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購買統制とは?必要性・成功のポイントをわかりやすく解説

購買統制とは?必要性・成功のポイントをわかりやすく解説

【IPO準備ガイドブック】フェーズごとに徹底解説!IPOを成功させるためのタスクとスケジュール

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購買統制は、企業の購買業務において、効率性と透明性を確保する手段です。商品や原材料の購入プロセスを管理し、企業の財務健全性の維持を目指します。購買統制が取れていない企業は、不正が横行して経済的な不利益を受けるリスクが高いため、早期に体制を見直すことが大切です。

本記事では購買統制の基本概念から構成要素、必要性、成功のためのポイントについて詳しく解説します。

購買統制とは

購買統制とは、商品や原材料の購入から代金の支払いに至るまでの一連の流れである「購買業務」を管理することです。このように、法令を遵守しつつ業務の効率性や信頼性を高め、資産を保全することを目的とする取り組みを「内部統制」といいます。

取引先から商品を仕入れる際、発注から納品、支払いまでの管理が曖昧な場合、誤った商品が納品されても気づかない、あるいは価格の不一致が発見されずに支払いが進むなどのトラブルが起こりかねません。

結果として、不正な請求の見逃しや、予期せぬ経費の増大といった問題が発生する可能性があります。

購買統制が導入されている企業では、発注・納品・支払いの各段階で明確な承認プロセスや検証手順が設定されているため、不正やミスのリスクがほとんどありません。

購買統制の基本要素

購買統制は、購買プロセスにおける内部統制のことです。金融庁の資料によると、内部統制は下記6つの基本要素で構成されています。

  • 統制環境
  • リスクの評価と対応
  • 統制活動
  •  情報と伝達
  • モニタリング
  •  ITへの対応

出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」

購買統制に当てはめて、内部統制の基本要素について詳しく見ていきましょう。

統制環境

統制環境は、組織全体の気風や文化を決定し、全てのメンバーが統制に対して持つ意識に影響を与えます。他の基本要素であるリスク評価、統制活動、情報伝達、モニタリング、ITへに影響を及ぼします。統制環境の構成要素は下記のとおりです。

  • 誠実性や倫理観
  • 経営者の姿勢
  • 経営方針や戦略
  • 監査機能を持つ取締役会や監査役
  • 組織構造と慣行
  • 権限と職責
  • 人的資源に対する管理方針

例えば「経営者の姿勢」では経営者が透明性を重視する文化を推進することで、購買統制を行いやすくなります。また、経営者の言葉に耳を傾けてもらうために、自ら社内会議や全体会議で会社の方針や目標を直接説明することも重要です。

リスクの評価と対応

購買に関連するリスクを特定し、それぞれのリスクが業務や目標に与える影響を分析します。例えば仕入先の信頼性に関するリスクや、価格変動によるコスト上昇のリスクなどがあります。

リスクの対応方法は「新しい仕入先との取引を開始する際の信用調査の実施」や「複数の供給元からの調達による依存体制の防止」などです。

統制活動

統制活動は、購買プロセスにおいて、経営者の命令及び指示が適切に実行させるための方針や手続きです。権限や職責の付与、職務分掌、手続きの標準化、内部牽制の仕組み、定期的な評価と改善があります。

権限や職責の付与を例に挙げてみましょう。購買業務では、発注担当者に明確な権限を与え、特定の金額までの発注ができるようにします。例えば発注金額が100万円以下の場合は担当者が直接発注できるが、それを超える場合には上司の承認が必要といったルールです。

情報と伝達

情報と伝達は、組織が効率的に機能するために欠かせません。必要な情報が正しく識別・処理され、組織内外で正確に伝達されることが求められます。

購買業務では、発注、納品、検収、支払いに関連する情報を適切に管理します。例えば発注を行う際には、仕入先の情報、商品の仕様、価格、納期など、複数の要素の確認が必要です。

このため、情報管理システムを活用し、過去の発注履歴や市場の価格動向をリアルタイムで確認できる仕組みを整えることが大切です。

モニタリング

購買統制におけるモニタリングには、日常的な業務に組み込まれる「日常モニタリング」と、独立した視点から行う「独立的評価」があります。

日常モニタリングでは、発注書と納品書が一致しているか、受領した商品の数量や品質が発注内容と合致しているかなどを確認します。

独立的評価では、内部監査チームが定期的に購買プロセスを監査し、実際の業務が内部統制の基準を満たしているかをチェックするなど、別の立場の人物が担当することが原則です。

ITへの対応

IT環境への対応に関しては、購買業務における情報システムの整備が基本です。購買管理システムを導入し、発注から納品、支払いに至るまでのプロセスをデジタル化することで、業務の効率性と透明性を向上させます。

購買統制の必要性

購買統制は、企業の信頼性と適切な財務管理に欠かせません。なぜ購買統制が必要なのか詳しく見ていきましょう。

担当者と取引先の癒着による不正行為の抑制

購買統制により、購買担当者と取引先の癒着による不正行為を抑制できます。

取引先は、購買担当者に対して「商品を購入する代わりにバックマージンを渡す」といった不正行為を持ちかける場合があります。また、担当者側から取引先に持ちかけるケースも少なくありません。

このような関係が築かれると、調達コストが従来よりも高額になり、結果として企業の財務状況が悪化する危険性があります。

さらに癒着が公に知られると、企業の社会的信用は失墜します。顧客や株主、取引先からの信頼を損ない、著しい損害を受けることになりかねません。

水増し請求の抑制

購買統制により、購買業務における水増し請求の抑制も可能です。購買業務では金銭を扱うため、不正が発生しやすい性質があります。

水増し請求のパターン例は下記のとおりです。

  • 実際の購入価格よりも高い金額で購入したかのような帳票を作成し、その差額を担当者が着服する
  • 取引個数を実際よりも多く計上した請求書を準備し、差額を着服する
  • 取引を行っていないにもかかわらず、取引があったかのように見せかけて代金を着服する

同じ従業員が発注から検収までの一連の業務を単独で担当している場合、チェック機能が十分に働かず、不正の温床となる恐れがあります。

水増し請求を抑制するためには、発注業務、検収業務、支払い業務を異なる担当者に分担させることで、相互にチェックを行う体制を構築する必要があります。

退職や業務効率低下のリスク軽減

購買業務は多様な書類を扱うため、特定の担当者に依存しがちで、属人化しやすい特性があります。属人化が進むと、業務の引継ぎが難しくなり、ローカルルールが生まれることによって効率性が低下し、不正の温床となる恐れがあります。

企業によって取り扱う帳票が異なるため、外部から新たに購買担当者が加わっても、即戦力として機能できないケースが多いでしょう。多くのケースでは特定の担当者が長期間同じ業務を行うことが常態化し、業務プロセスが担当者の経験や知識に依存するようになります。

属人化が進行すると、業務の品質が不安定になるだけではなく、担当者が退職した場合には業務の引継ぎが困難になり、業務が停滞するリスクが高まります。

さらに、手書き帳票の使用がもたらす影響も見逃せません。手書きの書類は、記載ミスや重複の原因となりやすく、結果的に財務管理に悪影響を与えることがあります。特に、購入依頼書、見積書、注文書、納品書、請求書など、数多くの関連書類が必要とされる購買業務では、情報の連続性が失われる可能性が高く、業務効率が低下します。

このような状況を改善するために、業務の標準化と文書管理のデジタル化が重要です。すべての購買関連書類をデジタル化し、統一されたフォーマットで管理することで、情報の一貫性を確保し、属人化のリスクを軽減できます。

購買統制を成功させるためのポイント

購買統制を成功させるために、下記のポイントを押さえましょう。

購買管理規定を作成する

購買管理規定は、企業が購買業務を適切に管理し、不正を防止するために定めるルールです。下記7つで構成されています。

  • 総則
  • 購買計画
  • 取引先
  • 発注
  • 検収
  • 仕入れ計上
  • 支払い

それぞれの内容や規定の例について詳しく見ていきましょう。

総則

購買管理規定の目的を明確に定めます。例えば「この規定は、企業の購買活動を透明かつ効率的に運営し、不正を防止することを目的とする」といった内容を記載します。

また「本規定は全ての購買担当者および関連業務に従事する社員に適用される」といった形で、規定が適用される部門や担当者を明示しましょう。

購買計画

購買計画をどのように策定するかの手順を具体的に示します。例えば年度初めに各部門からのニーズを収集し、まとめた上で経営層が承認するプロセスを定めます。

計画の見直しが必要な場合の頻度も規定しなければなりません。例えば「購買計画は四半期ごとに見直し、必要に応じて修正する」と記載します。

取引先

取引先の選定基準を具体的に定めます。例えば「取引先は、財務状況、信用調査の結果、過去の取引履歴を基に評価し、評価基準を満たす業者のみと取引を行う」と明記します。

また取引先評価のプロセスの規定も必要です。「新規取引先の評価は、業務開始前に審査委員会が行い、結果は文書化して保管する」といった形で定めます。

発注

文章で発注書作成から承認、発注の実行までのステップを明示します。発注に関するプロセスをフロー図として示すと、視覚的に理解しやすくなります。

また発注に関する承認権限の規定も必要です。「発注金額が50万円を超える場合は、部門長の承認が必要」といった権限のルールを記載します。

検収

納品された商品やサービスの検収手順を文書化します。「納品時に納品書と照合し、数量と品質を確認した上で、問題がなければ検収書を作成する」といった内容を盛り込みましょう。

また検収結果を記録するためのフォーマットを定め、記録を一定期間保管することを義務づけます。「検収記録は5年間保管する」といったシンプルな内容で問題ありません。

仕入れ計上

仕入れ計上の手順を詳細に記載します。「仕入れが完了したら、仕入れ計上システムに必要な情報を入力し、承認を受けた後、会計処理を行う」といった内容を記載しましょう。

また仕入れ計上が適切に行われているか定期的に監査を実施することを明記します。「毎年度、仕入れ計上に関する監査を行い、結果を経営陣に報告する」といった形で定めます。

支払い

支払いに関する手続きを具体的に示します。「請求書を受け取ったら、内容を確認し、問題がなければ、承認後に支払い処理を行う」といった内容を記載しましょう。

また支払い期限を明確に定め、遅延が発生した場合の対処方法を記載します。「支払いは請求書受領後30日以内に行うこととし、遅延した場合は事前に取引先に連絡する」といった具体的なルールを設けて、損害賠償請求を受けるリスクを低減しましょう。

購買基準を明確に設定する

購買基準は、購入する品物やサービスについて詳細な仕様や条件を明確にし、購買プロセス全体で一貫性を保つために定める指針です。購買管理規程を踏まえ、購買基準を明確に設定することにより、購買活動が効率的かつ適正に行われ、規定内容の実践における精度が向上します。

購買基準の例は下記のとおりです。

  • 購入する物品の仕様(技術的要件や機能的仕様、品質基準など)
  • 取引条件(価格範囲、納期、数量、納入場所など)
  • 購買依頼の手順や決裁の方法

発注と検収の分離および担当者の定期的な交代

発注と検収を同じ担当者が行う場合、仕入れ先からの営業活動や不正な勧誘に影響を受けやすくなります。発注業務と検収業務の担当者を分けることで不正行為のリスクを大幅に軽減し、透明性のある業務運営を実現できます。

発注担当者が発注書を作成した場合、請求書の処理や納品の確認は別の支払い担当者が行うといったルールを設けることで、両者が結託しない限りは不正は行えません。

また購買業務が特定の担当者に依存することを避けるため、担当者の定期的な配置換えを行うことも効果的です。特定の人物が長期間同じ業務を担当すると、取引先との関係性が深まり、仕入れ先との癒着のリスクが増大します。

定期的に担当者を交代させることで、さまざまな視点から業務を見直せるだけではなく、不正のリスクを低減できます。

仕入れ先の信用調査のレベルを上げる

信頼できる仕入れ先を選定することで、不正行為のリスクを低減できます。

仕入れ先が誠実で信用できるかどうかを判断するためには、取引先に対して具体的な情報を求めることが有効です。例えば仕入れ先に対して「作業にかかった時間」や「作業内容」の報告を求めることで、誠実さや業務の透明性を確認できます。

また、可能であれば財務状況や過去の取引履歴、第三者の評価や口コミを参照することで、仕入れ先の全体像を把握しましょう。

買掛金管理を徹底する

買掛金管理は、財務の健全性を保つために欠かせません。買掛金は、商品の購入時に即時支払いを行わず、後日支払うことを約束する「掛け取引」に関する勘定科目です。商品や原材料の仕入れ時に発生した未払いの金額が買掛金残高として記録されます。

購買業務では、架空の仕入れや返金の発生、帳簿上の金額操作が行われる可能性があります。そのため、返品や値引きの処理状況について逐一確認し、不正が発生しないような管理体制が必要です。

承認制にする

管理体制を強化するために、各取引において責任者の承認を得る仕組みを導入することが重要です。例えば返品や値引きを行う場合には、上長や経理部門の承認を必要とするワークフローを設けることで、誤った処理や不正の発生リスクを低減できます。

検収を迅速に行う

検収手続きを迅速に行うことで、不正行為の防止と取引の透明性の向上が可能です。

また、検収完了後は速やかに次の支払いプロセスに移行できるため、業務全体の効率化も図れます。

検収プロセスの効率を上げる方法の例は下記のとおりです。

  • 検収作業をシステム化する
  • 定期的な研修を実施して担当者の理解を深める など

また、検収の際は納品書に頼るのではなく、自社が発行した発注書を基準にして確認を行うことが大切です。依頼通りの品が正しく納品されているかを確実に確認しましょう。

購買状況を可視化する

購買状況を可視化することで、リスクの高い取引や異常な取引パターンを早期に発見し、迅速に対処できるようになります。

購買活動をリアルタイムで追跡するために、購買データの分析ツールやダッシュボードを活用する方法があります。

例えば特定の仕入れ先に対する発注頻度が急増している場合や、通常の取引金額を大幅に超えた発注が発生した場合には、システムが自動的に警告を発する設定にしましょう。

また、月次や四半期ごとの購買レポートに、主要な取引先別の購買額、予算と実際の支出の差異、異常取引の発生頻度とその詳細などを記載し、購買活動の全体像がわかるようにします。経営陣はデータに基づいた意思決定が可能となるため、企業全体の購買管理の効率と透明性の向上につながります。

購買統制で業務を健全化しよう

購買統制を徹底することで、企業の経営基盤が強固になり、財務健全性を保ちやすくなります。不正やリスクを未然に防げるだけではなく、業務の効率化や透明性の向上にもつながります。購買統制の方法を細部まで作り込み、企業の健全な経営を支える基盤を構築しましょう。

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執筆

Startup JAM編集部

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