東証グロース市場って何?
企業の上場を検討するには、市場の特性を把握することが重要です。
ここでは東証グロース市場のコンセプト、上場企業数などの基礎情報から、他の市場との違いや集まる企業傾向も解説するので、自社の規模や経営体制が市場特性と合っているかどうか知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
東証グロース市場のコンセプト
グロース市場について、東京証券取引所は以下のように定義しています。
グロース市場は、高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場です。そのため、申請会社には「高い成長可能性」を求めています。
出典:株式会社東京証券取引所「2024 新規上場ガイドブック(グロース市場編)」
新市場のなかでも、株式を公開する基準を最も低い値で設定されており、企業が小さな段階でも証券市場で資金調達ができるような仕組みになっています。
新興企業にとって事業をより大きくするための足掛かりとなるので、費用や時間をかけてでも上場するメリットも大きい市場であるといえるでしょう。
東証グロース市場の上場企業数(2025年1月7日時点)
各市場の上場会社数は以下のとおりです。
- プライム市場:1,641社
- スタンダード市場:1,589社
- グロース市場:609社
東証グロース市場の上場会社数が最も少ないことが判明しています。
しかし全市場全体で6社ある外国会社のうち、3社がグロース市場であるなど、他の市場では見られない特徴も多く持っています。
東証グロース市場の開示時期
グロース市場に上場した企業は、進捗情報を反映した最新の企業情報が上場基準を満たしていることを開示しなければなりません。頻度は1事業年度に対して1回以上が基準になります。(事業年度経過後の期間としては、3ヵ月以内に1回行うことが求められる)
ただし事業計画書の見直しなどで事業内容に大幅な変更が必要になった場合は、速やかに変更内容を開示する必要があるので注意しましょう。
プライム市場、スタンダード市場との違い
【プライム市場との違い】
「プライム市場」は2022年に東京証券取引所が導入した新市場区分において、最も上場基準が高く設定されている市場のことを指します。
代表的な基準は以下のとおりです。
- 株主数:800人以上
- 流通株式数:20,000株以上
- 流通時価総額:100億円以上
- 年間利益総額:25億円以上
他にも厳しい基準をパスする必要があるので、上場すれば世界的な信用度も高い企業として認知されます。
多くの大企業が上場している市場になるため、グロース市場に上場できたとしてもすぐに移行することは難しいでしょう。
しかしフリーマーケットサービスを展開している「メルカリ」が、2022年にグロース市場からプライム市場に移行している事例もあります。
プライム市場について詳しく知りたい方は、以下の記事も併せて確認してみてください。
<関連記事>東証プライムとは?1記事でわかる上場のメリットや基準、他市場との違い
【スタンダード市場との違い】
「スタンダード市場」は2022年に東京証券取引所が導入した新市場区分において、プライム市場よりも一段階下に位置する市場のことを指します。
代表的な基準は以下のとおりです。
- 株主数:400人以上
- 流通株式数:2,000株以上
- 流通時価総額:10億円以上
- 年間利益総額:1億円以上
スタンダード市場はプライム市場に及ばないとはいえ、グロース市場よりも厳しい上場基準が設定されているので、上場すれば世界的な信用度も高い企業として認知されます。
またスタンダード市場はプライム市場よりも上場基準が低く設定されているため、グロース市場からの移行先として設定される場合が多いです。
実際に2024年の10月をもって、総合エンターテインメント企業として事業展開している「エディア」がグロース市場からスタンダード市場に移行しており、さらなる事業展開を目指していると公言しています。
スタンダード市場について詳しく知りたい方は、以下の記事も併せて確認してみてください。
<関連記事>スタートアップの経営者必見!スタンダード市場の特徴と上場に必要な知識を徹底ガイド!
東証グロース市場とマザーズ市場
東証マザーズ市場とは、東京証券取引所が1999年11月から2022年4月までに運営していた、ベンチャー企業向けの株式市場です。
2022年4月4日に東京証券取引所の市場区分再編により、マザーズ市場はグロース市場へと統合されました。以下の記事ではマザーズ市場について詳しく説明しています。気になる方は併せて確認してみてください。
<関連記事>マザーズ市場とは?スタートアップ企業が知っておくべき知識・プロセスを解説!
最新データに見るグロース上場企業の特徴
東証グロースに上場するイメージをより明確にするためにも、実際に上場している企業の特徴を把握することをおすすめします。
ここでは2024年12月末時点の最新データに基づいて、東証グロースに上場している企業の特徴をまとめています。
1. 業種別では「情報・通信業」が最多の250社(約4割)
2024年12月末時点東証上場銘柄610社のうち、情報・通信業が250社を占めており、グロース上場企業の4割ほどが情報・通信業界に属しています。
次に多い業種は193社ある「サービス業」になります。
2. 2024年IPO企業のうち約5割がグロース市場を選択
2024年12月末時点では新たに上場した企業は130企業あると判明しており、そのうちの63社がグロース市場を選択しています。
3. 地域別で東京が7.8割
2024年12月末時点東証上場銘柄(外国会社除き)の606社のうち、東京を拠点にしている企業が475社を占めており、グロース上場企業のほとんどは東京に集中していました。次に多かった地域は39社ある大阪になります。
4. 赤字上場が3割
グロース市場では、上場までの黒字化を求める制度は存在しません。2024年の上期の調査結果では、上場直前期に赤字上場をしている企業は9企業でした。2024年の上期に上場したグロース上場企業は33社になるので、約3割の企業が赤字上場しています。
また日本取引所グループが2024年11月に公開した「上場審査に関するFAQ集」では、グロース市場への上場時に、上場申請期が赤字となる業績予想を公表した事例もありますので、気になる方はぜひ確認してみてください。
参考:日本取引所グループ「上場審査に関するFAQ集」
東証グロースに上場する基準とは?
上場する条件として、市場ごとの上場審査基準を満たしていることが挙げられます。
東証グロース市場にも独自の上場審査基準が設定されているので、上場したいベンチャー・スタートアップなどの企業は、基準を満たすため社内の仕組みを整える必要があります。
ここでは東証グロースの上場審査基準に関する情報を確認していきましょう。
上場審査基準
「上場審査基準」とは企業が上場するにあたって、証券取引所が定めた満たすべき基準のことを指します。
上場審査基準には形式基準と実質審査基準があり、それぞれの概要は以下のとおりです。
- 形式基準:株式数や利益額など、数値で定められた基準のこと。
- 実質審査基準:上場企業として、市場が実現したいコンセプトを満たせるような企業であるかどうか審査するための基準のこと。
なお、形式基準や実質審査基準を証券取引所が審査することを上場審査と呼びます。
企業が上場するためには上場審査を経て、形式基準と実質審査基準を満たしていると認められる必要があります。
東証グロースの形式要件
グロース市場の形式基準は以下のとおりです。
- 株主数:150人以上
- 流通株式数:1,000株以上
- 流通時価総額:5億円以上
スタンダード市場やプライム市場よりも形式要件の項目数が少なく、数値も低く設定されているため、ベンチャー・スタートアップなどの企業でも実現できる要件であるといえるでしょう。
実質審査基準は「高い成長可能性」がキーワード
実質審査基準では「高い成長可能性」を重視している傾向が強いです。
そのため、収支基盤や財政状況に関する基準が定められておらず、将来的に展開している事業内容が高い将来性を見込めるのであれば、実質審査基準を満たせる可能性が高いです。
企業の事業内容に将来性があるかないかを判断するのは、主幹事証券会社になります。
主幹事証券会社がチェックするポイントは以下のとおりです。
- 事業内容やビジネス内容
- 市場規模や競合環境
- 展開している事業の競争力やリスク管理
- 経営指標とその内容を採用した過程
- 最新3年間程度の実績値と目標値
- 利益計画など
上場を狙っている企業は、上記のポイントの最適化がなされているかどうかチェックしてみると良いでしょう。
上場維持基準
「上場維持基準」とは証券取引所が定めた、上場を維持するために満たすべき基準のことを指します。
グロース市場の上場維持基準は以下のとおりです。
- 株主数:150人以上
- 流通株式数:1,000株以上
- 流通時価総額:5億円以上
- 売買高:月平均10単位以上
- 時価総額:上場10年経過後40億以上
上場維持基準を下回った場合、原則として1年の改善期間で条件を満たせるように改善しなければなりません。
もし期間内に上場維持基準を満たせなかった場合は、上場廃止の処分が下されてしまうので注意しましょう。
上場基準の引き上げも検討されている
新市場区分を定めて以降、東京証券取引所のフォローアップ会議で上場基準の引き上げをするか否かの問題が、たびたび議題として浮上しています。
上場維持基準の引き上げは、新興企業向け市場の実現に効果があると見込まれています。
しかし2024年3月時点で、企業の約3割が上場維持基準を下回っている状態にあり、むやみな引き上げは市場の存続を左右しかねません。
そのため引き上げに関する回答には、まだまだ時間がかかる状態であるといえるでしょう。
IPO準備において、フェーズごとのタスクとスケジュールについて詳しく知りたい方は、ぜひ以下お役立ち資料も併せて確認してみてください。
東証グロース上場に必要な費用
グロース市場に上場するためには、監査費用や上場料が発生します。
ここでは上場するのに必要な費用と、上場後の費用について確認していきましょう。
企業の状態によっては、さらに社内管理体制の見直しや事業整理に費用が発生することもありますので、下記の費用よりも余裕を持った予算組みが重要です。
新規上場の場合
グロース市場に新規上場する場合の費用は以下のとおりです。
- 上場審査料:200万円
- 新規上場料:100万円
プライム市場やスタンダード市場よりも価格設定が低いので、ベンチャー・スタートアップでも支払いがしやすいでしょう。
上場後の費用
グロース市場の年間上場料は以下のとおりです。
- 50億円以下:48万円
- 50億円を超え250億円以下:120万円
- 250億円を超え500億円以下:192万円
- 500億円を超え2,500億円以下:264万円
- 2,500億円を超え5,000億円以下:336万円
- 5,000億円を超えるもの:408万円
上記の金額に加え、TDnet利用料12万円が発生します。
東証グロースに上場するメリット5選
東証グロースに上場するかどうかを決めるには、上場するメリットを知ることが大切です。
ここでは東証グロースに上場するメリットを5つ解説します。
1.認知度が上がる
上場すると投資家や他の経営者から注目を集めることが可能です。
上場を機に投資家や他の経営者と関係を築くことは、事業幅の拡大や資金のリソース確保につながるなど、企業をより大きくするチャンスを増やすきっかけにもなります。
2.信頼度の保証になる
上場には厳しい上場審査基準をパスしなければなりません。
そのため上場することは、社内管理が高水準な企業としての証明にもなります。
銀行からの信用度も高くなるので、より幅の広い選択肢の中から資金調達手段を選ぶことが可能でしょう。
3.事業拡大につながる
上場することで資金調達やビジネスの関係性の幅が広がるため、事業の幅やリソースを拡大するチャンスが多くなります。
また求職者にとって、就職先の企業が上場しているか否かは、企業を選ぶうえで大切なポイントです。
上場すれば知名度や信頼性が高い企業として、求職者に認知されてもらえるため、ハイレベルな人材が集まりやすくなります。
4.リスク許容度の高い投資家から資金が集まりやすくなる
東証グロースは新興企業が多い市場にので、ある程度リスクを見越して売買している投資家が多いです。
そのためベンチャー・スタートアップなどの企業でも、問題なく資金調達が可能な市場であるといえるでしょう。
5.他のベンチャー系企業との差別化ができる
ベンチャー・スタートアップなどの企業の場合、市場に上場しているか否かだけでも同業他社との差別化を図れます。
東証グロースに上場していると、新興企業として幅広く認知されるだけでなく、世間に対する信用度を上げることにつながります。
上場による信用度の高さは、クライアントや顧客が同業他社を比較するポイントの1つとなるため、より高い競争力を得ることにつながるでしょう。
東証グロースに上場するデメリット4選
東証グロースをうまく活用するためには、メリットだけでなくデメリットも把握しておく必要があります。
ここでは東証グロースに上場するデメリットを4つ解説します。
1.時間とコストが必要
上場するには上場審査基準をパスしなけれなりません。
そのため社内管理体制を整える時間と、コストが必要になる企業が多いです。
準備の期間には3年が目安とされているので、準備のコストに企業が耐えられない場合もあります。
2.企業買収のリスクが生まれる
上場後は市場でより多くの人に株式が売買されるため、ライバル企業などが株式を買い占めてしまうなど、企業買収のリスクが生まれてしまいます。
企業買収が発生してしまうと、経営者の思うとおりに事業方針を決めることが難しくなってしまう傾向が強いです。
3.経営に株主が影響してくる
上場すると株主から資金調達がしやすくなる反面、出資を打ち切られないように株主に配慮した経営スキルが必要になります。
経営に株主が影響してくると企業の意思決定に時間がかかってしまい、ベンチャー・スタートアップ特有のフットワークを活かした事業展開が難しくなる恐れがあります。
4.リスクを避ける投資家から資金を集めにくくなる
グロース市場は新興企業が多い市場であり、リスクを避ける投資家は投資を避ける傾向が高いです。
そのため他の市場に比べて投資してくれる投資家の母数は少なくなってしまいます。
上場申請の流れと必要書類
上場申請の流れは以下のとおりです。
- 上場に必要な事業計画と資本政策の策定
- 監査法人や主幹事証券会社の選定
- 社内の管理体制の確認や整備
- 運用実績など上場に必要な申請書類の作成
- 証券取引所における上場審査の実施
上場審査を通過し証券取引所に申請が承認されることで、新規上場を達成できます。
また申請の際に必要な書類は以下のとおりです。
- Ⅰの部(新規上場申請のための有価証券報告書)
- IIの部(新規上場申請のための有価証券報告書)もしくは新規上場申請者に係る各種説明資料
- 有価証券新規上場申請書
企業の状態によっては他にも書類が必要なケースがありますので、必要に応じて有識者に相談した方がいいでしょう。
なおグロース市場に申請する場合は、IIの部ではなく「新規上場申請者に係る各種説明資料」が必要になります。
もっと詳しく上場の流れを知りたい方は、以下の記事を参照してみてください。
<関連記事>上場(IPO)準備の全体スケジュールと期間ごとの具体的な手順
【まとめ】東証グロースはベンチャーでも上場しやすい市場
本記事では審査基準やメリットなど、東証グロースに関する情報を解説しました。東証グロースは小規模な企業でも比較的上場しやすい市場です。東証グロースに上場することで、認知度の向上や事業拡大につながるメリットがある一方、リスクを避ける投資家から資金を集めにくくなる注意点もあります。
上場するには、多くの時間やコストが必要になり、乗り越えるべきハードルが多くあります。そのため、IPO準備段階で起こりうる課題や、全体的なスケジュールをしっかり把握しなければなりません。以下のお役立ち資料では、IPO準備における主要な課題や対策、スケジュールについて詳しく解説しています。貴社のIPO準備にお役立てください。