で従業員本人にリスクやデメリットがあるにも関わらず、その内容を説明しなかった場合、裁判所的には「合理的な理由がない」との判断になるかもしれません。注意しましょう。
2.労働協約の締結・改訂を経て導入する方法
労働協約とは、労働組合や労働者の過半数を代表する者と使用者が締結する就業規則の特則のことです。常時使用する従業員が10人未満で就業規則がない会社でも、労使協約の締結は可能となります。労使協約のほうが就業規則よりも効力が強いです。
労使協約の締結・改訂による成果主義賃金制度の導入方法
労使協約を通じて成果主義賃金制度を取り入れる際には、以下の流れで手続きを進めます。
- 労使が納得できるまで労使交渉を行う
- 有効期間を定める
- 合意した内容で書面をつくる
- 両当事者が書面に署名捺印する
労使協約の有効期間は3年が上限です。労働基準監督署への届出は必要ありません。
労使協約の場合も、先述の個別的同意と同様に成果主義賃金制度の導入による不利益を含めた情報を伝えたうえで、自由意志のもとで合意を得る必要があるでしょう。
3.就業規則の改訂を経て導入する方法
就業規則がすでに作成されていて、多くの従業員に成果主義賃金制度を導入する場合、就業規則自体を変えてしまう方法が選択されます。
就業規則の改訂と労使協約の締結・改訂の違い
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に設置が義務付けられているものです。各企業には、各作業場の見やすい場所への掲示や書面配布などの周知も求められています。
就業規則は、使用者側が一方的に作成・変更できるものです。ただし、成果主義賃金制度の導入が不利益変更にあたる場合は、労使協約と同様に労働者側の同意を得なければいけません。
就業規則に有効期間がないことも、労使協約との大きな違いになります。
就業規則の改訂による成果主義賃金制度の導入方法
成果主義賃金制度の導入にともない就業規則の改訂をする場合は、以下の流れで手続きを進めていきます。
- 就業規則の改定案を作成する
- 改定案を経営陣に確認してもらい、承認を得る
- 従業員側の意見を聴取する
- 必要書類を作成し所轄の労働基準監督署に届け出る
就業規則は、労働基準法などの法律にもとづいて作成されるものです。そのため、新制度の導入などをする際には、就業規則の変更案を法務担当者および経営陣に確認してもらう必要があります。
4の必要書類とは、以下の3つです。
- 就業規則変更届
- 意見書
- 変更後の就業規則
意見書には、従業員の過半数で構成される労働組合もしくは過半数が支持する代表者から聴取した意見を記入します。フォーマットは自由です。厚生労働省や東京労働局などでも様式を公開しています。参考にするとよいでしょう。
参考:様式集(東京労働局)
なお、必要書類の届け出には、明確な期限の定めがありません。ただし、その内容が従業員の評価や賃金に影響することを考えると、労働基準監督署への届け出と現場での周知はなるべく早めに行ったほうがよいでしょう。
成果主義賃金制度の導入事例
近年の日本では、成果主義賃金制度と似た仕組みを導入する企業が多くなっています。自社に成果主義賃金制度を取り入れる際には、こうした企業の成功事例を参考にしてもよいでしょう。ここでは、3社の導入事例を見ていきます。
- ファーストリテイリング
- 武田薬品工業
- 花王
ファーストリテイリング
UNIQLOで知られるファーストリテイリングは、従業員の成果や業績を特に重視する企業です。たとえば、入社したばかりの新人・若手が現場で経験を積み、高い実績を残すことができれば、入社から3~5年で報酬が数千万円(※欧米地域の場合)に達するとされています。
また、ファーストリテイリングのサイトでは「完全実力主義」を打ち出しており、「もし世界一いい仕事をしたら、世界一いい報酬をもらってもいいじゃないか。」などのメッセージも公開中です。
賃金制度の仕組みや新制度への想いなどを自社ホームページで公開すると、入社希望者への良いアピールになるでしょう。
武田薬品工業
武田薬品工業は、徹底した成果主義の導入で知られる企業です。この会社の成果主義賃金制度は、さまざまな論文などでも解説されています。
武田薬品工業が一般社員の年功賃金を廃止したのは、2003年のことでした。このタイミングで一般社員の給与は職務給に一本化され、管理職は職務等級定額化に加えて個人の業績をすべて賞与に反映するシステムに変更しています。
成果主義賃金制度の導入で報酬計算に負担が生じる場合、武田薬品工業のように賞与をうまく活用する仕組みに変えても良いかもしれません。
花王
花王は、人事制度を成果主義を軸とする内容に修正した企業です。仕事のゴールまでに生まれる議論や他部署との連携・コミュニケーションなどを期待して、成果+過程重視の制度に修正しています。
ただし、人事評価における成果の割合を減らし過程に重きを置くと、緊張感やモチベーションが低下する可能性もあるでしょう。花王ではこうした問題を防ぐために、従業員の目標や進捗度合いを公開する施策も導入しています。
成果主義賃金制度などを導入する際には、花王のように従業員の世代的特徴やビジネス環境などを鑑みながら、現状に合う形への修正を続けることも大切です。
参考:人財開発(花王)
成果主義賃金制度の成功ポイント
成果主義賃金制度などの人事制度は、導入すれば必ず成功するものではありません。導入の仕方によっては、多くのコストをかけたにもかかわらず失敗することもあります。成果主義賃金制度を自社に合う形で成長させるためには、以下のポイントを大切にする必要があるでしょう。
- 自社に合うかどうかを見極める
- 成果だけでなく過程も大切にする
- 従業員のモチベーションを支援する仕組みを整える
- 定期的な制度見直しをする
自社に合うかどうかを見極める
新制度が大きく失敗した場合、導入までの時間や費用が無駄になってしまいます。この問題を防ぐためには、成果主義賃金制度の設計に入る前に、この仕組みが対象部門・職種に合っているかどうかを見極めることが大切です。
成果主義の導入が多い職種には「個人の働きぶりが成果に直結しやすい」や「仕事の成果が定量化しやすい」などの特徴があります。
自社の業務がこれらの要件に該当しない場合、ほかの賃金制度や評価制度を導入することも1つです。中長期的な人材マネジメントを前提にした場合、異なる方法のほうが良い可能性もあるでしょう。
成果だけでなく過程も大切にする
近年のビジネス環境は、複雑さがかなり増しています。
たとえば、コロナショックのような事態が起これば、従業員は自分が立てた計画通りに仕事を進めることが難しくなります。また、計画の実行が難しくなれば、目標達成で成果をアピールすることも困難になるでしょう。
こうしたなかで、優秀な人材に自社で長く活躍してもらうためには、コロナショックのような予測不能な事態が起きたときにも、「課題を解決する姿勢とスピード」や「計画を変更し諦めずに前に進む姿勢」といった過程や定性的な要素も評価できる仕組みが必要です。
花王のように過程も重視する制度を構築すれば、介護や妊娠出産などのライフイベントで成果が思うように出ない時期でも、優秀な人材の離職が起こりづらい環境を構築しやすくなるでしょう。
従業員の動機づけなどを支援する仕組みをつくる
成果主義賃金制度を運用するうえでは、従業員がどのような状況でも高いモチベーションを持ち、努力や計画実行などを続けられるサポートも必要です。
特に近年は、ビジネス環境の複雑化から想定外の逆境やトラブルが起こりやすい時代となります。こうしたなかで高いモチベーションを維持し、成果を出し続けてもらうためには、上司による精神面のサポートが必要でしょう。
また、上司による支援の有効性を高めるうえでは、上司と部下やチーム内での心理的安全性を向上させることも大切です。
定期的な制度見直しをする
成果主義賃金制度などの仕組みは、一度導入すれば終わりではありません。
導入後は、アンケートなどをとりながら改善点を洗い出し、優先順位をつけて新たな方策を実行していく必要があります。また、成果主義賃金制度で思うような効果が得られなかったり、不満の増大から組織に悪循環が生じた場合は、ほかの制度との組み合わせや切り替えなどを検討することも1つでしょう。
成果主義賃金制度について解説しました
成果主義賃金制度は、営業職などのモチベーション向上や人材育成で役立つ要素が多い仕組みです。
ただし、成果ばかりを重視しすぎると、組織内に賃金格差が生まれる可能性があります。この問題を防ぐためには、成果を出すまでの過程も大切にしたり、ほかの制度との組み合わせで総合的な評価を行ったりすることも必要です。
また、既存の賃金制度から変更をする場合は、従業員にとって不利益変更になることを意識した手続きが求められるでしょう。