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株式報酬とは? メリットやストックオプションとの違い、導入時の検討ポイントをわかりやすく解説

株式報酬とは? メリットやストックオプションとの違い、導入時の検討ポイントをわかりやすく解説

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企業における役員や社員の報酬制度を決める際に、金銭報酬の他に株式報酬制度を採用する選択肢があります。

しかし「そもそも株式報酬とは?」「株式報酬にはどんな種類があるの?」といった疑問を持つ経営者の方もいるのではないでしょうか。

そこで本記事では、株式報酬の概要と制度の背景、ストックオプションとの違い、メリット・デメリット、導入時の検討ポイントについてわかりやすく解説していきます。

株式報酬とは?

株式報酬とは、企業の株価や業績に応じて、株式が報酬として支払われる制度の総称です。株式の保有を通して、役員や社員に会社の業績や株価変動に関心を持ってもらうことが狙いのひとつです。一方で報酬を受け取る役員や社員は、中長期的にリターンが大きい資産として株式を保有できます。

一般的に株式を報酬として支給するほか、株式を基準として現金での支給も含まれます。報酬の支払方式やタイミングによって細かく種類が分かれ、どの形式を採用するかは企業次第です。企業価値向上や企業全体の「攻めの経営」を促進する制度として、近年採用企業が増加しています。

株式報酬制度導入の背景

これまで多くの日本企業は基本給と賞与を報酬として支払い、売上や株価による変動は少ない形式を採用してきました。固定的な報酬の支払いが必要となる分、経営者はリスクを避けて業績の向上よりも維持を優先します。しかし、このような「守りの経営」を助長する設計では、日本企業は国際競争で太刀打ちできなくなってしまいます。その対策として、「攻めの経営」へ切り替えるための仕組みが必要でした。

その仕組みとして日本企業に取り入れられたのが、株式報酬制度です。中長期的な企業の価値と連動する報酬形態を取り入れることで、経営者が業績や企業価値向上を意識するよう促しました。

東京証券取引所が定めるコーポレートガバナンス・コードには以下のように記載されています。

取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブと して機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的 な報酬額を決定すべきである。その際、中長期的な業績と連動する報酬の割合 や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。

引用:日本取引所グループホームページ「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版) 」補充原則4-2① 

株式報酬とストックオプションの違い

株式報酬とストックオプションは、いずれも役員や社員への報酬として株式を支給する制度です。異なるのは、実際に支給されるのが「株式そのもの」か「株式を購入する権利」かという点です。株式報酬は、基本的に株式そのものを役員・社員に報酬として支給します。一方のストックオプションは、将来あらかじめ決められた金額で自社株式を購入できる権利を報酬として支給する形式です。

上記の違いから別の制度として表現する場合もありますが、ストックオプションは株式報酬制度のひとつと考えることができます。

次項では、この考え方に基づきストックオプションを含めた株式報酬の種類を解説していきます。

株式報酬の種類

株式報酬は以下の2種類に大別されます。

  • 株式そのものや株式の購入権利を報酬として支払う株式型報酬
  • 株式をもとに計算された金額の金銭を報酬として支払う金銭型報酬

また株式型報酬は、報酬となる株式が交付されるタイミングによって、さらに以下の2種類に分かれます。

  • 定められた条件を満たす前に株式が交付される事前交付型
  • 業績や勤続年数などの条件を満たすことで株式が交付される事後交付型

企業の現状や見込まれる業績、現在の報酬形態によって、どの形式を採用するか検討が必要です。それぞれの特性を理解して、自社に合う形式を検討する参考にしてみてください。

株式型報酬(事前交付型)

ストックオプション(SO)

ストックオプションは、一定期間内に一定数の自社株式をあらかじめ定めた金額(権利行使価額)で購入できる権利です。役員や社員は、権利を行使して会社の株式を行使価額で購入できます。将来的に株価が上昇した時にこの株式を売却すれば、差額分の利益が得られる仕組みです。権利の付与・行使に、一定期間勤続や業績などの条件を設ける場合もあります。

譲渡制限付株式(RS)

譲渡制限付株式は、一定期間勤務することを条件に株式を交付する形式です。もし定められた期間を迎える前に、転職や退職をした場合は株式が没収されます。このため、支給された報酬を無駄にしたくないという意識から、人材流出の防止に効果があります。

業績連動型株式(PS)

業績連動型株式は、企業が設定する業績やKPIの達成を条件に株式を交付する形式です。役員や社員は、条件を満たせば株式を売却できるようになります。もし条件を満たせないと株式が没収されるため、業務目標達成の強い動機付けとして利用できます。

株式型報酬(事後交付型)

株式交付信託

株式交付信託は、企業が直接役員や社員と株式をやり取りせず、信託銀行等を通して交付する形式です。大まかな交付までの流れは以下の通りです。

  1. 企業の依頼で、信託銀行が市場からその企業の株式を購入
  2. 企業は役員や社員に、条件達成度に応じたポイントを付与
  3. 信託期間満了時に、信託銀行等がポイントに応じた株式を交付

株式交付の事務処理を信託銀行等に委託できるため、事務負担が軽減できます。

譲渡制限付株式ユニット(RSU)

譲渡制限付株式ユニットは、一定期間勤務する条件を満たした場合に株式を交付する形式です。譲渡制限付株式(RS)と異なり、勤務期間の条件を達成した後に株式が交付されます。

また譲渡制限付株式(RS)には無い「ユニット」を利用する点も特徴です。ここでいう「ユニット」とは、役職や成果に応じたポイント付与の仕組みで、あらかじめ定めた表などを就業規則に記載します。ポイント表を元に役員や社員の役職や働きに応じてポイントを付与し、ポイントに相当する株式を後から交付します。

業績連動型株式ユニット(PSU)

業績連動型株式ユニットは、企業が設定した業績やKPIを達成した場合に株式を交付する形式です。業績連動型株式(PS)と異なり、企業が設定した目標を達成した後に株式が交付されます。またRSとRSUの違いと同様に、「ユニット」を利用している点が業績連動型株式(PS)と異なります。

金銭型報酬

ファントムストック

ファントムストックは、実際の株式や株式の購入権利を交付するのではなく、架空の疑似株式を付与する形式です。まず、会社は役員や社員に疑似的な株式を発行します。対象者が定めた条件を達成したら、発行された疑似的な株式を売却したものとして得られる金額を、対象者に支給します。

ストック・アプリシエーション・ライト(SAR)

ストック・アプリシエーション・ライトは、企業の業績に連動して報酬を金銭で支給する形式です。ストックオプションとは異なり、権利行使価格の株式購入なしで株価の値上がり分を金銭として支給します。仕組み上、株価が値上がりすれば差額分が受け取れ、値下がりしたら報酬がない代わりに損失も無い点が特徴です。

株式報酬のメリット

株式報酬制度は、上述した通り日本企業の「守りの経営」を「攻めの経営」へ切り替えることを目的として、東証で導入が推奨されています。コーポレートガバナンス・コードの改定もあり、株式報酬を採用する企業も増加傾向です。また採用企業の増加には、導入するメリットも関係していると考えられます。企業が株式報酬制度を取り入れるメリットは、どれも中長期的な観点で企業にとってプラスになるものばかりです。

業績と企業価値の向上

株式報酬のいくつかの形式では、達成目標や条件に業績を設定できます。報酬をより多く、または確実に得たいという心理から、業績向上への取り組みを活性化することが可能です。

さらに達成目標としての業績のほか、株式を保有することで社員に当事者意識を持たせ、業績への関心を高める効果があります。こうした役員や社員の意識向上で業績が伸びれば、株価が上昇して市場における企業価値も向上します。

役員や社員の仕事のモチベーション向上

これまでの固定給による報酬は、役員や社員のその時点以上の努力や取り組みに対する動機付けとしては不十分でした。しかし株式報酬の仕組みでは、業績に繋がる仕事が直接自分の報酬と関係します。役員や社員はこれまで以上に業績や自分の仕事の結果に意識を向け、モチベーションを持って仕事に取り組むことができます。

人材流出の防止

あらかじめ報酬の条件として、一定期間の勤続や在職が設定されている場合、退職すれば報酬は無効です。勤労の対価として受け取るはずの報酬を獲得できないとなれば、社員は転職や退職を思いとどまる場合もあります。

逆に長期間働いていることで得られる報酬が大きいと感じれば、前項の働くモチベーションにも繋がります。株式報酬を利用すれば、こういった心理的な要因によって、人材の流出を防止することが可能です。企業の業績に寄与する優秀な人材であればあるほど、流出防止策として株式報酬は有効です。

株式報酬のデメリット

株式報酬制度には、これまで日本企業になかった報酬形式であるため、いくつかの注意すべき点があります。考慮せずに自社に適さない形式を採用すると、社員からの不満や思わぬコストが発生し大きな損害を被る可能性があります。株式に関係するからには株主である投資家との不和にも繋がりかねないため、以下のデメリットには十分注意が必要です。

中長期視点が必要

株式報酬制度を導入した後、短期的な業績や結果を焦る状態に陥りがちです。しかし株式報酬は中長期的に運用することで、その企業に最大限の価値をもたらすための仕組みになっています。短期的な成果に焦ることなく、会計士など専門家の指摘を反映しつつ、自社に適した株式報酬制度を採用・運用しましょう。

報酬が不安定

株式報酬は株価の上昇を基準とした報酬制度です。企業の業績や株価の上昇を目標に設定することで、連動した報酬を期待する役員や社員のモチベーションに繋がります。しかし仮に業績の低下で株価が下がると、報酬は減少するか無くなってしまう点に注意が必要です。

こうなればメリットはデメリットに逆転し、モチベーションが低下した社員が退職するリスクがあります。報酬を受け取る役員や社員の不利益となりかねない、報酬の不安定さも念頭に置かねばなりません。

制度を導入・管理するコストの増加

従来の基本給や賞与による報酬と違い、株式報酬は導入の際にさまざまな対応が発生します。これらの対応にかかるコストを考慮しておかなくてはなりません。また制度導入後も、株式報酬の内容に応じて管理コストが発生します。

想定される対応の一例は以下の通りです。

要対応事項の一例

【導入時】

  • 会社法などの各種法制度に適する社内制度の整備
  • 社内制度整備に対する専門家による指導・監査の依頼
  • 制度導入に伴う給与形態変更などの事務対応
  • 株式報酬制度を管理する部署の開設
  • 制度導入に対する株主総会での決議

【運用開始後】

  • 株式報酬制度の事務的処理
  • (委託する場合)事務管理、外部委託に対する報酬支払

これらはあくまで一例であり、細部の管理コストを考えれば、より多岐に渡ります。制度の設計と運用が複雑であることを前提として、制度導入の準備をしましょう。

株式報酬導入時の検討ポイント

株式報酬のメリット・デメリットを踏まえて、企業では自社に最適な制度を採用します。より効果的な制度導入に必要となるのは、要点をとらえた制度設計です。ここからは株式報酬導入時の主要な検討ポイントを解説します。

交付対象

企業の規模や業務の性質に基づいて、株式報酬を交付する対象者を決定します。例えば、スタートアップ企業では全従業員に一律で株式報酬を交付する方法もあります。少ない人数で、全員が統一された目標のために事業を育てたい段階では、この方法も有効です。

起業から間もない時期に導入する場合は、制度的な平等感としても良い方法と言えるでしょう。またある程度の企業規模となったら、初期に設定した株式報酬制度の見直しも必要となります。業績や企業価値に見合った制度でなければ、株式価値が減少する原因となりかねません。将来的な上場や経営者の雇用に悪影響となるため、交付の対象や区分などにアップデートを施しましょう。

採用する株式報酬の形式

前述の通り、株式報酬の形式や種類は多岐に渡ります。現在の企業規模や業績を踏まえて、適切な形式を採用しましょう。対外的にもコーポレートガバナンス・コードの改訂によって報酬体系に注目が集まっています。合わない形式で制度が意味をなさなければ、役員や社員の不満だけでなく、株主からの不信感も発生するリスクがあります。

会計処理の事前計画

株式報酬を導入する際には、会計処理に大きな影響があります。選択する形式によって交付時期や方法に違いはあれど、報酬は費用として計上されます。どの程度の費用が発生し、どのような流れで会計処理を行うのか、計画は必須です。採用することになった形式の性質を踏まえ、担当部署や専門家との計画を行わなくてはなりません。

達成目標と権利確定条件

株式報酬を導入する上で、最大の論点となるのが達成目標と権利行使期間の設定です。達成目標が高すぎても低すぎても、役員や社員のモチベーションを下げる要因となってしまいます。

また権利確定条件として、勤務期間や業績を設定できますが、こちらも対象者のモチベーションに強く影響する要素です。効果的な目標や条件を設定できれば、役員や社員に的確なマイルストーンを示しながら、業績を上げていくことができます。

株式報酬について解説しました

株式報酬は業績や株価を上昇させ、厳しい企業競争を勝ち抜くための「攻めの経営」を助ける制度です。国内で推奨され、採用企業も上場企業を中心に年々増加傾向です。

この記事では株式報酬の概要や国内導入の背景、ストックオプションとの違い、メリット・デメリット、導入時の検討ポイントについて解説してきました。これから「株式報酬制度を活用したい」と考える企業は、解説内容を確認し、制度の導入を検討してみてください。

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