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税制適格ストックオプションとは?要件、確定申告に必要な情報をまとめて解説!

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企業が役員や従業員のインセンティブ報酬として用いる、ストックオプションという制度があります。その中でも、税制の優遇が受けられるため利用する企業が多いのが「税制適格ストックオプション」です。利用が広がる一方でその内容や要件が複雑であり、有償ストックオプションや税制非適格ストックオプションもあることから、詳しく把握していない方も多いのではないでしょうか。

「結局、税制適格ストックオプションってどんな制度?」

「税制適格ストックオプションにはどんな要件があるの?」

こういった疑問に答えるため、本記事では税制適格ストックオプションの概要と要件、メリット、有償ストックオプションや税制非適格ストックオプションとの違い、令和6年度税制改正、確定申告について解説していきます。

これから企業のインセンティブ報酬として導入を考えている場合は、この記事を読むことで前提となる知識を得ることができます。要件やメリットを踏まえて導入の準備を進めてみましょう。


税制適格ストックオプションとは?

税制適格ストックオプションは、役員や従業員の業務に対するインセンティブ報酬として利用されるストックオプションの一種です。企業にとっては、役員や従業員のモチベーションを高め、業績向上を目指すための報酬制度となります。

税制適格ストックオプションでは、権利行使時の株式の時価と、あらかじめ定めた権利行使価額との差額に対する給与所得税を株式の売却時まで繰り延べできます。

出典:経済産業省「ストックオプション税制

税制上の優遇措置が受けられることで、権利を付与される役員や従業員に大きなメリットがあります。

税制適格ストックオプションのメリット

では実際に税制適格ストックオプションを利用することで得られるメリットを見ていきましょう。主なメリットは以下に示す3つです。

税金発生のタイミングが少ない

本来のストックオプションは、企業の株式を購入する権利行使時と、株式売却時の2度税金が発生します。しかし税制適格ストックオプションは、権利行使時に本来発生する税金を株式売却時まで繰り延べる仕組みです。税金を支払うタイミングが1回だけでよく、計算も複雑ではないため、この点が報酬を受け取る側のメリットといえます。

【株式譲渡時の計算式】

(株式の売却価格 ー 権利行使価格)× 売却株数 ー 手数料

税率が低い

通常、ストックオプションでは権利行使時に最大55%、株式売却時に約20%が課税されます。しかし税制適格ストックオプションの場合は権利行使時の課税が繰り延べされるため、株式売却時の20%のみとなります。株式を購入した際に半分以上を税金で取られてしまうのに比べて、税制適格ストックオプションは税率が低い点がメリットです。

この税率の違いは権利行使時と株式売却時で、権利対象者の所得に対する会計上の考え方が異なることで発生します。権利行使時は給与と同様であるのに対し、株式売却時は給与など通常の所得とは異なる計算に含むため、税率に違いが生まれています。

権利付与される従業員側にリスクがない

税制適格ストックオプションは無償ストックオプションの一種であるため、役員や従業員には税金以外の支出が発生しません。無償で企業から権利が付与され、株価が上昇した時にこの権利を行使すればより多く利益が得られる仕組みです。そのため権利を付与される役員や従業員はリスクなしで、任意のタイミングで現金化できる報酬が得られます。

税制適格ストックオプションの要件

税制適格ストックオプションが税制優遇措置を認められるためには、以下に示す要件をすべて満たしている必要があります。租税特別措置法第29条の2に定められた要件を、わかりやすくまとめていきます。

①付与対象者の範囲

税制適格ストックオプションにおいて、付与対象者に含むことができる範囲は租税特別措置法第29条の2第1項で定められています。対象となる条件は以下の通りです。

  • 会社及びその子会社の取締役、執行役及び使用人
  • 一定の要件を満たす社外高度人材

注意すべき点は監査役や大口株主(自社株の1/3以上を保有する株主)とその親族・配偶者など関係者は、付与対象外となることです。

また、付与対象者となる社外高度人材については、令和6年度の改正でスタートアップ企業向けに対象範囲が拡充されています。詳細は「令和6年度税制改正の影響」で解説します。

②権利行使期間

権利行使期間とは、権利を付与された対象者が自社株を購入できる期間のことです。過去の制度では、権利の付与が決議された日から2~10年の8年間がこの期限となっていました。しかし令和5年度に税制改正が行われ、現在は設立5年未満の未上場企業に限って、付与決議日から2~15年に延長されています。

また、決議日の直後にすぐ権利が行使できるわけではなく、上記の通り2年が経過して以降に使えるようになる点も注意が必要です。

③権利行使価額

権利行使価額とは、付与対象者が自社株を購入するときの価額のことです。権利行使価額はストックオプションを付与する契約を結んだ時点の時価以上に設定しなくてはなりません。なぜなら1株あたりを時価より安くしてしまった場合、付与対象者が株式を取得した時点で利益が生まれることになるためです。

ストックオプションはあくまで、インセンティブ報酬によって対象者のモチベーションを高め、最終的に株価を上昇させることを目的とした制度です。通常の株主にとって不利な権利行使価額の設定はできないことを覚えておきましょう。

④権利行使限度額

年間に権利を行使できる価額の限度額が定められています。具体的な金額としては「年間の合計額が1,200万円を超えない」ことが要件です。

また令和6年度の税制改正では、一部の要件の引き上げ(権利行使価額の計算方法の見直し)が行われました。以下の条件に該当する場合はこの対象となります。

  • 設立以降の期間が5年未満:年間の合計額が2,400万円まで
  • 設立以降の期間が5年以上20年未満で非上場企業または上場以降の期間が5年未満の上場企業:年間の合計額が3,600万円まで

限度額を超えて権利行使を行った場合、税制適格ストックオプションとみなされず、行使額全体で優遇措置が受けられません。この点に注意して役員や従業員の権利行使限度額の管理が必要です。

⑤譲渡制限

税制適格ストックオプションとして付与された権限は他者へ譲渡することができません。付与された本人のみが権利を行使して、自社株式を購入することができます。税制適格ストックオプションの要件を満たすため、企業側で新株予約権にかかる契約の段階で「新株予約権を譲渡してはならない」と定める必要があります。

⑥発行形態

税制適格ストックオプションとして発行される株式は無償で発行された無償ストックオプションである必要があります。そのため企業が対象者に株式を付与する際に無償で発行されていなければ、税制適格ストックオプションにはなりません。ただし、金銭の払込みの代わりに報酬債権を相殺するストックオプションの場合は、税制適格要件を満たすものとされています。

⑦株式の交付

役員や従業員の権利行使により株式を交付する際、会社法第238条1項に定める事項に反しないように行われる必要があります。会社法第238条1項の内容は以下の通りです。

第二百三十八条 

株式会社は、その発行する新株予約権を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集新株予約権(当該募集に応じて当該新株予約権の引受けの申込みをした者に対して割り当てる新株予約権をいう。以下この章において同じ。)について次に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)を定めなければならない。
 募集新株予約権の内容及び数
 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
 前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権一個と引換えに払い込む金銭の額をいう。以下この章において同じ。)又はその算定方法
 募集新株予約権を割り当てる日(以下この節において「割当日」という。)
 募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合には、第六百七十六条各号に掲げる事項
 前号に規定する場合において、同号の新株予約権付社債に付された募集新株予約権についての第百十八条第一項、第百七十九条第二項、第七百七十七条第一項、第七百八十七条第一項又は第八百八条第一項の規定による請求の方法につき別段の定めをするときは、その定め

引用:e-Gov 法令検索「会社法(平成十七年法律第八十六号) - 第二百三十八条

⑧株式の管理

役員や従業員が付与された権利の行使により取得した株式は、一定の基準で保管しなくてはなりません。具体的には、金融商品取引業者等の振替口座簿に記載または記録を受けるか、その営業所等に保管の委託または管理等の信託をすることが必要です。

また令和6年度の税制改正で、譲渡制限株式については株式会社が管理することが可能になりました。企業側が自社で株式の管理を行えるようになったことで、管理がしやすくなっています。

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有償SOや税制非適格SOとの違い

税制適格ストックオプションとよく似た名称を持つ制度に、有償ストックオプションや税制非適格ストックオプションがあります。これらは税制適格ストックオプションと、それぞれ異なる要素をもっているため、経営者はその違いを把握しておかなければいけません。曖昧な認識で前述の要件を満たせなかった場合、企業のストックオプションが税制適格ストックオプションとして扱われない可能性があります。

まずは下図から有償ストックオプション、無償ストックオプション、税制適格ストックオプション、税制非適格ストックオプションの関係性を確認してから進みましょう。

有償ストックオプションとの違い

税制適格ストックオプションと有償ストックオプションの違いは、主に権利発行時の金銭的負担です。

税制適格ストックオプションは無償ストックオプションの1つであり、企業から権利が発行される際、無償で権利が付与されます。これに対して、有償ストックオプションは権利の発行時(新株予約権の契約締結時)に企業に対して設定された金額を支払わなくてはなりません。税金が発生するタイミングはどちらも株式売却時のみで違いはありませんが、権利の発行が有償である分、有償ストックオプションの方が対象者の費用負担が大きくなります。

また権利行使期間にも違いがあるため、注意が必要です。前述の通り、税制適格ストックオプションには付与決議日から2~10年の間で権利を行使する期限が設けられています。これに対して、有償ストックオプションには期限の定めがありません。その代わり権利が付与された時ではなく、権利を行使した時の株価で権利行使価額が決まるため、タイミングによって損をする可能性があります。

税制非適格ストックオプションとの違い

税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの違いは、主に課税のタイミングと税率です。

まず税制非適格ストックオプションの場合、課税のタイミングは2回に分かれます。1度目はストックオプションの権利を行使した時です。株式は売却されていないため対象者は現金を獲得していませんが、給与所得として最大55%の税金が発生します。2度目は権利行使によって獲得した株式を売却した時です。株式を売却したことで現金化された金額は、譲渡所得として給与などとは異なり約20%の課税対象となります。

これに対して税制適格ストックオプションは、前述の通り権利行使時の課税を繰り延べし、株式売却時1回のみが課税の対象になります。

令和6年度税制改正の影響

令和6年度に税制改正が行われ、税制適格ストックオプションにいくつかの見直しが行われました。特にスタートアップ企業に対する、税制適格ストックオプションの範囲や限度の拡充が行われています。

出典:経済産業省「令和6年度(2024年度)経済産業関係 税制改正について

ここからは、それぞれの改正内容について詳しく解説していきます。

株式保管委託要件

既存の要件では、ストックオプションの行使によって株式を獲得した対象者が税制優遇を受けるには、その株式の管理や保管を証券会社等に委託する必要がありました。しかし、これらの対応にはお金がかかるうえ事務負担も大きいため、スタートアップ企業のイグジットを阻害している部分がありました。これを踏まえ令和6年度の税制改正では、譲渡制限株式で発行会社自身が株式の管理を行う場合、証券会社等の管理・保管を必要としないよう変更されました。

出典:経済産業省「令和6年度(2024年度)経済産業関係 税制改正について

権利行使価額の限度額

税制適格ストックオプションには年間に権利行使できる限度額として、1,200万円が上限とされていました。令和6年度の税制改正では、スタートアップ企業の優秀な人材の採用・獲得力を向上させるため、この限度額を引き上げました。引上げの条件と金額は以下の通りです。

  • 設立以降の期間が5年未満:年間の合計額が2,400万円まで
  • 設立以降の期間が5年以上20年未満で非上場企業または上場以降の期間が5年未満の上場企業:年間の合計額が3,600万円まで

出典:経済産業省「令和6年度(2024年度)経済産業関係 税制改正について

社外高度人材

税制適格ストックオプションの対象者の範囲には、これまで国家資格の保有や専門職の他上場企業の役員経験者など厳しい条件がありました。令和6年度の税制改正では、スタートアップ企業が社外の人材を活用してより成長できる環境を作るため、制限の緩和や範囲の拡充が行われました。また、社外高度人材にストックオプションの発行を行うにあたって必要となる申請書類の簡素化により手続き負担も軽減されています。

出典:経済産業省「令和6年度(2024年度)経済産業関係 税制改正について

税制適格ストックオプションの確定申告

税制適格ストックオプションの権利行使後、対象者が任意のタイミングで株式を売却した場合、確定申告が必要になります。このとき計上する金額は以下の計算式で計算されます。

【株式譲渡時の計算式】

(株式の売却価格 ー 権利行使価格)× 売却株数 ー 手数料

また、確定申告に必要となる書類は以下の4つです。

  • 申告書第一表
  • 申告書第二表
  • 申告書第三表(分離課税用)
  • 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書

なお「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」については、タイトル末尾に「特定権利行使株式分及び特定投資株式分がある場合」と記載されている書類を使用する必要があります。

税制適格ストックオプションについて解説しました

ストックオプションをインセンティブ報酬に取り入れる企業の多くが、税制優遇のある税制適格ストックオプションを利用しています。うまく活用することで、役員や従業員のモチベーションを高めると同時に社外の高度人材から協力を得ることも可能です。要件を満たせるよう企業の体制を整備・管理して、報酬制度としての導入を検討してみましょう。

この記事では税制適格ストックオプションの概要と要件、メリット、有償ストックオプションや税制非適格ストックオプションとの違い、令和6年度税制改正、確定申告について解説してきました。

導入を検討する企業の方は、本記事で紹介した税制適格ストックオプションに関するさまざまな内容を参考にしてみてください。

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Startup JAM編集部
執筆

Startup JAM編集部

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