監査役とは
監査役とは株式会社において、取締役の職務執行を監査する役割を担う機関であり、健全な企業運営において重要な役割を担います。取締役の業務執行を監督し、企業の健全な発展と株主の利益を守る立場です。
監査役制度の主な概要は、以下のとおりです。
監査役会の半数以上を社外監査役としなければならない。
常勤監査役を1名以上選任しなければならない。
取締役・会計参与・使用人等との兼任が禁止。
独任制である。
引用:日本監査役協会「監査役制度」
監査役会を設置する場合、3人以上の監査役が必要です。半数以上は社外監査役でなければなりません。また監査役会は、常勤の監査役を選定する必要があります。
各監査役は独立した判断で権限を行使できる「独任制」が採用され、監査の実効性が担保されています。
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監査役の設置義務
監査役は必ず設置しなくてはいけない設置必須の会社と、設置が任意の会社、設置不可の会社があります。それぞれ以下のとおりです。
- 設置必須の会社:取締役会設置会社・会計監査人設置会社(大会社)
- 設置不可会社:監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社
- 設置が任意の会社:株式譲渡制限会社(公開会社でないこと)取締役会を設置していない会社参与を置いている
監査役を必ず設置しなくてはいけないのは、取締役会および会計監査人が設置されている会社です。(会社法327条2項本文・327条3項)
逆に、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社は、監査役を設置してはいけないとされています。(会社法第327条第4項)
上記以外の取締役会非設置会社や、会社参与を置いている企業では監査役の設置が任意となります。
監査役の役割
監査役の主な役割は、以下のとおりです。
- 業務監査
- 会計監査
- 監査報告の作成
それぞれ詳しく見ていきましょう。
業務監査
業務監査では、取締役の職務の執行について監査を行います。特に以下のポイントに対する監査が重要です。
- 職務の執行は法令・定款に適合しているか
- 善管注意義務・忠実義務に違反していないか
- 取締役間の職務執行の相互監督はされているか
- 競業取引・利益相反取引は行われていないか
- 関連当事者取引はあるのか・適切に開示されているのか
会計監査
会計監査は計算関係書類が適正に作成されているかどうかを監査するものです。なお会計監査人設置会社では、会計監査人の監査の方法と結果が相当であるか、会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制を監査します。
監査報告の作成
監査役は当該事業年度の業務監査・会計監査の結果を監査報告にまとめて、株主総会で報告する役割を担います。監査報告には具体的に以下の内容を記載します(機関設計が「取締役会+監査役会+会計監査人」の会社の場合)。
- 監査役及び監査役会の監査の方法及びその内容
- 監査の結果(1)事業報告等の監査結果
- 監査の結果(2)計算書類及びその附属明細書の監査結果
- 監査の結果(3)連結計算書類の監査結果
- 監査役の意見(異なる監査意見がある場合)
- 後発事象(重要な後発事象がある場合)
なお、機関設計によって監査報告書に記載する項目は異なるため、機関設計別の記載項目の詳細については日本監査協会の「監査報告のひな型について」からご確認ください。
監査役の種類
監査役には役割や規定する法令によって、大きく3つの種類があります。
- 社内監査役と社外監査役
- 常勤監査役と非常勤監査役
- 東京証券取引所が求める独立役員と社外監査役
社内監査役は企業内部の事情に精通した立場から、社外監査役は独立した外部の視点から監査を行います。
また常勤監査役は日常的に会社の業務や財産の状況を監査する一方、非常勤監査役は特定の専門分野からの監査や、より客観的な立場からの監査を担当するものです。
さらに東京証券取引所では、一定の独立性基準を満たす社外監査役を独立役員として求めています。経営の監督機能を強化することが目的です。
監査役の権限と義務
会社法では監査役の権限が定められています。主な監査役の権限は、以下のとおりです。
取締役の職務の執行の監査(会社法381条1項)
取締役に対する事業報告請求権、会社業務・財産状況調査権(会社法381条2項)
子会社調査権(会社法381条3項)
取締役会への出席義務及び意見陳述義務(会社法383条1項)
取締役会の招集請求権及び招集権(会社法383条2項、3項)
取締役の違法行為差止請求権(会社法385条1項)
取締役と会社間の訴訟代表権(会社法第386条1項)
取締役等の責任一部免除に関する議案等の同意権(会社法425条3項、426条2項、427条3項)
被告取締役側への会社の補助参加に対する同意権(会社法849条3項)
引用:日本監査役協会「監査役制度」
監査役には取締役の職務執行を監査するための広範な権限が与えられています。取締役会への出席と意見陳述が義務とされ、必要に応じて取締役会の招集を請求することも可能です。
さらに取締役の違法行為を差し止める権限や、会社と取締役との間の訴訟において会社を代表する権限も持っています。
また主な監査役会の権限は、以下のとおりです。
監査役の選任に関する議案同意権、議題提案権、議案提出請求権(会社法343条)
会計監査人の解任権、選任・解任・不再任に関する議案の決定権(会社法340条、344条)
取締役から報告を受ける権限(会社法357条1項、2項)
会計監査人から報告を受ける権限(会社法397条1項、2項、3項)
会計監査人の報酬等に対する同意権(会社法399条1項、2項)
引用:日本監査役協会「監査役制度」
監査役会では監査役の選任に関する同意権、会計監査人の選任・解任に関する権限等を有します。こうした権限を適切に行使することで、企業統治の実効性を確保しているのです。
また監視役の主な義務は、以下のとおりです
- 取締役会への出席義務
- 株主総会の議案調査と報告義務
- 取締役会への報告義務
監査役の役割は、株主に代わって取締役を監査することです。監査結果は株主総会で報告されるだけでなく、取締役会でも共有し、改善のための取組みを促します。
監査役監査と内部監査の違い
監査役監査と内部監査の主な違いは、以下のとおりです。
監査役監査
- 目的:取締役の職務執行の監査
- 立場:独立
- 監査の趣旨:法令・定款への適合性など、企業統治の観点からの監査
内部監査
- 目的:内部統制の有効性を評価
- 立場:経営者からの指示
- 監査の趣旨:業務の効率性や有効性を検証
監査役監査は会社法に基づいて、取締役の職務執行の監査を主な目的とします。独立した立場で法令・定款への適合性や企業統治の観点からの監査を行う制度です。
一方内部監査は、経営者の指示のもとで会社の内部統制システムの有効性を評価し、業務の効率性や有効性を検証する役割を担っています。
両者は互いに連携して役割を担いますが、立場や目的は異なるのです。各制度がそれぞれの趣旨において実施されることで、企業の健全な発展とステークホルダーの利益保護を図っています。
IPO準備において、フェーズごとのタスクとスケジュールについて詳しく知りたい方は、ぜひ以下お役立ち資料も併せて確認してみてください。
監査委員・監査等委員とは
企業経営の健全性と透明性を確保するため、会社法では監査役制度を定めています。株式会社の機関設計は以下の3つから選択され、それぞれで監査機関が設置されます。
- 監査役(会)設置会社
- 指名委員会等設置会社
- 監査等委員会設置会社
各企業において、監査機関として設置されるのが「監査役(会)」「監査委員会」「監査等委員会」です。
「監査役(会)設置会社」では監査役が独立した機関として監査を行います。監査委員と監査等委員はいずれも取締役です。 監査役・監査委員・監査等委員の主な違いは、以下のとおりです。
監査役(会)
- 対象:監査役(会)設置会社
- 監査対象:取締役の職務執行
- 形態:独任制
監査委員会
- 対象:指名委員会等設置会社
- 監査対象:執行役と取締役
- 形態:組織監査
監査等委員会
- 対象:監査等委員会設置会社
- 監査対象:取締役の職務執行
- 形態:組織監査
なおIPO準備企業を含め、日本の上場企業の多くは監査役会を設置しています。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
監査委員(指名委員会等設置会社)
指名委員会等設置会社における監査委員制度では、指名委員会、監査委員会、報酬委員会の3つの委員会が設置されます。各委員会は3人以上の委員で構成されますが、監査役会と同様、過半数が社外取締役でなくてはなりません。
監査委員会の監査対象は、執行役と取締役の両方です。
なお監査役設置会社では個々の監査役に監査の権限が帰属する「独任制」が採用されていますが、監査委員は監査の権限が委員会に帰属する「組織監査」が行われます。
また監査委員会が決議によって監査報告を作成し、個々の監査委員が監査報告を作成することは求められていません。
監査等委員(監査等委員会設置会社)
監査等委員会は3人以上の委員で構成され、過半数が社外取締役とされています。
株主総会では取締役の選任や報酬等に関する意見陳述権が付与され、業務執行者に対する監督機能が強いのが特徴です。また監査の対象は取締役の職務執行で、一定の監督機能も併せて担います。
組織監査の形態が採用され、監査報告も委員会としてひとつの報告書を作成します。なお法的義務はありませんが、多くの企業では常勤の監査等委員を設置しているようです。
参考:日本監査役協会
監査役の選任・解任と資格要件
監査役は企業のガバナンス体制において重要な役割を担います。適切な人材を選び、その独立性を確保することで、実効性のある監査体制を構築することが必要です。
監査役の選出・解任の方法や選出のポイントを見ていきましょう。
監査役の選出・解任
監査役の選出は株主総会の決議によって行われます。選出の際には監査役会の同意が必要です。また監査役は株主総会において、自身の選任・解任・辞任について意見を述べる権利が保障されています。
これは経営陣の意向のみで監査役の人事が決定されることを防ぎ、監査の独立性と実効性を確保するための重要な仕組みです。また取締役の任期が2年であるのに対し、監査役の任期は4年と設定されています。
監査役の資格要件
会社法では、以下の場合には監査役になれないと定められています。(会社法第331条)
- 法人
- 会社法等の法律の規定に違反し、刑に処せられ、その執行を終わり、またはその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者
- 上記以外の法律で禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたはその執行を受けることがなくなるまでの者
さらに以下の職務についている者は、監査役は兼務できません。(会社法第335)
- 取締役・支配人・使用人
- 子会社の取締役・支配人・その他の使用人・会計参与・執行役
法人は監査役になることができず、刑に処された場合の扱いも明記されています。
また兼務の制限も設けられています。こうした制限は、監査役の独立性と公正性を確保し、適切な監査活動を行うための仕組みです。
監査役の報酬
監査役の報酬は、取締役の報酬とは別個の仕組みで決定されます。報酬の総額は株主総会で決議され、個々の監査役への配分は監査役の協議によって定めなくてはいけません。
報酬の決定にあたっては、監査役としての職務の内容や責任の程度、会社の規模や業績などが考慮されます。
また一般的には業績連動型の報酬制度ではなく、固定報酬が基本となります。
監査役選出のポイント
監査役の選出においては、企業統治の質を高めるための様々な視点が求められます。日本監査役協会の「監査役監査基準」では、監査役の責務や心構えについて詳細な指針が示されました。
監査役には取締役会と協働して会社の監督機能を担い、株主の負託を受けた独立機関として、良質な企業統治体制の確立に貢献することが期待されています。選出にあたっては、企業の健全で持続的な成長と、中長期的な企業価値の創出に貢献できる人材であることが重要です。
また独立性の保持、公正不偏の態度、自己研鑽への意欲なども重要な選考基準となります。
多角的な視点から適切な人材を選出することで、実効性のある監査体制が構築されるのです。
コーポレートガバナンス・コードと監査
監査役および監査役会の役割は、コーポレートガバナンス・コードにおいても重要な位置づけがなされています。業務監査・会計監査といった「守りの機能」に加え、より能動的・積極的な権限行使が期待されているのです。
具体的には取締役会での適切な意見陳述や、経営陣への提言など、企業価値の向上に資する建設的な関与が求められています。監査役には守備範囲を狭く解釈せず、広い視野で企業統治に関与することが求められます。
以下の記事ではコーポレートガバナンス・コードについて詳しく解説しています。気になる方は併せて確認してみてください。
<関連記事>コーポレートガバナンス・コード(CGコード)とは?2021年の改定ポイントも解説!
監査役について解説しました
監査役は企業のガバナンス体制において欠かせない存在です。取締役の職務執行を監査する立場から、業務監査と会計監査を通じて企業活動の適正性を確保しています。監査役制度は会社の機関設計によって異なりますが、基本的な職務は同じです。
監査役には広範な権限が与えられ、独立性を確保するための様々な制度的保障が設けられています。
監査役制度は企業の健全な発展と株主の利益保護を支える重要な基盤となる仕組みです。企業の信頼性を高め、健全な成長を支えるためにも、適切な制度運営を目指しましょう。