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従業員10人未満の企業も就業規則がないとだめ?就業規則のモデルや作成手順を紹介

従業員10人未満の企業も就業規則がないとだめ?就業規則のモデルや作成手順を紹介

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就業規則は「常時10人以上の労働者」のいる事業所が作成・届出義務のある書類です。しかしこれは、「小規模な企業は就業規則がなくても良い」ということではありません。むしろ規模の小さい事業所こそ、労使トラブルを防ぎ、従業員と企業を守るための規則が必要なのです。

今回は就業規則について、基本から作成手順までをまとめました。将来的な成長を見据えて就業規則の作成を検討する際には、ぜひ参考にしてください。

就業規則とは?

就業規則は企業における労働者の労働条件や職場での規律について、統一的に定めた社内規程です。「絶対的必要記載事項」と、任意に記載される「相対的必要記載事項」が定められています。

それぞれの事項は、以下のとおりです。

絶対的必要記載事項

  1. 労働時間関係
  2. 賃金関係
  3. 退職関係

相対的必要記載事項

  1. 退職手当関係
  2. 臨時の賃金・最低賃金額関係
  3. 費用負担関係
  4. 安全衛生関係
  5. 職業訓練関係
  6. 災害補償・業務外の傷病扶助関係
  7. 表彰・制裁関係
  8. その他

このほかに、使用者が任意で記載する「任意的記載事項」があります。

なお就業規則は、法令および労働協約に反して設定することはできません。違反する就業規則については、所轄労働基準監督署長が変更を命ずることができると定められています(労基法第92条)。

 また労働基準法において、常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています(労働基準法第89条)。

参考:厚生労働省「モデル就業規則」

「常時10人以上の労働者」の定義とは?

労働基準法では、就業規則の作成が義務付けられているのは「常時10人以上の労働者を使用する事業場」です。ではこの定義は、具体的にはどんな事業所を指すのでしょうか。

実は「10人未満の労働者」や「常時」の定義には、意外と見落としがちなポイントがあります。

詳しく見ていきましょう。

「労働者」とは雇用契約を結んでいる人のこと

労働基準法で定める「常時10人」とは、「職場にいる従業員の数」ではありません。雇用形態に関係なく、雇用(所属)しているすべての労働者を指します。

これには休業していたり、雇用契約を保持したまま外部へ出向していたりする従業員も含まれます。出勤している従業員が10人未満でも、「常時10人の労働者」の規定に該当するとは限らないのです。

またこの場合の「労働者」には、パートやアルバイトも数えます。週に数日、数時間程度の短期労働であっても、雇用契約を結んでいれば「労働者」です。

なお社長1人と従業員9人でできる10人規模の会社の場合、社長は「労働者」ではないため、就業規則の作成義務は課されません。

一方で複数の営業所がある場合、会社全体としては10人以上でも、各営業所では10人未満になる場合には、就業規則の作成・届出の義務はありません。就業規則の作成・届出義務は「事業場」単位で考えましょう。

参考:石川労働局労働基準部監督課「就業規則作成・届出に関するFAQ」

従業員10人未満なら就業規則は必要ない?

従業員が10人以下の小規模な事業所であっても、就労規則は作成が推奨されています。働く上でのルールは、規模に関係なく求められるからです。

就業規則の作成は、労働条件の明確化と円滑な労務管理の実現につながる重要な業務です。就業規則によって給与の計算方法や労働時間、休暇の取得方法などの労働条件が明文化されれば、労使間の認識の食い違いやトラブルを未然に防ぐことができます。

また従業員の服務規律に関するルールを定めることで、公平で適切な労務管理が可能です。特に事業規模の拡大や従業員の増加を目指す場合には、就業規則がきちんとしていることが企業評価に大きな影響を及ぼします。

就業規則の整備は労務管理の適正化はもちろん、将来的な企業成長の準備としても重要な役割を果たすのです。

従業員10人未満の会社でも、就業規則には効力がある

従業員10人未満の会社では就業規則の作成・届出の法的義務はありませんが、作成された就業規則には法的効力があります。職場での問題が法的なトラブルに発展した場合、就業規則は以下のように扱われます。

就業規則は、事業場内での社会的規範、法的規範であることから、その内容を現実に知っているか、個別的に同意しているか否かにかかわらず、その適用を受けます。
作成・変更された就業規則の条項の内容が合理的なものであるかぎり、個々の労働者が同意していないとして、適用を拒否できません。
労働者は労働契約によって企業秩序遵守義務を負うことから、使用者は当該義務に違反した労働者を懲戒する権限を有しています。
使用者が懲戒するには、就業規則で予め懲戒の種別・事由を定め、これを労働者に周知しておかなければなりません。

引用:厚生労働省「「就業規則の効力」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性」

就業規則は単なる事業場内での社会的規範ではありません。法的規範としての性質を持つ規定です。就業規則の存在や内容を知っているかどうかや個別的に同意したかどうかとは関係なく、すべての従業員が対象となります。

企業が就業規則を作成する意義

就労規則の作成は、従業員を守るだけでなく、企業にとっても大きなメリットがあります。一方で就労規則が作成されていない場合のデメリットは深刻です。

ここでは小規模企業であっても就労規則を作成するメリットと、作成しなかったときのデメリットをまとめました。

規則を設定するメリット

小規模企業が就業規則を作成することで得られる主なメリットは以下の3つです。

  • 労働トラブルの予防と円滑な解決
  • 採用活動と人材育成の効率化
  • 将来の事業拡大への対応

労働トラブルの予防と解決については、就業規則によって労働条件や職場のルールが明文化されることで、大きな効果が期待できます。残業時間の計算方法や休暇の取得手続きなど日常的な労務管理の基準が明確になり、従業員との認識の違いを正せるからです。

また万が一問題が発生した場合でも、明確な基準があることで公平な解決が可能になります。

また採用活動のシーンでは、求職者に対して明確な労働条件を提示でき採用時のミスマッチを防ぐことができます。さらに新入社員への教育もスムーズに進められ、会社の規則や制度について体系的な説明が可能です。評価制度や昇給基準を明確化することで、従業員のキャリアパスを示すことができます。

将来の事業拡大に向けた準備としても、就業規則の整備は重要です。従業員が増えた際に新たにルールを作る必要がなく、既存の制度を基盤としてスムーズに対応できます。

取引先や金融機関からの信用度向上にもつながり、社会的に信頼性の高い企業を目指せるのも大きなメリットです。

規則を設定しないデメリット

就業規則を作成しないことで生じる主なデメリットは、以下の3つです。

  • 労働条件の曖昧さによるトラブルのリスク増加
  • 公平な人事評価が困難になる
  • 労働トラブル発生時対応の負担増加

労働条件に曖昧さがあると、企業経営においては大きなリスクです。残業代の計算方法や有給休暇の付与、休職制度などの労働条件が、口頭での説明や個別の雇用契約に依存することになります。そのために従業員ごとに異なる解釈や認識が生まれ、後々のトラブルの原因となる可能性が高まるのです。

とくに懲戒処分の基準が明確でない場合、適切な処分を行うことが難しくなります。

就業規則がないと、公平な人事評価の実施も難しくなります。評価基準や昇給・昇進が評価者の主観にゆだねられ、従業員の不満や疑念を招きやすいからです。また新しい制度や福利厚生を導入する際にも、その都度個別に調整が必要となります。

さらに労働トラブル発生時の対応力不足は、企業にとって深刻な問題です。就業規則がない状態でトラブルが起きた場合、解決は個別の話し合いにゆだねられます。場合によっては司法の場での判断が必要になるかもしれません。また予防的な措置を講じることも難しく、問題が大きくなってから対応せざるを得ない状況に陥りやすくなります。

就業規則を作成しないことは、小規模な企業こそ、リスクの大きい選択肢になるのです。

就業規則の作成手順

就業規則は企業と従業員の権利・義務を定める重要な規則です。効果的な就業規則を作成するための、大まかな手順をまとめました。

①就業規則の作成の準備をする

まずは現在の労働条件を、正確に把握することから始めましょう。雇用契約書や給与規定、休暇制度など、現在運用している制度や慣行を確認します。

また正社員やパートタイマーなど、雇用形態ごとの労働条件の違いも明確にしましょう。労働基準法などの法令に違反していないか、最低賃金や労働時間などの基準を確認してください。

厚生労働省では、モデル就業規則を公開しています。また同業他社の規則も参考になります。自社の実情に合わせて修正しながら、活用しましょう。

②原案の作成とチェックを行う

就業規則には令で定められた「絶対的必要記載事項」を漏れなく記載する必要があります。必要に応じて「相対的必要記載事項」、さらに福利厚生や教育訓練といった「任意記載事項」を検討します。懲戒規定や休職規定など、従業員の権利義務に関わる部分は、特に慎重な審議を重ねましょう。

これらの規定は、労働関係法令の基準を満たしつつ、企業の実情や将来的な事業拡大も見据えて作成する必要があります。作成時には運用面での実現可能性も、十分に考慮してください。

就業規則の原案は、社会保険労務士など専門家に相談しながら作成するのがオススメです。法的な適合性はもちろん、実務上の課題がないかもチェックしましょう。

条文ごとに見出しを設定し、体裁を整えたら、原案の完成です。

③従業員への意見聴取と周知を行う

完成した原案は従業員に提示し、意見を募ります。

就業規則の作成では従業員の過半数を代表する者、または労働組合からの意見聴取が法律で義務付けられています。これが「意見聴取義務」です。この手続きは形式的なものではなく、現場の実態に即した規則とするための重要なステップです。

集めた意見を検討し、必要に応じて修正を加えましょう。

確定した就業規則は、全従業員に、確実に周知する必要があります。書面での配付や事業場への掲示、イントラネットでの掲示など、従業員が常時確認できるよう工夫してください。

④労働基準監督署への届出、運用を開始する

完成した就業規則は労働基準監督署に届け出ます。従業員10人以上の企業では届出が義務ですが、10人未満の企業でも任意での届出が可能です。

届出の際には従業員の意見を聴取したことを証明する書面も添付します。また運用開始後は、法改正や企業の状況変化に応じて、適宜内容を見直していく必要があります。特に、従業員数が増加した場合や新しい制度を導入する際には、速やかな改定を検討しましょう。

就業規則は作って終わりではありません。実際の運用を通じて、規定と現場の実態に齟齬が生じていないか、定期的なチェックが必要です。

また働き方改革関連法など、労働法制の改正に応じた更新も欠かせません。見直しの際は、これまでの運用で把握した課題や従業員からの要望なども考慮し、より良い職場環境づくりを目指しましょう。

注意点

就業規則の作成と運用には、以下のような注意点があります。

  1. 法令との整合性が取れているか
  2. 従業員の意見を聞いたか
  3. 全従業員に周知できたか

最も基本となるのは法令との整合性です。就業規則の内容は、労働基準法をはじめとする労働関係法令の基準を満たす必要があります。

最低賃金や労働時間、休日・休暇など、法定の基準を下回る規定は無効です。また同一労働同一賃金の観点から、正社員とパートタイム労働者の待遇差についても合理的な理由が求められます。

また就業規則の作成過程では、意見聴取義務を果たすため、必ず従業員の意見を聴く必要があります。従業員の理解と納得を得ることで、実効性のある就業規則を作るためです。

作成した就業規則は、従業員全員に確実に周知することも欠かせません。実際に確認できる状態にあってこそ意味があるのです。すべての従業員が十分に理解できるよう、具体的で、明確な条文をまとめることも重要です。

実用的でより有益な就業規則とするために、定期的にブラッシュアップを重ねましょう。

 参考:厚生労働省「就業規則作成の9つのポイント」

従業員数10人未満の企業の就業規則について解説しました

就業規則は企業経営の基本となるルールブックです。小規模企業であっても適切な就業規則を整備することで、労働トラブルの予防や円滑な労務管理が可能となります。

作成にあたっては現状の労働条件を確認し、法令との整合性をチェックしたり、従業員と対話したりして、実効性のある規則を作ります。

完成後も法改正や企業の成長に合わせて適宜見直しを行うことで、より良い職場環境づくりを目指しましょう。

就業規則の整備は「将来を見据えた経営基盤の確立」という視点で捉えることが重要です。さらなる企業成長を目指し、実用性の高い規則を作成してください。


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