ショートレビューとは?
ショートレビューとは株式上場を目指す企業が自社の現状を総合的に評価し、上場基準を満たすための潜在的な課題を明確化する調査プロセスを指します。財務・法務・ガバナンス・コンプライアンス・リスク管理等の重要な項目を、短期間で包括的にチェックできるのが特徴です。
IPOの審査基準には「直近2年間の財務諸表について外部監査を受けること」が含まれており、上場を目指す企業にとってショートレビューは必要不可欠です。レビューを通じて財務諸表の審査基準を満たすことはもちろん、他の基準を満たすための改善ポイントも早期に発見し、適切な準備を進めることが可能となります。
ショートレビューの目的
ショートレビューの主な目的は下記のとおりです。
課題の特定
上場準備における潜在的な課題・リスク・改善点を洗い出す。
上場準備の効率化
現状を正確に把握し上場準備のためのリソースを合理的・効率的に配分できるようにする。
信頼性の向上
監査法人や投資家に対し課題の認識と改善への着手を示すことで、信頼性を高める。
上場プロセスの短縮
早期に問題を洗い出すことで後追いでの課題や問題の表出を防ぎ、上場準備の期間を短縮する。
ショートレビューで得られるメリット
ショートレビューを実施すれば、下記のようにさまざまなメリットを得ることができます。
効率的に課題の発見と対処ができる
短期間で企業全体の状況を把握し、解決すべき課題を迅速に特定できる。優先順位も明確化され、重要な問題への早期対応が可能となる。
コスト・リソースの削減に繋がる
初期段階での課題の発見と解決により、後に表出する課題に対する修正コスト・リソースを削減できる。
第三者の視点を活用できる
客観的な評価を受けることで、企業内部では気づきにくい問題や課題を明確化できる。結果として上場準備の抜け漏れを無くすことが可能。
投資家の信頼向上
ショートレビューの結果は、上場準備がしっかり進んでいることを示す材料として活用可能。監査法人や投資家に提示することで信頼性向上を図れ、デューデリジェンス時の透明性強化にも繋がる。
ショートレビューにおける評価のポイント
ショートレビューにおける評価には、大きく分けて5つの評価ポイントがあります。
財務状況や決算処理体制の健全性
上場基準を満たすには健全な財務基盤を持つ企業であることを証明する必要があるため、下記のような点が評価されます。
財務諸表の正確性
会計基準に基づいた正確な財務諸表が作成されているかを評価。特に収益認識や費用計上の適切性を重点的に確認。
収益性と安定性
売上・利益の成長傾向や持続可能性を評価。特に収益源の多様性・柔軟性を重視する。
財務リスク
借入金の負担・キャッシュフローの健全性・債務返済能力等の財務上のリスクを分析。
月次決算の早期化
毎月遅延せず正確な月次決算を行える体制が整備されているかを確認。早期化を阻む原因があれば特定し、改善策を提示。
法令・コンプライアンスの体制
上場企業は厳格な法令・コンプライアンスの遵守が求められます。法的リスクを最小限に抑え、上場後のトラブルを防止するため、法令・コンプライアンスの体制について評価が行われるのです。主な評価内容は下記の通りです。
法令・コンプライアンス遵守の体制
労働法・税法・知的財産権などの企業活動を取り巻く関連法規に違反がないかを精査。
契約書類の整備状況
取引先・パートナー企業との契約書が適切に作成され、保管・管理されているかを確認。
訴訟や紛争のリスク
未解決の法的問題・紛争がある場合、潜在的な訴訟リスクについて確認し、企業経営や上場に及ぼす影響とその範囲を分析。
内部統制の信頼性
上場企業にふさわしい健全かつ持続可能な組織であることを証明するため、内部統制の信頼性を評価します。主な評価対象は下記の通りです。
ガバナンス体制
取締役会や監査役会が適切に機能しており、公平・公正な判断のもと企業経営が行われているかを確認。
業務プロセスの管理
資金管理や業務フローが適切に整備されており、ミス・トラブル・不正のリスクが最小限に抑えられているかを確認。
リスク管理体制
環境リスク・財務リスク・法務リスク・人事リスク・ITリスクなど、企業の存続を脅かすあらゆるリスクへの備えが整っているかを確認。
組織体制
人材の適正配置がなされているか、公平で透明性のある評価・報酬制度があるか、離職率や職場環境に問題はないか等、組織体制を多角的な視点から評価。
事業・業績の妥当性
上場準備においては上場後の成長可能性・信頼性を得るために、事業・業績の妥当性を評価します。主な評価ポイントは下記の通りです。
事業計画の現実性
上場企業は目標利益を達成し、持続的な成長を続ける必要がある。事業計画が投資家・市場の期待に応える現実的なものであるか評価される。
売上・利益の実現性
事業計画に従い目標となる売上・利益の実現の可否・実現可能性を評価。利益管理体制が整備されているかも確認される。
市場環境の分析
業界・競合の分析を行い事業計画が市場環境を踏まえているかを確認。計画の合理性・妥当性を検証する。
上場基準への適合性
ショートレビューでは取引所や監査法人からの審査をスムーズに通過し、上場後の投資家との信頼関係構築に備えるため、上場基準への適合性を徹底的に評価します。主な評価内容は下記の通りです。
取引所の基準を満たしているか
上場を予定している取引所の財務要件・上場審査基準に適合しているかを確認。特に財務安定性や収益基盤の強化は入念に確認を行う。
IPOスケジュールの実現性
上場に必要な準備を期限内に完了できるか、リソース配分は適切であるかといった、上場準備計画の妥当性を確認。
IR資料の整備
決算報告書・プレスリリース等、投資家向けの資料が分かりやすく正確に作成されているかを確認。
公開情報の透明性
自社が公に提供する情報が正確で分かりやすく、誤解を招かない内容であるかを精査。
ショートレビューを実施するプロセス
ここではショートレビューを実施する一連のプロセスを解説します。
事前準備
ショートレビューを実施する最初のステップは、事前準備です。
目的・ゴールの明確化
上場基準への適合性の確認、改善項目のリストアップなど、具体的な目的と達成したいゴールを明確化する。
レビュー範囲の決定
目的・ゴールに合わせ調査対象となる領域・範囲を明確化。
依頼先の専門機関を選定
自社が実施したいレビューの要件に応えてくれる専門機関を選定。監査法人・公認会計士事務所・株式公開支援専門会計事務所等が候補となる。
しっかりとした事前準備を行うことで、後のステップもスムーズに進めることが可能となります。
資料収集
続いてショートレビューに必要となる資料を準備します。依頼先の専門家からレビューに使用する資料をヒアリングし、用意すべき資料をリストアップしましょう。
主に必要となる資料には、下記が挙げられます。
- 経営管理体制(定款・登記簿謄本・株式名簿・組織図・役員一覧表・議事録・議事録・稟議書・各種規定)
- 利益管理体制(会社案内・事業計画書・予算・予実差異分析表)
- 業務管理体制・資産管理体制(取引概要図・業務フロー図・業務記述書・重要契約書・契約管理台帳・許認可関係資料・売上計上根拠資料・仕入計上根拠資料・ITシステム概要書)
- 決算処理体制(決算書・税務申告書・試算表・部門別損益計算書・各勘定科目明細・総勘定元帳・滞留債権一覧表・借入台帳・固定資産実査資料・原価計算資料)
- 関係会社・関連当事者取引(出資関係図・親子間取引一覧表・役員取引一覧表)
上記資料を可能な限り網羅することで、レビューの効率・精度は向上します。
また書面の資料だけでなく、経営陣や担当部門へのヒアリングによる情報が必要となるケースもあります。この場合は事前にチェックシートやスケジュールを作成し、効率的に情報収集を行いましょう。
現状分析(実査)
実査とは資産の実在性を確かめるために、公認会計士が現物を確認する監査手続のことです。下記の手順で専門家が財務・法務・ガバナンスの各領域を評価します。
データ・書類のレビュー
提出された資料を専門家が精査し、下記のような項目を評価します。
- 財務:資本構造・収益性・債務比率等の健全性を分析。
- 法務:主要契約書の妥当性やリスクの有無を確認。
- 内部統制:業務プロセスやシステムの不備・欠陥を確認。
現場レビュー
部門別にヒアリングを実施して資料だけでは分からない課題や運用状況を評価します。例えば会計・財務処理の方法、法務部門の契約書管理方法の確認などが行われます。
課題の抽出
レビュー結果を基に「財務諸表の未整備な項目」「コンプライアンス体制の不備」など、上場準備における課題をリストアップします。
レビュー結果の報告
ショートレビューの結果は専門機関によりレポート形式でまとめられ、具体的な課題と改善策が報告されます。例えばレビュー結果には、下記のような内容が記載されています。
- 上場基準に達していない項目
- 修正が必要となる契約・規定
- 改善すべき社内体制
- 上記を改善するために必要な施策と実施方法
レポートを受け取ったら経営陣へ共有し、フィードバックを得ます。情報を共有することで社内での合意形成が進み、改善計画の策定・実施をスムーズに進めることができます。
特に「重要度の高い課題」「リスクの高い課題」「優先的な改善項目」については、ディスカッションを重ねて詳細な計画を策定しておくことが重要です。
改善計画の策定
ショートレビューのレポートをもとに、自社が実施すべき具体的な改善計画を策定します。例えば、時期・期間別にすると下記のようなイメージです。
- 1~3月:内部統制規定の整備・社内への浸透・社内評価
- 4~5月:財務システムのカスタマイズ・在庫管理システムのアップデート
- 6~8月:コンプライアンス教育プログラムの導入・実践・効果測定
改善すべき課題には優先順位付けを行い、現実的に実行可能なスケジュールを作成するのがポイントです。必要に応じてレビューを実施した専門機関のサポートを受けることで、改善施策を実施する実行力・精度を高めることができます。
経営陣・関係部門とも計画を共有し、全社的に改善施策を進めていきましょう。
改善計画の実施
改善計画を策定したらスケジュールに合わせて着実に実行していきます。定期的に進捗の確認と上場への適合性の確認を行い、必要に応じて計画全体の見直しや調整を行うことがポイントです。
計画がある程度進んだら再度ショートレビューの実施を行い、「予定通りに課題が解決されているか」「上場基準へ適合しているか」を確認します。効率性や精度の観点から、再レビューは同じ専門機関へ依頼するようにしましょう。
改善計画が完了したら上場準備の次の段階である、本格的な監査・IPOプロセスへと進みます。
ショートレビュー実施のポイント
ショートレビューをスムーズに実施して精度の高い評価を得るには、意識しておくべきポイントがあります。
適切なタイミングで実施する
ショートレビューを効果的に活用するには、適切なタイミングで実施することが重要です。一般的には上場申請に直前2期分の監査証明が必要なため、上場の3期前にレビューを行うのが目安となっています。
他にも下記のように、自社の状況の確認や課題の明確化を行いたいタイミングで実施される場合もあります。
- 上場を決断した時点
- 資金調達・事業転換・成長フェーズ等で重要な意思決定を行う前
- 外部機関に信頼性の証明が必要な場合
- 上場準備の進捗が停滞している場合
このようにショートレビューは監査証明の義務を果たすだけでなく、重要な局面での現状把握・改善計画策定に役立てることができます。
信頼できる監査法人を選ぶ
ショートレビューでは財務、法務、内部統制などの幅広い分野を深く理解し、正確に評価する必要があります。実際のレビューは監査法人が行うため、下記のポイントを押さえて信頼性の高い発注先を選ぶことが非常に重要です。
幅広い専門知識を持つ
財務・法務・内部統制など多岐にわたる分野で高い専門性を発揮できる監査法人を選ぶ。分野に偏りがある場合は評価にも影響する。
上場基準を理解している
上場基準を理解している監査法人であれば、基準を満たすための詳細な診断を行うことが可能。具体的な改善計画を提示でき、上場準備も捗る。
経験・実績が豊富である
実際にショートレビューを行った経験・実績は非常に重要。熟練の監査法人であれば、安心して任せることができ、ある程度の不備もフォローしてもらえる。
上記のポイントを満たせていることを確認したうえで、料金体系やサービス内容を比較検討するのがおすすめです。
事前準備を行っておく
効率的かつ効果的なショートレビューを実施するには、資料の用意・社内調整といった事前準備を十分に行っておく必要があります。その理由は下記の通りです。
レビュープロセスをスムーズに進行するため
必要な資料やデータが揃っていれば不要な作業に時間を奪われることなく、レビューのプロセスをスムーズに進めることが可能。工数・時間を大幅に節約できる。
関係部門の協力体制を強化できる
事前に社内でレビューの目的を共有して調整しておくことで、適切な協力体制を構築できる。関係部門の協力が必要な課題もスムーズに解決できる。
専門機関とのスムーズな連携を図れる
専門機関とのやり取りに必要な不備を解消しておくことで、スムーズな連携を図れる。ショートレビューならびに上場準備を効率的に進めることが可能。
診断結果の信頼性向上
必要十分な量の精度の高い情報を提供することで、専門機関から信頼性の高い診断結果を得ることができる。レビューのフィードバックも最大限活かせる。
改善計画を実行する体制を構築しておく
ショートレビューは評価を受けて終わりではなく、結果に基づき適切な改善を行うことが本来の目的です。そのためレビューの効果を最大限活用できるように、事前に改善計画を実行できる体制を構築しておきましょう。
体制構築を行っておけば計画を実行する際の時間的なロスを防ぎ、上場スケジュールに合わせて改善を進めていくことが可能です。迅速かつ適切な改善を行う姿勢を示すことで、投資家や株主に対して自社の信頼性を証明できます。
上場準備は厳しいスケジュールが求められ、レビューで指摘される課題も広範囲・多項目に渡ります。スムーズに上場審査へ進むためにも、速やかに課題を解決していける体制を整えておきましょう。
ショートレビューを受ける前のチェックリスト
実際にはショートレビューを受ける段階で専門機関からの全ての指摘に応えることは困難です。しかしできる限り準備は進めておいた方が、レビューの結果は良いものとなります。
下記にショートレビュー前に確認しておきたい項目のチェックリストを作成しましたので、ご活用下さい。
経営管理体制
- 監査役の専任
- 取締役会の設置
- 株主総会の議事録作成
- 取締役会の議事録作成
- 内部監査制度の構築
- 職務権限の明確化
- 稟議制度の構築
- 社内規定の整備
業務管理体制
- 反社チェックの実施
- 請求書の適切なチェックの実施
- 労働基準監督署からの指摘事項を改善
資産管理体制
- 定期的な残高照合の実施
- 滞留債権一覧表の作成
- 滞留債権管理の実施
決算処理体制
- 月次決算の実施
- 締め日は7営業日以内である
- 自社決算作業の実施
- 仕訳の承認の実施
- 発生主義で処理を実施
- 会計基準に基づいて処理
利益管理体制
- 客観性・現実性のある事業計画の作成
- 事業計画書は取締役会で承認
- 事業計画と連動した予算計画の作成
- 予算は損益・人員計画・投資計画と連動
- 部門別に予実差異分析を実施
ショートレビューについて解説しました
株式上場を達成するには、緻密な計画を作成して着実に準備を進めていくことが重要です。ショートレビューを活用すれば潜在的な課題や改善点を効率的に洗い出し、上場準備をスムーズに進めることが可能となります。上場準備は限られた時間で膨大なタスクをこなさなければならないため、ショートレビューの活用は必須と言えるでしょう。
ショートレビューを活用する際には信頼できる専門機関を活用し、密接な情報共有や連携を行うのがポイントです。これから上場を目指す企業は当記事も参考にショートレビューの導入を検討し、最初の一歩を踏み出してみて下さい。