株価算定とは?
株価算定とは企業の株式の価値を数値として明確に示す手法です。企業価値を信頼性の高い基準で評価することで、企業の透明性や取引の公平性を担保することが可能です。主に投資家や取引先との信頼関係を築き、資金調達や取引に繋げることを目的に実施されます。
株価算定にはさまざまなアプローチ方法が存在しており、業界・業種・企業規模・経営環境・目的に応じて最適な手法が選択されます。
株価算定が必要な場面
スタートアップ企業において株価算定は、下記のようにさまざまな場面で必要となります。
- 資金調達:投資家から出資を受ける際に、出資額に見合った株式の割合を決めるために必要
- ストックオプション:ストックオプション制度を利用する際には、公正な株価設定を通じて適切な従業員のインセンティブを決めるために必要
- 株式譲渡・M&A:株式や企業の売却価格を適切に算定し、妥当性を確保するために必要
- 新規株式発行:増資により新規株式を発行する際、公正な評価による株式割当価格を設定し、増資後の株主構成を適正化するのに必要
- IPO準備時:上場前後で適切な企業価値を算出し、公正な企業価値評価を得るために必要
- 税務監査:税務監査時に法的に適切な評価額を提示し、対応をスムーズに進めるために必要
株価算定と投資家の関係
スタートアップ企業は市場でのポジションが確立されていないため、成長や拡大を目指す段階において投資家から資金やリソースを提供してもらうことが重要となります。資金調達やM&Aといった重要な局面で投資家を説得するには、根拠のある信頼性の高いデータが必要です。
株価算定では企業価値や将来性をデータで示すことができ、同時にリスクの評価にも活用できるため、投資家に提示する資料として非常に適しています。正確で透明性のある株価算定結果を提示すれば、投資家との信頼関係も深まり、資金提供の交渉も進めやすくなるでしょう。
反対に不適切な株価算定は不信感を招き、資金調達にマイナスの影響を与える可能性もあるため注意が必要です。
株価算定の重要性
スタートアップ企業にとって株価算定が重要である理由は、資金調達の成否を左右する重要なプロセスであるためです。
設立間もないスタートアップ企業は資金力に乏しく、売上や利益も安定していないケースが一般的です。よって融資・出資・社債・助成金・補助金・ファクタリングなど、さまざまな方法で成長拡大のための資金を確保する必要があります。適正な株価評価を行えば、自社の価値を正確に伝えることができ、スムーズな資金調達が可能となります。
また経営陣が自社理解を深める場合や、買収・提携を検討する場合のデータとして活用することも可能です。
注意点として過大評価は信頼性低下を招き、過小評価は調達資金の不足を招くため、適正な算定を行うことが必須となります。
株価算定に用いられる主な手法
スタートアップの株価算定には、下記のような手法が用いられます。
インカムアプローチ
インカムアプローチは企業が将来生み出すキャッシュフローを、現在価値に割り引いて評価する手法です。将来の収益性を予測して示すことで、投資家をはじめとするステークホルダーへ将来価値を含めた適正な企業価値を伝えることを目的としています。
同手法は企業の成長性や収益予測を考慮しやすく、事業の収益性を可視化して直接評価できるのが大きなメリットです。柔軟性が高いため、さまざまな事業モデルに対応できるという利点もあります。
一方で成長企業では収益予測が難しい場合が多く、割引率の設定も難しいというデメリットもあります。また詳細なデータが必要となるため、収集と精査にリソースがかかるのが難点です。
■主な手法
- DCF法:将来生み出されるフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて算定する手法
- 配当還元法:株主への配当を現在価値に還元して株主価値を算定する手法
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは同業他社や自社と類似したM&A・株式取引の事例を基に、株価や企業価値を算定する手法です。市場価値を反映した株価を算出できることから、投資家や買収企業との合意形成が求められる場合によく用いられます。
同手法は実際の取引価格や市場価値を基に現実的な評価が行われるため、投資家や買収企業が納得しやすい点がメリットです。複雑な予測モデルを必要とせず、計算がシンプルであるという利点もあります。
その反面類似企業の選定が難しく、自社と事業モデルや成長率が異なる場合は比較が難しいのがデメリットです。市場環境の影響が大きく、実態と乖離した評価がされるリスクもあります。
■主な手法
- 類似企業比較法:類似した上場企業の財務指標や株価比率を基に価値を算定する手法
- 類似取引比較法:過去の類似したM&A取引の売買価格を参考に企業価値を評価する手法
コストアプローチ
コストアプローチは企業が保有する資産や取引実績を基に、株価や企業価値を算定する手法です。資産価値から負債を差し引いた純資産価値をもとに企業価値を評価します。
会計データを使用するため計算がシンプルで分かりやすく、資産価値が事業価値に直結する企業において有効であるのがメリットです。一方で将来の利益やキャッシュフローが反映されないことや、無形資産の評価が難しいことがデメリットとなります。
また時価評価を行う際には計算の難易度が上がり、専門的な知識が必要となります。
■主な手法
- 簿価純資産法:貸借対照表を基に資産から負債を差し引いて純資産を算定する手法
- 時価純資産法:資産と負債を時価で再評価し純資産を算定する手法
株価算定を効率的に進めるステップ
ここでは株価算定を効率的に進めるステップを解説します。
1.株価算定の目的の明確化・手法の選定
株価算定の最初のステップは目的の明確化です。「資金調達」「M&A」「上場準備」「株式譲渡」「自社分析」などの目的を明確化することで、適切な算定手法や算定範囲を決定することができます。算定結果を提示する相手を考慮し目的を共有すれば、より精度が高く信頼性のある手法を選択し、適正な評価を行えるためおすすめです。
株価算定の進め方が分からない場合や専門知識が不足している場合は、この時点で会計士やコンサルタントといった専門家への依頼も検討しておきましょう。
2.株価算定に必要な書類を準備
続いて株価算定に使用する書類を用意しましょう。算定手法により必要となる書類は多少異なるのですが、主に下記の書類が用いられます。
- 財務諸表(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書・勘定内訳書)
- 設備投資計画
- 事業計画書(3年分)
- 税務申告書(3年分)
- 株主名簿・株主リスト
- 類似企業の財務諸表
- 過去の株価算定の資料(ある場合)
各書類のデータは最新かつ正確であることが求められることに加え、書類を揃えるのには時間がかかるため、早めに準備を行うようにしましょう。
3.株価算定の実施
必要な書類が揃ったら株価算定を実施します。ここではDCF法を例に算定手順を解説します。
- 株価算定の前提条件を設定(FCF予測・割引率・WACC・ゴーイングサーン・ターミナルバリュー)
- ステークホルダー間で前提条件の情報を共有し、妥当性をチェック
- FCF・割引率・永続価値・現在価値・株式価値の順に株価算定を実施
- 算定後に矛盾点やミスが無いかチェック
算定結果に幅を持たせる場合には、下記のように複数のシナリオ分析を追加して算定します。
- 楽観的シナリオ(高成長を想定)
- 平均的シナリオ(中立的な予測)
- 悲観的シナリオ(成長が停滞する場合)
シナリオ分析を行えば成長可能性やリスクを多面的に評価し、精度の高い算定結果を得ることが可能となります。
なお株価算定は専門的な知識も必要になること、加えて人的な計算が行われることから、計算ミスが起きやすいです。そのため計算の際には複数回試算を行う、もしくは専門家への依頼がおすすめです。
4.株価算定結果の検証
株価算定後は算定結果をチェックし、正確性と妥当性を検証することが重要です。まずは算定結果が自社の事業実態や業界標準と一致しており、大きく乖離していないかを確認します。
算定結果について問題が無ければ、投資家やステークホルダーへ説明する際に、十分な納得を得らえる内容であるかも確認しておきましょう。複数の手法で算定を行った場合は、各算定結果の間で整合性が取れているかを確認しなければなりません。
より精度が高く客観性のある検証を行うには、会計士・コンサルタント・投資家といった第三者からのフィードバックを受けるのが効果的です。算定結果が不十分であると指摘された場合は別の手法で算定を行うか、複数の手法を併用し、内容の充実や強化を図るのがおすすめです。
株価算定を行う際の費用
株価算定にはさまざまな費用が発生するため、費用の内訳と相場感を知っておくことも重要です。
■外部専門家へ依頼する費用の相場
- 簡易的な評価(初期段階のスタートアップ向け・シンプルな算定):30~50万円
- 詳細評価(市場分析やDCF法を用いた本格的な算定):50~150万円
- 定期契約(継続的な株価算定が必要な場合):50~100万円/年
■法務・税務対応費用の相場
- 法務対応(契約書作成等):10~30万円
- 税務評価(税務当局への対応):20~50万円
■その他の費用の相場
- データ収集(税務当局への対応):1~10万円
- 内部コスト(自社で調査や資料作成を行う工数):変動
株価算定の全体的な費用は50〜200万円程度が目安です。詳細で手間のかかる評価を行うほど費用は高くなります。依頼する際には必ず見積もりを取得するようにしましょう。
スタートアップ企業が株価算定を行う際のポイント
ここではスタートアップ企業が株価算定を行う際に、押さえておくべきポイントを解説します。
スタートアップの特性を加味する
社歴が若く短期的な急成長を目指すスタートアップ企業は、既存企業とは大きく異なる特性を持つため、株価算定の際にはその特性を加味した算定が求められます。
- 資金力・リソースに乏しい
- 事業モデル・収益構造が確立されておらず不安定
- 急成長の可能性があるが、不確実性も高い
- 資産の大半を技術・特許・商標等の無形資産が占める
- 創業者や経営陣の影響力が大きい
上記のスタートアップ企業の特性に加え、業界全体の成長性や市場の見通し・市場におけるポジション・競争優位性・持続可能性・業界特性を加味することで、スタートアップ企業が秘める価値を引き出す株価算定を行うことができます。
算定時に注意すべきポイント
スタートアップ企業が株価算定を行う際には、精度の高い算定結果を得るために、下記のポイントに注意が必要です。
- 業界特性を反映した評価を心掛ける:例えばIT・Web業界では、トレンドの変化や市場環境の移り変わりが激しいため、柔軟な条件設定のもと算出を行う必要がある。
- 適切な評価手法を選定する:株価算定は提示先を納得させるデータであるため、自社の状況や目的に合った評価手法を選択することが重要。
- 適切なタイミングで実施する:事業状況・市場環境を鑑みて、適切なタイミングで評価を実施することが重要。
- 複数のシナリオを用意する:スタートアップ企業の株価算定は将来の予測が多くを占めるため、楽観的・平均的・悲観的と複数のシナリオを用意することが重要。
株価算定の精度を高めるためには、特定の評価手法に固執せず必要に応じて複数の評価手法を併用することも必要となります。
株価算定後に注意すべきポイント
株価算定後はスタートアップ企業特有の前提条件に基づき算出されたことを念頭におき、評価が適正に行われているか確認します。
評価に影響を与える主な要素としては、「市場環境」「トレンド」「経済状況」「業界動向」「業界の成長性」「競争環境」「収益予測」「コスト構造」「戦略変更」「リスク要因」などがあります。
これらの条件は時間の経過とともに変動するため、正確な評価を得るには定期的な再評価が必要です。
株価算定をマスターして投資家との交渉に役立てよう!
株価算定はスタートアップ企業が自社の適切な価値を投資家に伝え、資金調達を成功させるための重要な手段です。目的に合った手法を用いて適切に算定を行うことで、自社の企業価値を明確に示すことが可能となります。
大きく飛躍したいと考えているスタートアップ企業にとっては、株価算定をマスターしておくことは必要不可欠です。株価算定に対する理解を深め、今後の自社の成長へとつなげていきましょう。