ベンチャー企業とは?
GAFAM(Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon、Microsoft)をはじめとした世界的な大企業もかつてはベンチャー企業と呼ばれました。基本的には「新興企業」を指す言葉ですが、ビジネスシーンで使われる「ベンチャー企業」の意味は、もう少し複雑です。
まずはベンチャー企業の定義やスタートアップ、ユニコーン企業との違いを見ていきましょう。
ベンチャー企業の定義
ベンチャー企業は英語でVenture businessと表記されますが、これは和製英語です。英語ではBusiness ventureまたはVenture capitalと表現されます。
ベンチャー企業という言葉は、1970年代、当時の通産省のレポートや書籍で初めて使用されました。一般的には成長性が高く、革新的かつ創造的な経営を行う若手企業が「ベンチャー企業」と呼ばれます。
また2014年に行われた「ベンチャー有識者会議とりまとめ」には、「ベンチャー宣言」として、以下の記載があります。
ベンチャーとは、起業にとどまらず、既存大企業の改革も含めた企業としての新しい取組への挑戦である。
引用:金融庁「ベンチャー有識者会議とりまとめ」
ベンチャー企業は新しい技術や高度な知識を軸とし、時代に即したサービス・商品を展開するのが特徴です。イノベーションの創出に期待が集まる一方で、ベンチャー企業として成功するのは難しいとも言われます。
帝国バンクのデータでは、2024年上半期、業歴10年未満の新興企業の倒産件数は1534件(前年同期比24.7%増)と、上半期としては過去2番目の件数となりました。そのうち「3年未満」での倒産件数は200件と、前年同期と比べて14.9%増えています。
ベンチャー企業はまだ成長過程にあり、必ずしも業績が安定しない若い状態である、とも言えそうです。
参考:
帝国データバンク「倒産集 2024年度上半期報(4月~9月)」
スタートアップ、ユニコーン企業との違い
スタートアップとは、ベンチャー企業の中でも急成長を目指す新興企業のことです。
日本政府はスタートアップを「成長のドライバー」とし、「将来の雇用、所得、財政を支える新たな担い手」として、重点的な支援を進めています。
対してユニコーン企業とは、企業価値10億ドル超の非上場企業のことです。こちらも設立10年未満の、ベンチャー企業の一種です。2021年6社しかなかった国内ユニコーン企業は、現在は8社に増えています。
ベンチャー企業とスタートアップ、ユニコーン企業の特徴をまとめると、以下のようになります。
- ベンチャー企業:設立して間もない企業です。一般的に革新的な技術や、いままでにないサービスを扱います。最終的にはIPOやM&Aを目指しているケースも珍しくありません。
- スタートアップ:ベンチャー企業のうち、短期間で大きな利益を出す企業です。初期には的な赤字になることも多い一方で、J曲線と呼ばれる跳躍的な成長曲線に特徴があります。
- ユニコーン企業:スタートアップのうち、さらに評価額が10億ドル以上に達した企業です。その企業が、市場である程度の成功を収めたことを示します。
参考:経済産業政策局 事務局説明資料(スタートアップについて)
代表的なベンチャー企業の例
国を代表する大企業も、もともとはベンチャー企業でした。ここでは日本を代表する(元)ベンチャー企業やスタートアップ、ユニコーン企業を見ていきましょう。
【ベンチャー企業】
楽天グループ株式会社(1997年設立)
Eコマースからスタートし、フィンテック、モバイル、デジタルコンテンツなど多角的に展開する。楽天ポイントを軸にした会員基盤が強み。
株式会社サイバーエージェント(1998年設立)
インターネット広告事業を主軸に、ABEMA等のメディア事業やゲーム事業を展開する。若年層向けのサービス開発に強みを持ち、新規事業の立ち上げも積極的に行う。
フリー株式会社(2012年設立)
「クラウド会計ソフトfreee」を主力製品とし、中小企業・個人事業主向けのバックオフィス業務のクラウドサービスを提供する。会計、人事労務、経営管理のDX化に強みがある。
【スタートアップ】
株式会社メルカリ(2013年設立)
フリマアプリ「メルカリ」を運営する。個人間取引のプラットフォームとしては日本最大級となる。
ラクスル株式会社(2009年設立)
「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をバリューに、インターネットで簡単に印刷物などを注文できるプラットフォーム「ラクスル」や広告事業の「ノバセル」をはじめ、内製での立ち上げとM&Aを通じてさまざまな領域で事業・サービスを展開している。
【ユニコーン企業】
スマートニュース株式会社(2012年設立)
ニュースキュレーションアプリ「スマートニュース」を開発・運営する。独自のアルゴリズムでユーザーごとに最適化されたニュース配信を行う。日本発のサービスとして米国でも展開し、グローバルに事業を拡大している。
株式会社Preferred Networks(2014年設立)
ディープラーニング技術を核として、AI研究開発を行う。BtoB支援プロダクトからエンターテイメント、コンピューターサイエンス教育まで幅広く手掛ける。
参考:
ベンチャー企業の成長は世界の経済を支える
ベンチャー企業は米国をはじめ、世界各国の経済を支えています。日本でも近年、特にスタートアップの支援が重要視されてきました。
米国や日本での、ベンチャー企業の発展についてまとめました。
米国ではベンチャーが経済をけん引
ベンチャー企業は米国経済の原動力としても、大きな役割を果たしてきました。小さなベンチャー企業は革新的な技術やビジネスモデルを武器に急成長を遂げ、今や米国GDPの大きな部分を占めています。
また令和4年に発表された内閣官房の資料では、米国での起業は減少傾向にある反面、ベンチャーキャピタルの投資額は増加傾向であることが示されました。
引用:内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局「スタートアップに関する基礎資料集」
米国では現在も、有望なベンチャー企業へ大きな期待が寄せられています。
政府はスタートアップ支援を重視
日本でもベンチャー企業やスタートアップへの支援が重視され始めています。
岸田政権時代には「新しい資本主義」の重要施策として、「スタートアップ育成5カ年計画」が掲げられました。これは2027年までにスタートアップの数を10倍に増やす計画として、現在も続く制度です。
具体的には、起業家育成、研究開発支援、資金調達環境の整備等が行われています。特にJ-Startupプログラムでは、グローバル展開を目指す有望なスタートアップを選定し、集中的な支援がなされました。
また、国内ベンチャー企業への投資も進んでいます。国内スタートアップへの投資額は、2013年からの10年で、10倍に増えました。
引用:内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局「スタートアップに関する基礎資料集」
さらなる支援強化が必要とも指摘されますが、ベンチャー企業やスタートアップを支えるエコシステムは、確実に成長していると言えます。
大学発ベンチャーの増加数は過去最大に
文科省が推進する産学連携構想は、学術研究機関から発せられる新しい産業の勃興を目指すものです。そのうち「大学発ベンチャー」は、大学の教員や研究員、学生が研究成果を元に起こされた事業を指します。
2023年10月、大学発ベンチャー数は4,288社となりました。前年度と比較して、506社の増加です。2023年10月の結果は企業数および増加数ともに、過去最高記録となりました。
引用:経済産業省 令和5年度大学発ベンチャー実態等調査の結果を取りまとめました(速報)
海外のベンチャー企業では、学生のうちに起業した企業家も少なくありません。若い人がチャレンジしやすい環境を整えていくことも、ベンチャー企業の発展に重要な役割を果たします。
参考:
ベンチャー企業の4つの課題
世界各国と比べると、日本は起業に積極的な人が少ない傾向にあります。「起業を望ましい職業選択と考える人の割合」は、中国が79.3%、米国が67.9%なのに対し、日本は24.6%と最も低い水準となりました。
引用:内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局「スタートアップに関する基礎資料集」
日本でベンチャー企業が増えない背景には、いくつかの課題が指摘されています。ここではそれぞれの課題を整理しながら、ベンチャー企業のこれからを考えていきましょう。
①人材確保の難しさ
大企業志向が根強い日本では、有能な人材がベンチャー企業を就職先として選ばない状況が続いています。ベンチャー企業への就職に対する抵抗は特に壮年層以降に根強く、経験豊富な中堅人材の採用が難しいのが現状です。
また、ストックオプションをはじめとする成果連動型報酬が一般的でないことも、優秀な人材の獲得を難しくしています。
②資金調達が難しい
米国と比べると、日本ではまだまだベンチャー企業への投資額は小規模です。特にビジネスモデルが確立する後期段階での大型調達は、国内の投資家だけでは対応できません。
さらにリスクマネーを供給する個人投資家(エンジェル投資家)の層が薄いことも課題となっています。
③大企業との連携の壁
新規事業開発やイノベーション創出のため、大企業とベンチャー企業の協業は増えています。しかし意思決定の速度差や企業文化の違いから、実質的な成果に結びつきにくいのも事実です。
またベンチャー企業側は、大企業の下請け的な立場に置かれやすく、対等なパートナーシップを築くことが難しいケースも多くあります。
④グローバル展開の遅れ
日本では創業当初から世界市場を視野に入れる「グローバルスタートアップ」の数が、他のアジア諸国と比べても少なくなっています。主な要因には、言語の壁や海外展開のノウハウ・人的ネットワークの不足が挙げられます。
また、国内市場である程度の成功を収めた後で海外展開を目指すケースが多く、グローバル競争で出遅れる傾向です。
ベンチャー企業のこれから
ここ数年、日本のベンチャー企業を取り巻く環境は、大きく変わってきました。デジタル化加速や若者の価値観の変化により、ベンチャー企業で働くことへの関心も高まりつつあります。
政府もスタートアップ支援策の強化や、規制緩和を進めています。そうした施策が成果をあげ、海外投資家の関心が集まれば、資金調達の問題も解決につながるはずです。
社会課題の解決や新しい価値の創造に挑戦する日本発のベンチャー企業は、これからますます重要な役割を担っていくでしょう。
ベンチャー企業に向いている人・向いていない人
ベンチャー企業では変化を楽しみ、自ら考えて行動できる人材が活躍します。「今までやったことがない仕事でも挑戦したい」「自分で課題を見つけて解決したい」という意欲を持った人に向いた企業です。
一方で「決まった仕事を確実にこなしたい」「すでにあるやり方で業務に専念したい」という方には、ベンチャー企業は向いていないかもしれません。また試行錯誤が求められるベンチャー企業の環境では、失敗を恐れる性格の人もストレスを感じやすい傾向にあります。
ベンチャー企業として成功するには、変化を恐れず、主体性を持って行動できることが重要です。
ベンチャーで起業する注意点
ベンチャー企業を立ち上げる際に最も重要なのは、市場ニーズの見極めと資金計画です。革新的なアイデアでも、実際の市場ニーズとずれていては成功は難しくなります。また多くの新興企業にとって、初期の資金調達は大きな壁のひとつです。
さらに人材や技術不足も、ベンチャー企業の課題となりやすい項目です。特にスタートアップやユニコーンを目指す場合には、初期の人材や資金の不足にどれだけ耐えられるかがカギとなります。
課題を解決するには、柔軟な発想と選択がポイントです。企業同士のコミュニティを強化したり、補助金やクラウドファンディングを利用したりすることもオススメです。
ベンチャー企業が生き残り、成長を続けるためには、広い選択肢を持って課題に対応していきましょう。
ベンチャー企業について解説しました
ベンチャー企業は革新的な技術やサービスで成長を目指す若い企業です。なかでも急成長を遂げる企業はスタートアップ、企業価値が10億ドルを超える非上場企業はユニコーン企業と呼ばれます。
GAFAMも、かつては小さなベンチャー企業でした。こうした企業は米国経済の原動力として成長を続け、今や世界経済の中心的存在となっています。日本でも政府による支援策の強化が進められてきました。
ベンチャー企業を取り巻く環境は確実に改善しつつあります。社会に新しい価値をもたらすベンチャー企業の挑戦は、これからも日本の経済発展の重要な原動力となっていくことでしょう。