PMF(プロダクトマーケットフィット)とは?
まずは本記事の本題である、PMFの概要を学んでいきましょう。ここではPMFの定義と注目されている理由を解説していきます。ビジネスワードとしての定義に加えて、近年注目される理由を知ることで、活用の必要性を把握できます。
PMFの定義
PMF(プロダクトマーケットフィット)とは、製品としてのサービスや商品が特定の市場において、ニーズに適合している状態を指します。言い換えると、顧客の課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態のことです。
アメリカのソフトウェア開発者兼投資家であるマーク・アンドリーセン氏が広めたPMFの考え方は、スタートアップ企業を中心に、現代の企業においてその成功を左右する重要な要素として、多くの起業家や経営者に深く浸透しています。
PMFが注目されている理由
近年PMFが特に注目を集めている背景には、スタートアップを取り巻く環境の急速な変化があります。2022年に岸田政権が「スタートアップ創出元年」として、新しい資本主義の実現に向けスタートアップへの重点的な投資を推進しました。経団連はこの政府の動きに合わせ、2023年に「スタートアップ躍進ビジョン」を発表し、2027年までにスタートアップの数を大幅に増加させる目標を掲げました。
これらの動きは、スタートアップが単なる新しいビジネスの形ではなく、経済社会全体に新たな価値をもたらす存在として、国や経済界から強く期待されていることを示しています。スタートアップは従来のビジネスモデルとは異なり、初期段階から積極的に投資を行い、短期間での急成長を目指すのが特徴です。そのため限られた資源の中で、いかに早く市場のニーズに応え、顧客を獲得するかが成功の鍵となります。
PMFを達成することは、この目標の達成に重要なステップであり、スタートアップが持続的な成長を遂げる上で重要な要素です。このようにして、スタートアップが市場の期待を集めるとともに、その重要なステップであるPMFの達成にも注目が集まっています。
PMFの達成を測る基準と検証方法
PMFの達成を測るためには、いくつかの検証方法を用いてその指数を確認する必要があります。ここからはそれらの基準や検証方法について、詳しく解説していきます。
NPS
NPSとは「Net Promoter Score」の略で、顧客ロイヤルティ(商品やサービスに対する信頼・愛着)を表す指標です。商品を利用した顧客にアンケート調査などを行い、その回答結果をもとにスコアを計算します。計算方法は以下の通りです。
- 「どの程度お薦めしますか」といった内容で、0-10の11段階のNPSアンケートを取得する
- 0~6の「批判者」の数を集計し、割合を算出する
- 9~10の「推奨者」の数を集計し、割合を算出する
- 「推奨者の割合」-「批判者の割合」を引く
- 割合(%)表記を省略した数値がNPSとなる
参考、画像引用元:NTTコム オンライン「NPS®(ネットプロモータースコア)とは?」
注意点として、サンプル数が少ないほど誤差が大きくなることに加えて、日本の消費者は中間付近の評価を付ける傾向にあり、NPSがマイナスになりやすい点が挙げられます。
業界によって平均NPSが大きく異なるため、自社のスコアが算出できたら業界平均と比較して自社の状況を確認しましょう。
主要な業界のNPS平均値
クレジットカード
- 平均NPS:-40.0pt
家電
- 平均NPS:-15.2pt
ネット証券
- 平均NPS:-24.7pt
セキュリティソフト
- 平均NPS:-32.0pt
自動車
- 平均NPS:-22.8pt
リフォーム
- 平均NPS:-21.8pt
銀行
- 平均NPS:-41.9pt
電力(東日本)
- 平均NPS:-52.8pt
参考:NTTコム オンライン「NPS®(顧客推奨度)業界別ランキング」
PMFsurvey
PMFsurveyは、顧客がプロダクトに対してどれほどの価値を感じているかを直接的に測定するためのアンケート調査です。この調査では、顧客に対して「もしこのプロダクトが明日から使えなくなったら、どの程度残念に思いますか?」といった質問を投げかけます。回答の選択肢としては、「非常に残念」「やや残念」「どちらとも言えない」「全く残念ではない」などが用意されます。
ここで重要なのは、「非常に残念」と回答した顧客の割合です。一般的にこの割合が40%を超えると、PMFが達成されている可能性が高いと判断されます。
PMFsurveyは、顧客の生の声を直接聞くことで、プロダクトの市場適合性を定量的に評価できる有効な手段です。またこの調査を通じて、顧客がプロダクトのどの部分に価値を感じているのか、逆にどの部分に不満を感じているのかを把握することもできます。この情報を元にプロダクトの改善や新たな機能開発に役立てることも可能です。
リテンションカーブ
リテンションカーブは、顧客がプロダクトやサービスを継続して利用している割合を時系列で示したグラフです。このグラフはプロダクトの顧客維持率を視覚的に把握するのに役立ちます。
リテンションカーブが安定し水平に近づいている場合、顧客がプロダクトに定着し、長期的に利用していることを示しています。上記の図のオレンジ色の線の状態です。この状態はPMFが達成されている可能性が高く、今後も持続的に利用者を確保できるプロダクトであると考えられます。
一方でリテンションカーブが急激に下降している場合、それは顧客がプロダクトから離れている状況です。すなわちPMFが達成されていない可能性を示唆しています。
リテンションカーブは、顧客の利用状況を把握し、プロダクトの改善点を見つけるための重要なツールです。定期的にリテンションカーブを分析することで、顧客のニーズの変化や市場の動向を把握し、プロダクトの改善に繋げることができます。
PSF(プロブレムソリューションフィット)との違い
PMFと合わせて用いられる、ビジネス成功の指標にPSF(プロブレムソリューションフィット)があります。PSFはPMFの前段階であり、PMFの実践にはPSFが達成された状態が必要です。
ここからはPSF(プロブレムソリューションフィット)について、詳細と達成の道筋を見ていきましょう。
PSFとは?
PSFは、顧客が抱える課題に対する解決策として、プロダクトやサービスが適切に機能している状態を意味します。この段階では、プロダクトが市場全体に受け入れられるかどうかよりも、まず特定の顧客層が抱える具体的な課題を解決できるかが重要です。PMFを達成する前提として、提供する商品が市場・顧客の課題を解決できることを目指します。
PSFを達成するためには、顧客インタビューやアンケート調査などを通じて、顧客の課題を徹底的に理解し、それに対する解決策の仮説検証が必要です。顧客が実際にプロダクトやサービスを利用し、課題が解決されるかどうかを検証することで、PSFの達成度合いを測ることができます。
PSFを達成するには?
PSFを達成するには、主に以下の4つのステップをクリアする必要があります。それぞれのステップを踏まえて、自社のプロダクトがPMFの前提となるPSFを達成できるよう、確認してみましょう。
①顧客の課題を特定する
ターゲット層とする顧客が困っている内容について、表面的なニーズだけでなく深層にある課題まで洗い出します。顧客インタビューやアンケート調査を通じて、課題の具体性や緊急性を明確にすることが重要です。
②課題を解決するためのプロトタイプを作成する
特定した課題を解決するためのアイデアをプロトタイプ(試作品)として形にします。プロトタイプはその名前の通り、必ずしも完成品である必要はありません。顧客が課題解決の可能性を感じられるレベルで十分です。
③プロトタイプを検証する
作成したプロトタイプを実際に顧客に使ってもらい、フィードバックを収集します。顧客が課題を解決できたか、使い心地はどうか、改善点は何かなど、率直な意見を聞くことが重要です。ここでフィードバックした情報を元に、ブラッシュアップすることで、よりPSFに近づけていきます。
④ターゲット層の購買意欲を確かめる
③での検証と合わせて、ターゲット層の購買意欲を確認しておきます。プロトタイプへのフィードバックを踏まえ、ターゲット層がその解決策に対してどの程度の価値を感じ、購買意欲を持つのか把握することで、その後の収益化につなげる起点とすることが可能です。顧客が課題解決の対価として、その製品にお金を払う意思があるかどうかを確認します。
PMFを達成する手順
前提となるPSFが達成できているプロダクトであることを踏まえて、PMFの達成を目指します。PMFを達成することで、自社の製品が顧客の課題を解決し市場に受け入れられていることを裏付けることができます。以下に示す手順を実践して、PMFの達成を目指しましょう。
MVPを構築する
PMF達成に向けた最初のステップは、MVP(Minimum Viable Product:最小限の実行可能な製品)の構築です。MVPとは、顧客に価値を提供できる最小限の機能を持つ製品であり、開発初期段階で市場の反応を確かめるために用いられます。
重要なのは、完璧な製品を目指すのではなく、顧客の課題を解決するのに必要な核となる価値を可能な限り早く提供することです。MVPを通じて、顧客が本当に必要としている機能や改善点を早期に把握し、製品開発の方向性を柔軟に修正するヒントとして活用できます。
MVPは、開発コストや時間を抑えつつ、顧客からのフィードバックを効率的に収集するための有効な手段となります。顧客のニーズに応じた製品開発を進めることで、PMF達成の可能性を高めることができるでしょう。
またMVPは、主に以下の6つのタイプに分けることができます。
MVPの6つのタイプ
- ランディングページMVP
- コンシェルジュMVP
- デモ動画MVP
- プロトタイプMVP
- コンビネーションMVP単機能(ツール)MVP
顧客からの評価を計測する
MVPを市場に投入して実際に顧客に利用してもらうことで、顧客からの評価を計測します。顧客が製品に対してどれほどの価値を感じているのか、具体的なデータを収集することで、MVPの市場における価値と市場での将来性があるかを確認することが可能です。
評価の計測には、アンケート調査や顧客インタビュー、利用データ分析など、さまざまな方法があります。顧客満足度(CSAT)やネットプロモータースコア(NPS)などの指標を用いることで、顧客の評価を定量的に把握可能です。その他にも顧客の評価を計測する方法として、AARRR指標による定量分析などが用いられます。
AARRR指標による定量分析
AARRR指標は、スタートアップの成長を5つの段階に分け、それぞれの段階における顧客の行動を数値化することで、事業の現状を把握し、改善点を見つけるためのフレームワークです。具体的には、以下の5つの指標を計測します。
- Acquisition(獲得):顧客がサービスやプロダクトを認知し、初めて接点を持つ段階
- Activation(活性化):顧客がサービスやプロダクトを実際に使い始め、その価値を体験する段階
- Retention(継続):顧客がサービスやプロダクトを継続的に利用し、定着する段階
- Referral(紹介):顧客がサービスやプロダクトを他の人に紹介し、新たな顧客を獲得する段階
- Revenue(収益):顧客がサービスやプロダクトを購入し、収益が発生する段階
これらの指標を分析することで、各段階における顧客の行動を定量的に把握し、どの段階に課題があるのかを特定できます。例えば、獲得した顧客が活性化に進まない場合、オンボーディングプロセスに問題がある可能性があります。また、継続率が低い場合にはプロダクトの改善が必要かもしれません。
AARRR指標の重要な点は、各段階の数値を計測するだけでなく、次の段階への転換率を算出することです。これにより、どの段階で顧客が離脱しているのかを可視化し、具体的な改善策を検討できます。
AARRR指標を含む顧客評価のデータを分析することで、製品の強みや改善点を明確にし、PMF達成に向けた具体的な戦略を立てることができます。顧客からの評価を真摯に受け止め、製品改善に繋げることが、PMF達成の鍵となるでしょう。
継続的に改善を繰り返す
PMF達成は一度きりのゴールではなく、継続的なプロセスです。顧客のニーズや市場の状況は常に変化するため、製品もそれに応じて進化し続ける必要があります。顧客からの評価や市場の動向を常に把握し、製品の改善を繰り返すことが重要です。
改善のプロセスでは、顧客からのフィードバックを積極的に取り入れ、迅速に製品に反映させることが求められます。また競合製品の動向や技術の進化にも目を配り、常に市場における競争力を維持することが重要です。継続的な改善を通じて、顧客に常に新しい価値を提供し続けることでPMFを維持し、さらなる成長を目指すことができます。
企業のPMF事例3選
ここからはPMFを達成した企業の実例を紹介していきます。PMFの達成はスタートアップの成長にとって重要な要素です。今後の自社の成長をより具体的にイメージするために、実際の成功事例を参考にしてみましょう。
タイミー
「タイミー」は、スキマバイトサービスとしてスキルマッチングプラットフォームを展開する企業です。従来の求人・面接プロセスを省略し、ユーザーは希望の仕事にすぐに就くことができ、即日報酬を受け取ることができます。
タイミーは、ユーザーにとっての価値提案を明確にし、従来の求人プロセスが抱える課題を解決することに重点を置き、わずか3ヶ月でPMFを達成しました。
初期のクライアントとユーザーに成功体験を提供することで、プラットフォームの使いやすさや信頼性を提供することで、PMFにつながったとされています。
参考:タイミー公式ホームページ
中日アド企画
「中日アド企画」は、メディアや広告主のビジネスをデジタルマーケティングで支援する企業です。既存事業の中でメインとして行っていた紙媒体の広告代理事業の衰退が見込まれるため、デジタル領域で新規事業の立ち上げを検討していました。しかし当初はノウハウやリソースの不足で思うように軌道に乗らなかったようです。
それらの課題を解決するため、PMFを支援する企業のコンサルティングを通して、PSFからPMFを順に達成していきました。結果として、ニーズを踏まえたプロダクト展開を行ったことで、新規プロダクトの継続利用を獲得しました。
カミナシ
「カミナシ」は、電子帳票やマニュアルを電子化する現場向けDXプラットフォームを展開している企業です。元々は食品などの工場向けに作業デジタル化を支援するサービスとして「カミナシ」を展開していました。しかし製造や小売、飲食、物流など、あらゆる現場のノンデスクワーカー向けのツールとしてリビルドし、事業をピボットすることでPMF達成を目指しました。
結果として急速にニーズが拡大し、現在では大手のファミリーレストランなどでも採用されるPMF達成の成功例となりました。
参考:カミナシ公式ホームページ
PMFについて解説しました
PMF(プロダクトマーケットフィット)は、スタートアップのサービスや商品が特定の市場において、ニーズに適合している状態となっていることを指す言葉です。その達成にはいくつかの指標での計測・検証や、前提となるPSF(プロブレムソリューションフィット)の達成などが必要となります。順を追って製品に必要となる要素をブラッシュアップしていくことで、顧客の課題を解決し市場に広く受け入れられるプロダクトを生み出していきましょう。
この記事では、PMFの概要と達成基準、PSFとの違い、PMFを達成する手順、PMFの事例について解説してきました。PMFは、企業の新規事業やスタートアップの中核事業を立ち上げる段階において重要な要素です。自社の状況確認や、今後のPMF達成に向けたステップの検討にあたって、ぜひこの記事で紹介した内容を参考にしてみてください。